次の飼い猫は私?! 幼馴染とはいえ、なんで大嫌いな女のためにこの私が……   作:顔のない女

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第3話 幼馴染はいじめっ子である。

「レイ? 私は今から学校に行ってくるから、ちゃんとお留守番してるんだよ。いい? 絶対にお外に遊びに行っちゃダメだからね。約束だよ?」

「はいはい」

「ご飯とお水は一階のリビング。トイレは玄関前に置いてあるからね」

「はいはい」

「『はい』は一回!」

「はい」

 

 彼女は私の返事に満足そうに頷くと、ようやく部屋の扉に手をかけた。

 

「じゃあ、行ってくるね!」

「行ってらっしゃい」

「あー……なんかこうやって見送ってくれる人がいると、恋人がいるって感じがして超良い!」

「私は猫ですけ――」

 

 最後まで言い終える前に、扉はバタンと閉まった。

 

 私は猫だ。

 それなのに一体コイツは、私を何だと思っているのか。

 ……どういう目で私を見ているのかと、心配になる発言で少し反応に困る。

 

 窓辺へ移動し、葵が玄関から出ていくのをじっと眺めて見送る。

 彼女の姿が角を曲がり、家に戻ってこないことを確認して、私はようやく深く長い溜息を吐き出した。

 

「……はぁ、なんで私がこんな疲れる真似を。というか、私だって学校があるんです。こんな場所に一日中縛り付けられるなんて、冗談じゃありません」

 

 独り言と共に、私は猫化を解いた。

 骨格が軋む不快な音のあと、視界が一気に高くなる。

 

 窓の錠を指で弾いてロックを解除し、そのまま外へ飛び出そうとして――私は、寸前で思いとどまった。

 

「あぁ……私、裸だった」

 

 そういえば昨夜、服をすべて公園に投げ捨ててきたんだった。

 ゴミ袋も捨て場に置かず、公園に放置したままだ。

 ここは田舎とはいえ、早急に回収しないと後が怖い。

 

 だけど、流石に一糸纏わぬ姿で外に出るわけにもいかない。

 

「…………私を何時間も監禁した代金、ちゃんともらって行きますからね、葵」

 

 私は葵のタンスを勝手に引き出し、中から適当な服を拝借することにした。

 自分より少しだけ背の高い彼女の服は、袖を通すと微妙にブカブカだ。

 

 ……そして困ったことに、布地からは葵の匂いがこれでもかと漂ってくる。

 意識した途端、急に心拍数が跳ね上がるのを感じたが、今はそんなことに構っている暇はない。

 

 自分の家に戻るまでの、ほんの一分間程度の辛抱だ。

 これくらいの不快感は我慢してやろう。

 

「というわけで。今度こそ、おさらばです!」

 

 私は開け放った二階の窓から、迷いなく宙へと飛び出した。

 

 

 

 ---

 

 

 

 帰宅後、案の定おばあちゃんから「どこをほっつき歩いとったんけ!!!」と烈火のごとく怒鳴り散らされた。

 それを適当に聞き流しながら、大急ぎで学校の支度を済ませてバスに飛び込む。

 

 なんとか始業ギリギリに教室へ滑り込むことができたのだが……。

 

「……はぁ」

 

 自分の席を視界に入れた瞬間、思わず声が漏れた。

 

 クラスメイトたちの視線が、目立ちに目立っている私の席に集まっている。

 

「何あれ……」

「ツタンカ◯メン?」

「面白〜」

 

 私の椅子には、ツタンカ◯メンの不気味な黄金マスクの切り抜きが、これ見よがしにテープで貼り付けられていた。

 昨日の配られたエジプト関連の資料だろう。

 

「はぁ…………チッ」

 

 隠そうともせず舌打ちを一つ。

 

 そして私は犯人の主犯であろう葵と、その取り巻きのグループを真っ向から睨みつけた。

 

「何? 睨みつけちゃって、怖いんだけどー。早く座ればいいじゃん」

「文句があるなら言えば? もっとも、うちの彼氏が黙ってないと思うけどね」

「ギャハハハ! いいじゃん、前よりイケてる椅子になったね!」

 

 何が『怖いんだけど〜』だ。

 誰のおかげで今そうやってニヤついてられてるか、全く理解できていないようだ。

 ……まぁ理解しなくていいのだが。

 

 目の前で嘲笑うこの女は、自身を助けてくれた猫の正体が私だとは、微塵も気づいていない。

 

「何その目……やろうっての?」

 

 ただでさえ、葵のせいでほぼオールだ。

 その上今日は放課後にバイトまで入っている。

 これ以上、一方的にサンドバッグにされてやる義理はない。

 なので、今日は久しぶりに言い返させてもらう。

 

 私はこれ見よがしに、馬鹿げた椅子へどっかりと腰を下ろした。

 そして、獲物を定めるように冷ややかな視線を葵に固定する。

 

「そういえば昨日、誰かさんの泣き声が外から響いてきて、勉強に集中できなかったんですよね」

「ッ!?」

「私達の家周辺はよく猿や熊が出没するとはいえ、あそこまでの獣的な騒音は、ちょっと勘弁して欲しいものです。猿なら住宅地で彷徨いてないで、大人しく山に帰っとけって話――」

 

 その瞬間、葵の逆鱗に触れたのが分かった。

 怒りで顔を真っ赤に染めた葵が詰め寄り、私の胸ぐらを両手で乱暴に掴み上げる。

 

「私があの時、どんな思いで泣いてたのか知ってて言ってんの? あんたの今の発言、到底許せるものじゃないよ?」

「私はこれでも近所の猫の生態はすべて把握してるんで、もちろん知ってますよ。ただ、それを踏まえた上で、これだけ言い返されるような真似をしたのは貴女の方です」

「あぁ!?」

「飼い猫が私に懐くのが気に入らないからって、十年も粘着して嫌がらせを続けてるのが、激キショいって言ってるんですよ。この単細胞」

「んだと、この白髪頭……ッ! あんたを今ここで殺して、天国にいるムギの遊び相手にしてやろうか!?」

「それはいいですね。貴女抜きでムギとランデヴーも、悪くありません」

 

 ふふ、と喉を鳴らして笑う。

 

 余裕の態度で受け流す私の様子に、葵の指先にさらに力がこもり、制服の襟が悲鳴を上げた――その時だった。

 

「お前ら席につけ〜」

 

 ガラガラと扉が開き、間の抜けた声と共に担任が教室に入ってきた。

 

「……何やってるんだ、そこ。椎名、西園」

「…………」

「何も……」

 

 葵は舌打ち混じりにパッと手を離し、逃げるように自分の席へと戻っていった。

 

 私は彼女の背中に向かって、これ見よがしにぺろりと舌を出してみせる。

 振り返った葵の顔がさらに屈辱で歪むのを見て、胸がぽかぽかと温まっていくようだった。

 

 ……正直、これまでの仕打ちを思えばもっと徹底的にやり返してやりたいところだが、この程度で済んでいることをありがたく思ってほしいものだ。




今作はR18verも書いたので、最終話付近で短編として差分を投稿します!
もし「作品に期待できる!」と思ってくださったら、高評価やお気に入りをいただけると執筆の大きな励みになります。応援よろしくお願いします!
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