次の飼い猫は私?! 幼馴染とはいえ、なんで大嫌いな女のためにこの私が……   作:顔のない女

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第32話 愛の告白

「はー……何やってんだろ、私」

 

 朝陽が差し込む自室のベッドで、私は深いため息をついた。

 あの夜、ゴールを目前にしながら、私は自らその手を振り払って逃げ出してしまった。

 

 だが、やっぱりどうしても受け入れられないことがあったのだ。

 それはお互いの好意の確認。

 

 あの時の熱に浮かされたような空気は、あまりに危うすぎた。

 流されるままに身体を重ねることもできたのかもしれない。

 だけど私は彼女の心の奥底にある真意を、確かな愛としての言葉で聞きたかった。

 そして私自身も、濁りのない声で伝えたかったのだ。

 

 ――好きです、と。

 

 ただ、正体がバレるまで急だったのもあって、思い通りの関係性を再構築できなかった。

 

 レイの正体が私だと葵にバレた。

 なら、そこで大きな心境の変化があったりするはずなのだ。

 

 葵がいつも会話していた猫の正体が、私だと分かった以上、彼女はこれからの関係性をどうするつもりなのか。

 それに私の生理的欲求を受け入れようとした彼女の思いを知りたいが……

 

「どうすれば……いいんでしょうか」

 

 答えの出ない自問自答を繰り返し、結局私は、学校を三日も休んでしまった。

 一度眠って頭をリセットしてしまえば、あんな情事の寸前までいった相手と、どんな顔をして向き合えばいいのか分からない。

 気まずさと羞恥心が、私の足を家の中に釘付けにしていた。

 

 葵は毎朝、律儀に迎えに来てくれた。

 でも私はお婆ちゃんに頼んで、居留守を使って追い返してもらう始末だった。

 

 もちろんスマホには葵、佳織、そして莉子の三人から、心配のメッセージが絶え間なく届いている。

 だが、そのどれにも目を通す気にはなれなかった。

 

 これはすべて私の心の問題であり、誰かに相談して解決するような類のものではない。

 特に佳織に話せば、「せっかくのチャンスを何やってんの?」と笑い飛ばされるのが目に見えている。

 

「今日も学校行かんがけ?」

「行かない……明日には行くから、心配しないでいいよ」

「うーん……。私は明日から三日間、友達と旅行に行ってくるから。ごはんは自分で作って食べられよ」

「もう高校生なんだから、心配しなくても大丈夫だよ」

 

 お婆ちゃんが家を空ける。しばらくはこの広い家で一人きりだ。

 

 正体がバレた今、レイとして葵の元へ忍び込むこともできない。

 ムギもいなくなってしまった今、この孤独を埋めてくれる相手は、もうどこにもいなかった。

 

 

 

 ---

 

 

 

 そして昼間に猫達と適当に遊んだ後、家でぼ〜っとしているうちに夜になってしまった。

 

 お婆ちゃんが不在の今、身の回りの雑事はすべて自分の肩にかかっている。

 誰であろうと台所に立たせない主義のお婆ちゃんだから、こういう機会は新鮮ではあるけれど……やはり、溜まった洗い物を眺めるのは億劫でしかなかった。

 

「雨の音……うるさいな」

 

 古い木造建築のこの家は、外の音をよく拾う。

 屋根を叩く雨音が、やけに鮮明に室内に響き渡っていた。

 

「そういえば、今日はゴミを出す日だっけ」

 

 雨の日はいつも記憶の蓋を開けさせる。

 

 葵が初めて私を助けてくれたあの日も、レイとして彼女に出会ったあの日も、今日と同じような、ひどく冷たい雨が降っていた。

 

「捨てに行かないと……」

 

 私は重い腰を上げ、ゴミ袋を手に取った。

 ビニール傘を差して、重い玄関の扉を押し開ける。

 

 

 

 ---

 

 

 

 雨の幕が世界を黒く染める中、いつもの公園の脇を通り過ぎようとしたその時だった。

 激しい雨音に混じって、規則的な金属の摩擦音が聞こえた。

 ギィ、ギィ……と、錆びたブランコが揺れる、あの音だ。

 その光景に既視感を覚え、吸い寄せられるように公園へと足を踏み入れる。

 

 遊具の板に、少女が一人座っていた。

 

 こんな土砂降りの中、傘も差さず、頭からずぶ濡れになって。

 彼女はすぐ斜め前にある私の家を、ただじっと見つめていた。

 

 …………不思議と、緊張は消えていた。

 

 私はゆっくりと彼女に歩み寄り、雨に打たれるその背中を、そっと傘の影へと招き入れた。

 

「風邪引きますよ、葵」

「あんただって仮病(風邪)で休んでるし、たまにはそういうことがあってもいいんじゃない?」

 

 葵の声は驚くほど晴れやかだった。

 まるで三日前の夜など無かったかのように。

 

「……急ぎすぎちゃったのかな?」

「何がですか」

「私達の関係」

 

 私は小さく溜息を吐いた。

 差していた傘を放り出し、彼女の隣にあるブランコへと腰を下ろす。

 

「あれ……なんか私、変なこと言った?」

「違いますよ。ただ、貴女を相手にここまで思い詰めていたのが、急に馬鹿らしくなっただけです」

 

 二人してブランコを漕ぐこともせず、ただ静かに雨に打たれ続ける。

 

 やがて、遠くで雷鳴が響いた。

 その轟音に重ねるようにして、私はずっと胸に秘めていた言葉を口にした。

 

「大好きです、葵」

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