次の飼い猫は私?! 幼馴染とはいえ、なんで大嫌いな女のためにこの私が……   作:顔のない女

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第7話 飼い猫(仮)

「じゃあさ、レイは結局どうしたらうちの猫になってくれるの?」

「今の話の流れで、なんでそっちの方向に行っちゃうんですか? なるつもりはないって言いましたよね?」

「だけどムギは死ぬ前に頼んだんでしょ? なら、やっぱりずっと一緒にいてほしいなーって思っちゃうじゃん」

「ハッ。もう十六歳の高校生でしょう。馬鹿なことを言っていないで、精神的に自立してください」

 

 呆れて突き放そうとした瞬間、葵は私をひょいと持ち上げ、その細い腕の中に閉じ込めた。

 

「えー。でもレイと話してるの楽しいし。ずっと側にいてほしいって願うのは、そんなに悪いことかな?」

 

 柔らかな布地と毛越しに伝わってくる、彼女の体温。

 十年以上も反目し合ってきた葵から、これほど純粋な好意を向けられるのは初めてだった。

 そのあまりに新鮮な響きに、胸の奥をざわつかせる、ひどく複雑な感情が湧き上がった。

 

「だから、私の猫になってくれる条件があるなら、何でも言ってよ。レイのためなら私、頑張ってみるから!」

「…………」

 

 ――このまま猫として、この温もりに甘やかされて生きていけたら。

 

 そんな馬鹿げた、あまりに愚かな誘惑が0.0001秒ほど脳裏を掠める。

 私はそれを、千切れるほど激しく首を振ることで強引に叩き出した。

 

「いきなり首振ってどうしたの、レイ? 毛が顔に当たってくすぐったいよ」

 

 条件、条件か……難しいな。

 だって私、もう人間として社会に生きるって決めてるし。

 他の亜人達の中には、野生の動物のボスとして君臨してるのもいるだろうけど、今更私がそれになるのも違う。

 ましてや、求められているのはただの家猫として生きることだ。

 

 ん〜…………どうしたもの――あっ。

 

「そういえば風の噂で聞いたんですけど、玲香がバイトしてることを明日、先生にチクろうとしてるみたいですね」

「あー……まぁそんなことも言っちゃったかなあ、あはは……。それがどうかしたの?」

「玲香の機嫌は他の猫達の行く末に関わります。あんまり彼女にストレスを与えるようなことがあっては困るんです」

「うん、それで?」

「だから……その……玲香と仲良くなって、彼女への嫌がらせを一切やめるなら。……貴女の猫になることを、考えなくもありません、よ?」

 

 私は腕の中から葵の顔を見上げた。

 案の定、葵は口をへの字に曲げ、この世の終わりでも見たかのような、凄まじく嫌そうな顔で歪んでいた。

 

「えぇぇぇぇ……そんな条件あるぅぅ??」

 

 その露骨に嫌そうな顔を見た瞬間、先ほどまで微かに高鳴っていた私の胸は、氷水を浴びせられたようにすっかり冷え切ってしまった。

 

 なんで勝手に一人舞い上がってたのだろう。

 馬鹿すぎるな、私。

 それに条件として出した内容も凄く馬鹿だ。

 自分で言っておきながら、意味が分からない。

 

「冗談です。この話は忘れ――」

「その条件、飲んだッ!!!!」

「え?」

「玲香と仲良くなれば、レイは私のものになってくれるんでしょ? だったら頑張るよ!!」

「……本気ですか? 正気とは思えませんが」

「正気も正気! それにさっきのレイの話で、私たちが十年間ただすれ違ってただけだってことも理解できたし。間違って関係を壊しちゃった私の方から、もう一度歩み寄らなきゃだよね!」

 

 おぉ……

 なんか尤もらしいこと言ってるけど、いきなり仲良しムーヴされても、私はそんなすぐ適応できそうにない。

 あと、飼い猫になるのだけは絶対に無理だ。

 

「いや、その……この条件は冗談というかなんというか――」

 

 慌てて撤回しようとした、その時だった。

 葵がふわりと顔を近づけてきたかと思うと、猫の姿をした私のおでこに、そっと柔らかな唇を落とした。

 

「ひゃっ?!……な、ななな、なにをッ!!?」

「レイに感謝を伝えたいなって思って」

「なんで……おでこに……キスなんて……っ!」

「細かいことはいいじゃん。あんたに、私と出会ってくれてありがとうって、体で伝えたかったの。別に人間同士ってわけじゃないんだし、問題ないでしょ?」

 

 問題大アリだわ、ボケ!!

 こっちは人間なんですけど!!?

 貴女は気づいてないだけで、全然初めてそういうことされたんですけどぉ!??!

 

 めちゃめちゃに文句を言ってやりたいけど、それを言ってしまえば、自分が人間であることを白状していることに他ならない。

 人間視点を以て正論で叩きのめすことのできない今の私は、押し黙る他ない。

 

 ――そんな時だった。

 

「ん?」

 

 思考がフリーズしていた一瞬の隙に、首筋にひやりとした感触と、カチリという硬質な音が響いた。

 再起動した脳が慌てて視線を下に向けると、私の首には見慣れない紐状のものが巻き付いている。

 

 いや……紐???

 

「ハッ――これは!!!?」

 

 違う!これは紐なんかじゃない!!

 今、私の首に巻かれたのは首輪だ!!!

 それもリードを繋げれるタイプのやつ!!!!

 

「ニヒひ……これでもう、簡単には逃げられないねぇ」

「……貴女って人は、本当に……どこまでも……」

「レイの言い分は理解したけど、それはそれ、これはこれ。やっぱり、私は一日だってレイが外で危ない目にあってるのを想像したくないんだよね」

「…………私の条件を飲む云々は、どこに行ったんですか?」

「それは追々考えてあげるよ。とりあえず、そこからレイが逃げ出せたらかな。前回どうやって逃げたのか知らないけど、こうやって繋がれたら家から抜け出すのも難しいでしょ〜」

 

 なるほど。

 これは挑戦状を叩きつけられているわけか。

 

 この馬鹿女め。

 マジで私をただの猫だと思って舐め腐っている。

 

「言っておきますけど、後で私がいなくなって後悔するのは、貴女の方ですよ」

「そこから抜け出したら、さっきの条件をちゃんと飲むんだから、そのまま逃げて話を無かったことにするとか、絶対やめてね?」

「はい? それだとあまりに貴女に都合の良い賭けになってませんか?」

「別にそれくらいいいじゃん。お互いにそこまでデメリットがあるわけでもないし」

「…………」

 

 ……まあ、確かにその通りかもしれない。

 

 結局のところ、人間状態の私が葵と仲良くならない限り、飼い猫として屈する未来は訪れないのだ。

 猫への嫉妬で十年も意地を張っていたこの女と、今更昔のような関係に戻れるはずもない。

 この賭け、最初から私の勝利が決まっているようなものだ。

 

「はあ……まぁいいでしょう。どうせ私の勝ちになるんですから、好きにさせてあげます」

「やった!! そしたら一応……っていうか、勘違いってのが分かった時からそうするつもりだったけど、玲香と仲直りする方法も考えておかないとね」

 

 な〜んだ。

 私が提案する前から、行動に移すつもりだったのか。

 じゃあ本当に色々と無駄だったようだ。

 

「さて。話も終わったことですし、そろそろ寝るとしましょうか」

「うん。……ねぇ、レイ。このまま抱きしめながら寝てもいい?」

「嫌って言ったら、離してくれるんですか?」

「離さない♡」

「じゃあ聞かないでください」

 

 結局、私はこの強欲な幼馴染に抱き込まれたまま、一夜を過ごすことになった。

 もちろん例の如く、まともに眠れなかったが、初日と比べたら少しだけ眠れた気がする。

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