自己加速しすぎてスタープラチナ・ザ・ワールド 作:常谷 優大
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「おはよ、比企谷。」
「おはようございます!比企谷くん!」
昨日の一件から一転、平和な朝だ。結局なんで襲ってきたのかも分からなかったし、挙句の果てには小町に帰りが遅いと怒られる羽目になった。あいつらゆるさん。
登校中、学校の近くまで歩いたところで声を掛けられる。昨日知り合った2人だ。最初に声をかけてきた北山の横で光井が手を大きく振っている。
「うっす。」
SAN値ピンチな俺の心を癒してくれた2人にひっそり感謝しながら俺も手を挙げて挨拶を返す。
「…なんか眠そうですね?比企谷くん。」
「昨日の用事で帰りが遅くなってな。あんま寝れてない。」
「ちゃんと寝ないとダメですよ?」
めっ。とでも言いそうな表情をしながら俺に言う光井。
「…ほのかが比企谷のお母さんみたいになってる。」
「ふぇっ!?そ、そんなつもりはなかったんだけど…。」
「これからお袋って呼んだ方がいいか?」
「ちょっ!比企谷くんも乗らないで…!」
そのまま俺と北山の2人で光井をいじりながら学校まで歩く。羞恥で微かに顔を赤くした光井を笑う。この2人といると不思議と心が落ち着くな。俺の中で2人の株が急上昇したところで、「そういえば」と北山が俺に問う。
「比企谷の得意な魔法を知りたい。」
「ちょっと雫!それはマナー違反だよ!」
「…でも、気になるし。」
バツが悪そうに北山はシュンと顔を下に向けた。俺の魔法ね。めっちゃ急だな。
「なんで気になったんだ?」
「……入学試験。あくびしながらやってたのにも関わらず魔法式が完璧だった。」
前日過去作のプリキュア一気見して寝そうになりながら実技試験やってたのめっちゃ見られてた。
入学試験は筆記試験と実技試験の2部構成。その2つの総合評価で1科生か2科生か分かれる。この男、比企谷八幡は筆記試験を爆睡したのにも関わらず実技試験を突破。ほぼほぼ実技だけで1科生に入った異端者なのである。
「実は私と雫、比企谷くんの実技試験見てたんですけど…あんなに完璧な魔法式見たこと無かったんですよ。」
「うん。あくびはしてたけど。」
「そうだったのか…。別に隠すほどでもないし大したことやってないからマナーとか気にしないでいいぞ?」
「ありがと。」
「話すにはちょっと場所が悪いな。今日の放課後でもどうだ?」
「大丈夫です!」
「楽しみ。」
2人の了承も得れたことで放課後の予定ができた。今の社会では他人の魔法を聞くことはマナー違反になるらしいが、俺はそんなこと知ったこっちゃないし。それに…俺の魔法を知られたところで、対処されることがないしな。
「今日の授業はほぼほぼガイダンスっぽいな。」
場所は変わって今は教室。最初は名前順で席が決まっているため、必然的に俺と光井の席は近くなる。だいたい窓際の席だ。北山だけ教室の扉側、つまり右後ろの方になってしまったので北山は悲しそうに別れていった。仕方ないから。そんなに睨まないで。
先生が入ってきて授業の概要やらこの学校の説明などをしてくれた。このあとも色んな教科の先生が来るらしいが、基本的に授業はやらずに先ずは自己紹介などのオリエンテーションで終わるそうだ。
「そうですね。いきなり授業は流石に厳しいですし。」
「…敬語じゃなくていいぞ?俺に敬う必要ないしな。」
「なんでそんな卑屈に…?じゃ、じゃあなるべく無くす!」
光井が少し顔を赤くさせながら言う。すると遠くで北山がこちらをじっと見ていることに気がついた。……なんだその観察するみたいな目は。俺は珍獣か何かか?
「雫、ああ見えて寂しがり屋なんだよね。」
「いいことじゃねえか。人と接するのが好きってことだろ?」
北山の視線に光井も気がついたのか、俺にそう言ってきた。俺たちと目が合う北山。
ちょっと手を振ってみる。あ、振り返してくれた。かわいい。
「比企谷くんはそうでもない?」
「1人は好きだが、こうやって人と話すのも好きだぞ。時と場合によるな。」
「なんかそんな気がする。近寄り難いと思ってたけど、話したらすごい良い人だし!」
「俺が良い人なら光井や北山は天使だろうな。」
「天使だなんて…そんな…」
いやほんとに。癒されてばっか。
♫
時はあっという間に昼休み。探検がてら3人で食堂の方へと向かう。司波深雪とは1度も喋ってないし観察するのを忘れてた。まぁ入学2日目でそんな大変なことにならないだろうし気にするこたあねえな。
真夜さんに怒られても適当に理由つけて誤魔化そ。
「……くしゅっ。」
「お身体は大丈夫ですか?真夜様。」
「ええ。大丈夫。きっと八幡さんが私のことを考えてたのね。」
「そうでしたか。八幡様なら命令を遂行してくれますよ。」
「……これでやっていなかったら何をしてもらおうかしら。」
悪戯を考える少女のような笑みを浮かべた真夜は葉山の入れたコーヒーを口にした。
なんか今背筋がヒヤッとした。まぁ気のせいか。
「この学校まじでなんでもあるな。」
「全部最先端だね。それだけこの学校が大きい証拠。」
「何食べようかな…。」
目の前の液晶に学食のメニューが表示されている。たぶんこれで色々頼むんだろう。
「腹減ってるしガッツリ食べよ。先に席取っておくぞ。」
「ありがとう!」
学食も受け取ったことだし、3人がけの席を探してそこに座る。ちなみにとんかつ定食を頼んだ。肉厚の豚肉がジュワッと音を立てて揚がり、きつね色の衣がサクサクと弾ける。噛めば、溢れた肉汁に甘辛いソースが絡んで――思わず白米が恋しくなる一枚になる。これだけで食欲が唆られるだろ?
「お待たせ!」
「いい席だね。ここ。」
「ちょうど空いてた。」
俺が脳内でとんかつ定食をレビューしていると、光井と北山がやってきた。
窓際の景色が一望できる席なので風情があると思う。1人で良い席を探すことには慣れてるぜ。かなし。
「それじゃあ…」
「「「いただきます(!)」」」
3人で手を合わせて言う。挨拶大事。これテストに出るぞ。
「比企谷の右手の薬指の指輪ってCAD?」
「あ。それ私も気になってた。」
「これか?」
手を合わせた時に気になったのか、北山が聞いてくる。たしかに俺の右手の薬指には指輪がある。
俺は右手を2人の前に見えるようにあげる。
「よく分かったな。特化型CADってことになってる。まぁお守り的な役割もあるんだが。」
「お守り?」
「実は両親が死んでてな。形見みたいなもんなんだ。」
「……ごめん。」
「気にすんな。俺が勝手に話したことだ。」
2人は少し暗そうな顔になる。本当にいいやつらだ。会って2日の奴にそんなに感情向けてくれるとは。小町、お兄ちゃん泣きそう。
2人の表情が曇ったのを見て、俺は苦笑しながら肩をすくめた。
「そんな顔すんなって。もう何年も前の話だし、今さら引きずってねぇよ」
「……でも、形見って大事なものだよね」
光井がそっと俺の右手を見る。その視線は優しくて、触れたら壊れそうなほど繊細だった。
「比企谷……その指輪、ずっとつけてるの?」
「まぁな。外す理由もないし。それに――」
指輪を軽く回す。金属の冷たさが、妙に落ち着く。
「これがないと、俺の魔法が暴走する可能性がある」
「……暴走?」
北山がわずかに目を見開く。普段ほとんど表情を変えない彼女が、ほんの少しだけ揺れた。
「まぁ、暴走ってほど大げさじゃねぇよ。ただ、酷使しすぎると脳がオーバーヒートするんだと。だから“抑制装置”みたいなもんだな」
嘘は言ってない。オーバーヒートは大げさだが、そんな事は滅多にない。それに抑制するのが別のものだってだけ。
「……それ、十分大げさだよ?」
光井が眉を寄せる。
「比企谷くん、危ない魔法なんじゃ……」
「危なくねぇ魔法なんてねぇよ。魔法師なんて全員どっかのネジが外れてるだけだ。」
「……比企谷も?」
「俺はネジっていうより、ひねくれてるだけだ」
「それは分かる」
「雫!? 即答!?」
光井が慌ててツッコむ。北山は淡々と頷いたままだ。
「……でも」
北山がぽつりと続ける。
「その指輪、大事にしてるのは分かった」
「まぁな。親父とお袋が唯一、俺に残した“形”だからな」
「……うん」
光井が小さく頷く。その目は、まるで俺の痛みを自分のことのように受け止めているみたいだった。
……やめろ。そんな優しい顔されたら、俺のSAN値が回復しすぎて逆に死ぬ。
「だからまぁ、あんま気にすんな。俺は普通に元気だしこうして学校にも来てるしな。」
「……普通ではないと思う」
「雫、辛辣すぎない?」
「事実」
「否定できねぇのが悔しいわ」
3人で歩きながら、自然と笑いがこぼれる。
ここ最近なら、光井と北山と話してる時間が1番落ち着けるかもしれない。
「……放課後、楽しみにしてる」
「私も!比企谷くんの魔法、ちゃんと聞きたい!」
「おう。まぁ期待しすぎんなよ。俺の魔法なんて――」
“ただの自己加速だ”
そう言いかけた瞬間、校舎の向こうからざわめきが聞こえた。
「……なんだ?」
「人、集まってる……?」
「また面倒な予感しかしねぇ」
俺たちは顔を見合わせ、その場所へと視線を集中させた。
視線の先にいるのは、数名の男女と司波深雪、司波達也。そしてその周囲を取り囲むようにして、1科生の男子数名が深雪に向かって何かをまくし立てていた。
何をしてるんだ…?
「司波さん! あなたほどの方がどうして2科生なんかと食事を?」
「そうですよ! 僕たち1科生と一緒に食べるべきです!」
「いくら兄とはいえ、兄とばかり一緒にいるのもどうかと思いますよ?」
……あー、出たよ。“金魚のフン系エリート主張マン”たち。こういうヤツらはえてして本人の都合を考えてない。
当人の司波深雪は困ったように眉を寄せ、その兄の司波達也は無表情のまま座っている。強心臓すぎるアイツ。
その隣では、赤髪の少女と短髪の青年が呆れ顔で腕を組んでいた。
「はぁ……深雪はアタシらと一緒に食べたいって言ってんの。それが分かんないなら論外よ」
「そういうこった。それに飯は誰と食ってもいいだろうが」
反論する2人の姿を見て、俺は心の中で頷く。
――このメンツが揃ってるってことは、司波達也はあのグループと一緒に食べるつもりだったってことだ。
司波深雪は兄と食べたい。
1科生男子は司波深雪と食べたい。
俺は巻き込まれたくない。
「……穏やかじゃあねえな」
光井が袖を引っ張る。
「比企谷くん、どうするの……?」
「どうするもこうするも、このままじゃ穏やかに飯が食べられねぇだろ」
北山が小さく頷く。
「…行くの?」
「いんや。こーゆー時は……自然に解決する」
俺がそう言って目線で渦中を見るよう促す。光井と北山は不思議そうにそっちに目を向ける。
「…失礼ですが、」
静かな声。でも確かに食堂全体に響き渡っていた。
「私はお兄様と一緒に食事をしたいのです。それがいけませんか…?」
1科生男子たちが一瞬で黙り込む。赤髪の女子が腕を組んでニヤリと笑い、隣のでかい男子が肩をすくめる。
「ほら、深雪ちゃんが言ってるんだから解散しなよ」
「飯が冷めるぞ」
男子たちは不満げにしながらも、司波深雪の“圧”に押されて散っていった。
事態が丸く収まったところを確認して俺は腕を組んで少し頷いた。
「ほらな。俺が出るまでもなかったろ?」
「すごい…なんで分かったの?」
「ただの経験則だ。当人の気持ちを無視してたしな。勝手に終わる構図だった。」
仮にあれ以上揉めるようであれば流石に介入してたかもな。穏やかに飯が食べられないのは勘弁だし。
俺たち談笑しながら昼ごはんを再び食べ始めた。
♫
「比企谷くん!一緒に帰ろ!」
昼休みも終わって満腹になったところで俺の睡魔が限界を迎えたため、残りの時間を全て睡眠学習に費やした。
気がついたら放課後の時間だったようで、光井の声で意識を覚醒させる。
「うい。帰ろうか。」
「私、気になるカフェがあったんだよね!そこで話そうよ!」
「…いいね。」
「MAXコーヒーあるかね」
「そんなのカフェにあるわけ…」
「あるって」
「あんの!!??」
そんな会話をしながら校門の近くまで歩く。すると、食堂でもあった司波達也、司波深雪ら数名と1科生の奴らがまたいるのに気がつく。
「いい加減に諦めたらどうなんですか?深雪さんは、お兄さんと一緒に帰ると言っているんです。他人が口を挟むことじゃないでしょう」
「…また揉め事か?」
目の前で起こる揉め事(またかよ)を聞き耳を立てて状況を整理してみる。
司波達也の近くにいる眼鏡の少女が1科生の面々を叱咤していることから食堂であったことのアゲインだろう。それに痺れを切らした眼鏡の少女が正論でぶん殴ってるってことか。
「でも昼もあまり喋れなかったし、2科生には分からない話もあるんだ!」
「僕たちは彼女に相談することがあるんだ!」
「そうよ!司波さんには悪いけど、少し時間を貸してもらうだけなんだから!」
ぶっちゃけ無茶苦茶な論理だが、自分たちが特別だと愉悦に浸っているからこその意見。てか司波さんには悪いって認めてんじゃねえか。
「そんなの貴方達の勝手な都合じゃないですか!貴方達はなんの権利があって二人の仲を引き裂こうとするんですか!?」
あまりの暴論に眼鏡の少女は当然反論する。大人しそうな性格なのにズバズバ言うタイプなのね。嫌いじゃない。むしろ好感がもてる。もっとやれ。
「引き裂くってそんな……美月ったら何を勘違いしているのかしら?」
そして肝心の司波深雪はというと眼鏡の少女の言葉に顔を赤くさせていた。そんな司波深雪の変化に隣にいた司波達也は気付く。
「どうした深雪?」
「いえ!なんでもありません!!美月ったら何を勘違いしているのでしょうね?」
「深雪……なぜお前が焦る?」
「えっ?いえ、焦ってなどおりませんよ?」
「そして何故に疑問系?」
いやこいつら余裕だな…。
渦中にいる兄妹のやり取りに余裕が見れる。
「ハン!そういうのは自活中にやれよ。ちゃんと時間が取ってあるだろうが」
「相談だったら予め本人の同意をとってからにしたら?深雪の意思を無視して相談も何もあったもんじゃないの。昼休みにも同じことやんなかった?もう高校生でしょ?1科生様はそんなことも知らないんですかあ?」
短髪の青年と赤髪の少女は煽りを含んだ反論を返した。幼稚な理屈でしつこく噛みつかれて苛立ってきているのだろう。
1科生は馬鹿じゃあない。一般常識やモラル、マナーを鑑みれば自分たちの行いが間違っていることくらいすぐに理解出来る。しかしそれを阻むのは自分のプライドと、引くに引けない状況だろう。
「うるさい!他のクラス、ましてやウィードごときが僕たちブルームに口出しするな!」
正論で叩かれまくった1科生に残された手段は感情論。故に差別的だからと校則で禁止されている用語すら持ち出してしまう。
「同じ新入生じゃないですか!あなたたちブルームが、今の時点で一体どれだけ優れているというんですか!」
あ……それはまずい…。
同じことを思ったのか、渋い顔をした司波達也が一歩前に出る。
「どれだけ優れているかだって? だったら、今この場で教えてやる!」
「はっ!面白ぇ!是非とも教えてもらおうじゃないか!」
同じクラスの森?森なんとかが持つ銃型特化CADをレオ達に向けると同時に、その言葉に続く形で他の1科生たちもCADを操作して魔法を発動させようとする。
対する短髪の青年や赤髪の少女もCADを迎撃するために動く。慌てて光井も魔法を発動しようとしたことに気がつく。閃光魔法で抑制しようとしてる…?
「…光井。落ち着け。」
「えっ!?」
俺は魔法を発動させようとしてる光井の手を抑えて発動を阻止する。いきなり抑えられた光井は驚いたように声をあげた。
しゃーねえ、止めるか。
魔法を発動。すると世界がひとつ"落ちた"。
まるで世界が息を呑んだように、周囲のざわめきが一瞬で凪ぐ。
ーーカチリ。
頭の奥で何かが噛み合う音が聞こえる。それは俺自身にしか分からない、"魔法発動"の合図。
「…ふぅ。お前ら、ここが学校だっての理解できねえのかよ」
色が薄れ、音が消え、人が切り抜かれた写真の一部のようになった世界で、俺だけが動く。ぼっちにとっては至高の時間だ。
改めて周りを見ると、司波達也も魔法を発動させようとしていることに気がついた。
「動きに無駄がねえな。こりゃ四葉の人間だわ。」
少しだけ司波達也に感心した後に1科生の傍へと歩く。
コツ、コツ、コツ、と靴の音だけが響く。
「感謝しろよ?お前らがしようとしてたことは立派な犯罪だ。」
俺は1科生の手元にあるCADに軽く触れる。想子(サイオン)の塊が術式の根本にぶつかり、魔法式が霧散する。粗暴で荒々しい、
俺はそのまま、一触即発の1科生と赤髪の少女の間に立つ。
これで充分…あとは時間を戻すだけ。
ーーーカチリ。
また、頭の奥でそんな音が鳴った。
「…はっ!?」
「えっ」
「なにっ!?」
「ちょっ!!あぶなっ!!」
魔法の発動が出来なくて狼狽える1科生。俺が突然目の前に現れて魔法に対抗しようとしていた赤髪の少女は戸惑う。
周囲は驚きで目を見開き、言葉も出ない。
「今…どうやって現れた…?」
「……お兄様…今のは…?」
「…正直、何も見えなかった…。」
魔法を発動出来なかった1科生はまだ狼狽えている。俺は右手の薬指にあるCADを少しだけ撫でて感覚を確かめる。
「(…ミリ秒遅れた…俺もまだまだだな。)」
今の自分の魔法に微かな不満を募らせた。まだ自分に向上心があったのかと心の内で驚きながら1科生に顔を向ける。
「おい!今僕たちに何をした!」
「魔法の発動を止めただけだ。」
「それは知ってる!どうやって止めたのか聞いたんだ!」
「さあな。てか、ここ学校。自衛以外の魔法行使は犯罪だぞ。」
「ぐっ…!」
図星をつかれた森?なんとかくんが歯を食いしばる。最低限の常識はあったようで安心だ。
俺が森なんとかと話している間、司波達也はずっと俺に鋭い視線を向けている。まぁ100億パーセント警戒されるだろうな。なりふり構わず使うのは迂闊だったか。
「(……断言しよう…一切見えなかった…)」
猫背で黒髪のぴょこんとアホ毛がある青年がやったことに、俺は目を奪われていた。
深雪やクラスメイトと帰路につこうとした時に1科生から絡まれ、一触即発の雰囲気になったところで彼が介入してきた。おそらく彼が仲介していなければ魔法の衝突、つまり戦闘になっていただろう。
しかしそれを彼は止めてみせた。しかも、誰も捉えきれないスピードで。自分の
術式の起動…想子(サイオン)の流れ…魔法式の構築…物理的な動きの軌跡。それらは全てこの眼で捉えることができるものだ。しかし今起きた事態はこれを覆すものであったのだ。
「(……魔法を起動させた形跡はある…だが何だこの違和感は…?
今の速度は…
初めて経験する未知の感覚に戸惑う。自分の肉体の感覚を確かめ、正常に動くことを認識する。隣で口に手を当てて驚く深雪を確認すると、今の光景が現実であることを理解した。
「ね、ねぇアンタ…今、どうやって私の前に来たの?」
エリカが恐る恐る聞く。俺の記憶では、10mは離れた位置にいたはずだ。それほどの距離を瞬きのうちに詰めるのは不可能に近い。
「…んぁ?あー、急に目の前に腐った目のやつ現れたら怖ぇよな。すまん。」
「え、いや、そーゆーことじゃなくて。」
「あ。もしかして邪魔だったか?別に俺が止めなくても解決しただろうし。」
…どうやら盛大な勘違いをしているようだ。エリカは今起こったことの解説を求めるがイマイチ伝わっていない。緊迫していた空気が和らぐのを感じる。
「…何をしている!」
よく通る女性の声が聞こえた。振り返るとそこに居たのは2人の女性。一校三大巨頭の内2人。生徒会長【七草真由美】と風紀委員長【渡辺摩利】がいた。
「自衛目的以外の魔法の使用は犯罪行為ですよ!」
「すみません。少し悪ふざけがすぎました。」
ここは穏便に解決しようと思い、俺が1歩前に出る。
「…悪ふざけ?」
「自分が森崎一門のクイックドローを後学の為に見せてもらっていたのですが、それがあまりにも真に迫っていたものですからそこの彼が止めてくれたんです。」
「どーも。そこの彼です。」
手を軽くあげて当人であるとアピールする青年。君も弁護してくれ。
「魔法の痕跡があることについては…?」
「全て攻撃性の無い魔法です。」
「ほぅ。君は展開された起動式を読み取れるということだな。」
「実技は苦手ですが…分析は得意です。」
自分の発言が突っかかったのか、渡辺先輩はなにか言い返そうとした時、生徒会長の七草先輩が割り込んでくる。
「まぁまぁ。摩利、もういいじゃない。怪我もなかったんだからこれからはちゃんと注意してくれればそれで構わないでしょ」
「…むぅ。…分かった。」
渡辺先輩はなにか言いたそうにしていたが、ひとまず頷いた。
「魔法の行使に関わる規則は、校内のものについても法解釈についても、一学期の内に授業で教わる内容です。それまで魔法の使用については控えた方がいいでしょうね」
「……会長がこう仰っていることでもあるし、今回は不問にします。以後このようなことが無いように」
居住まいを正した渡辺先輩の言葉に例の青年以外の全員が頭を下げる。それきり踵を返して一歩踏み出すと、思い出したかのように顔だけを振り向け、俺と青年へと問いかけた。
「…君たちの名前は?」
「1年E組、司波達也です。」
「1年A組、比企谷八幡っす。」
「そうか。覚えておこう。行くぞ、真由美。……真由美?」
青年の名前は比企谷八幡というのか…。俺も覚えておこう。校舎へと戻ろうとした渡辺先輩は七草先輩を呼んで一緒に向かおうとするが、七草先輩の返事がないことに訝しんだ渡辺先輩はもう一度名前を呼ぶ。
一点を見つめて動かない七草先輩は、俯いたまま顔を上げ、一目散に比企谷の元へと飛び込んだ。…?飛び込んだ?
「…は……は…はちくんっ!!!」
「ぐはっ!?」
突進された勢いのまま地面に倒れる2人。
あまりに突然な出来事に固まる一同。先程までは先輩としての威厳を盛大に示していた会長は今や年相応の少女となってしまった。これには渡辺先輩を目を丸にして固まっている。
比企谷のしたことについて聞きたいことが山ほどあるが、それを聞くにはまず会長をどうにかしないといけないことに、俺はため息を吐いた。
次回は会長との関係とか八幡の魔法解説回ですね。
達也が八幡をどーするのか。消す?いや消せるのか?みたいな。
ヒロインとかは正確に決めてないです。でも僕が好きなキャラは絶対に関わらせようと思ってます。
余談ですが八幡と達也が腕相撲した場合机が真っ二つに割れます。いつかそーゆーおまけ話も書きたいなあ
では、また次回で会いましょう。