幼なじみの声が好き!   作:きりほしたいこん

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「好き」って言って♡

 雷に打たれたような衝撃って現実にあるんだと知った。

 これまでの常識が丸ごとぐるっと引っ繰り返って、神様から天啓を得るってこういうことだ。

 それか、ヘレン・ケラーのウォーター。

 

(かさね)ちゃん! 『叶歌(かなか)、好きだよ』って言って!!」

 

 ボイスレコーダーアプリの録音ボタンをタップして、私新染(にいぞめ)叶歌は幼なじみの藍澤(あいさわ)累ちゃんへとスタンバイ。

 昼休みのお弁当タイム、高校でできた友達の井芹(いさわ)雪生(ゆきお)ちゃんの一言は私に人生のひらめきを豪速球でぶち当ててきた。

 キャッチした。

 バッチリ受け止められたけど、累ちゃんは珍しくなんにも言い返してこない。いつもは会話の瞬発力高めなのに長い睫毛をパチパチさせているだけ。

 

「叶歌……? ルイのこと……、好きなの?」

「大好きだよ! でもそれとは違うっていうか──推し! そう、推し! 今累ちゃんが推しになったの!!」

「……待って、意味分かんない。かな、私に好きって言ってほしいのは、告白されたいんじゃないわけ……?」

「されたい! すっごくされたい! 過去一イケボで『好き』って言って♡」

 

 こんなドキドキ、今まで知らなかった。

 机に残りのおかずをこぼさないように蓋をして、姿勢を正す。

 机をくっ付けて隣に並んでる累ちゃんは、マジで、私達が通う羅々崎(ららさき)女子高等学校で天下取れる。背が高くて運動神経抜群で頭もよくて黒髪ショートの、容姿はクールビューティーな自慢の親友だ。

 

 生まれた時から一緒だから、累ちゃんの声が私の耳に馴染んでいて心地がいいのは当たり前。

 他の友達を呼ぶ時より優しかったり冷たくなったりする『かな』っていう呼び方は、一五年間とちょっとの人生で両親よりも聞いた回数が多い。

 ちゃんと分かってたはずなのに、累ちゃんの声がマジでいいって気付いたら告白されたくなってしまった。

 女の子にしては少し低めの凛々しいボイスを、私のスマホにいっぱいちょうだい♡

 

「流石にそれは可哀想……」

 

 正面の夏雲(なつぐも)(さん)ちゃんが「ねえ?」と雪ちゃんに同意を求めて、ギャルの見た目でグループの冬担当みんなの姉御が累ちゃんを憐れむように見ている。

 

「ルイ、あんたの幼なじみ、大分キてるよ」

「かなが突拍子ないのは慣れてたけど……ここまでアホな子なことある?」

 

 ちなみに賛ちゃんが夏で、累ちゃんは秋、私は春に就任した。名前からの消去法だからみんなあんまり当てはまってないけど、バラバラの私達はゆるっと仲がいい。

 累ちゃんとは大親友なんだけど、今日ほど沈痛な面持ちってやつにさせたことはないかも。額に手を当てている。

 この机の塊だけミュートが続く。どうしちゃったものかと、録音しっぱなしのレコーダーの小さな波形を眺めている。

 

「話の流れ、なんだった?」

「私が、このゲームのキャラの声が、藍澤さんに似てるって話した」

 

 淡々冷静な賛ちゃんに黙って頷く累ちゃん。

 最近流行ってるっていうアプリゲームの新キャラクター、金髪王子様風イケメンの紹介ムービーの画面。そうそうこの人この人。

 

「新染さんはそんなにって顔してたよね」

 

 私をジッと確認している眼鏡の奥の目がスーパードライ。

 

「うん。累ちゃんの声の方が耳に気持ちいいって感じ?」

「あたしがルイは王子系って褒めたのがトドメだった」

「そう! そうなの! 私の王子様! 昔ねー、累ちゃん言ってたんだよねえ。お伽噺には興味ないけど私だけの王子様になりたいって♡」

 

 女の子だけどちっちゃな頃からずっとずっと格好いいから、プリンセスに憧れていたかつての私にはダイレクトヒットだ。昔もズキューンってしてたのを遅れて思い出している。

 累ちゃんは累ちゃんだし、私の大切な友達だからいい声とか今まで意識してなかったのがホントに悔しい。

 どれだけ累ちゃんの魅力的ボイスを逃してきたんだろう。

 

「それでどうして推しになるの? 私に告白されたいのは百歩譲っていいけどさ……、録音させるのはなんのつもり? 何に使うの?」

「コレクションしたい!! 一日の終わりとかに累ちゃんに好きって言ってほしい! あ、でも、累ちゃんじゃないんだよねぇ。ルイ様? ルイ様になりきってくれない?」

「絶対に嫌」

「なんでー?」

「なんでも何も、軽々しく好きなんて言わない……」

「昔は言ってたよ!」

「後悔してるの! ッあんたが嫌いとかじゃなくって──どうすればいいんだ私……」

 

 溜息吐いて水筒のお茶を飲む累ちゃん。

 コップの形をしてるのが好きでペットボトルはあんまり得意じゃない、小さなギャップがいっぱいある幼なじみ。今日は大人しく雪ちゃんに頭を撫でられている。

 

「ねえ、新染さん。他の子には『好き』とか言ってほしいとかあるの? 隣のクラスの鈴木さんも低い声しててカッコいいけど」

「累ちゃんだけかなあ。ときめき? キュンってくるの累ちゃんだけだと思う」

「うわ……」

「ルイ、腹括って一回だけ頼まれてやったら?」

「推し活が続かないように言えばいいと思う」

「そうそう、ヘタレにやってみれば叶歌も冷めるよ」

 

 大丈夫って説得してる雪ちゃんは、分かってないなあ。累ちゃん割と負けず嫌いなとこもあるから火が点いちゃうよ。

 昼休みも残り短いしお弁当食べ終えないとだし、ずずずいっと再びスマホのマイクを累ちゃんに向ける。

 目を閉じたら平凡な容姿の私でもお姫様になれそうだけど、見ていたい。

 どんな顔で好きって言ってくれるんだろう。

 すっと息を吸い込んだ累ちゃんの黒い瞳が私を睨む。

 

「〈叶歌ちゃん、好きだよ。君が好きだ〉」

「──ふぉ」

「〈私を好きになってくれないか?〉」

「なる! っていうか全然好き! きゃー! 累ちゃーん! もっと言って──!!」

「愛してるよ、叶歌」

「私も愛してるぅ〰〰♡」

 

 好き、好き、もうすっごい好き♡ ルイ様最高♡

 ヤバくない? 私の幼なじみ! 女の子落とす才能あり過ぎ。

 女子高に行こうって言い出したのは累ちゃんだったけど、まさかのハーレム願望ありなのかもしれない。

 累ちゃん、女っ誑しは似合わないんだけどな。

 でも私はハーレムメンバーその二くらいが丁度いい感じの容姿だ。髪の先がくるんてしてるメディアムロングの女の子って大抵いるし。

 

「こいつら大丈夫だわ」

「心配して損したね」

「……しょうがないじゃん!!」

「まぁ、あんたはそうよね」

「王子様ステキー」

「私は……叶歌には……無理なんだよ……ッ」

 

 珍しく叫んでる。嫌がらせしたいんじゃないけど、どうしよう、もっと言ってほしい。

 嬉しいよ累ちゃん。私の我儘いっつも叶えてくれる。

 ルイ様の告白、今晩も聞こう。

 

 一日一回新録してもらいたい。ファンは強欲な生き物です。

 推しの新規ボイスは是が非でもゲットしたいのだ。

 

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