雷に打たれたような衝撃って現実にあるんだと知った。
これまでの常識が丸ごとぐるっと引っ繰り返る。
神様から天啓を得るってこういうことだ、それか、ヘレン・ケラーのウォーター。
「
ボイスレコーダーアプリの録音ボタンをタップして、私
累ちゃんは珍しくなんにも言い返してこない。いつもは会話の瞬発力高めなのに長い睫毛をパチパチさせているだけ。
「累ちゃん、早くー♡」
「何言ってんの、かな……?」
「叶歌、確認! ルイのこと……、恋愛的に好きなの?」
「違うよ、でも大好き! ──推し! そう、推し! 今累ちゃんが推しになってね、だから『好き』って言ってほしいの!」
昼休みのお弁当タイム、高校でできた友達の
バッチリキャッチしたから待機してるのに、累ちゃんたら頭痛顔をしてるだけ。
「待って、意味分かんない。かな、推しって何?」
「累ちゃんがすっごく好きってこと♡」
「……私に告白されたいの?」
「されたいよ! すっごくされたい! 過去一イケボで『好き』って言って♡」
こんなドキドキ、今まで知らなかった。
机に残りのおかずをこぼさないようにお弁当箱に蓋をした。
グループで固まっているお昼時。隣に並んでいる幼なじみの累ちゃんは、私達が通う
生まれた時から一緒だから、累ちゃんの声が私の耳に馴染んで心地がいいのは当たり前。
他の友達を呼ぶ時より優しかったり冷たくなったりする『かな』っていう呼び方は、15年間とちょっとの人生で両親よりも聞いた回数が多い。
ちゃんと分かってたはずなのに、累ちゃんの声がマジでいいって気付いたら告白されたくなってしまった。
女の子にしては少し低めの凛々しいボイスを、私のスマホにいっぱいちょうだい♡
「流石にそれは可哀想……」
正面の
「ルイ、あんたの幼なじみ、大分キてるよ」
「かなが突拍子ないのは慣れてたけど……ここまでアホなことある?」
ちなみに賛ちゃんが夏で、累ちゃんは秋、私は春に就任している。名前からの消去法だからみんなあんまり当てはまってないけど、バラバラの私達はゆるっと仲がいい。
累ちゃんとは大親友なんだけど、今日ほど沈痛な面持ちってやつにさせたことはなかったかも。額に手を当てている。
ここの塊だけミュートが続く。どうしちゃったものかと、録音しっぱなしのレコーダーの小さな波形を眺めている。
雪ちゃんが短く溜息を吐いた。
「話の流れ、なんだった?」
「私が、このゲームのキャラの声が、藍澤さんに似てるって話した」
淡々冷静な賛ちゃんに黙って頷く累ちゃん。
音量を消された動画が再度再生される。最近流行っているアプリゲームの新キャラクター、金髪王子様風イケメンの紹介ムービー。
そうそうこの人が発端だ。
「新染さんはそんなにって顔してたよね」
私をジッと確認している賛ちゃんの、眼鏡の奥の目がスーパードライ。
「うん。累ちゃんの声の方が耳に気持ちいいって感じ。王子様度も上!!」
「あたしがからかったのがトドメだったね……」
「だって累ちゃんが私の王子様なのは事実だし。昔ねー、累ちゃん言ってたんだもん。お伽噺には興味ないけど私だけの王子様になりたいって♡」
ちっちゃな頃からずっとずっと格好いいけど、累ちゃんは累ちゃんだし、いい声とか今まで意識してなかったのがホントに悔しい。
どれだけ累ちゃんの魅力的ボイスを逃してきたんだろう。
「それでどうして推しになるの? 私に告白されたいのは100歩譲っていいけどさ……、録音させるのはなんのつもり? 何に使うの?」
「コレクションしたい!! 1日の終わりとかに累ちゃんに好きって言ってほしい! あ、でも、累ちゃんじゃないんだよねぇ。ルイ様? ルイ様になりきってくれない?」
「絶対に嫌」
「なんでー?」
「なんでも何も、軽々しく好きなんて言わない……」
「昔は言ってたよ!」
「後悔してるの! ッあんたが嫌いとかじゃなくって──どうすればいいんだ私……」
気持ちを落ち着けるように水筒のお茶を飲む累ちゃん。
コップの形をしてるのが好きでペットボトルはあんまり得意じゃない、小さなギャップがいっぱいある女の子。今日は大人しく雪ちゃんに頭を撫でられている。
「ねえ、新染さん。他の子には『好き』とか言ってほしいってあるの? 隣のクラスの鈴木さんも低い声しててカッコいいけど」
「累ちゃんだけかなあ。ときめき? キュンってくるの累ちゃんだけだと思う」
「うわ……」
「ルイ、腹括って1回だけ頼まれてやったら?」
「推し活が続かないように言えばいいと思う」
「そうそう、ヘタレにやってみれば叶歌も冷めるよ」
大丈夫って説得してる雪ちゃんは、分かってないなあ。累ちゃん割と負けず嫌いなとこもあるから火が点いちゃうよ。
昼休みも残り短いしお弁当食べ終えないとだし、ずずずいっと再びスマホのマイクを累ちゃんに向ける。
目を閉じたら平凡な容姿の私でもお姫様になれそうだけど、見ていたい。
どんな顔で好きって言ってくれるんだろう。
すっと息を吸い込んだ累ちゃんの黒い瞳が私を睨む。
「〈叶歌ちゃん、好きだよ。君が好きだ〉」
「──ふぉ」
「〈私を好きになってくれないか?〉」
「なる! っていうか全然好き! きゃー! 累ちゃーん! もっと言って──!!」
「愛してるよ、叶歌」
「私も愛してるぅ〰〰♡」
好き、好き、もうすっごい好き♡ ルイ様最高♡
ヤバくない? 私の幼なじみ! 女の子落とす才能あり過ぎ。
女子高に行こうって言い出したのは累ちゃんだったけど、まさかのハーレム願望ありなのかもしれない。
累ちゃん、女っ誑しは似合わないんだけどな。
でも私はハーレムメンバーその2くらいが丁度いい感じの容姿だ。髪の先がくるんてしてるメディアムロングの女の子って大抵いるし。
「こいつら大丈夫だわ」
「心配して損したね」
「……しょうがないじゃん!! 私は……叶歌には……! 断るなんて無理なんだよ……ッ」
珍しく叫んでる。嫌がらせしたいんじゃないけど、どうしよう、もっと言ってほしい。
嬉しいよ累ちゃん。私の我儘いっつも叶えてくれる。
ルイ様の告白、今晩も聞こう。
1日1回新録してもらいたい。ファンは強欲な生き物です。
推しの新規ボイスは是が非でもゲットしたいのだ。