幼なじみの声が好き!   作:きりほしたいこん

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努力家な私の幼なじみ

 同じマンションの同じ階に住んでいる新染家と藍澤家。

 私と累ちゃんは同じ時間に家を出て、同じ時間に帰宅することが殆どだ。

 なのに今日、昨日の今日で、あんなにときめきタイムを過ごしたというのに『先に行くね』と行ってしまった。

 理由も伝えられず、朝のメッセージが一通だけで置いて行かれた。

 その悲しみは一入で、とぼとぼ駅まで歩き、電車を二駅分乗って、平坦で長い道を進む。

 

 羅々崎女子高等学校は緑に囲まれた静かな場所にあり、校門の前には毎日風紀員と先生が一人立っている。

 今日も服装チェックをパスして靴箱で履き替えていると、丁度同じクラスの雪生ちゃんに会った。

『おはよう』を交わすと早速私の機嫌を指摘される。

 

「なぁに不機嫌な顔してんの?」

「別に不機嫌じゃないけど……」

 

 しっかり者で周りの子達をよく見ている、弟も妹もいる生粋のお姉ちゃんには私の不満なんてバレバレだ。

 階段を上がらずに廊下を進めばすぐに教室。朝練を終えた子達とも挨拶を交わして席に着く。

 大抵出席番号一番になる累ちゃんの次、二番目の井沢雪生ちゃんは、番号順の今教室の真ん中の席になっている私の前に座ってくれた。

 前の席の子、夏雲賛ちゃんはまだ来てないし、素っ気なさげに見えて親切な子だから怒ったりしない。羅々崎は全体的にのんびりしている。

 

「ルイ、教室にもいないね」

「どこ行っちゃったんだか……」

「怒んな怒んな。あの子にだって用事くらいあるでしょ」

「でもっ……!」

 

 分かってる、累ちゃんにも付き合いがあることくらい分かっている。

 頭では理解しているのに心が受け付けないとはこういう状態を指すのだろう。累ちゃんにはもっと広い友人関係の方が楽しいなんて偉そうに言うくせに、実際幼なじみが自分以外を優先するのは面白くない。

 あの声を、私以外が聞いているのがモヤモヤする。完全に同担拒否。

 

「昨日の内に言ってくれたら……、よかったのかなあ?」

 

 制服のリボンの先をいじる。

 うちの学校はアイテムを色々選べて、私が喜ぶから累ちゃんは羅々崎にしようって言ったのかもしれない──偏差値的には、累ちゃんはもっと上を目指せていたはずで、中学の先生からかなり説得されていたのを思い出してしまう。

 でも、累ちゃんは私を選んでくれた。

 濃紺のブレザーは襟が凝っていてアイボリーのパイピング。シャツはホワイトとパステルピンクとサックスブルーの三色。ネクタイかリボンまで選べて、上着と同じ配色のチェック柄。スカートもチェックですごく可愛い。

 私はシャツは絶対ピンクにリボンだって決めていた。累ちゃんやクラスの子の半数以上は白を選んでいて、雪生ちゃんは白の次に多いブルー派。

 

「昨日なんかあったの?」

「累ちゃんのお部屋でラブラブ♡」

「……あっそ」

 

 そんな冷たく切り捨てられると悲しいよ。

 盛り上がってるクラスメイトに反して、雪生ちゃんと賛ちゃんは冷静に私達を確認している──累ちゃんに色々話し掛けている。遠目に映る累ちゃんの微かな表情の変化がいつも気になる。

 ボイスから私の声を取り除いている時は負のオーラまっしぐらだけど、それ以外は割と楽しんでいるようだけど、やっぱり、嫌なんだろうか。

 でもでも、私はルイ様の新録を諦められない。

 

「あっ、賛ちゃんおはよー!」

「おはよ、ごめんねー、席借りてたわー」

「いい。おはよう。やっぱり──新染さん、落ち込んでるね」

 

 珍しい、賛ちゃんの表情筋が動いている。

 人がへこんでいる時に酷いと思ったら、的確に状況説明に入る冷静な友達。

 

「藍澤さんなら放送部の朝練に入ってたよ」

「放送部?」

「あー、あー、滑舌?」

「そうみたい。彼女、激甘だよね」

 

 二人して納得顔をしている。私にはまだ累ちゃんと滑舌が結び付かない。なんで滑舌。

 

「藍澤さん、新染さんのこと好き?」

「好きだけど、今はちょっときらーい」

「ハイハイ」

「まだ、録音のアレしてるんでしょ? あなたのコレクションをいいものにしたくて、彼女、頑張ってるんじゃない?」

 

 えっ──、待って、私の推し、最高じゃない?

 累ちゃんってば優しいのに気遣いも言葉もちょっと足りないんだよねー♡ もう、言ってくれたらよかったのにな♡

 私のために頑張ってくれるとこ、好き〰〰♡

 

「ルイ器用だし、すぐにこなしそうだね」

「ううん、声量が足りないって言われてた」

「累ちゃん恥ずかしがり屋さんなとこもあるからー♡」

 

 不満なんて吹っ飛んだ。

 教室に鞄を持って現れた私の王子様は、ニヤニヤニヤニヤしちゃっているファン第一号に溜息を吐いたけど、そんなところも好き♡

 累ちゃんは私のことが好きで、私も累ちゃんが好きだ。両想いって幸せだ。

 

 ・・・

 

 幸福を噛み締めていた午前中から一転、私の機嫌は昼休みに急下降して放課後でクライマックスを迎えた。

 累ちゃんが、いない。

『先帰ってて』と放送部の子達と行ってしまったのだ。

 このまま部活に入ってしまうのだろうか。中学校でも運動部から頻りに勧誘されていたけど、私が帰宅部だったからか、どこにも所属することはなかった。

 体験入部でどこも違うな~ってなってしまった私に、幼なじみもそう言っていた。

 

「新染さんは自分が尊重され過ぎてること、もっと自覚した方がいいよ」

 

 最初のイラッとした気持ちはすぐになくなり、またしても置いて行かれた寂しさが強くなっている。

 賛ちゃんは後ろの席の憂鬱さにうんざりしたのか、意外と世話好きなのか、読書同好会の教室に連れてってくれた。

 三人だけしか所属していなくて、今日は先輩は委員会でどちらもいない。特別にお悩み相談室を開催してくれたのだ。

 

「何が不満?」

「不満じゃなくて──一言言ってくれたらいいのになって思ってる」

「恥ずかしいんでしょ」

「そうなんだけどねぇ~! 累ちゃん薄情~」

「藍澤さん、新染さんの教育完全に間違ってる」

「それよく言われる」

 

 ママでもお姉ちゃんでもないのに──私は妹いるからお姉ちゃんだけど──おんぶに抱っこだって批判されることもよくあった。

 累ちゃんが一番怒ってくれた。『私が好きでやってるんだよ』と綺麗な形の眉を顰めていた。

 今は、ルイ様じゃなくて累ちゃんの声が聞きたい。

 

「新染さんもやってみれば? 発声練習。いつかの役には立つと思う」

「え、なんで私?」

「楽しいかもしれないよ。藍澤さんもやってるんだし」

「んー……してみようかな」

 

 昔からそうだ、私は累ちゃんと同じことをやりたがる。

 スイスイとスマホを操る賛ちゃんから、即URLが届いた。

 

「取り敢えずやってみて。録音しててあげるから」

「えーっ! 録音するの……?」

「はい立って。お腹の上に手を置いて」

 

 急に始まるトレーニング。

 私もスマホの画面を見て、ざっと内容を確認する。

 

「早口言葉からやるよ」

「『あいうえお』からじゃないの? 腹式呼吸とか、顔のマッサージとか、舌のストレッチは?」

「いいから」

 

 基礎やろうよ、そこまで真剣じゃないからいいけど、慎重派の賛ちゃんにしては性急だ。

 ゴトッと音がしてスマホのボイレコが表示される。

 いざ自分がするとなると緊張するものだ。

 

「新人シャンソン歌手の、新春シャンソンショー」

「新人シャンショ──」

「やり直し」

「新人チャ」

「ゆっくりじゃダメ」

「賛ちゃんはスローじゃーん! ここにも書いてあるよ、ちゃんと言えるようになってからスピードアップだって」

 

 無言で首を振られてしまい、私は一通り読み上げることになってしまった。

 好きなのを三つ選んでいいと指導されて、有名どころ、私でも知っているフレーズをチョイスする。

 

「新人シャンションかちゅの新春チャンションショー、このタテガキにたって立て掛けたのは、タテたけかけたかったから……生麦生米生卵! 生麦生米生卵!」

 

 日本語のはずなのにとても難しい。

 文字は読めているのに舌が回らなくて何度も噛んだ。これだけでもうヘロヘロな私にクールに賛ちゃんが停止をタップする。

 

「最後は上手かった」

「ありがとぉ~……。私のために累ちゃんもこういうのも頑張ってくれてるんだね」

「愛されてる自覚があるならもっと真剣に向き合った方がいいよ。失ってからじゃ遅いでしょ」

「……累ちゃんがいなくなるなんて、あんまり考えたくないな」

「新染さんにそんな顔させたって知られたら、怒られそう」

「じゃあ、二人の秘密ね♡」

 

 内緒、と続けると途轍もなく冷たい目を向けられた。

 

「苦労が忍ばれるよね」

「えー?」

「後、そろそろ藍澤さんネタ切れだって言ってたよ。新染さんが言われたい台詞、提供したら?」

「んー……それもありっちゃありだけど、違うんだよね。累ちゃんが思ってる言葉で言ってほしい」

 

 ルイ様、ニアリーイコール、累ちゃんだから、累ちゃんの中から生まれてくるものがほしいのだ。

 

「悪女だね、新染さん」

「悪女!?」

 

 初めての称号に驚いてしまう。

 たまに小悪魔は聞くけど、更に酷い女になってしまった。

 

「ボイトレ、もう一回やろう」

「えぇ~!」

 

 そう言いながら私もちょっと悔しかったから、部活の時間いっぱい早口言葉を練習した。

 竹垣には立て掛けられなかったけど、シャンソンショーはまずまず友達。シャンソンって何か分からないけど仲よくなれた。

 

 そうして賛ちゃんと特訓をしていたら教室のドアが開く。

 メッセージをくれていた累ちゃんのお迎えだ。

 

「お待たせ」

「累ちゃーん!!」

「悪いね夏雲さん。ありがとう」

「どういたしまして」

 

 どちらも違う魅力の涼やかさで短く話している。垂れ耳うさぎのロップイヤーに似てるらしい私には出せない雰囲気だ。

 施錠をして帰るから「お先に」と促されて私達と累ちゃんは二人で下校する。駅までの道は少し長いけど、累ちゃんと二人なら気にならない。

 

「何やってたの?」

「早口言葉! 累ちゃんは?」

「あんたが喜びそうなこと」

「累ちゃ~ん♡ 今夜もいい?」

「今夜は……一人で録るから。送るけど」

「そっかぁ♡ 分かった♡」

 

 照れ照れボイスも可愛いね累ちゃん、好きだよ好き好き累ちゃん♡

 くっ付いていたくて腕を組むと嘆息されるけど気にしない。

 私達は、ラブラブなんだから。

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