ゴールデンウィークも終わって、中間テストも乗り切って、試験結果にズドンと落ちる。
点数を比べれば一目瞭然、私と幼なじみの
長期休暇中の3分の1以上出掛けていたのに、基礎学力っていうのかな、吸収力とか理解力のレベルが違う。
一緒に勉強したんだけど流石にここまでとは、という感じで私も反省した。
釣り合わないとか言われたくない!
言われてはないけど陰で思われてるかもしれないし、私はルイ様の特別だから、ルイ様に相応しい女にならなきゃだ。
累ちゃんが作ってくれたのはスタンプカード。
『自宅学習:○○分』という項目を勉強終わりに記入して、その晩か翌朝に家族か累ちゃんにスタンプを押してもらう。
これが地味に私に向いてる。子供っぽいけど、継続するには応援が必要。
誰もが毎日毎日積み重ねができるタイプじゃない。
今夜は気分的にお父さんに見てもらおうと思って、リビングで生物のノートを読み返して教科書の解説を追加している。
開始から10分ぐらい、丁度帰宅したお父さんは片手に小さな箱を持っていた。
「ただいま~」
「おかえりー。それ何?」
「
「今お風呂」
しっかり者だけど年子の妹の未羽はまだ中学3年生だ。
私も未羽もネット通販はコンビニ支払いできるところか、お父さんかお母さんにクレジットカード決済を頼んでいる。
スマホ用の電子ポイントチャージも毎月の制限があって、締め付けがキツいんじゃないかって友達に言われたことあるけど、そのくらいしないと……、私が課金しちゃうから重要だ。
その点未羽はお小遣い帳もちゃんと付けてるし、そういうところは反面教師にされている。
「何買ったんだろ」
「イヤホンだったよ」
「イヤホン? ふうん。未羽持ってるのにね」
ワイヤレスの結構いいのを購入していたのはいつだったかな。そう言えば私、片耳落としちゃったから有線のにしたんだよねえ。あんまり使わないけど。
夕飯を食べているお父さんと、お母さんも来て、3人でおしゃべり。
今年の夏休みも旅行はお祖母ちゃんの家だけだねえ、なんて話題で盛り上がっていると、眠たそうな妹がお風呂から上がってきた。
乾かしたセミロングの髪からハーバルシトラスの香りを漂わせていて、とっても眠そう。
体が温まると眠くなっちゃうとこ、すっごく可愛いと思ってる。だけどそれを言ったら拗ねてしまう。
「未羽、荷物届いてたよ」
「早い! ありがとうお父さん!」
目を輝かせた未羽は、早速梱包を開け始める。
フラット寄りでわくわくすることが少ない子の上機嫌に、お姉ちゃんもソファの隣に移った。
コンパクトな箱を取り出した未羽は、真っ黒のシンプルな有線イヤホンにニコニコしている。
「未羽のやつ壊れちゃったの?」
「これね、ASMR専用イヤホンなの。聴こえ方が違うんだって」
「ほへ~……。未羽、ハマったんだ」
受験勉強の休憩中や眠る時に波の音でリラックスしているそうだ。
未羽はそういうとこ賢い。私と違う。人それぞれ。
「お姉ちゃんも試してみる?」
「いいの? うん!」
ASMRと言えば、雨の音を頼んできた人からは翌日にお給料が届いた。即日の銀行振込で、お父さんに見せてもらった額に私はちょっと迷っている。お目当てのマイクよりいい物買えそうなのだ。
累ちゃんに相談してるけど、マイクの話題になると誤魔化されてしまう。
多分累ちゃん、内緒でマイク買っている。
きちんと整理整頓されている未羽の部屋。性格出るよね。
鏡が出しっぱなしじゃないテーブルの上に並ぶ、私のイヤホン、未羽の新イヤホン。
「そんなに違うのかな」
真っ黒くて細いコードをピロピロさせると、未羽は商品サイトの説明書きをもう1回確認している。
「レビューは結構よかったんだよ」
「いくらしたの?」
「2000円」
「ふうん。私のとそんなに変わらないんだ」
聴ければいいって感じだし、断線するから安いのを買っている。
私は幸運続きだけどイヤホンのコードとは縁が長続きしない。
「高いのは普通に1万超えるよ。累ちゃんが、音響周りは上見たら天井ないから、入門編から始めなさいって。お姉ちゃんにも高いマイク買わせないでって言ってた」
累ちゃんは未羽のこと可愛がってくれてる。私と対応に差があるけど。累ちゃんは私に厳しくて未羽には甘い。個人差があるから仕方ないところだ。
「お姉ちゃんのから貸してね」
未羽は動画サイトの3時間超えの波の音の動画を開いた。
充電用の穴に変換コードを挿して、まずは私の普通のイヤホンから試聴する。ごく普通のだからあっさりテスト終了。
未羽は期待のこもった目で引っこ抜いて、また挿して、驚きと興奮に顔を赤らめる。
「すごい、違う! なんかね、左右が違う! 揺れてるの!」
「そんなに? 未羽未羽、私も!」
キラキラの目でおろしたてのイヤホンを貸してくれる未羽。
お姉ちゃんもすっごく期待したんだけど、何だか、思ってたのと違った。
確かに波って感じだけど、揺れてるって感じじゃない。
ざぱぁんっていう音はするけど感動にはならない。
「私にはよく分かんないな……」
「違い、ない?」
「うーん」
一応自分のに差し替えてチェックしてみたけど、残念ながら大きな違いはない。
しゅんとしてしまうところはまだまだ中学生。
やや不満そうに唇を尖らせている未羽は、ふと私の顔をじっと見つめる。
「耳が育ってないのかも」
「耳? 耳は育たないでしょ?」
「音をいっぱい聴くと聴覚が発達するんだって。英語だってそうじゃん」
「ああ~。てことは、私も色々聴いてたら耳が育つってことか」
例えば累ちゃんの声を聴きまくったら、何か違いが分かるソムリエみたいになれるのかな。
累ちゃん、いい加減にちゅーの音くれないかな。
「お姉ちゃんはさー、私にもルイの声聴かせたがらないでしょ?」
「ルイ様」
「ルイ様の告白、絶対私も聴いちゃダメだって言う。それ、そろそろ意味、考えた方がいいよ」
「独占欲だって自覚はあるよ」
「──累ちゃんに恋人できても、そんな余裕な訳?」
「もしー、累ちゃんにー、彼氏ができても~、私を優先してくれるに決まってる! 愛されてる自信があります!」
私を好きって言う時睨むけど、りんご味でチュッってしたらあんなに狼狽えて動揺する。真っ赤になる。
累ちゃんとは相思相愛だし、2人の間に割り込もうとする人がいたとしても、選ばれるのは私。
学習机の引き出しにイヤホンのパッケージを仕舞った未羽は、自信満々なお姉ちゃんに白けている。
外では消極的な分、未羽ちゃん、身内への発言は尖っているのだ。
「私もあるよ自信。累ちゃんに可愛がってもらってる」
「未羽は特別だよ~、幼なじみだし」
「それに胡座掻かないようにね。盛大なしっぺ返し食らうよ」
眼鏡ケースを開けたということは、未羽は再び受験勉強の時間。
珍しい遠視だから、手元を見る時に掛けるのだ。
お暇する前に、これだけは言っておく。
「私、ちゃーんと累ちゃんが好きだよ。累ちゃんに似合う女の子になりたい。お姫様だって努力するよ!」
私以外の人が累ちゃんの恋人になるなんてあり得ない。優先順位は私が常に1等賞。まあ、私達が恋人になるのもあり得ないけど。
今の2人の関係が1番好き、1番落ち着く。
「あんまり無理しないんだよ、未羽」
「はぁい。おやすみ」
「おやすみ」
髪をヘアクリップでまとめる後ろ姿にヤレヤレして、さあて今日はまだ累ちゃんから音声が届かないぞとスマホの画面を点ける。
最近滞ってるけど、そんなに難しいのかな、キス。
5本買った色違いのスタンプ、お父さんはペンギン、お母さんはお花、未羽はネコ。累ちゃんの家のおじちゃんおばちゃん用には星を買ってて──最近、ハートが足りないよ?
ポヨン、と着信音が鳴る。
通知バーに累ちゃんからのメッセージ。
『今から行く。用意できた』
睨まれてる、不機嫌そう、不承不承でようやく累ちゃんがチューしてくれる♡
抜群のタイミングでくれるんだもん、累ちゃん好き好きしゅき♡
「やっぱり、私のこと好きだよね」
本人が言うから間違いないのだ。