Sanctum Fracture明日へ至る銃声   作:イズモ様 カワ(・∀・)イイ!!

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1話

死んで異世界転生!!なんていうのは今どきありふれたテンプレートであり…創作において間々あることである。転生したらスライムだったり無職が転生していたり、小説家になろうが火付け役となりそこから擦りに擦られた、そして近年まで数多の駄作と輝く名作を生み出してきた、最近ではゲームのアバターと能力を持った状態で異世界に転移──なんてのもよく見受けられる。

 

だがしかしそれが自分の身にそんなことが起こるなんて、想定している人は少ないだろう……していても思春期に卒業してるよね。かく言う僕もその一人であり、いまだにこの現状を受け入れられていないというのが本音である。

 

 

 

目を開けて、周りを見渡しても何も見えない、いやはや赤ちゃんって周りが見えないという事は本当らしい──いや、視界がぼやけているというより、“焦点”という概念が存在しない感じだ。

 ぼんやりとした光。白い天井。あとなんか、ふわふわした感触。

 ……ベッド?

 いや待て、赤ちゃんってことはつまり。

 僕、いま寝かされてる?

 

「──△△、▽▽……」

 

 誰かの声が聞こえる。

 女性の声だ。だが何を言っているのかさっぱりわからない。外国語とかそういう問題じゃない、音として認識できるのに意味として頭に入ってこない感じだ。

 赤ちゃん補正ってやつか? いやでも、生後数ヶ月でも言語くらい認識できるんじゃなかったっけ。知らんけど。

 

 とりあえず現状整理をしよう。

 僕はたぶん死んだ。

 そして赤ちゃんになった。

 しかも異世界っぽい。

 ……うん、終わりだね。

 

 いや、終わりではないか。始まりか? どちらにせよ人生設計は完全にリセットである。

 ローンとか無くてよかったぁ……いや、あった気もするな。スマホの分割払いとかどうなるんだろう。異世界転生した場合って支払い義務は消滅するんだろうか。法的に。

 

 そんな益体もないことを考えていると、不意に身体が持ち上げられた。

 

「ぅぇ」

 

 あっ、声出た。

 というか首っ!? 首ぐらぐらするんだけど!? 赤ちゃんってこんな脆弱生物だったの!? これ親御さん絶対プレッシャーやばいでしょ。ちょっとミスったら“終わる”感じある。

 

 抱き上げられたまま視界が揺れる。

 そのまま近付いてきた“顔”を見て、僕は一瞬だけ思考を止めた。

 

 ……天使だ。

 

 いや比喩とかじゃなく。

 本当に頭の上に輪っかが浮いてる。

 あと背中の辺りに光っぽい何かある。

 

 えっ。

 なにこれ。

 ガチ異世界?

 

「…………」

 

 女性は優しげな顔立ちだった。

 銀髪。透き通るような白い肌。どこか神秘的な雰囲気。

 そして何より──頭上に浮かぶ淡い光輪。

 

 いや待って待って待って。

 輪っか! 輪っかある!!

 

 夢とかじゃなく!?

 コスプレとかじゃなく!?

 というかこんな近未来技術みたいなホログラムを一般家庭で使うなよ! いや異世界なら一般家庭かどうかも知らんけど!

 

「ぁー……ぅー……」

 

 とりあえず混乱を誤魔化すように声を漏らす。

 すると女性は柔らかく微笑んだ。

 

「────♪」

 

 なんか喋ってる。

 優しい声色なのはわかる。

 あとなんとなく、“愛情”みたいな感覚が伝わってきた。

 

 ……ん?

 

 いや、伝わってきたってなんだ?

 

 言葉の意味は理解できない。

 でも感情だけが妙にはっきりわかる。

 安心とか、慈しみとか、そういうの。

 

 ……え、怖。

 

 いやいやいや。

 何そのファンタジー機能。

 共感能力的なやつ?

 サトラレ?

 

 まるで直接脳に感情を流し込まれてるみたいな──

 

「…………は?」

 

 そこまで考えた瞬間、ふと視界の端に“自分の手”が映り込んだ。

 小さい。ぷにぷに。

 そして。

 

 白い光の粒みたいなものが、指先でぱちぱち弾けていた。

 

 ……。

 

 …………。

 

「ぴぎゃああああああああああああああっ!!?」

 

 あ、泣いた。

 僕が

「ど、どうしたのこの子!?」

「急に泣き出したぞ!」

 

 うわぁすっごい慌ててる。

 知らんがな。こっちだって慌ててるわ。

 なんなんだよ光って。指先で“ぱちっ”って鳴ったぞ今。静電気みたいなノリで超常現象起こすな。

 

 というか、冷静に考えよう。

 まず天使がいる。

 僕もたぶん天使。

 感情共有っぽい能力がある。

 指先から謎の光が出る。

 

 ……RPGのチュートリアル開始直後みたいな情報量だな?

 

「ほらほら、大丈夫ですよー」

 

 女性――たぶん母親らしき人が僕をあやすように抱き直す。

 胸元に顔が埋まり、柔らかい匂いが鼻をくすぐった。

 甘いような、ミルクっぽい香り。

 あとなんか安心感が凄い。

 

 すると、不思議なことにさっきまで半狂乱だった頭が、少しずつ静まっていく。

 

 ……いやこれ絶対あれだ。

 さっきの感情共有みたいなやつだ。

 落ち着けーって感覚が直接伝わってきてる。

 

 便利だなこの機能。

 いや怖いなこの機能。

 

 プライバシーとかどうなってるんだろう。思春期終わってそういうの気になり始めた頃に「お前昨日えっちな事考えてただろ」って家族にバレたりしない?

 嫌すぎる。

 

「────」

 

 男性の声。

 そちらへ顔を向けると、今度は長身の男が立っていた。

 やっぱり頭に輪っか。

 あと腰に銃。

 

 ……銃?

 

 いや待て待て待て。

 天使が銃携帯してんの?

 もっとこう、杖とかじゃない?

 ハープとか吹かない?

 なんで武装が近代的なの?

 

 男は困ったように笑いながら、僕の頭を指でつついた。

 

 するとまた感情が流れ込んでくる。

 

 心配。

 困惑。

 でもそれ以上に――愛情。

 

 ……あー。

 

 なんだこれ。

 

 ズルいな。

 

 こんなの、わかっちゃうじゃん。

 自分が大事にされてるって。

 

 前世の記憶なんて曖昧で、死んだ実感すらまだ薄いのに。

 それでも、この人たちが僕を大切に思ってることだけは、変にリアルだった。

 

「…………」

 

 泣き止んだ僕を見て、二人がほっとした空気を漏らす。

 その感情すら伝わってきて、なんだかこっちまで安心してしまう。

 

 ……いや、でも。

 

 ここ本当にどこなんだ?

 

 天使。

 銃。

 感情共有。

 

 ファンタジーにしては文明レベル高そうだし、SFにしては宗教色が強い。

 少なくとも地球じゃない。

 

 ぼんやりとそんなことを考えていると、不意に男が壁際の棚から何かを取り出した。

 

 黒い金属質。

 細長いシルエット。

 

 そして見覚えのある形状。

 

「…………え?」

 

 拳銃だ。

 

 ガチの。

 

 しかも男は慣れた手つきでそれを分解し始めた。

 

 いやなんで育児室で銃メンテしてんの!?

 危なくない!?

 教育に悪いとかそういう次元じゃないんだけど!?

 

 カチ、カチ、と小気味いい音。

 手慣れている。

 軍人とか警察とか、そういう雰囲気だ。

 

 すると母親らしき女性が呆れたような顔をした。

 

「──────」

「────」

 

 軽いやり取り。

 意味はわからない。

 だがニュアンスだけはなんとなく伝わる。

 

 たぶん。

 

『この人の前で銃いじらないでください』

『いやでも慣れさせとかないと』

 

 みたいな会話してる。

 

 嫌だよそんな英才教育。

 

 すると男はふっと笑い、分解していた銃を持ち上げて――

 

 僕の方へ向けた。

 

「……………………は?」

 

 いやいやいやいや。

 待って。

 待って待って待って。

 

 何してんのこの人!?

 

 すると男は、悪戯っぽく笑って。

 

 ――引き金を引いた。

 

 

「ぴっ」

 

 乾いた音。

 反射的に目を瞑る。

 死ぬ!

 転生して数分で二度目の人生終了!?

 

 ……しかし。

 

「……あれ?」

 

 痛くない。

 恐る恐る目を開けると、銃口から小さな光の花みたいなものがふわふわ漂っていた。

 

 ……クラッカーかよ。

 

 いや紛らわしいわ!!

 

 僕が呆然としていると、男は満足げに笑った。

 母親は「もう……」みたいな雰囲気を出している。

 感情共有のせいでめちゃくちゃ伝わる。

 

 あ、これこの人。

 割とノリ軽いタイプだ。

 

 そして何より。

 

 この世界、“銃”がめちゃくちゃ身近だ。

 

 玩具みたいに扱うって意味じゃない。

 もっと文化レベルで根付いてる感じ。

 箸とかそういうレベルで生活に溶け込んでいる。

 

 ……なんか、嫌な予感してきたな。

 

 そんなことを考えていると、男が僕の額を指で軽くつつく。

 

 すると。

 

 パァン。

 

 頭の中に、弾けるみたいな感覚が走った。

 

「ぅぎゃっ!?」

 

 び、びっくりした……!

 なんだ今の!?

 

 だが次の瞬間、僕は違和感に気付く。

 

 ――音が、“理解できた”。

 

「……え?」

 

 いや、正確には。

 さっきまで意味不明な音の羅列だった二人の会話が、“なんとなく理解できる”ようになっていた。

 

「大袈裟すぎる」

「だって反応が面白くてな」

 

 ……えっ。

 日本語?

 いや違う。

 音はたぶん全然違う。

 なのに意味だけが頭に入ってくる。

 

 翻訳機!?

 脳内翻訳!?

 

 すると母親が、優しく僕の頬を撫でながら言った。

 

「この子、きっと賢い子になりますね」

 

 その言葉に、男は少しだけ誇らしげな感情を滲ませる。

 

「俺たちの子だからな」

 

 ……。

 

 …………あー。

 

 ダメだこれ。

 

 こんなの。

 

 好きになっちゃうじゃん。

 

 前世の親に不満があったわけじゃない。

 普通の家庭だったし、普通に愛されて育ったと思う。

 だけど。

 

 この世界の人たちって、感情が伝わるせいで“愛情を誤魔化せない”のだ。

 

 言葉じゃない。

 建前でもない。

 直接伝わってくる。

 

 だからわかってしまう。

 この二人が、本気で僕を愛してることを。

 

「────」

 

 母親が、僕の名前を呼ぶ。

 

 まだ聞き慣れない響き。

 けれど不思議と、その音が自分のものだと理解できた。

 

「ムミヤ」

 

 ……ムミヤ。

 

 それが、今の僕の名前らしい。

 

 なんかちょっと可愛い名前だな。

 女の子っぽくない?

 

 いやまあ赤ちゃんだからセーフか

「……ん?」

 

 男が窓の方を見る。

 母親も一瞬だけ視線を向けたが、次の瞬間には「ああ、またか」みたいな空気になった。

 

 ……またか?

 

 緊張感とかじゃない。

 もっとこう、日常的な何かに対する反応だ。

 

 すると数秒後、外から陽気な声が聞こえてきた。

 

「焼き立てだぞー! 今日のアップルパイは自信作だ!」

 

 ……。

 

 …………。

 

 パン屋の窯かーーーい!!

 

 いや紛らわしいわ!!

 爆発音みたいなの鳴らすなよ!

 心臓に悪いなこの世界!

 

 僕が内心で盛大にツッコんでいると、父親が苦笑した。

 

「隣の店主、またやったな」

「最近張り切ってますからねぇ」

 

 母親もくすくす笑っている。

 どうやら本当にただのパン屋らしい。

 

 ……いや、パン焼く音にしては物騒すぎない?

 

 そんなことを考えていると、ふわりと甘い香りが漂ってきた。

 

 リンゴ。

 バター。

 シナモンっぽい匂い。

 

 あっ、うまそう。

 

 赤ちゃんなのにわかる。

 これ絶対美味いやつだ。

 

「この子も匂いに反応してますよ」

「はは、将来は甘党かな」

 

 やめて。

 そんな微笑ましい空気で語らないで。

 僕いま普通にアップルパイ食べたくなってるから。

 

 しかし現実は無慈悲。

 僕の食事はたぶんミルクオンリーである。

 解散。

 

「でも、このくらいの子って甘い匂い好きなんでしたっけ?」

「どうだったかな……俺は詳しくない」

「ふふ、頼りないお父さんですね」

「勉強中なんだよ」

 

 二人の間に、柔らかい空気が流れる。

 

 ……なんだろうな、これ。

 

 凄く穏やかだ。

 

 前世でも家族団欒くらい経験してる筈なのに、不思議と違う感じがする。

 感情が伝わるせいだろうか。

 言葉以上に、“空気”そのものが伝わってくる。

 

 互いを大切に思ってる感じとか。

 一緒にいるのが当たり前みたいな安心感とか。

 

 そういうのが、じんわり頭に流れ込んでくるのだ。

 

 ……これ、思春期になったら絶対気まずいやつでは?

 

 両親のイチャイチャとか感情で伝わってきたら嫌なんだけど。

 

 僕がそんな将来の心配をしていると、不意に父親がこちらを覗き込んだ。

 

「そういえば、この子まだ一回も笑ってないな」

「生まれたばかりですからね?」

「いやでも、こう……あるだろ。親の顔見てにこーってするやつ」

「そんな都合よくいきません」

 

 父親は「むぅ」と少し不満げだ。

 可愛いかよ。

 

 すると彼は何を思ったのか、突然変顔を始めた。

 

 ……。

 

 …………。

 

 輪っか付きイケメンの変顔、破壊力高いな?

 

 真顔で見つめていると、父親はどんどんエスカレートしていく。

 頬を膨らませ。

 目を寄せ。

 謎の声まで出し始めた。

 

「ぶるるるるる」

 

 やめろ。

 何してんだアンタ。

 

 母親も笑いを堪えきれていない。

 

「あなた、怖がられてますよ」

「おかしいな……隊では子供人気あるんだが……」

 

 隊?

 

 ん? 今ちょっと気になる単語が聞こえたな。

 

 だが、それ以上に。

 

 必死にあやそうとしてくる父親の姿が、なんというか。

 

 面白すぎた。

 

「……ぷっ」

 

 あ。

 

 しまった。

 思わず笑った。

 

 一瞬、部屋が静まり返る。

 

 次の瞬間。

 

「笑った!!」

「ふふっ、本当ですね!」

 

 二人の感情が一気に明るく弾けた。

 

 喜び。

 感動。

 愛しさ。

 

 それが直接伝わってきて、胸の奥が妙にくすぐったくなる。

 

 ……あー。

 

 悪くないかもしれない。

 

 この二回目の人生

 

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