Sanctum Fracture明日へ至る銃声   作:イズモ様 カワ(・∀・)イイ!!

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2話

 

 転生してから幾千年……嘘です、二年も経ってません。

 いやだって、赤ちゃん期間ってマジで時間感覚バグるんだもん。寝て起きてミルク飲んでたら一日終わってるし、気付けば季節変わってるし。

 そんなジョークはさておき、この二年で僕は色々なことを知った。

 

 この世界のこと。

 自分たち“サンクタ”という種族のこと。

 頭の輪っかは正式には“光輪”と呼ばれること。

 感情共有みたいな現象は“共感”と呼ばれるサンクタ特有の性質だということ。

 そして、僕の住んでいるこの国が“ラテラーノ”という名前であること。

 

 ……うん。

 だいぶファンタジー寄りだと思ってたけど、実際には文明レベルかなり高い。

 車は走ってるし、通信機器もあるし、銃器なんて一般家庭レベルで浸透してる。

 ただそこに“光輪の浮いた天使っぽい人達”が混ざっているので、脳が混乱する。

 

 そして、その中でも一番驚いたこと。

 

 パパンの職業である。

 

 なんとパパン、小隊長らしい。

 

 いや、まず軍人だったことに驚きなんだけど。

 

 だってあの人、家だと変顔して僕を笑わせようとしてくるお茶目パパだよ? アップルパイを盗み食いしてママンに怒られてる人だよ?

 それが外では隊長やってるとか、ギャップが凄い。

 

 しかもただの隊長ではない。

 どうやらかなり優秀らしい。

 

「隊長殿は昔から射撃が化け物なんだ」

「動きながら十枚抜きしたとか聞いたぞ」

「いや十五枚だった筈だ」

 

 ……盛ってない?

 

 たまに家に遊びに来る部下の人達がそんな話をしているが、正直どこまで本当かわからない。

 しかし、ママンが否定しない辺り事実なのだろう。

 

 怖。

 

 なおママンも普通に強い。

 

 というかこの夫婦、休日に夫婦喧嘩代わりの模擬戦とか始める。

 なんで?

 

 最初見た時なんて、僕めちゃくちゃ泣いたからね。

 両親が銃向け合ってる! って。

 そしたら周囲みんな「あーまた始まった」みたいな反応だった。

 

 文化が違いすぎる。

 

 しかもサンクタ同士は共感があるせいで、“本気で殺意がない”と周囲に丸わかりなのだ。

 だから模擬戦も成立するらしい。

 

 便利だなその機能。

 いややっぱ怖いなその機能。

 

 あと、この二年でわかったことがもう一つある。

 

 パパンとママン、めちゃくちゃ僕を甘やかす。

 

 いやもう凄い。

 びっくりするくらい甘い。

 

 僕が「だっ!」って適当に指差しただけで、欲しい物だと思って持ってきてくれるし。

 ちょっと転びそうになっただけで二人とも飛んでくるし。

 夜泣きすると三十秒以内にどっちか現れるし。

 

 SPか?

 

 しかもサンクタの共感能力のせいで、感情が隠せない。

 

 つまり。

 

 

 

 

 

 

「うちの子かわいい」

「天才かもしれない」

「いま笑った」

「尊い」

 

 みたいな感情が、ダイレクトに流れ込んでくる。

 

 ……いや照れるんだけど。

 

 前世ではここまで全力で愛情向けられる経験、あんまりなかった気がする。

 もちろん愛されてなかった訳じゃない。

 ただ、ここまで“伝わる”ことはなかった。

 

 だからなのか。

 

 最近の僕はかなり調子に乗っていた。

 

 いやだって仕方ないじゃん。

 ちょっと笑っただけで二人とも幸せそうになるし。

 よちよち歩きに成功した日は、パパンが何故か部下の人達にまで報告していた。

 

「隊長、また親バカしてる……」

「昨日なんて二時間くらい語ってたぞ」

 

 やめて。

 その黒歴史を共有しないで。

 

 しかもママンもママンである。

 

「ムミヤは賢いですねぇ」

「もう文字に興味を持ってるんですよ?」

「この歳で銃の分解をじっと見てるんです」

 

 待って。

 最後ちょっと教育方針おかしくない?

 

 いや実際ちょっと興味はあるけど。

 男の子って銃とか剣とか好きだし。

 

 パパンが守護銃を整備している姿なんて、正直かなり格好良い。

 工具を扱う手つきも慣れていて、カチリカチリと金属音を鳴らしながら分解していく姿には妙なロマンがある。

 

 まあ二歳児が目を輝かせる対象として正しいかは知らないが。

 

 あと、この世界。

 甘味文化がやたら強い。

 

 サンクタは甘い物好きらしく、街を歩けばスイーツ系の店がやたら多い。

 ケーキ。

 クッキー。

 パイ。

 ドーナツ。

 

 そして。

 

 アップルパイ。

 

 あの爆発音パン屋の名物である。

 

 最近では、窯の音だけで「あっ今日は焼き上がったな」ってわかるようになってしまった。

 人は環境に適応する生き物である。

 

「ムミヤー!」

 

 窓の外から元気な声。

 見ると、例のパン屋のおじさんが笑顔で手を振っていた。

 

 なお僕は既に顔を覚えられている。

 

 というか近所中に知られてる。

 

 隊長夫妻の子供ということで、やたら可愛がられているのだ。

 

「おっ、今日は機嫌いいな!」

 

 そう言って差し出される小さな焼き菓子。

 もちろんまだ二歳児なので食べ過ぎは禁止だが、それでも少しは貰える。

 

 うまい。

 

 文明って素晴らしい。

 

 前世ではコンビニスイーツとか好きだったけど、この世界の焼き菓子もかなりレベル高い。

 というか素材が良いのか、妙に味が濃い。

 

「この子ほんと甘い物好きですねぇ」

「サンクタらしいな」

 

 にこにこしている両親。

 

 うーん。

 

 平和だ。

 

 異世界転生ってもっとこう、命懸けだったりするイメージあったんだけど。

 現状かなり幸福に暮らしている。

 

 まあ二歳児だから当然かもしれないけど。

 

 それに。

 

 なんだかんだ、この家は好きだった。

 

 パパンはちょっと大雑把だけど優しいし。

 ママンは穏やかでしっかり者だし。

 

 二人とも、僕を大事にしてくれる。

 

 だから最近の悩みと言えば。

 

 このまま甘やかされ続けたら、将来ダメ人間になるんじゃないか――くらいのものだった。

 まあ幼児だし、こんなもんよな。

 

 毎日食べて寝て遊んで、たまに文字を覚えたり街を散歩したり。

 前世で擦り減った社畜メンタルが「これでいいんだよ……」って浄化されていくのを感じる。

 

 ただ、一つだけ不満があるとすれば。

 

 パパンとママン、仕事で家を空ける期間が割と長いことだ。

 

 どうやら小隊単位で遠征任務に出ることがあるらしく、“カズデル”とかいう場所へ向かうことも多い。

 

 最初は国名だと思わなかった。

 だって響きがもう“魔王城”寄りなんだもん。

 

 しかし実際にはちゃんとした国家……いや、ちゃんとしてるかは怪しいが、とにかくそういう地域らしい。

 パパン達が話している限り、治安はあまりよろしくないようだ。

 

「今回は長引きそうだ」

「向こうも最近ピリついてますからね……」

 

 なんて会話を聞いた時は、幼児ながらに「あっこれ危ない仕事だ」って理解した。

 

 なお、そんな時の僕はシッターさん預かりになる。

 

 名前はリシアさん。

 優しい。

 めちゃくちゃ優しい。

 

 あと強い。

 

 なんでこの世界、子守役まで腰に銃下げてるんです?

 

 いやもう慣れてきたけど。

 慣れてきた自分が怖いけど。

 

「ムミヤくーん、お昼寝しましょうねー」

 

 ふわふわした声。

 柔らかい笑顔。

 

 なお抱っこが異様に上手い。

 

 なんかこう……“プロ”である。

 寝かし付け性能が高すぎる。

 気付いたら意識が落ちてる。

 

 あと歌が上手い。

 ラテラーノの子守歌なのだろうか、意味は完全には理解できないが、静かで心地良い旋律だった。

 

 ただ。

 

「……ぱぱ」

 

 ぽつりと零した言葉に、自分で少し驚いた。

 

 前世の記憶があるせいか、精神年齢はそこそこ高いつもりだった。

 だから幼児っぽく振る舞っていても、どこか客観視している部分があったのだ。

 

 でも。

 

 いないと寂しい、って感覚は。

 案外ちゃんと子供らしいらしい。

 

 リシアさんはそんな僕を見て、少しだけ困ったように笑った。

 

「隊長さん達、人気者ですからねぇ」

 

 そう言って頭を撫でてくれる。

 

 その感情からも、パパンとママンが慕われているのが伝わってきた。

 

 ……まあ、わかる。

 

 パパンは面倒見良いし。

 ママンは優しいし。

 

 あとなんだかんだ二人とも“安心感”があるのだ。

 

 だからだろうか。

 

 玄関の扉が開く音を聞く度、僕は反射的にそっちを見てしまう。

 

 帰ってきた?

 って。

 

 まあ大体違うんだけど。

 

 リシアさんだったり、近所の人だったり、荷物を届けに来た人だったり。

 その度にちょっとだけしょんぼりする。

 

 ……いや、幼児メンタル強くない?

 

 前世の僕こんなに親恋しがるタイプじゃなかったぞ。

 

 しかしある日。

 

 ガチャリ、と扉が開いた瞬間。

 

「ただいまー!」

 

 聞き慣れた声が響いた。

 

 次の瞬間、僕は自分でも驚く速度で玄関へ突撃していた。

 

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