学校関係者専用入り口の通路で緑谷と焦凍は向かい合っていた。
「轟さん、話って何?」
「…緑谷は知り合いに公安関係者がいるの?」
「…え?」
「心人と接点がないはずなのに急に親しくなったことがずっと気になってた。いくら人を惹きつけやすい心人でもそうすぐに親しくなることに不思議に思ってたから「ま…待ってよ轟さん!」‥‥‥」
「どうして、急に公安が出てくるの?」
焦凍の口から突然公安が出てきた事で戸惑う緑谷、焦凍は緑谷の様子から公安とは何の関係はないと察し、理由を話すべきか悩んだが、場合によってはオールマイトと共に味方に出来るかもしれないと考え話した。
「六年前、心人のお父さんの葬式が終えた翌日公安の人たちが突然やってきて『心人を引き取る』なんて言ってきたんだ」
「…え?」
「聞こえの良い言葉で色々言ってきたけど、あの時の目は個性の強さしか見てないヤツと同じ目をしてた」
「‥‥‥」
「その時は母さんと父さんがきっぱり断ってくれたけど、その頃から心人は個性訓練や呪文の練習なんかを必死にやるようになった」
「‥‥‥」
「理由を聞いたら『焦凍や炎司さんたちに迷惑をかけるわけにはいかない。強くなって自分に関わる問題は自分で解決するようになりたいし、焦凍の事も守れるようになりたいんだ』って言ったんだ」
「‥‥‥」
「その時から決めたんだ。いつまでも心人に守られる存在じゃなく、傍で頼られる存在になりたい。だから私もヒーローを目指すことにした…緑谷たちと違って馬鹿みたいだけど「轟さんは!」…」
「勘違いしてるよ」
「…勘違い?」
「うん!」
焦凍の話を聞いた緑谷は、体育祭まで特訓していた時の事を思い出していた。
「竜魔くんはメラ系呪文とヒャド系呪文に拘ってるけど、何か理由があるの?」
「え?うーん…」
「あ、ゴメン!言いにくい事なら…「違うぞ緑谷」え?」
「こいつは話したらまた惚気だと文句を言われるんじゃないか悩んどるだけじゃ」
「余計な事言わなくていい!」
「惚気?」
「まあ俺も緑谷さんの秘密を知っちゃったし、俺も教える方がいいか」
心人はそう言って上着と下着を脱ぎ、背中を緑谷に見せた。
「右肩に火傷の痕があるでしょう?」
「うん」
「これ、小さい時俺が焦凍を庇った時に出来た火傷なんだ」
「小さい時に?」
「うん。冷さん…焦凍のお母さんの手伝いをしたくて二人でやってた時、沸騰したやかんをポッドに入れようとして、やかんがひっくり返ったんだ。その時咄嗟に焦凍を庇ってこの火傷が出来た」
「えっ…」
小さい時ということは少なくとも小学生までの出来事であることだとすぐにわかったが、問題はその火傷の大きさである。火傷の大きさを見るからに顔の四分の一程の大きな火傷をそんな幼い時に負う事のつらさが緑谷には想像できなかったからだ。
「つらかった?」
「そりゃもちろん。あまりに痛くて気を失ってたみたい」
「…っ!」
「だけど気が付くと焦凍が隣にいて、ずっと冷やしてくれたんだって気付いた。あの時から氷は俺にとって特別なものになったんだ」
「それがヒャド系呪文に拘る理由?」
「うん。メラ系呪文に拘るのは炎司さんと燈矢さんに憧れてるのが理由。炎司さんは俺にとってもう一人の父親で燈矢さんは頼りになるお兄さんって思ってるから」
「‥‥‥」
「炎と氷は俺の人生に不可欠なものなんだ。炎は目標への道標、氷はその支え、だから個性訓練と並行してメラ系とヒャド系の訓練を今もしてる」
「そうなんだ…」
はっきりと炎と氷への特別と考える心人、夢や目標を具体的に定めている飯田や麗日とは違い、夢や目標に加えて特別と考えるものを明確する姿に緑谷は尊敬の眼差しを向ける。
そんな空気の中
「しかし、轟のヤツにそれを伝えなくて良いのか?お前、轟のことを…「わああー---!!」…ケッ!」
「えっ…」
「そういうのは俺の中で色々区切りがついたり、焦凍が隣に立つようになった時に言うつもりだよ…」
「何年先まで逃げる気じゃこのヘタレ」
「なんだと!そっちこそ外堀埋めるとかまわりくどい方法しか考えてないじゃん!この卑怯者!」
「ああん!?」
「ちょ…ちょっと二人ともストップ!」
危うく二人の喧嘩になりかけたところを止めに入った自分を称賛しながら、伝えても問題ない部分を焦凍に伝えた。
「竜魔くんは轟さんの事、守る対象じゃなくて自分の隣に立ってほしい人って思ってるよ!」
「…本当」
「うん!だから…少なくとも轟さんが言った心配していることはないと思う!」
「…そっか、ありがとう緑谷」
「!!ううん、どういたしまして!」
「あっ!焦凍!」
ようやく緑谷と焦凍を見つけた心人は焦凍の傍に駆け寄った。
「心人」
「探したよ!お昼一緒に食べようって約束したでしょう!早く行こう!」
「…うん!」
「緑谷くん、俺たち行っても良い?」
「あ、うん!僕も食堂に行くから!」
「それじゃあまたね!」
心人は焦凍を連れて、一度荷物を置いた教室に向かい、昼食を済ませに行った。
緑谷も急いで食堂へと向かって行った。
その頃スタジアム内で炎司とオールマイトが飲み物を飲みながら対面していた。
「私からのメッセージ、受け取ってくれたかな?」
「アレだけニュースでも取り上げているんだ。何度も見た」
オールマイトの言うメッセージ、それはヒーロー活動を控えると世間に公表したことであった。
平和の象徴オールマイトがヒーロー活動を控える理由は、教師となった以上生徒の一大事を守ることを優先しなければならないと記者会見で発表し、非常時以外は極力活動を控えるという事も記者会見の時にも伝えた。
世間では大騒ぎになる程のニュースであり、数日はそのニュースが大々的に扱われており、それを見ていた炎司はあの時の質問の答えなのだと理解した。
「ところで、噂をきいたんだけど…」
「なんだ?」
「君、公安と対立してるって聞いたけど、本当なの?」
「まあそうなるな」
「公安と何かあったの?」
「一言で言うと親としての対立だ」
「…そっか」
(本当に変わったな)
かつての炎司は自身を目の敵にしてどこか危険な雰囲気があったが、今の炎司からその雰囲気は消え、ヒーローとしてより父親としての雰囲気があった。
そして、昼休憩が終わると、会場で視線を集めるものがあった。
『どうしたA組!?』
それはA組女子全員がチアガールの衣装をしていたことである。
その光景に上鳴と峰田はお互いにサムズアップをしていたが、八百万は怒りでいっぱいだった。
「峰田さん上鳴さん!騙しましたね!」
それらを見た
峰田は身長故に体が宙に浮くが、二人は自身の頭を掴んでいる手から電気がスパークするような音は聞こえそれどころではなく、冷や汗を流していた。
「なんか企んでおると思っていたが、こんなクソくだらんをワシの目の前でやるとはな…覚悟は良いか?」
「ま…待ってくれ蒼月!話せばわかる!!」
「そうだぜ!オイラたちはお前の為と思ってだな!!」
「蒼月ちょっと待って」
「「竜魔!!」」
「しばくなら、上鳴くんは本戦が終わった後にすべきだよ。峰田くんを今しばくのは賛成だけど」
「「竜魔!!??」」
自分たちの差し伸べられた手がまさかの地獄への突き落とすものになると思っていなかったのか上鳴と峰田はさらに絶望する。
「分かっとる。上鳴あとで覚悟しとけ」
「ひっ…」
「葡萄言い残す言葉はあるか?」
「…クラス一とも言って良い緑谷の胸に…」
「おい獣野郎!俺も参加させろ!!」
「なんでお前まで来るんだよ!?」
「じゃあ三人でしばこう!!」
「ちょ、ちょっと待てよ!お前ら三人だとオイラ死んじま…」
A組男子の中でトップ3の攻撃力を誇る三人からのリンチを受けた峰田から断末魔の声が響くが、その場にいた全員はあまりにも恐ろしすぎる光景に関わるべきでないと判断して無視した。
そして峰田を徹底的にしばいた後、葉隠は虎人に、焦凍は心人に近づいてきた。
「虎ちゃんどう?似合う?」
「まあ、いつも喧しく動くお前にはピッタリじゃな」
「褒めてるの?貶してるの?」
「似合ってるって意味じゃよ」
「でしょう!」
「心人…その…」
「凄く似合ってるよ!」
「本当?」
「うん!けど早く着替えよ…」
「わかってる」
二組のやり取りに今度はその場にいた者たちから、関係を疑う者や嫉妬の視線が集まるが、心人と虎人が焦凍と葉隠の盾になるようにして動いて、焦凍と葉隠には気づかれないようにした。
そして最終種目であるトーナメントの組み合わせを行うためのクジ引きを行おうとしたその時、四位の心操チームで組んでいた庄田から驚きの発言が出た。
「すいません。僕辞退します」
庄田の辞退するという声に周りからざわめきが聞こえてくる。
「なんでだよ庄田!せっかく本戦に勝ち進んだのに!」
「わかってるよ鉄哲くん、だけど騎馬戦の記憶ほとんどぼんやりとしかないんだ」
「はあ!?どういうことだよ!」
「わからない。けど多分心操くんだと思う。チャンスの場だっていうのは分かってるしそれを不意にするなんて愚かな事だっていうのも分かってる」
「だったら…」
「だけど、皆が力を出し合って争ってきた場なんだ。それなのに何もしてない者が上がるのはこの体育祭の趣旨に相反するのはないだろうか?」
「庄田おめぇ…!」
庄田の主張には自身のプライド問題も含まれており、それを含めた上での辞退と知ると鉄哲はその心意気に感動して涙を流していた。
「なんか妙な事になっているが…」
「ここは主審ミッドナイトの采配がどうなるか…」
プレゼントマイクも今回は静かに状況を見ており、相澤は主審のミッドナイトの判断に任せる事にした。
『そういう青臭い話はさ…』
(多分…)
(アレじゃな…)
『好み!庄田の棄権を認めます!!』
(((好みで決めた)))
(香山さんらしい…)
(予想通りじゃな…)
『となると、一名の繰り上がり出場者は、騎馬戦五位の拳藤チームからになるけど…』
「そういう話で来るなら、騎馬戦でほぼ動けなかった私らより…アレだよな?」
「うん」
ミッドナイトの言葉に拳藤は庄田と同じ理由で自分たちより相応しいと思っているチームを指名した。
「最後まで頑張って上位キープしてた鉄哲チームじゃね?」
「あ?拳藤…」
「なれ合いとかじゃなくてさ、普通に」
「お…おめえら…」
拳藤からの言葉に鉄哲はとうとう雄叫びを上げ、鉄哲チームの話し合いの末鉄哲が繰り上がる事になった。
そして抽選による組が発表された。
その組み合わせを見て、上鳴が真っ先に浮かんだ感情は絶望である。
「嘘でしょ…」
「上鳴…殺す気かつ全力でいくから覚悟しとけ」
「イヤだー----!!まだ死にたくない!!!」
指を鳴らす虎人から殺意満点の笑みを見てしまった上鳴は現実を受け入れられず、ただ叫ぶ。それで組み合わせが変わるわけではないが。
一方八百万は緊張した表情をしていた。
「何かハンデはいる?」
「お、お心遣いありがとうございます。大丈夫です」
対戦相手である心人は八百万にハンデは必要か尋ねるが八百万はそれを断った。
そして、緑谷は自分の対戦相手の顔を思い出していると、
「あんただよな?緑谷出久って、一回戦よろしく」
「あっよろ「第一試合なんじゃからコンディション整えてきたらどうじゃ緑谷?お前さんも」わっ蒼月くん!」
「…やっぱりアンタは油断できないな」
「お前もな…
心操が虎人を睨んで離れると、緑谷は不思議そうに虎人を見た。
「蒼月くん、急にどうしたの?」
「…勝ちたいなら、ヤツとは一言も話さずに戦うべきじゃな」
「え?」
必要最低限の事しか伝えず虎人もどこかへ行く、一方焦凍はトーナメントを見てある名前が焦凍の闘志を燃やしていた。
(お互い勝ち続ければ、準決勝で蒼月とまた戦える…対人訓練の借りを返すいいチャンスだ)
一方心人は、スタジアム近くの木陰で瞑想をしていた。
しかし、頭の中は、トーナメントの事でいっぱいだった。
(順調に行けたとしても、おそらく準決勝で爆豪くんが来るはず…あの呪文を使うべきかも)
「トーナメントに勝つ算段は出来たのか?」
「蒼月…」
虎人に声をかけられた心人は、声をした上の方を見ると木の枝の上で横になっていた。
そして、心人は準決勝で焦凍とぶつかる可能性があった事を思い出し、虎人に忠告した。
「蒼月、もしまた焦凍を泣かせるような事をするなら、本気で相手をするよ」
「上等じゃ、お互いこの一ヶ月程の成果を知るには最高の舞台じゃ…その時は、ワシも本気で相手をしてやる」
心人から忠告を受け取った虎人は、別の木の枝に移動していき、時間になるまで仮眠をとる事にした。
トーナメント開始まで出場者は各々の目的に合わせて調整等を行っていった。