いよいよ決勝戦という大事な時に
「…絶対に優勝するよ父さん」
(焦凍のためにも…)
脳裏に過ったのは、準決勝敗北後に泣いた焦凍と最後に父と手を握った記憶であり、剣を鞘に納め、いつもの背中にではなく、腰に剣を携えた。
するとノックの音が聞こえてきた。
「どうぞ」
入室の許可を出し、入ってきたのは炎司であった。
「炎司さん!」
「いよいよ決勝戦だな」
「はい!」
「‥‥‥」
「‥‥‥あのう」
「心人くん」
「あ、はい!」
「なるべく怪我はしないようにするんだぞ」
「は、はい」
「決勝戦も、みんなで応援してるからな」
「ありがとうございます」
少しの会話をした後、控室から出ていく炎司を見送ると、心人は自分の右手を見た。
「『なるべく』か…参ったな」
炎司の言葉の意味を察して、困ったように言うがその顔には嬉しさが表れていた。
別の控室では、
しかし扉が開いた際に僅かに聞こえた音で意識は完全に目覚め、嗅ぎなれた匂いが近づいてくるため、その者の名を呼び動きを止めた。
「何の用じゃ透?」
「くぅ~!やっぱりダメか!」
目を開き後ろを振り向くと葉隠の体操服の袖の部分が虎人の頭に近づいており、さらに虎人の目にはその先にある手が覆いかぶそうとしている形をしている事で葉隠の目的を察した。
「お前な…ワシがお前のイタズラに引っかかったことがあるか?」
「今回はワンチャンいけると思ったんだよ!」
「たくっ…小さい頃からいつも言っておるじゃろ」
虎人は顔を葉隠の耳元に近づいて小さな声で囁いた。
「どこにいようと必ず見つけるってよ」
「っ!?」
「じゃあ行ってくる」
「う…うん…」
槍を持って控室から出ていった虎人を見送り、しばらくすると葉隠はその場でうずくまった。
「今のは反則だよ虎ちゃん…」
虎人が今の葉隠の顔を見れば、リンゴのように真っ赤になった顔をからかわれるとわかっており、その点を葉隠は起きないと思うと安心した。
登場口から最初に出てきたのは、虎人であった。
「あれ?あの子の持ってるあの槍どこかで…?」
「アレって…長飛丸の槍!?」
「嘘だろ!?」
「年齢から考えてあの子は長飛丸の孫じゃない?」
「長飛丸?」
「オールマイトより前のナンバー1ヒーローだよ!」
「マジで!?」
槍を持って現れた事で虎人の血縁が知られていくこの状況は虎人の狙いでもあった。
(さあ公安関係者…ワシの事をしっかりと見とけよ!)
師匠から公安に関する情報と心人と同じような過去を持つ虎人は公安にあまり良い感情を持っておらず、自身の実力をヒーローやマスメディアを通して知らせることで自身の現状を知らせる事が狙いであった虎人は、予想通りの流れになっていく状況に笑みを浮かべていた。
そして反対側の登場口から心人が剣を携えてやって来た。
「あの剣!」
「やっぱりあのバランの息子か…」
「道理でいい動きするわけだ」
「血は争えないな」
剣を持ってきた事で、気付いていた観客やプロヒーローは心人に注目する。この決勝で心人がどのように戦うのかという興味から来るものもいるが、嘗てのトップクラスのプロヒーローの息子という肩書きから注目が大半であった。
『雄英高校体育祭もいよいよラストバトル!1年の頂点がこの一戦で決まる!いわゆる…決勝戦!!ヒーロー科蒼月虎人!!バーサスヒーロー科竜魔心人!!』
プレゼントマイクの紹介でステージの熱気がピークを迎える中、虎人と心人の両者は既に武器を構えていた。
『今、スター…』
プレゼントマイクの開始の合図と完全に同時に動き、先手を打ったのは虎人であった。
右手で無造作に心人の心臓を目掛けて槍を突き出していた。
一方心人も虎人の槍が間合いに入ると同時に居合で槍の軌道を変えた。
『…トー-!!??』
流石のプレゼントマイクも二人の動きが目で追えていなかったのか、サングラスがずれていた。
そんなプレゼントマイクより驚いていたのは二人の幼馴染である焦凍と葉隠であった。
「虎ちゃんの槍を捌いた!?」
「心人が先手を取られた!?」
「幼馴染故の驚きやめてくれない!?恐ろしく感じる!!」
焦凍と葉隠の言葉にツッコんだ瀬呂に他のクラスメイトも同意するが、二人の日々の鍛錬を見ている者としては当たり前の反応であった。
「だって虎ちゃんの槍の稽古の動きって凄く速いんだよ!私全然目で追えないもん!」
「心人だって剣の稽古だけじゃなくて実戦形式の訓練をよくしてるけど、先手を取られたことなんてあんまりないよ」
(轟はともかく、何で葉隠は蒼月の稽古の事知ってんの?)
(これは是非とも聞きたい!)
A組の観客席で女子達の好奇心が葉隠に集中する中、試合は進んでいた。
虎人が連続で槍を放つが、心人はその攻撃を剣で捌いていくというシンプルな構造であるが、その速さと攻撃の凄まじさでプロヒーロー達は唖然としていた。
「何あの子達…」
「こわ…」
「流石トップクラスのヒーローの血を受け継ぐだけあるな」
「全然攻撃が見えない…」
一方当人たちは互いに相手の実力が上がっている事を実感していた。
(前より剣の守りが堅くなっとる。小手先の攻撃による突破は無理じゃのう)
(槍の狙いが以前より正確になってる。反撃に転じられない)
『そ、双方凄まじい攻防を繰り広げている!正直に言って正確に何が起きてるのかわからん!!』
『蒼月は急所を狙って放っているが、竜魔はその急所にくる攻撃を読んで槍を捌いてるんだろう。俺も正確な事はわからん』
実況もあまりに速い攻防に言葉を探しながら実況をすると、二人の攻防がピタリと止まり、お互いに構えを解いた。
「このままだと、日暮れまで続くな!」
「俺も同じ事思ってた。もうお互いに大技で決める?」
「賛成じゃ。大怪我負ったとしても治与ばあちゃんに治してもらえばいいからのう」
雄英高校体育祭におけるヒーロー科の目的はプロヒーローに“魅せる”ことであり、プロヒーローに必要不可欠な要素で最大のアピールと終わらせ方を二人は既に決めていた。
『お、おいアイツらまさか…』
『最大出力の大技で決める気だろう』
『セメントス!最大レベルの壁を展開する準備!!』
「わかってます!!」
起こるであろうその威力を彼らの師匠から事前に聞かせれていたセメントスは今まで以上に分厚い壁を展開する準備をする。
その頃、虎人は空を飛び彼の周りは近づけば吹き飛ばされると思えるほど凄まじい風で包まれ、片腕から雷が起こり始めていた。
心人は、剣を鞘に納め両手を合わせてその拳を上空にいる虎人に向ける。
「っ!?」
心人の体勢が自分の親友と全く同じであることに誰よりも先に気付いた炎司は思わず席から立ち上がった。
さらにラーハルト達も心人の体勢があるヒーローと重なり、炎司に遅れて立ち上がった。
「あの体勢は!?」
「あり得ない!あの子にアレはまだ使えないはずだ!」
「だがあの大勢は!」
「間違いない!」
「ああ!」
「‥‥‥剣人」
虎人は槍の矛先を心人に狙いを定める。
「いくぞ」
「こい!」
心人の答えに、急降下しつつ虎人の周りに全てを吹き飛ばさんとする風が虎人の体を包み隠しさらに雷が発生していた。
掠っただけでも重傷を負わせることが出来る凄まじい嵐と雷を纏った一撃を前に、心人は平然と握っていた拳を開いていく、その形はまるで竜の口が開くように見えた。
メラゾーマを越える呪文のメラガイアーを使っての凄まじい威力にまさに竜のブレスと思えるほどであり、嵐と雷の一撃と凄まじい火力の炎がぶつかり合う。
間一髪セメントスの壁がステージを覆うが、その壁は二人の必殺技の衝突の前にはいとも簡単に破壊され、凄まじい爆風が観客席に吹く。
「虎ちゃん!!」
「心人!!」
『何今の…?あの人どんな修業させてたんだよ…』
『あの人のことだから、死ななければ大丈夫って思ってえげつない修業させてたんだろう』
『それで火力調整がイカ気味だったのかよ…アイツら生きてるか?』
トップクラスのヒーローが出すほどの威力の必殺技同時のぶつかり合いにプレゼントマイクは冗談半分で双方の生死の心配をしながらステージの爆煙が晴れるのを待つ。
少しすると爆煙が晴れていきステージの状況が観客にも知られるようになる。
『ッ!?』
『こ、これは…』
ステージの状況にあのプレゼントマイクも言葉が詰まり静かになる。
ステージの上にいたのは虎人であったが、左腕と左足は黒焦げになっており意識を失っていた。
場外にいた心人は、右肩に虎人の槍が突き刺さっており、壁に貼り付けにされ意識を失っていた。
『りゅ、竜魔君場外!蒼月君戦闘不能!よって引き分け!!』
主審のミッドナイトの宣言と同時にタンカーを持った救護ロボットが素早い動きで二人を乗せ、保健室に運んでいく。
焦凍と葉隠もそれと同時に保健室に走っていった。
『まさか決勝戦は引き分け!リカバリーガールの判断次第では双方優勝という異例の結果となりうるが、これは文句のつけようがない!以上で全ての競技が終了!』
プレゼントマイクが締めの言葉によって雄英高校体育祭の本戦が終わりを告げる。
この試合は後に『無双竜虎の激突』と雄英高校で語り継がれるある関係の伝説の
「まったくアンタ達は!
「ごめんなさい治与おばあちゃん…」
「ふあぁ~」
保健室では焦凍は心人に、葉隠は虎人に抱きつき、リカバリーガールは心人と虎人に説教をし、心人は申し訳ない思いで縮こまり、虎人はあくびをした。
「なに大あくびしてんだい!アイツの修業の内容は大体想像がつくけど、一般人の基準も考えな!!見ていて寿命が縮んだと思える程だったよ!!」
「おっしゃる通りです。申し開きもありません…」
「けっ…」
リカバリーガールの説教に心人は真面目に受け取りますます縮こまっていく一方、虎人は完全に聞き流していた。
そんな虎人の態度に言いたげな者がリカバリーガールの他にもう一人おり、その者は虎人にとってもある意味天敵であった。
「と~ら~ちゃ~ん!」
「げっ!」
葉隠が恨めしい目で虎人を睨み、虎人もこれから起きる事に顔色が悪くなる。
「心人…」
「なんでしょうか焦凍さん!!」
焦凍も心人に言いたいことがあり葉隠と同じような目で睨み、心人はこれ以上焦凍の機嫌が損なわれないよう下手に出るしかなかった。結局リカバリーガールから戦闘再開の許可が下りるはずもなく、それから表彰式の時間になるまで心人と虎人は幼馴染からのお説教を受ける事となった。
『今年度雄英体育祭一年の全日程が終了。それではこれより表彰式に移ります!』
表彰式の時間になり、会場には表彰台が現れる。
そこにあったのは一位と三位の分しかなく、二位の分はなかった。
一位の台には心人と虎人が杖を使って立っており、三位の台には焦凍と
「うわあ…」
「何アレ…」
「竜魔が本当は全然本気じゃなかったからもっかい勝負しろって暴れたんだと。しっかしまあ、言い分は分かるわ」
爆豪が心人を睨みつけ、心人はそんな爆豪を見ないように記者達の方に視線を向けながら早く終わってほしいと願っていると、その願いはすぐに叶う事となる。
『それではメダル授与よ!今年メダルを贈呈するのはもちろんこの人!』
『『(我らがヒーローオールマイト!/私がメダルを持って来た!)』』
((被った…))
オールマイトの登場とミッドナイトの紹介が被り、会場は一瞬静寂となるが、すぐに賑やかに雰囲気となる。
ミッドナイトからメダルを受け取り、三位の二人にメダルの授与を始めた。
「轟少女、おめでとう」
「ありがとうございます」
「呪文が使えてたのは驚いたけど、個性と上手く合わせればもっと強くなれるよ」
「はい」
「爆豪少年…っとこれはあんまりだ」
爆豪の姿を気の毒と思い、オールマイトはせめてものと思い口枷を外す。
「経験値で負かされたが、君も決して竜魔少年に劣っていなかった。すぐに追いつくさ」
「オールマイト…」
「ん?」
「こんな結果…何の意味も価値もねえんだよ!世間が認めても自分がみとめなきゃゴミなんだよ!!」
(顔すげぇ…)
(どうやったらああなるだろう)
(最早芸じゃな)
怒り心頭と表情にまで現れている爆豪の顔にオールマイトは内心圧倒され、心人はどうなっているのか疑問に思い、虎人は芸の域だと心で称賛した。
「うむ!相対評価にさらされ続けるこの世界で、不変の絶対評価を持ち続けられる人間はそう多くない」
(顔すげぇ…)
出来るだけ宥めようとするオールマイトであったがプライドが高い爆豪には全く効果がなく、表情は全く変わっていなかった。
「このメダルは君の実力不足という傷として受け取っとけよ」
「いらねぇっつってんだろうが!」
「まあまあ」
「だからいらねぇって!」
「セイ!」
メダルの授与を拒み抵抗する爆豪にオールマイトは強引に口にメダルを引っ掛ける。
そして、一位の二人にメダルを授与をする。
「蒼月少年、君の槍の使い方まるで君のお爺さんを見ていたようだったよ」
「爺さんと知り合いじゃったのか?」
「ある人経由でね。見事だったよ」
「どうも…」
「竜魔少年、君の最後のあの構え、お父さん…バランと姿が重なったよ」
「そうですか?」
「うむ!今後もお父さんを越えられるように頑張るんだよ」
「はい!」
メダルの授与が終わり、観客からの拍手の中、オールマイトが締めの言葉を述べ始めた。
『さあ、今回の勝者は彼らだった!しかし皆さん、この場の誰にもここに立つ可能性はあった!ご覧いただいた通りだ!競い、高め合い、更に先へと昇っていくその姿!次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている!てな感じで最後に一言!皆さんご唱和ください、せーの…』
『『(お疲れ様でしたー!/Plus Ultra!)』』
『えー!?そこはPlus Ultraでしょうオールマイト!』
『あ、ああ…いや疲れたろうなと思って…』
「先生でもそんなミスしませんよ」
「寧ろ校訓の方を喜んで言うじゃろうな」
『ウグッ…!』
最後に最後でのオールマイトのやらかしに観客やその場にいた者たちからブーイングが飛んでくる。
こうして、どこか締まらずに終わった雄英高校体育祭。この体育祭によって近々行われる職場体験の指名に繋がるのであった。
とある小島にある豪邸。
そこの最新式の大型テレビの前にクッションを背もたれにする白髪の男が、録画された体育祭の映像のある人物の映像だけを何度も見てたい。
「‥‥‥」
リモコンを操作し巻き戻したり、ゆっくりと再生することを繰り返していくと、男は突然リモコンを破壊した。
「トシの奴…いらん気遣いしやがったな!」
破壊したリモコンを後ろに投げ、ゴミ箱に入れる。
そして男は立ち上がり、別室で眠っていたダークブルーとピンクが交じり合った
「
「‥‥‥なに…?」
「移動するぞ!」
「はあ!まだ一か月くらいしか経ってないぞ!」
「今すぐじゃねえ!準備が出来たらだ!」
男が筒美と呼んだ女性は『レディ・ナガン』という日本のプロヒーローであった。
そして、数日後二人の荷造りが終わり、男の目の前の空間にヒビが出来、まるでガラスが割れたような穴が開くと、二人はその先に入っていき、穴が開いた空間は二人が中に入ると一瞬で元の状態に戻った。