体育祭の翌日は振替休日となり、傷や疲労を養いさらに翌日の登校日はいつもより少々騒がしくなっていた。
「やっぱりテレビで中継されると違うねぇ!超声かけられたよ来る途中」
「ああ俺も!」
「俺なんか小学生にいきなりドンマイコールされたぜ」
「ドンマイ」
体の怪我や疲労が消えても心の傷は消えず、蛙吹のドンマイコールで最悪の記憶が蘇り瀬呂は頭を抱える。
しかし、それ以上に暗い男がいた。
「俺なんて色んな人から『瞬殺された人』って言われたんだけど…」
一回戦で
皆が雑談を続けていると、今年の一年の優勝者たちが教室に入ってきた。
「おはよう…」
「障子、すまんが頼みたいことがある」
「うん?ああ分かった」
いつもより疲れたような表情で教室に入ってきた
「一応確認するが期限は?」
「今日教室に入るまで」
「同じく」
「わかった」
障子はまず最初に
「ぐえっ!障子くんもう少し優しくして…それか焦凍手を放して…」
「‥‥‥」
障子の力で離されまいとさらに強い力で抵抗する焦凍。結果心人の腹部はきつく絞められ胃の中にあるものが逆流を起こしかけた。
流石にまずいと考え、焦凍と障子に懇願すると焦凍は分かってくれたのか手を放した。
「ぷはあ!あ…朝ごはん吐くかと思った…」
「障子、こっちも頼む」
「わかった」
次に障子は
「いててててて!!透もう教室に着いたんじゃから放せ!脱臼するわ!!」
「‥‥‥」
葉隠も虎人の主張を理解してくれたのか虎人の腕から離れる。
しかし、個性故に虎人にしか見えていなかったが葉隠の表情からまだ怒りは収まっていおらず、虎人以外それに気付いていなかった。
そして教室の扉が開き、相澤が姿を見せた。
「おはよう」
『おはようございます』
「相澤先生、もう包帯はしなくて大丈夫なんですか?」
「婆さんの処置が大げさなのとあの人から少し揉まれたから大丈夫だよ。んなもんより今日のヒーロー情報学ちょっと特別だぞ」
((((来た!))))
包帯がなくなった相澤からの言葉にクラス全員に緊張が走る。
(特別?小テストか?やめてくれよ~)
(ヒーロー関連の法律やらただでさえ苦手なのに…)
「コードネーム…ヒーロー名の考案だ」
『胸膨らむやつ来たー-!!』
一瞬でクラス全員のテンションが上がるが、相澤が睨むと一瞬で静かになった。
「というのも先日話したプロヒーローからのドラフト指名に関連してくる。指名が本格化するのは、経験を積み即戦力として判断される2,3年から、つまり今回1年のお前らに来た指名は将来性に対する興味に近い。卒業までにその興味がそがれたら一方的にキャンセルなんてことはよくある」
「大人は勝手だ」
「いい加減なヤツならそうじゃろうが、しっかりとしたヤツからならそうは言えんじゃろ」
「どっちにしろその指名が自身のハードルになるのは変わりないよ」
「竜魔の言う通りだ。で、その集計結果がこうだ」
相澤がリモコンを操作し、A組の指名件数が表示された。
轟 2061
爆豪 1713
飯田 151
緑谷 143
上鳴 136
八百万 54
切島 34
麗日 10
瀬呂 7
竜魔 6
蒼月 6
「例年はもっとバラけるんだが、今年はこうなった」
「見る目ないよねプロ」
「竜魔と蒼月がたったの6件!?」
「ダブル優勝者だったのに!?」
「あんなバトルしたんじゃビビッて呼べないって」
「知名度を求める有象無象に興味がない」
「俺も欲しい人の指名があればいいかな」
指名件数に他のクラスメイトが驚いていたが心人と虎人は全く気にしていなかった。
「この結果を踏まえ、指名の有無に関係なく、いわゆる職場体験ってのに行ってもらう」
「先生から聞いたのですが、職場体験でプロの仕事を実際に体験する事で実りある訓練をするという内容なのですが、そのためにヒーロー名をきめるんですか?」
「ああ、そのヒーロー名も、まだ仮ではあるが適当なもんは…」
「付けたら地獄を見ちゃうよ!」
「あっ…」
「げ!」
「学生時代に付けたヒーロー名が、世に認知されそのままプロ名になってる人多いからね!」
『ミッドナイト!』
「成程、ミッドナイト先生に査定してもらうんですね」
「相澤先生はそういうのは無理じゃろうし、プレゼントマイク先生より静かだから問題ないのう」
こうしてミッドナイトの査定のもと、ヒーロー名の考案が開始された。
ペンが進む者がいれば、なかなか決まらず悩む者もいた。
そしてしばらくすると、ミッドナイトからの言葉が出た。
「じゃあそろそろ、できた人から発表してね」
(発表形式かよ!)
(いや…これはなかなか度胸が…)
皆が難色を浮かべる中、青山が教壇に立ち、自分が考えたヒーロー名を発表した。
「いくよ…輝きヒーロー“I can not stop twinking”訳して“キラキラが止められないよ☆”」
(((短文!?)))
「ここは“I”を取って“Can't”にした方が呼びやすい」
「それねマドモワゼル」
「良いのかよ」
「青山君、英語かフランス語かはっきり決めた方がもっといいと思うけど…」
「確かにそれもいいけど、こっちの方が良いから!」
「そ、そっか~」
青山からの始まった発表でクラスの空気が微妙なモノとなり、次に発表する者が教壇に立った。
「じゃあ次は私ね!ヒーロー名“エイリアンクイーン”」
「
「ちぇ~」
(((バカ野郎!最初に変なの来たせいで、大喜利っぽい空気になったじゃねえか)))
青山に続いて芦戸の独特なヒーロー名の発表によって、他の者も発表する勇気が持てなくなってしまう。そんな空気の中、発表する
「小学生の頃から決めてたの。梅雨入りヒーロー“
「かわいい!親しみやすくていいわ!みんなから愛されるお手本のようなネーミングね」
蛙吹のヒーロー名に高く評価するミッドナイト。その様子からクラスの雰囲気が良くなり、遂には“フロッピー”コールが起こる。
(((ありがとうフロッピー、空気が変わった!)))
クラスメイト全員から空気が変わった事への感謝も起き、そこから連続して発表する者が現れ始めた。
「じゃあ俺も!剛健ヒーロー“
「“赤の狂騒”!これはあれね、漢気ヒーロー
ミッドナイトの予想は当たっており、切島は照れながらも肯定し説明をした。
「だいぶ古いけど、俺の目指すヒーロー像はクリムゾンそのものなんす」
(クリムゾンライオット…昔じいさんが言ってた暑苦しいがヒーローとして必要なモノを持っているって称賛してた奴だな)
「憧れの名を背負うってからには、相応の重圧がついて回るわよ」
「覚悟の上っす」
「だが、同じような仲間がいる事を理解しとけ」
虎人が切島を押しのけ教壇の上に立ち、ヒーロー名を発表した。
「獣僧ヒーロー“長飛丸”」
「蒼月君…」
「本来なら親父が継ぐはずだった名前をワシを継ぐだけじゃ、その名を汚さないよう努力はもちろん続ける」
「そう…」
虎人の覚悟を理解したミッドナイトはこれ以上何も言わず、席に戻した。
そして次に教壇の上に出てきたのは、心人であった。
「俺も蛙吹さんと同じで小学生の頃から決めてたんだ。竜騎士ヒーロー“ディーノ”」
「ディーノ?何か意味があるの?」
「父さんが生きてた頃、ヒーローになった時どんなヒーロー名が良いかって話になって、その時お互い色々考えて同じだったのがこの『ディーノ』なんです。だからこの名前は父さんとの思い出でもあり、初心を忘れず‥‥‥なんで泣いてるすかミッドナイト先生?」
「ごめんなさい…その手の話聞くの
「えっ!?なんで!?」
「早う席に戻れ。これ以上はめんどくさい」
心人の話を聞いたミッドナイトが泣いたことで動揺する心人であったが、虎人は心人が天然でやらかす事を知っており、今回もそれだと瞬時に判断し、心人に席に戻るように言った。
その後、クラスメイトは次々と考えたヒーロー名を発表し始めた。
「ヒアヒーロー“イヤホン=ジャック”」
「良いわね次!」
「触手ヒーロー“テンタコル”」
「触手の『
「テーピンヒーロー“セロファン”」
「分かりやすい!大切!」
「ピンキー!」
「桃色!桃肌!」
「スタンガンヒーロー“チャージズマ”」
「くう!しびれる~!」
「ステルスヒーロー“インビジブルガール”」
「いいじゃん!良いよ!さあさあ、どんどんいきまくりましょう!」
次々に出されるヒーロー名にミッドナイトは興奮する。そしてその興奮はさらに続いた。
「この名に恥じぬ行いを。万物ヒーロー“クリエティ”」
「クリエーティブ」
「属性ヒーロー“エレメントナー”」
「属性の『
「えっと…」
焦凍のヒーロー名の意味を好奇心で尋ねたミッドナイト。しかし、焦凍は顔を赤くし、目線をある人物に向ける。
ミッドナイトは焦凍の目線の先にいる人物を横目で見ると、全てを察し温かい目でサムズアップした。
「わかったわありがとう!そしてごちそうさま!」
「‥‥‥」
「?」
気を遣わせた事への申し訳なさと意味を知られた恥ずかしさで顔を赤くする焦凍の様子を当の本人は分かっておらず首をかしげた。
「漆黒ヒーロー“ツクヨミ”」
「夜の神様!」
「モギタテヒーロー“
「ポップ&キッチュ!」
「‥‥‥」
(ふれあいヒーロー“アニマ”)
「うん分かった」
「爆殺王」
「そういうのはやめた方が良いわね」
「何でだよ!?」
「ダッハッハッハッハッハッ!!ネーミングセンスが小学生だろう!!」
「笑い過ぎだ!クソ獣!!」
「じゃあ私も…」
虎人に爆笑され、怒鳴る爆豪。そのあと麗日が恥ずかしそうに教壇の上に立ち、ヒーロー名を発表した。
「考えてありました。“ウラビティ”」
「しゃれてる!」
「爆豪、アレも参考にせい」
「うるせぇ!」
ミッドナイトの良好な評価に安心する麗日。クラスメイトも拍手を送る。虎人はそんな中でも爆豪を煽り続けた。
そして授業時間がいよいよ残り僅かとなった。
「ヒーロー名。思ったよりずっとスムーズに進んでるじゃない。残ってるのは再考の爆豪君と飯田君、そして緑谷さんね」
ミッドナイトが未発表の二人と再考の爆豪の姿を確認してから少し経ち、飯田が教壇の上に立ち、ヒーロー名を発表した。
『天哉』
「あなたは名前ね」
「‥‥‥」
飯田の様子を心人は少し悲しい表情で見ていた。
次に緑谷が教壇の上に立ち、ヒーロー名を発表するとクラスメイトから心配の雰囲気が表れる。
「緑谷?」
「いいのそれで?」
「ミッドナイト先生の話を聞いた上での答えか?」
「うん、この呼び名今まで好きじゃなかったけど、ある人に意味を変えられて…私には結構な衝撃で…嬉しかったんだ…これが私のヒーロー名です」
緑谷にとってこの名は、今までは悪口として言われ続けた呼び名であったが、雄英に入学してからその印象は大きく変わり今では自身を強くする呼び名となり、堂々と“デク”と書かれたヒーロー名を発表する。
その様子を麗日は嬉しそうに笑い、心人と虎人は緑谷の思いを理解して笑みを浮かべる。
その爆豪が別のヒーロー名を発表するが、ミッドナイトに呆れながら却下された。
相澤から指名のあった者には個別にリストを渡し、指名がなかった者は雄英からあらかじめオファーした40か所の事務所のリストを配り、今週末までに提出するよう言い渡し授業は終了した。
そして昼休みになり、心人は焦凍たちと昼食をとらず、飯田を誘い、食堂で一緒に食べていた。
「ごめんね飯田くん、急に誘って」
「いや大丈夫だ」
心人は焦凍に作ってもらったお弁当を開け、飯田は注文した品を食べ始めた。
しばらく食べ続ける空間で、先に口を開いたのは心人であった。
「頭の中じゃ『ヒーロー殺し』でいっぱいなんだね」
「っ!?‥‥‥いきなり何を言っているんだ!?」
突然自身の図星を刺された飯田は箸を止める。そして箸と器をおいて誤魔化そうとする。しかし、心人には通じなかった。
「別に否定する気はないよ。君の気持ちはよくわかるから」
「俺の気持ち…?兄弟のいない君に何が…」
「俺にとっても尊敬できる兄のような人がいるからだよ」
「何…」
「焦凍のお兄さんのブルーライトは俺にとっても尊敬できるお兄さんだから、ニュース見た時の君の気持ちは分かる」
「‥‥‥」
心人の事情を体育祭で聞いたことを思い出した飯田は黙る。付き合いは短いが、心人がその手の嘘を言わないことは飯田は理解していた。
「止める気はないよ」
「え…」
「そのかわり忘れないで、君はなんでヒーローを目指すのか、ヒーローとして何をすべきなのかを」
自分を止めるために説得するのではないかと心の中で思っていた飯田は、予想外の心人の言葉に呆然となる。心人はそんな飯田を気にせず、弁当を食べ終え、食堂を出た。
それから午後の授業も終わり、心人は職場体験の希望事務所を出し、その内容に焦凍は頬を膨らませ、心人にそっぽを向いていた。
「ねえ焦凍…どうしたら機嫌治してもらえる?」
「ふん!」
「だって、あの希望先ならもっと目指すべき方向が定まると思って…」
「‥‥‥一緒に活動できると思ったのに…」
「だからゴメンって!!」
心人の職場体験の希望先が焦凍とは別の所になり、それが原因で焦凍は拗ねていた。その様子をすぐ傍でみていた虎人と葉隠は完全に心人と焦凍の様子に呆れていた。
「虎ちゃん、竜魔くんって天然なの?バカなの?」
「どっちもだと思うぜ…二日でシシャモの唐揚げ」
「じゃあ私は三日で鯖の味噌煮!」
((((何の話!?))))
虎人と葉隠は二人の状況が何日続くのか賭け、その結果で葉隠が泊りに来る際の夕食の献立を決める様子に他のクラスメイト気になったが全員今はそれどころではなく、聞く者はいなかった。
そしていよいよ職場体験当日になり、A組は駅で相澤に見送られることとなった。
「全員コスチューム持ったな?本来なら公共の場じゃ着用禁止の身だ。落としたりするなよ」
「はーい!」
「伸ばすな“はい”だ芦戸」
「はい…」
「くれぐれも体験先のヒーローに失礼のないように、じゃあ行け」
『はい!』
全員職場体験先の事務所のある場所に向かいバラバラに行動する。
緑谷は、遅れて指名してきたオールマイトの師匠であるグラントリノのもとへ向かうことなった。しかし、そこで出会うのはオールマイトの師匠だけだはなかったのをこの時の緑谷は予想もしていなかった。
人気のない裏道に突然空間にヒビが入る。そしてそのヒビが広がり、大きな穴が開くと白髪の男が姿を現し、それに続いてレディ・ナガンも現れる。
「ねえ、本当にアンタの探してる娘に会えるの?」
「間違いない
「もし違ったら?」
「公安脅して居場所を突き止める!」
「結局それかよ…」
「心配するな!
「逆らえないようにしてるだけだろ表の暴君」
「とりあえず行くぞ!」
「はあ…」
白髪の男とレディ・ナガンはグラントリノの事務所に向かって歩き始めた。