「焦凍、
「大丈夫」
「昨夜済ませておきましたし、先ほども確認したので問題ないと思います」
「そう、気を付けてね」
「はい」
「いってきます」
「いってらっしゃい」
轟冷に見送られ、心人と焦凍は今日から通う雄英高校に向けて余裕をもって家を出発した。
そして電車などを使って雄英高校に到着し、自分たちのクラスを確認した。
「あっ!俺A組だ」
「私も!」
「同じクラスだね!」
「うん、小学生以来だよね?」
「そうなるね…アレ?」
「どうしたの?」
「蒼月も同じクラスだ」
「蒼月って…修業仲間の?」
「うん」
「そう…」
「どうかした?」
「別に…」
不機嫌になる焦凍を気に掛ける心人であった。焦凍は唇を尖らせて自分のクラスに向かって行き、心人も急いで後を追いかけた。
そして、クラスに到着するとその扉の大きさに二人は首を上にあげて眺めていた。
「扉大きいね」
「バリアフリーでしょう」
焦凍が扉を開けると、早く来たこともあり、あまり人はいなかった。
「蒼月はまだ来てないみたいだね」
「他の人もまだ来てないみたい」
二人は自分たちの席に座り、荷物を置き、時間が来るまで雑談をしていた。
一方の虎人は、大あくびしながら雄英高校に向かっていた。
「ふあぁぁぁ~~…」
昨夜もギャングオルカ達がやって来ては、預かっていた物を返すという名目で家に来たため、睡眠不足になり、登校中にコンビニに寄りエナジードリンクを飲んでから来ており、心人たちより遅く登校していた。
そして雄英高校に到着し、自分のクラスを確認していると彼にとって聞き覚えのある声が彼を呼んだ。
「虎ちゃん?」
「うん?」
呼ばれた声がする後ろを振り向くと、周りの人が見れば、雄英女子生徒の制服が浮いているように見えるだろうが、彼の目には違って映っていた。
大きくて丸い瞳に長いまつげ、所々撥ねた癖の強い無造作の若草色の髪を少女の姿が、彼の目にははっきりと映っていた。
「透か?」
「やっぱり虎ちゃんだ!久しぶり!!」
虎人の幼なじみである葉隠透が彼に抱きつくと、虎人は葉隠を受け止めた。
「お前雄英合格してたのか!?」
「うん!虎ちゃんをびっくりさせたくて!」
「アレにお前が受かってる時点で十分驚いてるわい」
「何よ~!」
「お前何組なんだ?ワシはA組のようだが…」
「ちょっと待ってね~…あっ!私もA組だ!」
「じゃあ折角だし一緒に行くか?」
「うん!」
虎人と葉隠はクラスに着くまで、お互いの事を話し始めた。そうしていくとすぐにこれから自分たちが通うクラスに到着し、二人も扉の大きさに圧倒されていた。
「おっきーね!」
「そう“個性”のヤツ用の事を考慮してバリアフリーにしてるんだろう」
虎人が、特に気にせず扉を開けるとその光景に対して、これから来るかもしれない面倒くさい気配を感知した。
「机に足をかけるな!雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないのか!?」
「思わねえよ!」
「何アレ?」
「透頼むからアレに首突っ込むなよ」
「わかってるよ!」
真面目と不良を絵に描いたような二人の言い争いを見た虎人は、すぐ隣にいる葉隠にも忠告して自分の席に荷物を置く。
そして、先に来ていた生徒を見ていると心人がいることに気付き、心人も声をかけずに手を挙げるくらいの挨拶で済ませた。
そして、入試で注意されていたことで覚えていた緑色の髪の少年とショートの茶色の髪の少女がやって来てクラス全員が到着した。
そして最も入り口近いところの席である虎人は、廊下にいる人物の匂いを感知し、それが知り合いだったため、声をかけた。
「相澤さん、ここが学校だから良いけど、他の所だったら通報待ったなしじゃぞ」
「「「えっ?」」」
「相変わらずの嗅覚だな蒼月」
(((な、何かいる!)))
全員の視線が廊下にある物体に集まる。そしてその物体が起き上がった。
皆が不審な視線で見る中、心人の反応は異なっていた。
「相澤さんが担任なんですか!?」
(((知り合い!?そして担任!?))
「ああ、それと顔見知りだからってここでは先生と呼べ。蒼月もだぞ」
「あ!はい」
「おう」
「それじゃあ早速だが、
「本当に早速ですね」
寝袋から取り出した体操服を出して着替えてグラウンドに出るよう指示する相澤に対して心人はついツッコんでいた。
そして全員が体操服に着替えてグラウンドに出て相澤が言ったことは、
『『『個性把握テスト!?』』』
「入学式は?ガイダンスは?」
「ヒーローになるなら、そんな悠長な行事出る時間ないよ。雄英は自由な校風が売り文句、そしてそれは先生側もまたしかり」
(確かに…)
(あのクソ師匠の理不尽に比べれると納得しちまうな)
「お前たちも中学の頃からやってるだろ?“個性”使用禁止の体力テスト」
相澤が自身のデバイスを生徒全員に見せるように向けるとその画面には、体力テストの項目が表示されていた。
「実技入試成績のトップは竜魔だったな」
「はい」
「ちっ!」
「中学の時のソフトボール投げ、何メートルだった?」
「確か、100メートルだったような…」
「すごいな…」
「あの人の元で修業してたら嫌でも色々成長しますよ」
「じゃあ、個性を使ってやってみろ」
相澤がソフトボール投げ用のボールを、心人に投げ渡す。
「じゃあ、個性使ってやってみろ」
「アレの使用は?」
「別に構わないぞ、じゃないとコレをやる意味がない」
「ありがとうございます」
「円から出なきゃ何してもいい。思いっきりな」
「わかりました」
円の中に立ち軽くストレッチを心人は、個性を発動させると右手の甲に紋章が浮かび上がった。
「あの紋章は!?」
「フン!」
全力でボールを投げ、反対の左手にはエネルギーを凝縮させたような光の球体があり、それをボールに目掛けて放った。
イオラ!
心人の放ったはイオラはボールに命中し、さらに遠くへ吹き飛んだ。
「まずは自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」
『1500メートル』
相澤のデバイスに表示された心人の記録に虎人と焦凍を除いた全員から歓声が上がった。
「1500メートルって、一キロ以上かよ…」
「何これ、面白そう!」
「おい、何言ってやがる!!」
「個性思いっきり使えんだ!さすがヒーロー科!」
「面白そう…か」
((あっ…))
「ヒーローになるための3年間、そんな腹づもり過ごす気でいるのかい?」
((手遅れだ…))
相澤の様子を見た二人は、これから宣告されるであろう言葉が脳裏を過り、それは現実と化した。
「よし、8種目トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し、除籍処分としよう」
『『『はぁあああ!?』』』
「やっぱり…」
「まあでも生死をかけてないから大丈夫か」
「最下位除籍って…入学初日ですよ?いや、初日じゃなくても理不尽すぎる!」
「じゃあお前は自然災害や身勝手な
「え…いや、それは…」
「いつどこから来るか分からない厄災に比べたら、宣言されてから緊張感をもって臨めるから優しい方だよ」
「蒼月と竜魔の言う通り、そういうピンチを覆していくのがヒーロー。放課後マックで談笑したかったのならお生憎、これから三年間雄英は全力で君たちに苦難を与え続ける“更に向こうへ、PlusUltra”さ。全力で乗り越えてこい。蒼月も竜魔もぬるいって感じても手を抜くなよ?」
「はっ!上等じゃ」
「手を抜くなんて選択肢は、最初からありません!」
こうして、在籍を懸けた個性把握テストが開始背れた。
第一種目:50Ⅿ走
「ワシが竜魔より先かよ」
「よ、よろしく」
「あ?ああ、よろしく、ワシは蒼月虎人じゃ」
「う、麗日お茶子って言います…」
お互いに挨拶をすませ、麗日は服と靴に自身の“個性”で軽くし、蒼月は袖とズボンを捲り上げ、靴を脱ぐと、肌が露出した部分だけは“個性”で変身させ、それ以外の部分は肉体を強化し、スタートラインに構える。
『位置について、用意…』
計測マシンの指示が聞こえてくると、蒼月がまるで肉食動物の攻撃体勢に似た姿勢を構える。そして号砲がなると蒼月のいたスタートエリアが激しい土煙が上がった。
「うひゃあ!」
『0秒60』
あまりの威力麗日は吹き飛ばされ、先行していた蒼月本人はゴールラインから離れたところにおり、四肢の鋭い爪で急停止した跡が残っていた。
「すげぇ!一秒切ってる!!」
「お、俺より速い…だと…」
「直線だから全力で行けたんだよ。曲道とかじゃ激突するだけだから」
自信のあった種目で敗北したメガネの生徒、飯田はショックを受けるが心人は状況故だと励ました。麗日は吹き飛ばされたため、一人でもう一度行い、それを記録とした。
その後に心人の番になった。
「俺、瀬呂範太よろしく」
「俺は、竜魔心人」
こちらも軽い自己紹介を済ませ、スタートラインに構える。心人は既に“個性”を発動させ、そのエネルギーを下半身を中心に巡らせていた。
『位置について、用意…』
計測マシンの指示が聞こえてくると、心人は腰を上げる。そして号砲がなると虎人と同じような状況となった。
「どわあぁー---!」
『0秒55』
記録が発表させるとゴールラインから離れたところに心人はおり、片腕を地面にめり込ませてブレーキをかけたことがグラウントを見ただけわかる状態であった。
「また一秒切ってるよ!」
「ふ、二人に負けた…」
「直線だから全開で行けるんだよ」
「その前にグラウンド荒らすな」
吹き飛ばされた瀬呂は、一人で再び走り、それを記録とした。
第二種目:握力
虎人と心人は、先ほどの50Ⅿ走と同じように個性を使って測定器を握る。すると測定器から鈍い音が響いき、恐る恐る確認すると測定器が大きくゆがんで壊れていた。
「「あっ…」」
「やばぇぞアイツら壊した!」
「どんな力なんだよ!!」
「あ、相澤先生」
「…弁償とかは大丈夫だ。記録は測定不可、
『『無限が一度に二人出た!!』』
第三種目:立ち幅跳び
これも虎人と心人は、個性を発動させ空を飛んだ。
「お前ら、どれくらいそれが出来る?」
「体力切れになるまでです!」
「ワシも」
「…じゃあ∞で」
『『また無限が一度に二人出た!!』』
空を飛べるというアドバンテージによって他の生徒と大きく記録を突き放していく。
第四種目:反復横跳び
これは第一種目の50Ⅿ走から、個性を使わずに行った。
「蒼月どうだった?」
「200回は超えた。お前は?」
「俺も同じくらい」
「だろうな、個性を使ったら逆に時間をロスするからのう」
「だね」
『『いや十分スゲェよ!!!』』
まるでその記録に不満があるような言い方に、クラス全員がツッコんだ。
第五種目:ボール投げ
ボールを投げようとした虎人は必要な個所のみに“個性”を発動させ、ボールを投げた。
「まだまだ!風よ!!」
虎人の叫びと同時にとてつもなく強い風が吹き出し、ボールはさらに遠くに飛んで行った。
相澤のデバイスに表示された記録は、
『2036メートル』
「2キロ越え出たよ!」
「やばいってアイツら!」
次の二回目を投げる際に姿勢等を調整して、一回目と同じように投げ、表示された記録は、
『2503メートル』
「更に記録が伸びた!!」
次に心人の番になり、一回目と同じように“個性”を発動させて投げるが、その後の工程が違っていた。
投げようとした際、右手に先ほどとは違うエネルギーを溜めて放っていた。
ベギラマ!
空中に投げられてボールは一回目よりも高く上がり、最高点に狙いを定めて左手で溜めてたものを発動させた。
バギクロス!!
激しい突風ボールを更に吹き飛ばし、表示された記録は、一回目よりも遥かに伸びていた。
『4081メートル』
「4キロ越え!」
「エグいって!!」
その後、麗日が“個性”で記録無限をたたき出した。
そして次に緑色の髪の少年、緑谷の番になり、“個性”を使おうとした瞬間、相澤が自分の“個性”で緑谷の“個性”を消した。
「つくづくあの入試は合理性に欠くよ」
そこから相澤は、緑谷に対して厳しい言葉をかける。その内容を“個性”の都合上耳も良い虎人は聞いていた。
(あの相澤さんが“個性”を消したっていうから発動したら何かしら反動のあるもんだと思っていたが、自損するほどとはな。気の毒じゃが、それがアヤツのためか…)
虎人は、緑谷に対して同情はしたが、相澤の言い分が正しいという事と自分には何の関係がないため特に動こうとしなかった。
そして小声で自身の考えをまとめてから次に投げようとした時、生徒の中で動体視力が優れていた虎人と心人は気づいた。
緑谷がボールを投げようとした時、指先にだけ“個性”を発動させていたことに、
そして相澤のデバイスで表示された記録は、
『705.3メートル』
「先生、まだ…動けます!」
「こいつ…」
(相澤さんに言われた内容から答えを得たのか!?)
(内容は聞こえなかったけど、相澤さんが半端な事を言う筈がない。それなのにそれを乗り越えてあんな記録を出すなんて…)
((なんてヤツだ…))
他の生徒が感想を言っている中、緑谷の姿を見て、虎人と心人は現状クラス全員の中で最も注目すべき者という認識となった。相澤の人柄を理解しているこの二人にとっては当然の反応である。
「どういうことだ、こら、ワケを言えデクテメェ!!」
しかし緑谷の幼なじみである爆豪は、納得がいかず緑谷に詰め寄ろうとすると爆豪の後ろから布が伸び、そのまま爆豪を拘束した。
「んだ、この布は…
「相澤先生が使う【捕縛武器】だよ」
「炭素繊維に特殊合金の鋼線を編み込んであるから、並の力じゃ壊せねぇぞ。」
「説明どうも。ったく…何度も何度も個性使わすなよ。俺はドライアイなんだ」
(個性すごいのにもったいない!)
相澤のドライアイを知らなかった者達の心が一つになった瞬間である。この隙に心人が緑谷に近づき、負傷指に手を掲げた。
「次の種目までにある程度治すね」
「え?」
ホイミ
暖かい緑色のエネルギーが緑谷の指の怪我を少しずつ治していく。
「えっと名前は…」
「竜魔心人」
「りゅ、竜魔君は呪文が使えるんだね?」
「まあ、ある程度はね」
呪文、この超常社会において黎明期に発見された個性とは異なる特殊な力。適正があるのもにしか扱う事が出来ず、プロヒーローの中にも扱える者はいるが、そうそうにいない特別な力である。
次の種目開始まで心人は緑谷の手当てに集中した。
第六種目:上体起こし
この種目も二人は個性を使わずに好成績を記録した。
第七種目:長座体前屈
この種目も二人は個性を使わず好成績だったが、使わなかった他の種目に比べるとやや劣る程だった。
大八種目:持久走
これの種目は、二人は“個性”で空を飛んで、他とは圧倒的な差をつけて終わらせた。
こうして全種目を終え、結果が発表され、心人は一位、虎人は二位であった。
「ちなみに除籍はウソな」
『‥‥‥』
「君らの最大限を引き出す合理的虚偽」
「「「はー-----!?」」」
「あんなのウソに決まってるじゃない…ちょっと「全部がウソではないぞ」…え?」
相澤の事を知っている二人はポニーテールの女子、八百万の言葉を遮った。
「あの人はさっき見込みなしとみなして除籍処分と言ってたよね?」
「つまり見込みがなければ順位なんて関係なく除籍にしておった」
「そんなはずは…」
「去年、あの人はその時の一年生一クラス全員を除籍処分にしておる」
『『『っ!?』』』
「まあ、精進していけば大丈夫だから!」
心人が、精進することを怠れなければよいと皆を安心させようとしたが、先ほどの会話で全員安心というより緩んでいた気持ちが締まったため、全員の心に校訓が既にしっかりと宿っていた。