まのさば一般ネタ思いつき短編集 作:匿名希望
私こと名探偵橘シェリーちゃんは、優しい養父母と私のことを「妖精さん」と呼んでくれる友達に囲まれた楽しい日々を送っていました。
だけど、ある日突然【牢屋敷】という謎の孤島にある施設に拉致されてしまいました。しかも、何れ世界に害をもたらす【魔女候補】として集められた十二人の少女達と一緒に。
もちろん、この私も例外ではありません。なにせ、私は小さな頃に一人の人間の命を奪ってしまった【
いや、むしろそういう意味では、私以外の少女達はまだまだ人間の範疇と言えるでしょう。その末路がどうなるかは置いておくとして。
ですが、現状でもう既に五人も犠牲者は出ています。一番初めに、【看守】さんに突撃して死んでしまった二階堂ヒロさん。
【魔女因子】の殺意に狂わされてしまった蓮見レイアさんと夏目アンアンさん。その彼女達によって殺されてしまった被害者である、城ヶ崎ノアさんと佐伯ミリアさん。
特にレイアさんとアンアンの末路は悲惨なもので、自らの禁忌を抉られ、魔法を皮肉られるような処刑を受けた上で、【なれはて】として永久の牢獄に囚われることになってしまいました。
人間として死ぬこともできずに。流石の私でもドン引きです。……まあ、人の心が
しかし、いくら私が大丈夫だとしても、他の少女達は違います。
この牢屋敷の運営側の一人――いえ、一匹である【ゴクチョー】さんが言っていた【ストレスによって魔女化が進行する】という事実。
自由のない監禁生活。閉鎖空間で起きる殺人事件。その犯人を炙り出して、自分達で処刑台に送り出さなければならない【魔女裁判】。
ストレスが否が応でも溜まらないはずがありません。何かしらの手段で、ストレスを少しでも解消することは必須でした。
私らしくもない焦燥感が、作り物の笑顔の裏で蠢いていました。
■
二回目の【魔女裁判】が終わって、しばらく経った頃。私を含めた一部の少女達――桜羽エマさん、遠野ハンナさん、氷上メルルさんの四人で、ピクニックをやることが決まりました!
ストレス発散や気分転換の為にということで、普段はあまり自分の意見を言おうとしないメルルさんが提案してくれたものです。
これで、少なくとも牢屋敷できた私の友達が、【魔女】になるまでの時間は延びた。そう思いたいです。
他にも、私達以外の少女達に仲良しグループであることを見せつけるという目的もなくはないですが、純粋に今回のピクニックが待ち遠しくて仕方ありません。
ここに来る前は、友達とそういうことをすることはないに等しかったので。
エマさんが体調を崩して延期するというハプニングがあったものの、無事に私達の誰一人も欠けることなくピクニックを行うことができました。いやー、良かったです。
この牢屋敷では、一体何が起きても不思議ではありませんからね。勘違いをしたまま、友達を殺してしまう。そんな後味が悪い事件があったばかりなので、私は余計にそう思います。
待ちに待ったピクニック。澄み渡る青空に、かつての囚人達の誰かが残した魔法による産物であろう消えない虹。メルルさんが用意してくれた素敵なお弁当。ハンナさんと二人っきりの箒での遊覧飛行。
その一瞬、一瞬の積み重ね全てが最高の時間でした。私の人生の中で、一番大切な
ハンナさんの魔法【浮遊】によって操作された箒で、念願の魔女ごっこを満喫している最中に、私はとある【違和感】に気づいてしまいました。
私が知っているハンナさんの魔法は、自分の体を一分間持ち上げるのが精々のはず。だというのに、その時のハンナさんは自分の体だけではなく、私と箒一本分の重さをそれなりの高さと時間を持ち上げた状態での飛行を可能にしていました。
明らかに魔法の力が強くなっています。……つまり、それが意味することは――。
私は自分の体の震えを誤魔化すように、背後からハンナの前側に回した両手に力を込めて、体を押しつけます。もちろん、私の魔法【怪力】でハンナさんの華奢な体を傷つけたりしないように、力加減をした上でね。
そして、いつものように脳天気そうな笑顔と声でハンナさんに尋ねました。どうか裁判の時みたいに、私の考えとまるっきり違う答えを求めて。
「ねえ、ハンナさん。以前はこんなにも高く飛べてましたっけ?」
「……っ!? そ、それは……」
ハンナさんの肩がびくりと僅かに震えました。それを隠すように、ハンナさんは言い淀みますが、密着している私にはバレバレです。
それをすぐに理解したのか、ハンナさんは観念し、ぽつりぽつりと語り始めました。名探偵であるはずの私にとって、嬉しくもない答え合わせが始まってしまいました。
「……はい、シェリーさんの言う通りです。わたくしの魔法では、ここまでのことはできませんでしたわ。……多分ですが、【魔女化】が進んでいるのでしょうね。このままだと時間の問題だと思いますわ」
まるで己の罪を告白するようなハンナさんの声色に、浮かべた笑顔が真顔になってしまいます。一瞬不味いと思いましたが、体勢的に私の顔がハンナさんに見られることはありません。
そのことに気づいた私は、ゆっくりと表情筋を操作して【妖精さん】に相応しい笑みを作る。エマさんやメルルさんも今は傍にいないので、その必要はないというのに。
そんな私の葛藤を知らずに、ハンナさんも言い辛そうに言葉を続ける。しかし、その内容は私の想像の斜め上を行きました。
「……ですが、私【魔女】になりたくない。この牢屋敷の流れに組み込まれたくないんですの。……ですから、シェリーさん。貴女に一つだけお願いがあります。
大変に身勝手なことと存じていますが、わたくしが【魔女】となる前に、わたくしのことを殺して頂けませんか?」
「えー、ハンナさん。それをしたら、私が処刑されちゃうじゃないですか」
「……心の優しいエマさんやメルルさんではなく、シェリーさんだからこそ、頼めることなんです。貴女は名探偵なんでしょう? 完全犯罪ぐらい余裕でしょう。……絶対に死なないでくださいまし」
「その言い方だと、まるで私に人の心がないみたいじゃないですか。酷いですー」
「べ、別にそういう訳では……もう、あまり耳元で騒がしくしないでくださいっ!? ただでさえシェリーさんのせいで、集中力がいるというのに……っ!?」
私は形容し難いモヤモヤとしたモノを直視したくなくて、わざと茶化ように軽口を吐く。その目論みはどうやら成功したようで、ハンナさんは魔法の制御を誤り、浮力を喪失。二人仲良く揃って、落下することになりました。
空中で何とか体を動かして、私がハンナさんの下敷きになれるようにしました。痛みを感じづらい私と違って、ハンナさんでは落ちた衝撃で死にはしなくても、大怪我をしてしまう可能性がありますから。
ハンナさんの体を両手で抱きしめて、落下の衝撃に備える。目を閉じて、痛みに備える。いくら痛覚が鈍いと言っても、機能していない訳ではありません。
痛いものは痛いのです。死ななければ、【治癒】の魔法を持つメルルさんが近くにはいるので問題はないですけど。
そんなことを考えている内に、私の体が地面に打ちつけられます。体に痛みが走りますが、思ったよりも軽かったです。下が芝生だったからでしょうか。
そうこうしていると、両腕の中からハンナさんが目を開いて驚きの声を上げていた。
「うう……あれ? 痛くないですわ……って、シェリーさん!? 大丈夫ですのっ!?」
「あははっ、私は大丈夫ですよ! ハンナさん……少しだけ体は痛みますけど。それこそ、ハンナさんの方は怪我はないですか?」
「わたくしはシェリーさんのお陰で大丈夫ですが、それでは貴女が……今すぐにメルルさんを呼んできますので、ちょっとお待ちくださいまし!」
そう言って、慌ててハンナさんはメルルさん達を呼びに行ってくれました。さんさんと降り注ぐ太陽の光とベッド代わりの芝生の上で、日光浴に勤しみつつ、私はとある【決心】をしました。
……先ほどのハンナさんの頼みを叶えてあげることを。
本音を言えば、ハンナさんにはいなくなってほしくはないが、だからと言って私のエゴで【魔女化】したハンナさんを見たい訳ではないです。
だったら、【友達】として最期の頼みを叶えてあげることぐらいしか、私にはできそうにありません。
ハンナさんを私が手にかけて、その証拠を隠滅し、完全犯罪を実現させるという願いを。
しかし、そこで私は一つの【矛盾】を自覚してしまいました。いくら私が完全犯罪を成功させたとしても、【魔女裁判】の結果次第では、エマさんかメルルさんが【魔女】として処刑されてしまう恐れがあります。
そうでなくとしても、誰か一人は【魔女】として生贄に差し出さなければなりません。
ハンナさんも、そんなことは望んでいないでしょう。
名探偵である私の頭脳を以てしても、この【矛盾】をそう簡単に解くことはできそうにありません。
「「シェリーちゃん(さん)っ!?」」
思考の迷宮に囚われかかった私を救ってくれたのは、エマさんやメルルさんの私を呼ぶ声でした。お二人の顔は、先ほどまでの笑顔ではなく、私の心配をした悲痛な表情が浮かんでいました。
いけません、いけません。【友達】に余計な心労をかけるのは、良くないですから。たとえ、どんな場面であったとしても。
「はいはーい、私は大丈夫ですよ」
「シェリーさん、貴女はまだそんなことを言って……! メルルさん、お願いしますわ」
「は、はい……! もちろんです!」
私に駆け寄ってきたメルルさんが、私の体に両手をかざす。メルルさんの掌の先から淡い光が放たれて、私の全身を包み込む。
メルルさんの【治癒】の魔法です。いやー、メルルさん様々です。
優しい温もりを身を任している私の顔を覗き込んで、今度はエマさんからお小言を頂いてしまいました。
「もう……あんまり危ないことはしないでよ? シェリーちゃん」
「了解です! メルルさんも、ありがとうございます!」
「いえいえ……この程度、友達として当たり前ですから。気にしないでください」
メルルさんが儚げながらも、にっこりと微笑む。それに釣られて、私達も笑ってしまいました。
――ああ、こんな時間がずっと続いてほしい。
そう願う私は、果たして傲慢でしょうか?
私の良い気分の裏で、ハンナさんの【頼みごと】が脳裏をちらつきます。さらに私を追い込むように、メルルさんの【本音】が語られる。
「家族に会いたい、会いたいよ……」
普段おどおどはしつつも、決して自分のことでは涙を流さないメルルさんが泣きながら口にした【本音】。
ハンナさんだけではなく、メルルさん。学校では虐められた過去を持ち、孤独であることを恐れ気味なエマさんも、きっと限界なのでしょう。順番までは分かりませんが、私の【友達】は全員何れ【魔女】になってしまうと。そう確信しました。
この【難題】を前にして、私の天才的な頭脳は再び迷宮に――いえ、より深い奈落へと囚われてしまいました。