「誰かのお参り? あ、それとも例の噂に興味があるのかな?」
振り返ると、そこには一人の女性が立っていた。
鹿撃ち帽にコートを羽織ったその見た目はアニメや本に出てくる探偵という感じだ。
それがコスプレなのか、本物なのかはわからないが。
年齢としては20代前半くらいだろうか。
「っと、自己紹介がまだだったね。私は
「見ての通りって、今どきそんな格好の探偵もいないと思いますけど⋯⋯」
「それはほら、何事もまずは形からって言うだろう? ほらほら、どう見ても探偵だ」
「寧ろ露骨な見た目すぎて逆に信じられないですけどね。張り込みとか向かなさそうですし」
「その時はもちろん、それに相応しい格好に着替えるさ」
望はそう言いながら名刺を取り出して友也へと差し出した。
そこに書かれてあったのは『御巫探偵事務所』という文字。
どうやら、探偵というのは本当のことのようだ。
しかも、名刺に『所長』と書かれてあるし、苗字からしてもその事務所のトップに立つ人物だ。
「これで信じてもらえたかい? あ、所長と書いているのは気にしないでくれ。こんな肩書をしているがただここで働いているのが私一人だけ、というだけの話だからね」
それはそれで友也にとっては驚きの話だ。
つまりそれは、この望という人物がこの若さにして一人で仕事を回しているということに他ならないからだ。
『御巫探偵事務所』という名前からして、探偵事務所を立ち上げたのもこの人か、若しくは身内の誰かなのだろう。
「それで、その探偵さんが何の用ですか? 僕は少し急ぎの用があるんですが」
「まぁまぁ、そんな焦らない。友人を探しに行くなら情報はあったほうがいいのではないかい? ここの噂の件、それからぬいぐるみの件」
ぬいぐるみの件という言葉に友也はぴくりと反応した。
この人の前でぬいぐるみの話はしていない。
恐らく、先ほどの独り言を聞かれていたのだろう。
「知っているんですか。ぬいぐるみのこと、それと隼人の居場所」
「友人の居場所については残念ながら私にも分からない。だが、前者についてはある程度答えられるよ。でも先に、君の話を聞かせてほしい。君の友人に何があったか、知っていれば私も力になれることがあるかもしれない」
「どうしてそこまでしようとしてくれるんですか? それにお金は払えませんよ?」
確かに、友也にとって魅力的な提案だ。
ただでさえほとんどないと言える程に少ない隼人についての情報を提供してくれるというのだから。
だが、それ以上に理解できない。
友也は、探偵としてこの人物を雇った記憶はない。
そもそも、一人暮らしの友也に雇えるほどにお金の余裕はない。
望の口ぶりからしてお金は払わなくてもいいと言ってると捉えることもできる。
しかし、それならそれで理解できない。
友也にとって探偵というのはふわっとしたイメージでしかないが、依頼人から依頼を受けて張り込みしたり調べたりして情報を集めることで対価を得られる仕事だと認識している。
この場で初めて会った相手なのだから特別に無償でなんてしてくれるような間柄でもないし、隼人のことを話したところでこの探偵にメリットがあるとも思えない。
だが、友也のそんな疑問の答えはすぐに返ってきた。
「お金はいらない。私もこの墓の噂について調べていてね、こちらとしても少しでも情報が欲しいんだ。この墓にいること、そしてぬいぐるみについて呟いていたこと、無関係ではないはずだよ」
なるほど、と友也は心の中で呟いた。
それなら納得だ。
つまりこの探偵は、情報の対価として情報を求めている。
友也は隼人の居場所とぬいぐるみの行方を捜しているが、それが例の噂と関係していて、その噂をこの探偵が調べているなら隼人のことを話すことがそのまま情報という対価になる。
素人の友也なりの推理だが、恐らくこういうことなのだろうか。
友也は少し考えて望を信じてみることにした。
まだ完全に信用したわけではないが、隼人がいなくなったことに例の噂が関係しているのであれば、その噂について調べている望は友也の知らない情報を多く知ってる可能性が高い。
それに、大人の力を借りれるというのも大きい。
高校生の友也だけではどうにもできないことが解決するかもしれない。
こくりと友也が頷けば、望は友也に小さく微笑みかけた。
「ありがとう。それじゃ、君の友達に何が起こったか、お姉さんに話してご覧?」
友也は、一から隼人に起こったことを話していった。
学校で墓場の噂について話題になってること、隼人と梓との間で言い合いになったこと、それによって隼人が肝試しに行ったこと、次の日に墓場に供えられていたぬいぐるみを学校に持ってきたこと⋯⋯そして、その次の日から学校に来なくなり、音信不通になったこと。
「⋯⋯ふむ。つまり、肝試しでぬいぐるみを盗んでしまったことにより行方不明になってしまったと」
「そういう、ことになるんでしょうか⋯⋯」
「実際のところ、ここで行方不明になった原因が、ここで悪事を働いたこととされる説もあるんだ」
「ここで悪事を?」
「あぁ、君の友人の他にも、ここの噂の関係で行方不明になっている人間がいることを君は知っているかい?」
「それは⋯⋯はい」
友也の知ってる限り、今年に入って3人⋯⋯肝試しに行ってから行方不明になった人間がいるはずだ。
隼人は4人目になるだろうか。
「一年を通せば数えられる程の被害だが、もっと過去を入れれば十数人は行方不明になっている。そして、そのほとんどが現在も見つかっていない」
「ほとんど⋯⋯ということは見つかった人もいるんですか?」
「あぁ、いるとも。ま、その全てに『死体として』という文言がついてしまうがね」
つまり、この墓場に肝試しに行って行方不明になった人間は基本的に見つからないままか、死亡しているということ。
友也は自身の中に僅かに残っている希望さえも薄れていくのを感じた。
「安心するといい。全て、とは言うがそもそも見つかった人間はたった2人しかいない。見つかってない人間も死んでいると断定するにはまだ早いよ」
「そうですか⋯⋯。でも、なんで悪人なんですか? やっぱり、墓場で悪いことをしたから⋯⋯?」
「恐らくね。これは確定的な話ではないが、行方不明になった人間の中に2人ほど、行方不明になったとされる日の翌日、墓場に多くのゴミが捨てられ荒らされていたという話だ。今回のぬいぐるみの件も含めたら信憑性は増してくるだろう」
「その、ぬいぐるみについて聞きたいんですけど」
「そうだね、恐らく今の君に一番必要な情報はそこになるだろう。では、少しだけ移動しようか」
「え、移動ってどこに⋯⋯」
「なに、ここからは出ないさ」
そう言いながら望は墓場を歩き、一つの墓石の前に立った。
友也も後を追うように付いていき、墓石を見る。
そこには『琴原紅葉』という文字が書かれてある。
ここで眠っている人物の名前だろうか。
望は、友也が墓石を見たことを確認すると、話を続けた。
「
「ここが⋯⋯」
それから、望はここで眠る少女について語り始めた。
死因は刺殺。
日頃家族へ暴力を繰り返す父親に母親が耐えきれなくなり、身近にあった包丁で父親の腹部を刺し、そのまま流れるように少女⋯⋯紅葉の首元を刺し、最後には自らを刺した。
無理心中というやつだ。
一家三人とも発見が遅れたこともあり、警察が到着した頃には既に死亡していたらしい。
父親は元々暴力を振るうような人物ではなかったそうだが、父親が元々働いていた会社が倒産したことで職を失い、そこから新しい就職先は中々見つからず酒とタバコに溺れていき、最終的には家族に暴力まで振るうようになってしまった。
母親は、そんな中で家事をして、少しでも家計を支えるためにバイトも重ねていた。
そんな日々を重ねていたので、時には倒れて病院に運ばれたこともあったそうだ。
父親から暴力を振るわれる中、家事もバイトもこなしていた母親の苦労は容易に想像はできないだろう。
そして、娘である紅葉。
学校ではいじめを受け、担任の先生はそれを見て見ぬふり。
友達もおらず彼女にとっての居場所は家の中だけだった。
だが、父親の会社が倒産してからというもの、次第に変わっていく両親を前に唯一の居場所も失われていった。
そして、最終的には『ひとりぼっち』のままその人生を終えたと言う。
ぬいぐるみは、まだ紅葉の両親が正常だった頃に誕生日プレゼントとして貰ったものであり、死亡するその時まで大切にしていたものらしい。
「って、随分とその子について詳しいんですね」
「まぁまぁ、細かいことは気にするな。この場所を長く知っている人間の中の一部では、例の噂について一番有力なのがそのぬいぐるみなんだ」
「あのぬいぐるみがですか?」
「そう⋯⋯疑問に思わなかったかい? 彼女が死ぬまで大切にしていた遺品とはいえ、こんな墓場に供えられていること自体違和感があるって」
たしかに、と友也は頷きながら考えた。
場所によっては遺品をお墓の中に一緒に入れることはできる、みたいな話は聞き覚えがあったが、少なくとも墓の前にお花とかと同じような感覚でぬいぐるみをずっと置いておくのは無理があるだろう。
屋根もないので雨が降れば濡れるだろうし、それの影響でカビが生えたり劣化に繋がったりするだろう。
「⋯⋯この墓場の関係で最初に行方不明になったとされるのは、ここの管理人なんだ」
「管理人さんが? それは、なにか悪さをしたから?」
「そのぬいぐるみを墓から持ち出したからさ。実際の現場を見たわけではないから真実は闇の中だが、ぬいぐるみを持ち出して数日後に管理人は行方不明に、その数日後にはぬいぐるみは元の場所に戻されていたそうだよ」
「見たわけじゃないのにどうしてわかるんですか?」
「とある人から聞いてね。誰から、というのは答えないよ。プライバシー的な問題にもなるからね」
たしかに、本人が見ていないなら、知ってる誰かに聞いた、理由としては納得できる。
だが、これだけ心霊スポットとしていろんな噂が立てられているのに、ぬいぐるみが直接関わるような話は聞いたことがなかった。
実際に持ち出したことで行方不明になった人間がいて、それを知っている人物がいるのであれば噂の一つや二つ上がってきてもいいと思うのだが、その人が意図的に隠しているのだろうか?
他にも誰がぬいぐるみを元に戻したのかとか、よくよく思い出してみればあのぬいぐるみは確かに使い古されてボロボロではあったが、それ以外の汚れや雨による影響等は見られなかったので、それがどうしてなのかとか色々疑問に思うところはあるが、それを一つ一つ丁寧に聞いている時間もない。
とりあえず分かったのは、隼人がいなくなったことにあのぬいぐるみが関わってる可能性がさらに高くなったということだ。
「じゃあ、ぬいぐるみを戻せば隼人も戻ってくる可能性はあるんですか?」
「ぬいぐるみが原因で行方不明になった事例自体、君の友人で二人目だからね、何とも言えない。だが、可能性はあるだろう」
正直、友也は隼人の家に再び向かおうとしてる時点で既に隼人が家に帰っている可能性はほぼ無いに等しいと考えていた。
1週間以上も音信不通で学校にも来ていない人間が何事もなくしれっと帰ってくるとは流石に考えられなかった。
だから、無事に帰ってくるとしたら何かトリガーが必要なはずだと。
幽霊や心霊について未だに話でしか聞いてないからか完全にその存在を信じたわけではない。
でも、実際に肝試しに行って行方不明になった人間がいて、ぬいぐるみを持ち出したことで行方不明になった人がいて、身近な人間が同じようにいなくなってしまったのだ。
幽霊なんていないなんて現実から目を背けている場合じゃない。
犯人が幽霊だろうと人間だろうと、大切な親友を取り戻す。
友也の中にあるのはそれだけだった。
「⋯⋯そろそろ行きますね」
「⋯⋯あぁ、気をつけて行ってくるといい」
友也は振り向くこともせず墓場を後にした。
時刻はもうすぐ昼に差し掛かるところ。
友也は再び隼人の家へと訪れた。
ガチャガチャとドアノブを捻るが開かない。
相変わらず中から人の気配はしない。
友也は合鍵で鍵を開け、中へと入っていった。
みんなの好きなホラゲーを教えてください(?)
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