1人の少女が歩いている。
年齢14歳。
ショートボブに、白くて四角いヘアピンで前髪をまとめ、あどけない顔をそよ風がなでる。
大通りから少し脇にそれ、スマートフォンを左手にその画面と周りの景色を何度も見直した。
彼女の名は、麹屋豆芽(こうじや まめ)。
「ここ……だよね?」
ナマケモノ研究所。
扉の上の木の看板にはそう彫られていた。
その上には垂れ目のような模様のナマケモノの顔の看板がありとてもキュートだ。
建物としては事務所のような佇まい。
豆芽は少し戸惑いながらも、意を決して押し戸を押して入ろうとした。
が
開かない!
鍵がかかっているようだ。
「うそ……」
豆芽は項垂れる。
確かに建物の中が暗い。
留守だったのかもしれない。
そのとき、内側から視線を感じ、ふと顔を上げてみる。
するとそこには、両手両足で木にぶら下がったナマケモノがこちらを見ていた。
「うわああああ!!!」
豆芽は暗闇からの視線で思わず声を上げ、飛び退いた。
「ナ……ナマケモノ……!?」
さっきまで吹いてなかった強風に煽られながら、豆芽は研究所を見詰めた。
そして、改めて扉の上の看板を見た。
「……ナマケモノ研究所だから。
そりゃ、いるか…………」
豆芽は納得すると、改めてスマートフォンを取り出し、メッセージアプリを開いた。
(ここ、意外と電波良いんだ)
いつもよりも早く開くページを快適に思いながら、友達とのチャット画面を開く。
「確かにこの時間だよね?」
時刻は13:32。
メッセージの履歴には、『13:30くらいだったら空いている』と出ていた。
「ナマケモノの研究所だから、研究者さんもナマケモノさんなのかなー」
豆芽は誰でも思いつきそうなユーモアを溢しながら、適当に時間を潰そうとSNSを観ながら待った。
(…………ほんとに風強いなあ……)
飛び退いてからの強風が収まる様子を見せない。
大通りからは高い音が聞こえ集中力が乱される。
スマホの時計をみると13:35になっていた。
すると、
研究者の灯りがついた。
「スローリータイム。
何か見付けたの?」
ナマケモノを撫でる素振りをしながら、1人の白衣を着た眼鏡の女性が歩いてくる。
落ち着いた長い髪に、理知的ながら柔らかい風貌。
女性は豆芽を見つけると、「あら」と驚いて顔をし、鍵を空けた。
「こんにちは」
女性はドアを引き、豆芽に声をかけた。
「お待たせしてごめんなさい。
君が豆芽ちゃん?」
「は……はい」
「話は聞いてるよ。
ナマの沼へようこそ。
ささ、入って」
女性はにこやかな笑みを浮かべ、豆芽を誘導する。
豆芽はうなずくと研究者内へと入っていった。
女性が扉を閉めようとしたとき
足元が濡れていることに気付いた。
薄茶色の液体。
女性は不思議に思いながらも、とくに気に留めずに扉を閉めた。
研究者ではナマケモノの生態や、フタユビナマケモノとミユビナマケモノの違いをイラストや小芝居で紹介してもらった。
とても面白く興味深い内容で、あっという間に時間が過ぎてしまい、
研究者から出るときにはもう6時を過ぎていた。
「とっても楽しかったです!!
ありがとうございます!!」
豆芽は相変わらず吹く強い風に髪を揺らしながら、外でお礼を言った。
「またおいで、まだまだナマの魅力があるから」
「はい!」
豆芽は女性に手を振って研究所を後にすると、
突然パッと強い風はそよ風へと変わった。
大通りからの高い音もしなくなり、聞き慣れた車の走行音が聞こえるだけ。
(楽しかったなあ……!
5時間も聞いちゃった!)
豆芽は顔を赤くし、興奮した様子。
豆芽はスマホを見て時計を見る。
6:23
その下にたくさんの不在着信と、メッセージが並んでいた。
(……?
……ママからだ。
珍しい……もうお仕事終わったのかな?
……あ! 今日帰るの遅くなること言わないと!)
豆芽の母親から電話がかかってきていたのだ。
話し込んでしまい、これから電車に乗るとなると、門限ギリギリになってしまう。
ちょうど良いと思い、それを伝えるためにも電話に出た。
「もしもしママ!
ごめん、今日
『豆芽!!
豆芽なのね……
今までどこでどうしてたの!?』
「……え?」
泣きそうな母親の声。
母親はそんなに心配症ってわけでも特別門限に厳しいわけでもない。
大袈裟だなと思いながら豆芽は続けた。
「どこって……
っていうかママ、なんで泣きそうなの?」
『なんでって……
豆芽!
今、何時だと思ってんの!?』
「何時って……まだ6時過ぎでしょ?
門限までまだだいたい2時間あるよ」
『ばか!!
門限はとっくに過ぎてるじゃない!!』
「……え?」
豆芽は母親の言葉でふと違和感を覚えた。
たしかに、周りの景色。
夕暮れのオレンジではない。
早朝の淡さだ。
朝しか聴かない鳩の声も聞こえる。
それに、スマホの時計表示
6:24
もし、これが午後なら18:24ってなるはずだ。
豆芽は恐る恐る口を開いた。
「ママ……
わたし………………
もしかして……
一晩帰ってない……!!!???」
豆芽の足元に、薄茶色の液体が広がっていた。
スタンド。
限られた人にだけ持てるといわれる不思議な力。
その人が持つ、超能力の概念に像を与え、具現化、擬人化した存在。
その像はスタンドを持つ、スタンド使いにしか見えない。
その超能力をスタンド能力という。
そしてこの麹屋豆芽はスタンド使い!
スタンド名 ナガ・タニェーン
その能力は
右手から味噌汁を出す能力!! である!!