それはとある中学校の屋上。本来は入れないはずのそこに、彼女はいた。
黒く綺麗な髪を惜しげ無く伸ばし、頭上には白い髪がぴょんと、?マークのように伸びている。
だがそんなギャップを意味なさないような深く、吸い込まれるように光る満月のような黄色い瞳。
この中学校の制服でもある黒いセーラー服を着た少女。
忘れ物を取りに来た一人の少年はそんな彼女と対面する。
彼はこのウマ娘を知っている。名前はマンハッタンカフェ、別のクラスにおり少年との関わりはない。知っていることはせいぜい髪が長いくらいにしか思っていなかった。
だが今の彼女はただならぬ存在感があるように見える。その目線はしっかりとこちらに合わせている。
少年は言葉が出ず、ただじっと見つめ合うしかできなかった。
「・・・この世界には見えないものが多い」
突然マンハッタンカフェが言う。
「普段みなが何気なくすごすそばに、
それ?彼はそのまま返す。
「私には見え、そして聞こえます。何をするか、何を言っているか」
コツ、コツ、と少しずつ彼女は彼に近づく。
「あなたは見えますか?」
お互いの手を伸ばせば届きそうな距離まで近づいた彼女。再び静かに目線を合わせたあとに、マンハッタンカフェは一呼吸おいて口を開いた。
「私の名前はマンハッタンカフェ。影に生きるウマ娘・・・あなたはこの影なる世界に興味はありますか?それは全てを受け入れ、いざないます・・・ほら、そこに『お友だち』が」
そう視線を少し外しながら、彼女はそう言った。
――――――――――
マンハッタンカフェ。彼女はあまり多くを語らない。彼女の言う
もしくは特定の場所に地縛され、他の者を巻き込む存在など、それは時として人々の危険と恐怖にさらしてしまう。
そんな存在を彼女は人知れず対処してきたらしい。
「なぜ危険なのに関わるのか、ですか?彼らは私にしか見えない・・・他の人は気が付かないうちに、何かをされてしまう・・・そこで気が付いたのです。私はこのためにいると」
先ほどの人知れず対処することに、彼女はどうやら誇らしげのようだ。
そんな彼女に、少年は素直に感心した。
マンハッタンカフェはこれに驚いたような表情を浮かべた。
「・・・初めてです。そのように言ってくれるのは・・・私の見えるものは、本来嫌がられるもの・・・ですが、あなたは拒絶しないでくれる・・・それだけで私は嬉しいです」
そう彼女は微笑んだ。
――――――――――
そんなある日のこと。近所にある公園のレース場にて他校のウマ娘が占領し、他の者を追い払っているという噂を耳にした。
なんでもそのウマ娘はもともと大人しかったはずなのだが、急に排他的になったのだという。
「おそらく、その人は何かに
少年はそのようになったら、どうすればいいか聞いた。
「予測ですが、そのウマ娘に憑りついたのは、レースに対して強い執着を持っているはず。ならば同じ土俵、つまりレースをして彼女に打ち勝てば、
なるほど、と少年は
「大丈夫です。私に任せてください」
マンハッタンカフェの声に、自信が感じられる。それならばと、少年は彼女に任せた。
「ええ、お任せを・・・血に飢えた猟犬のようにレースを制してみせましょう・・・」
そう獰猛な笑みを浮かべた。
――――――――――
彼女の走りは圧巻だった。そのウマ娘との勝負では、わざと後ろに付いた。
その目はまさに、獲物の隙を絶対に逃がさない追跡者の目だった。前を走っていたウマ娘は嫌な気配を感じ取ったのか、焦ってペースを上げた。
そしてそこをマンハッタンカフェは狙い撃った。
姿勢がブレてきたウマ娘を追いつめるように、じりじりと彼女の走りは鋭さを増す。
不意に前のウマ娘がいつの間にか横後ろにいたマンハッタンカフェの顔を見てしまう。
その表情はまさに、相手を仕留めるのに
臆したウマ娘をもちろん逃がさない。マンハッタンカフェは容赦なく置き去りにし始める。
気が付けばあっという間だった。黒く駆ける影が生命よりも先に経ち、そしてすべてを終わらせた。
ゴールを過ぎた後、そのウマ娘は信じられないようなものを見る目で、息を整えながら他所を見るマンハッタンカフェを視界に映していた。
呆然としていると、不意に彼女と目線が合わさる。ウマ娘は臆して体を一瞬震わす。
しばらく見つめられて、しかし特に何もなかったのか、彼女は何も語らずに少年のもとに歩いて行った。
そんな光景を、別のウマ娘らが見ていた。その者らはマンハッタンカフェと同じように噂のもと、この公園にやってきたのだが、予想とは違うものを見て、そして口をそろえて彼女のことをこう言った。
『影なるウマ娘』と。
――――――――――
少年の家、そこでマンハッタンカフェと二人きりになっていた彼は、彼女の話を聞く。
「こう、怖がられるのは慣れています・・・あのように取り憑かれた人や、それらと直接走ったことは今に始まった話ではありません」
その目線はどこか諦めたようなものだった。今まで誰にも打ち明けれず、吐き出す先のない貯めていた悩みを押し殺すように。
「あなたは・・・私の走りを見てどう思いましたか?」
どこか警戒するように彼女は聞いてきた。それはまるで、否定されるのを覚悟するかのように。
しかし少年は違った。
マンハッタンカフェの走りを「すごくよかった」と明るく言ってくれた。
まさかあれほどすごいとは思わなかったのである。もう一度見てみたいほどに。
彼女は今度こそ心の底から驚いた。弾くどころか思いっきり受け入れてくれるだなんて。
その驚きは次第に喜びと変わっていった。
「ありがとうございます。私の力を受け入れてくれて・・・その言葉が、私の心を温かくしてくれる・・・」
彼女は少年の傍にくる。そして肩を付け合せてきた。
「これからも私の傍にいてください・・・そして私の温度を感じてください・・・私の声だけを聞いてください・・・」
「そうすれば、なにも怖くありませんから・・・」
――――――――――
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「わぁ~・・・」
「ぁっ・・・ぁぁ・・・」
公園でそんなことを、マンハッタンカフェの友人であるポッケ、ダンツ、タキオンは少年から惜し気もなく聞かされた。
自らを『影に生きる者』『血に飢えた猟犬』と自称してたり、自身に特別な力を持っていることに自慢してたり(一応事実ではある)、挙句には
高校生、正確にはトレセン学園の高等部である彼女らはそれはもう興味と羞恥の入り混じった表情をしていた。なお、マンハッタンカフェの感情は後者だけである。
「いや~興味深い話だったねぇ~」
若干からかうようにタキオンは言う。続けざまにポッケも発言した。
「あー・・・どうりでなんか、変な気配あるな~って思ってたんだが・・・まぁうん、中坊だもんな。そういうのもあるしな。うん」
「え、えっと、その、カッコイイなって思うよ!カフェちゃん!」
ダンツもそうフォローする。しかし肝心の主役は顔を真っ赤にして震えたままだ。
まあハッキリ言ってしまえば、中二病真っ盛りだったのである。彼女は。
露骨なキャラ作りをして、それっぽい雰囲気に酔って、おまけに理解者も現れて、舞いっちゃっていたのであった。
で高等部になって落ち着いた今、すごぶる恥ずかしくなってきたのである。それを封印したかったと思った矢先にこれであった。
そんな彼女を、少年は不思議そうにしていた。
そのときのカフェも可愛かったけどなぁ。
彼は止めを刺した。
蛇足
(・∀・)ノ◨←スマホの写真見せる少年
「えっうわっカフェがレオタードにパレオ着た格好してる。コスプレというやつか?」
「うおっっっっきわどっっっ」
「わぁ~~~・・・」
「ア゛ア゛ッ」
今度こそおしまい。