とある孤児院に、あるウマ娘とある少年がいた。
ウマ娘の名前はアドマイヤグルーヴ。青い髪に、青と紫の瞳が特徴の少女である。
少年の方は・・・まあ別に紹介しなくていいだろう。
強いて言えば、ウマ娘と同じ力を出せることができている。
全力で走れば、大の男が追いつけず、重いものがひょいと持ち上がる。そんな力を持っていた。
その代わり持っていなかったのが、生活力である。
孤児院で暮らしている少年少女たちは将来独り立ちするために、家事を教え込まれる。洗濯、掃除、料理。教えてくれる院長などの大人と一緒にこなして覚えていく。
しかし少年は周りよりも若干遅かった。なかなか終わらない少年なのだが、アドマイヤクルーヴはそんな彼を手伝った。
理由は後ほど説明する。
それと勉強が苦手だった。授業態度こそ問題ないが、それはそれとして付いていけていない。
そのためテストの点数が悪く、よくそのあとに勉強会に強制参加をしてしまう。
そんな彼のもとには、成績がいいはずのアドマイヤグルーヴがいた。
別に点数が悪くはない。むしろいい。なぜそこにいるのかは、彼に勉強を教えるためだった。
彼女は単独で動くことにこだわり、他者の手を借りることはない性格であった。大人顔負けの知識でレースをせんと、たった一人でストイックに努力を重ねていくことを徹底している。
事実、キッズレースでは負けなしだった。もちろん人一倍トレーニングをしているのも理由の一つである。
しかし、より彼女を強くしている理由が、その少年の存在だった。
少年はアドマイヤグルーヴよりも足が速かった。彼女は知識をもとに実戦に映して反映のもと成長するのに対し、少年はとにかく走ったり、筋トレをしたりと、単純なことをやっていた。
しかし男女の力の差なのか、アドマイヤグルーヴは彼をなかなか抜けなかった。
悔しい彼女はより強くなることを意識した。だがそれはそれとして問題があった。
それが先ほどの、体力以外の問題である。
なにかとおっちょこちょい彼はものをすぐ無くす。それをアドマイヤグルーヴがあっさりと見つけて探す手間を省いていく。
勉強が全然終わらないことに泣き言吐いていた彼に本当に仕方なく、教えてあげる。なお本当に頭の回転が遅いのか、彼女が上手に教えてもなかなか進まない。
それでいて足が速いので、なおタチが悪い。アドマイヤグルーヴは
そんなある日のこと。アドマイヤグルーヴは地元のキッズレースに参加した。
レースの結果は彼女の一着。ひとまず満足する。
トラックから出て観客席に向かう途中、同じレースに参加して負けた他のウマ娘は泣きながらある大人のもとに向かって行く。
そのウマ娘は「お父さん」「お母さん」と呼んでいた。つまりその子の両親なのだろう。
そんな光景を見ていたアドマイヤグルーヴは、急に胸が凍りつくような感覚を感じた。
それゆえ、片方の手は握りこぶしを作っていた。
少年はそうなっている彼女に察した。もしかして、自分に親がいないことに寂しさを感じているのではないだろうか、と。
そう思った彼は彼女に近づく。そしてまだ手の平になっているその手を、少年は握った。
急に他の温度を感じ取ったアドマイヤグルーヴはそちらを向く。そして目が合った。
少年はこう言った。
大丈夫、一緒にいる。
彼女は突然のことに停止をする。しばらくすると、握られた手を抜き離し、勝手なこと言わないで、とあしらった。
彼から離れ、お手洗いに入っていった彼女。そこで握られた手を、先ほどまでこぶしになっていた手で包み、その温度を思いだしていた。
彼女は気が付かなかったが、その鏡には頬が赤くなった表情が写っていた。
ある日の孤児院周辺の公園のレース場。雨の日にもかかわらず、アドマイヤグルーヴは走りこんでいた。
先日感じた温度、それを忘れるためにだった。彼女にとって、プライドが許せなくなったのである。
自分は誰の手も借りない、彼に打ち勝つために、冷静になって思い出すと頼ったようで不機嫌になってきたからだ。
その記憶を払拭するために、無理に走りこんでいる。
そこへ少年が傘を持ってやってきた。彼がアドマイヤグルーヴを止めようとする。
しかし彼女は無視をして止まらなかった。
何度も声を掛けたが、それでも止まらなかったため走るの止めるまで待つことにした。
しばらくすると、彼女が足を止めた。やっとの思いで彼は近づいていき、声を掛けた。
だがまた返事を返さなかった。どうした、と顔を覗こうとすると、いきなり大きなくしゃみを彼女はした。
驚きながら、彼女の顔をよく見てみると、顔が赤くなり視線が
まさかと思い、額に手を当てた。アドマイヤグルーヴはそんな手をいやいやしく払いのけたが、力が抜けかけていた。
そして彼の予想よりも、その額は熱かった。さすがに不味いと少年が必死になったが、冷静さを欠いた彼女はより、彼を拒絶する。
それが悪化の要因になったのか、足に力が入らなくなった。
意識が
アドマイヤグルーヴも必死に思考するが、全く機能しなかった。どうすれば、という声だけが頭の中に響き渡り、声も出なくなる。
すると浮遊感が沸いた。それと同時にいつのまにか首に傘を挟めている少年の顔が近くなった。
アドマイヤグルーヴはその状況を理解できず、揺らされながら孤児院に戻っていった。
気が付いた時、彼女は人の多い街中に立っていた。だがなんだか変だ。ぼやけて見え、進むのが遅いパラパラ漫画のように動いている。その歩く速度は普通の速さだというのに。
ふと声が聞こえてくる。そちらに向くと、小さな子どもが親と手を繋ぎながら楽しそうに歩いているのが、やけにハッキリと見える。
するとまたあの時のように胸が凍りつくような感覚が起きた。
別の方向からも親子の笑い声が聞こえ、反射的に振り向く。
子どもが親に肩車をしてもらっていた。さらに凍りついていく。
そんなのを聞きたくなかっあ彼女はすぐにその場を離れる。
駆け出して、孤児院に戻ろうと思った時、ふと思い出す。
ここはどこ?どっちにいけばいいの?
急に怖くなった。激しい孤独感が彼女の心を凍結させていく。辺りは急に暗くなり、しかしぼやけた人々の密度が上がっていき、見えないはずなのに妙に親子の笑い合う声が響いてくる。
彼女は目と耳を塞いだ。しかしごまかそうとしても、より脳内へ響き渡ってくる。
口で拒絶しても耳に透き通ってきてしまい、感情の制御が効かなくなる。
そしてついには大声を出しながら、両腕を周りに近づけないよう広げた。
その手を突然掴まれた。
驚いた彼女は、そうなった手をゆっくりと見下げてみる。
誰かが握っていた。そしてその者の手からは、温度が優しさとなって彼女の胸にじわじわと当てられていく。
アドマイヤグルーヴは顔を上げて誰なのかを観ようとする。そこにいたのは―――――
――――――――――
冬が来るには早すぎないかと、愚痴る少年。片手はポケットに入れてるが、もう片方は買い物袋を手にして素手を隠せない。
隣にアドマイヤグルーヴはいるのだが、彼女は平然としながら横を見ている。彼女も片手に袋を持っている。
ふと一つ温まる方法があると呟く。少年がでどんな?と返事をすると、何も持っていない手を差し出される。
少年はさすがに全部持たせるわけにはいかない、と言ったが彼女は違うと言った。
開いてる手を出しなさい。そういわれ、彼もその素手を差し出すと、握られた。
理解が一瞬追いつけなかった。そのまま彼女に有無も言わさずこれで温かいでしょ、言ってきた。
彼はお礼を伝えた。ちなみに彼女にとっては、このままうるさい愚痴を防ぐのが意図だったらしい。
――――――――――
「べつに特別な間柄じゃありません。彼とはただの腐れ縁です」
「・・・ほんとか?」
ある夏の浜辺、海の家のテーブルにて四人が座っていた。
先輩であるエアグルーヴと後輩のドゥラメンテ。その反対側にはアドマイヤグルーヴと少年だった。
「彼はことある事に付きまとうんです。今回の合宿にも来るなんて・・・」
「そ、そうか・・・」
ちなみにだがウマ娘三人は水着姿である。華やかさに可愛さ、美しさの調和のとれたその姿は、周りの視線を集めた。なお少年だけは私服である。
「トレセンに入るまでは何かとそばにいなければならなかったので大変でした。彼は片付けやら勉強やら出来ないので、付きっきりになってました。そうでもしなければ他の子に迷惑だったので・・・」
「う、うむ・・・」
「挙句には方向音痴なのに一人でここまで来たというのですから・・・こうして握っておかないとまた明後日の方向に向かうから目が離せません。本当に困った人なんだから・・・」
「・・・だから今も腕を組んでるのですね」
「ええ。ところであなた、水着はどうしたの?・・・様子を見に来ただから買ってない?・・・はあ、すみません。席を外していいでしょうか?」
「え?あ、ああ」
「ありがとうございます。ほら、行くわよ。・・・どこって?あなたの水着を買いによ。それぐらい察しなさい」
そう言いながらアドマイヤグルーヴは彼を引っ張っていった。
「仲がいいのですね、あの二人は」
「待ってくれ、あれを仲がいいで済ませてもいいのか・・・?!」
素直に感心する後輩に、生徒会副会長の先輩は頭を抱えた。
なお、その日をきっかけにアドマイヤグルーヴには彼氏がいるという噂が広がったが、彼女は冷たく否定した。
アルヴはもっと可愛くてもいいと思うの。
あと投稿遅れてすんませんでした。