8000年過ぎた頃からもっと恋しくなった……?   作:グラナデンロップイヤー

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第1話

 今日も今日とて仕事でござんした。

 高校を卒業し大学へ進学。けれどもそのタイミングで実家を出たのが悪かったに違いない。

 友達と遊ぶことやカラオケに始まり、パチンコやスロットといった娯楽と享楽の数々にのめり込み、気付けば一年で二単位しか取れないほどに大学へは行かなくなっていた。

 奨学金を借りていた故、否、借りていたにも関わらず二年の途中で中退。

 結果的に高卒となった俺に早速とのしかかるは一年ちょっとしか借りていないにも関わらず膨らんだ奨学金の返済。

 だからこそ働く必要があった。

 家賃も含めればアルバイトでは足りない出費に就職先を探すが、案の定こちらの要望に見合った就職先などあるはずもなく。

 もちろん第一希望は大企業。

 もちろん大卒限定でエントリー不可。

 ならば中小企業と考えれば、賃金が安いか休みが無いかのどちらかを選ぶしかない。

 故に決めたのは、派遣という働き方。

 賛否はある契約種別だろうが、結果的には悪くないと言えるだろう。

 大した面接無し、そして正社員でなくとも大企業で働ける。

 無論、時給ではあるが給料もお高め。

 ホワイト企業でぬくぬくと働く毎日が始まり、気付けば五年近くが経っていた。

 アパートの自室で椅子に座った俺は、息を吐く。

 

「……マジで、性格ってずっと変わんねえんだなぁ」

 

 感慨に耽りながら一人、言葉とともに嘆息したのだった。

 

「こりゃいっぺん……死にかけないと治んないんだろうな……」

 

 続けた言葉に思わず考える。

 人は死にかける、即ち生命の危機を潜り抜けた時にまるで生まれ変わったような感覚から性格や人生観が変わると聞いたことがある。

 

「…………いや、無理か」

 

 やがて出た言葉の理由。

 

 

「だって――死んだのに何も変わってねえしさ」

 

 

 そう。俺は所謂――"転生者"だった。

 白羽(しらはね)遠矢(とおや)、現在二五歳。

 今生の前、つまり前世の記憶を如実に持った人間だった。

 そして今と同じ日本で生まれ育った男だった。

 何故転生と断言出来るのかと言えば、単純に"同じ世界なのに違う世界"に来たと言えるから。

 前世の家族、実家、そして自分。

 これらは探しても存在しなかった。

 そして俺は二〇二六年までは生きて社会人として働いていた記憶がある。

 故に現在、二〇三〇年に社会人として生きている俺は、別人と言えた。

 容姿も多少異なるということもあるが、それ以上にこの世界の歴史や生まれ変わってから今日に至るまで起こった出来事はほぼ全て前世の記憶の通りだった。

 前世の俺にとって過去の出来事が今世の俺にとっての未来予知ならば、それは転生と呼ぶに相応しい事柄だろう。

 故に白羽遠矢は転生者なのである。

 

 同じ濃度で前世の家族の記憶が残り続ける俺には、今世の優しい家族達をどうしても家族という枠組みで完全に捉えることは出来ず、態度では家族風の言動で接してはみてきたが、自立が容認されやすい大学進学という段階で限界を迎えた。

 乳児の頃から心に積み重なっていた罪悪感と申し訳無さによるストレスが、俺に一人暮らしという選択肢を選ばせたのだ。

 両親からの支援を全て断り、完全なる自給自足の生活。

 けれどそれは、俺の堕落の始まりでもあった。

 結果として前世と何も変わらない状況へと自らを誘う行為であったのは間違いない。

 前世でも俺は派遣として働いてきた過去を持つ。

 その知識を活かして今は大企業のオンライン業務に携わる部署で働いていた。

 といっても前世の延長で企業のオンラインショップを運営しHTMLやCSS、JavaScriptを少々使うような簡単なコーダー業務。

 特筆したスキルを持っている訳ではなく、一般の人に比べれば簡単にウェブサイトを制作できる程度のもの。

 けれどそれである程度良い給料をもらえているのだから何も文句はなかった。

 

「ただなぁ……」

 

 何と無しにそんな声を漏らした。

 指に挟んでいた煙草に溜まった灰を、灰皿に軽く叩きつけることでふるい落とす。

 再び手を上げて口元に寄せ煙草を一口。

 息とともに肺から煙が吐きだされ、宙へと広がりやがて消える。

 

「今後、どうすっかなぁ……」

 

 口にするは将来のこと。

 前世は三〇を少し超えた――死ぬ直前まで派遣社員として働いていた。

 故にその時抱いていた漠然とした将来への不透明さが今の俺にも押し寄せていたのだった。

 しかし、所詮は口ばかり。

 そんなことを言いながらも何かきっかけがなければ動かないのが、俺という人間である。

 煙草を口に咥え肺へと煙を送り込む。

 

「……まっ、二〇代だしまだ何とかなるっしょ」

 

 煙に遅れて出たのは、やはりいつもの結論だった。

 有休も自由に取れてテレワークも自由に行える現在の職場。

 正社員は週三日以上は出社義務があるが派遣社員には存在しない。

 ぬくぬくとだらだらが俺を更にダメ人間へと育て上げていたのだった。

 暇潰しにパソコンを起動し、動画配信サイトを開く。

 何でも良かったが前世でも好きだった航空事故検証系の動画でも見ようかと表示される動画一覧をスクロールしていけば、おすすめで表示される沢山の動画。

 その中で目立って表示されるのはサムネイルに女性が映る動画だった。

 

 月見(るなみ)ヤチヨ。

 

 中身がAIの、正真正銘"中の人なんていない"配信者である。

 何か最近はライバーとか言うらしいが詳しくは分からん。

 喋りも受け答えも歌も表情も仕草も何ら生身の人間と変わらないと言えるほどの完成度を誇る、最先端以上のAIである。

 何故最先端以上かと言えば一重に、既存の他のAIじゃ到底不可能な領域にまで、全てが人間的反応速度に達しているから。

 そして当然ながら月見ヤチヨは自然言語を話すが、それがあまりにも流暢過ぎる。

 アクセントやイントネーションだけでも大変なのに、そこに表情や感情による変化も同時に発生させ、AIによる演算の賜物というよりは細かいモーションキャプチャーの賜物と言ってくれた方が十二分に納得出来る代物である。

 そんな彼女の人気はすさまじく、活動が十年くらいやってることによる積み上げかそもそものポテンシャルなのかは分からないが、一般人の多くにまでその名が轟くすげーライバーらしい。

 まあ、それだけではない彼女の人気の理由はあるが、それはさておき。

 今日の俺は月見ヤチヨが目当てではない。

 メーデーしたらいいのに中々しない系の動画を見るのだ。

 実際に乗らなければただの楽しいエンタメとして見るに楽しい今日の一品を求めて無限スクロールを続けていると。

 

「ふえええええええええええええええ!」

 

 外から赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。

 その音量から、遠くもないが近くもないと思える絶妙な距離感を想像。

 中々に夜も更けた良い時間。

 こんな時間に赤ん坊と外出とは中々なDQNだなとしょうもない感想を浮かべつつも、今夜のおかずである航空事故を探す手は止めない。

 どうせ俺には関係ないことだ。

 当たり前にそんな思考をしながら、やがて一つのサムネイルに目が止まる。

 もう助からないぞ。中々良いタイトルじゃないか。

 この動画に決めたとマウスをクリックしようとした時。

 

「えええええええん!」

 

 赤子の鳴き声が先程よりも鮮明に聞こえ始めた。

 そして階段を駆け上がって来る音とともに。

 

「ふえええええええ!」

 

 更に音量を増す泣き声。

 やがて慌てた様に外の通路を駆ける音がして。

 

 ガチャン、と――隣の部屋のドアが開閉した音が聴こえた。

 

 眼前にあるパソコンのモニターには、相変わらず動画一覧ページが表示されたまま。

 クリックするのも忘れ、俺は思考に耽る。

 

 ……あれ? お隣さんって、女子高生の一人暮らしじゃなかったか……?

 

 俺の疑問を更に深めるように、先程とは別の壁越しから変わらず赤子の鳴き声が轟いていたのだった。

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