8000年過ぎた頃からもっと恋しくなった……?   作:グラナデンロップイヤー

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第10話

「し・ら・は・ねさんッ?」

 

 夕方になり、一人きりの部屋の中でのんびりとしていれば、ドアが強めにノックされた。

 誰だ? と思いつつドアを開ければいろは。

 その背後には不機嫌そうな少女の姿。

 思わずと首を傾げれば、いろはが「失礼します」と言って強引に室内に侵入。

 そしてスマホを必死に胸に抱く少女が続けて入ってきた。

 よく分からないが玄関を閉じて鍵をかけた時。

 振り返ったいろはから冒頭のセリフがかけられたのだった。

 やたらと圧を込めた口調に思わずたじろぐ。

 何か悪いことをしたか? そう考えるが何も思い浮かばない。

 そんな俺を見たからだろう、いろはは大きく溜息を吐いた。

 キッと睨まれる。

 

「……言わせていただきます、白羽さん」

 

 やたらともったいぶる前置きに思わず固唾を呑んだ。

 いろはが勢いよく腕を上げる。

 そして、スマホを胸に抱きながら顔を逸らす少女へと指差した。

 

「こいつ……かぐやのこと、甘やかし過ぎです!」

 

 その言葉にぽかんとしてしまう。

 どゆこと……?

 だが、それ以上に――。

 

「かぐや?」

 

 不意に出たその名前が気になって仕方なかった。

 そこに明るい声が聴こえる。

 

「はーいはーい! かぐや! かぐやだよ!」

 

 ぴょんぴょんと跳ねながら嬉しげに自己アピールを始めた少女。

 

「彩葉が"かぐや"って名前くれたんだ~」

 

 その声色はやはり嬉しげだった。

 少女こと、かぐやの様子にこちらまで嬉しくなる。

 

「そっか。よかったね、かぐや」

 

「えへへ~」

 

 微笑むかぐやに空気が柔らかくなる。

 

「勝手にのほほんとしないでくれます?」

 

 だがその声で、元のピリつきが復活した。

 あー、えっと……何だったっけ?

 思い出そうと首を傾げれば改めての溜息。

 

「白羽さんがかぐやのこと甘やかし過ぎだって話です」

 

 その言葉でようやくと思い出した。

 

「そうかな?」

 

 思わずとそう返せば半目で睨まれた。

 だがその目線は笑顔になっていたかぐやへと向けられる。

 

「かぐや、スマホとスマコンを白羽さんに返しなさい」

 

「やーだよー! だってかぐやが貰ったんだもん!」

 

「やだでも貰ったでもないの。それらに幾らかかったと思ってんの? あんた払えんの? 払えないんだから返しなさい」

 

「いーやーだーっ!」

 

「駄々こねないの! 欲しいなら自分で稼いで買うのが普通なの! こんな高価な物貰うなんて普通じゃないの!」

 

「かぐや普通じゃないもーん! 宇宙人だもーん!」

 

「ああ言えばこう言う……! 宇宙人なんだから家から出ないでジッとしてなさいって言ったでしょ!?」

 

「だって暇なんだもん。あんな映えない部屋でジッとしてるとかつまんなーい」

 

「いい加減にしてよ! 言うこと聞かないなら追いだすよ?」

 

「やだあああ! もしそうなったらずっとここにいる!」

 

「だから白羽さんに迷惑かけんなって言ってるでしょ!」

 

 …………あーね。

 ヒートアップする口喧嘩からようやくと理解できた。

 見ればいろはは制服姿。

 故に一応、聞いてみる。

 

「そういえばもう、"ご飯"は食べた?」

 

 その声に。

 いろはが訝しむ。

 かぐやがハッとする。

 

「そうだ! 彩葉! 早く行こ!」

 

 そう言ってかぐやがいろはの腕を掴む。

 

「え? な、なに? ていうかまだ話は終わってないんだけど」

 

「いーから! 早く!」

 

「あ、ちょ、ひ、引っ張らないで」

 

 強引に引き摺られたまま、かぐやに続いていろはが部屋を出て行った。

 再び静けさが部屋の中に充満する。

 ゲーミングチェアに座り、デスクに置きっぱなしだったコーヒーを飲む。

 いろはの家には、いろはを想ってかぐやが作った料理がある。

 それをもし食べていないのなら、話は食べてからでも遅くないと思った。

 俺が原因の可能性があるのなら尚の事。

 彼女達の幸せが俺のせいで陰ってしまうのは絶対に許容できない。

 

「それにしても……かぐや、ねえ」

 

 いろはは何を思ってそう名付けたんだろうか。

 竹取物語、かぐや姫からだろうか。

 まあ、考えてみればぴったりの名前にも思える。

 電柱から産まれ驚異の成長率、そして本人から言われた"月"から来たという事実。

 かぐや、輝夜。

 闇夜を輝かせ、人々を魅了し、誰かの道標となれる月。

 幾年月をも人々を照らし、そしてこれからも末永く照らし続ける存在。

 かぐや。素晴らしい名前じゃないか。

 だがかぐや姫とは……無縁であってほしいと思ってしまう。

 

 だってかぐや姫の物語は――最後には別れが訪れるのだから。

 

 確かにかぐやの言う通り、かぐや姫の物語はバッドエンドだ。

 絵本や物語という"他人事"ではなく、かぐやが望まない月に帰るという"自分事"で考えれば、これはバッドエンド以外の何物でもない。

 

「ま、流石にそんな訳ないか」

 

 流石に創作と混同し過ぎた思考を、その一言で切り捨てる。

 物語と同じ展開にわざわざする必要はないと思った。

 現実は小説より奇なり。

 月から来たというかぐや。

 死んで転生した俺。

 転生したにも関わらずここはファンタジー世界でもなくチートも持たない俺。

 ならばかぐやも、そんな王道に当てはまる訳がない。

 所詮、現実は現実。

 所詮、物語は物語なのだ。

 

 

 翌日。

 在宅ワークをしながらおれはヘッドホンをつけて自分のパソコンのモニターを見つめていた。

 画面に映っていたのは――。

 

『かぐやっほー! 月からやって来た、かぐやだよー』

 

 独創的なキャラクターが不器用に動きながら、そんな声が聴こえた。

 かぐやである。

 何やら色々あってライバーになるらしい。

 そんで今日が初配信。

 僅かに流れるコメントを見ていると、何やら昨晩"ツクヨミ"でひと悶着あったらしい。……だからかぐやは、ああ言ってたのか。

 "ツクヨミ"とは、かぐやに買ったスマコンというデバイスを介して入ることの出来るバーチャル空間。

 他のどのサービスよりも自由度が高く、表現性が高く、現実性の高い仮想世界らしい。

 流石に触覚や味覚や嗅覚といった部分は他サービス同様再現できないらしいが、それでも視覚と聴覚のリアリティは、それはもう素晴らしいとの評判。

 天下無双のアイドルとして隆盛を誇っている"月見ヤチヨ"はこの"ツクヨミ"の創設者であり、そこでライブやらイベントをしているとのこと。

 さっき、かぐやから聞いた話。

 その月見ヤチヨのライブが昨日あり、何かイベントで優勝すると、月見ヤチヨとのコラボライブが出来るらしい。

 イベントで勝ちたいと笑顔で言っていたかぐやの姿を思い出した。

 カクカクと動くアバターの姿はもしかしたらかぐやのツクヨミ内でのアバターを模したのかもしれない。

 だが同時に気になるのは謎のBGM。

 やたらと要らない音を重ね続けた様な、言ってしまえば不協和音と思える音楽。

 けれどその意味の分からなさもかぐやらしいと思えば自然と受け入れられた。

 

『今日はやること思いつかないからこれで終わり! じゃあねー』

 

 あっという間に初配信終了のお知らせ。

 早すぎる結末に思わず苦笑する。

 ま、かぐやらしいっちゃらしいか……。

 そんな感想を抱いていると――。

 

『ん? これで切れてるのかな?』

 

 その言葉とともに画面が切り替わる。

 

「……は?」

 

 思わずと声を溢した俺は悪くない。

 そこに映っていたのは――。

 

 いろはの部屋と思える内装でカメラを覗き込んでいる――かぐや本人だった。

 

 綺麗な長い髪は金色。髪色は自在に変えられるらしく、どうやら金髪がお気に召したらしい。

 頭の中に"放送事故"という文字が浮かんだ。

 そして当然ながら他の視聴者にも見えており、放送事故だと面白がる視聴者や状況を指摘する視聴者、そしてその容姿に魅了された視聴者などに分かれていた。

 呆然と画面を見つめていたが、ようやくとボタンを見つけたのか配信が終了した。

 やがて画面を閉じて小さく息を吐く。

 起きてしまった事は仕方ない。

 後はかぐやが顔バレについてダメージを受けるか否かで考えよう。

 そう思った時に、バンと勢いよく玄関が開けられた。

 

「トーヤ! どうだった!?」

 

 そこに居たのは予想通り、髪質の良い金髪を風にたなびかせた笑顔のかぐや。

 

「すごい良かったよ」

 

 笑みを浮かべながらそう答えればかぐやの笑みが増す。

 

「百均行こっ、配信するのに小道具あった方がいいんだってさ」

 

 その言葉に笑顔で頷く。

 

「そういや最後に顔映ってたけど大丈夫?」

 

 訊ねてみればかぐやが首を傾げた。

 先程の配信を開き直して問題の部分を彼女に見せる。

 

「ありゃ、失敗失敗。でも皆楽しんでるし別にいっか」

 

 結果、あっけらかんと笑顔で受け入れたのだった。

 彼女がそう言うなら、俺がこれ以上気にするのは野暮だろう。

 まだ取っていない昼休憩にして、かぐやと共に外へと出たのだった。

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