8000年過ぎた頃からもっと恋しくなった……?   作:グラナデンロップイヤー

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第13話

 今日も今日とて仕事でござんした。

 高校を卒業し大学へ進学。けれどもそのタイミングで実家を出たのが悪かったに違いない。

 友達と遊ぶことやカラオケに始まり、パチンコやスロットといった娯楽と享楽の数々にのめり込み、気付けば一年で数単位しか取れないほどに大学へは行かなくなっていた。

 けれど何とか持ち直して何とか二年から学業に復帰。限界までカリキュラムを詰め込んでヒイヒイとしながら勉学に励む毎日。

 無事にギリギリ四年で卒業を果たし、有名大学ではない為、そのまま都会の中堅規模の会社に就職。

 週三日は最低でも出社しなければいけない、それなりの給料が貰える内勤業務に精を出す毎日。

 アパートの自室で椅子に座った俺は、息を吐く。

 

「はあ……どーすっかなあ」

 

 ギシリとゲーミングチェアが音を立てる。悩みが解決せず背もたれへと身体を押しつけた音だった。

 気を抜けば再び、大きく息を吐いていた。

 溜息のような息の吐き方で、やはり自分は悩んでいるのだと再確認させられる。

 日を追うごとに溜息の量が増していると感じるのは果たして気のせいだろうか。

 悩みの種は、大きく分けて二つだった。

 その他にも細々としたものは複数あるが、そのいずれもがこの二つに収束している状況。

 まず、一つ目。

 

「なーんで――また生き返ったのかねえ」

 

 そう。俺は所謂――"転生者"だった。

 白羽(しらはね)遠矢(とおや)、現在二五歳。

 今生の前、つまり前世の記憶を如実に持った人間だった。

 そして今と同じ日本で生まれ育った男だった。

 何故転生と断言出来るのかと言えば、単純に"同じ世界なのに違う世界"に来た上で"同じ世界で死んだのに同じ世界で再び生まれた"と言えるから。

 前世、つまり俺が白羽遠矢だった時。今と同姓同名で非常にややこしい。生年月日も全く同じ。

 前世の俺は、今と同じ二五歳で死んだ。

 仕事終わりに大きな満月を見上げていたら突然心臓に激痛が走って死んだという、何とも呆気なくストーリー性皆無な死に様だった。

 そして目が覚めたら、再び前世と同じ両親の赤子になっていたって訳。

 何故生き返ったのか。それは何故死んだのか以上に根深い疑問として今世の俺にのしかかった。

 死因である強烈な心臓の痛み。

 生き返ってから思い出してみたがあれは。

 

 前前世と全く同じ死に方だった。

 

 だからこそ、もしかして死神ノートでもあんのかと真剣に疑っている俺は悪くない。

 突然の心臓の痛み。心臓発作じゃねーかと思ったから。

 故に死神ノートまで可能性に上がってきては、死ぬ根本的な原因に当たりなどつけられるはずもなく。

 死の原因よりも――何故生き返るのかという点に着目せざるを得なかった。

 だがこっちもこっちで、死神ノート以上に荒唐無稽であり何の手がかりも無い。

 完全犯罪を追う刑事たちの心情とはもしやこんな感じなのかと思い至るほどに、考えても何も考えつかない自分の現象だった。

 両方を合わせて考えても、やはり意味不明で。

 俺の状況を一言で言えば"死に戻り"。

 だったら天然純真無垢な清楚エルフとか鬼っ娘姉妹とかがいるファンタジーじゃねえんだよと思った俺は、やはり悪くないと思う。

 何故死ぬかに加えて何故生き返るのかという問いは、哲学を超えて最早空想の論理だろ……。

 けれど二度あることは三度あると言うし、どうしても考えざるを得ない自分事であった。

 一発なら誤射かもしれない。けれど二発ならば確信犯の可能性も出てくる。

 原因不明の自分の体質は解決すべき至上命題なのである。

 

 どうせまた二五歳で死ぬんじゃないか。

 そう思っていた子供時代。

 当然勉強など手がつくはずもなく。

 けれど大学に入り一年が経って、全く何も変わらなければ何も分からないままじゃないかという思いが強まり、そこから勉強に専念。

 何か変わればいいなという希望的観測だけが唯一、俺の行動変容の原動力となったのだった。

 

 そして何故ここが同じ世界だと断言出来るのか。

 両親や家族、周囲の環境が全く同じというのもある。

 だがそれ以上に二〇二〇年で断言出来るようになった。

 

 "ツクヨミ"。このプラットフォームが、今世にも存在したのだ。

 

 前前世には確実に無いと断言出来る圧倒的超ハイクオリティバーチャル空間。

 この存在が俺に、同じ世界だと断言させたのだった。

 そしてその創設者である月見ヤチヨ。

 今世では少し意識してみた彼女の変遷は、それはもう凄まじいものだった。

 突如現れた"ツクヨミ"というサービス。

 その中に現れた満月が如きアイドル。

 デビュー間もなくして人気を博し、十年経っても全く衰えを見せない天下無双のAIアイドルと言えた。

 歌声は綺麗で澄んでおり、まるで元気を与えながらも安らぎと癒しを届ける様な印象を受ける。

 その存在を見る程、聴く程に今世でもやはり、AIには思えない程の人間味を感じてしまった。

 それはさておき、俺が何故死ぬのか、何故生き返るのか。

 この疑問は生まれ変わってから二十五歳になった今でも、一切の答えを見出してはいなかったのだ。

 だが同時に思うは。

 この問題はもしかしたら一生かかっても……ややこしいな。

 ……何度繰り返しても、分からない可能性も高い。

 そして俺が前回死んだのは、九月。

 七月である現在から鑑みれば、また死ぬのなら余命二か月の可能性もある。

 だが死ぬのは九月じゃない可能性もあり、何もかもが全くパターン化出来ない状況。

 明日死ぬかもしれないと思いつつも気付けば二五歳となっていた今日この頃。

 俺の溜息を増やす原因が迫っていた。

 

 それはもう一つの大きな悩みの種。

 だが決して、俺を困らせているとかそんな内容じゃない。

 単純に俺が勝手に悩んでいるだけの話。

 誰も悪くない、強いて言えば悩んでる俺が悪いだけ。

 思考か、感情か。はたまたその両方なのか。

 それらが勝手に俺に悩みを植え付けてくる。

 誰も悪くない、これは俺だけの、俺自身の問題。

 けれどいつまでも解決することのない大きな悩み。

 それは、"まだ"だからだろうか。

 それとも、"また"だからだろうか。

 単純に、決心がつかないだけ。

 単純に、決めない様にしているだけ。

 いや……違う。

 顔を上げて室内を眺める。

 その光景を見つめながら、思う。

 

 俺に勇気が、行動力がないから、決めないフリをし続けているだけだ、と。

 

 弱い心が全ての原因。

 強い心――確固たる信念を持たなければ、このままずっと変わらない俺の心がそもそもの原因。

 だが……そう考えても、必要に迫られなければ動けないのが、俺という人間の本質だった。

 

「はあ……」

 

 何度目かの溜息。

 けれど幾ら溜息を吐いたとて、現実が、自分が変わる訳じゃない。

 現実を、自分を変えるには溜息などではなく、勇気と行動力が必要なのだから。

 俺がどうしたいか。それが全てて、そこから行動力と勇気が湧いてくる。

 だが"俺がどうしたいか"を決断するには、勇気と行動力が必要だった。

 結局はいつも通りの堂々巡り。

 何も変わらない日常だ。

 何も変われない自分だ。

 

「……はぁ」

 

 さほど間を置かずに改めて溜息が零れる。

 けれど"ここ"に居る時点で――既に選択肢はあってないようなものだった。

 

「……ん?」

 

 不意に、どこか空気の流れのようなものが変わった気がして、思わず顔を上げた。

 その瞬間――。

 

「ふえええええええええええええええ!」

 

 外から赤子の泣き声が壁や窓を貫通して、俺の耳へと入り込んできた。

 同時に、二つ目の悩みの種が動き始めた合図だと悟る。

 慌てた足音で外階段を上る音が聴こえ、やがて泣き声とともに俺の隣の――角部屋のドアが開閉される音が聴こえたのだった。

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