8000年過ぎた頃からもっと恋しくなった……?   作:グラナデンロップイヤー

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第20話

 三八〇回目。

 そこで死んで、ようやくと確定に至った。

 三二一回目にまた、モニター観戦だがかぐやの卒業ライブを見た。

 

「最高の卒業ライブでした! いっぱいお土産もらっちゃった。みんなありがとう!」

 

 その言葉の終わりと同時に、俺を殺す心臓の痛みが発生した。

 何度か更に回数を重ねて、全て同じタイミングで俺は死んだ。

 だからその後はかぐやのそのセリフが言い終わる時刻を秒単位で計り、以降はツクヨミに潜らず外界に考えられる原因が無いか検証を立てて何回も試した。

 死ぬ事でハズレを潰し、生き返って次の可能性を潰していく。

 死ぬまでの生活を変えるべきかと思ったが、結局変えることは出来なかった。

 五十回ほど死んで検証を重ねた結果。

 

 かぐやがあのセリフを言い終えた時に死ぬ可能性が最も高いと断定出来た。

 

 いや、寧ろその可能性が二度目以降から最も高かった。

 だって致死率一〇〇パーセントなんだもの。

 もしかしたら俺の確証バイアスが働いて、そう信じたいのかもしれない。

 けれど、何度見てもやはりハッピーエンドとは思えないあの光景は心が痛んだから。

 

 ――でもそんな苦しい思いは全部全部、かぐやがお月様まで持っていってあげる。

 ――逃げちゃってごめん。でも、すっごい、すっごい、楽しかったんだ。

 

 あんな声は、かぐやじゃないって思ってしまうから。

 自分勝手な考えなのかもしれない。

 真相は俺の考えと全く違うのかもしれない。

 偽善ですらない独善なのかもしれない。

 ……でもさ。

 

 ――やりたくなかったらやんない。やりたかったらやる!

 

 俺もその意見に大賛成なんだ。

 迷惑をかけたら、やめる。

 違うって分かったら、やめる。

 だからそれが分かるまでは、やる。

 

 ――でもそんな苦しい思いは全部全部、かぐやがお月様まで持っていってあげる。

 

 俺がかぐやを、お月様に持っていかれないようにする。

 

 そう決めた。

 だからこれからやるべきは――ライブが終わったかぐやを連れ去ること。

 これには俺の死に関する検証も含まれている。

 俺が死ぬのは単純にあの時間なのか、かぐやがあのセリフを言うことなのか。

 心臓発作のトリガーを知る検証にもなる。

 仮にかぐやにあのセリフを言わせずにリミットで死んだならば、以降はやる必要がない。

 だがもしそれで延命出来たのであれば、俺の死に戻りのルーティンを壊せる突破口になる。

 だからこそ、自分勝手なのかもしれない。

 でも、やるしかない。

 まずは、ツクヨミ内で自由に動き回れるだけのプレイヤースキルを身につける所から。

 ツクヨミがリリースされるのは二〇二〇年。

 だがその時の俺はまだしがない中坊。

 理想としては、リリースされたタイミングでスマコンを入手しとにかく経験値を積みまくるしかない。

 別にゲームが得意という訳ではないから、やり続けて覚えてスキルアップしていくしかないのだ。

 十年でダメなら死んでまた十年。それでも駄目ならまた死んで更に十年かければいい。

 時間だけはあるのだから、諦めずに続けていくしかない。

 

 それからはなるべく早い内に金を稼げるように両親への説得を行うルーティンも追加された。

 高校でバイトしてスマコンを買い、とにかく潜りまくる。

 同時に現実でも上京したりベビー用品とスマコンを買ったりとこれまでのルーティンも続けた。

 そうして何回、何十回と死んで、気付いた事実。

 

 働くよりも、働かないで金を得た方がもっとツクヨミに潜れるというものだった。

 働かないで金を得る。つまり不労所得。

 その方法として最も俺に合っていたのは、株だった。

 世界はずっと変わらない。

 ならば未来の知見を活かして株を青田買いし、安定した収入を得続けるのが最も得策だと思えた。

 

 そこからのルーティンには経済の把握、将来成長する会社の把握という項目が新たに追加された。

 ツクヨミに潜る時間はその分減ってしまったが、文字通り将来への投資として受け入れる。

 十回ほど死んで、ベストと思える会社を全て記憶した。

 そして新たなルーティンが追加される。

 赤子の頃から未来予知が出来る子供と両親に思わせる作業が追加されたのだ。

 ノンバーバルサインで新聞を、特に経済新聞を両親に求め二、三年で成長する会社を見つけたら指差して頑張って"株"と発音する。

 それを何度も死にながら試行錯誤を行い的中率一〇〇パーセントを継続し続けやり方を洗練していった結果、幼少期から親は少額だが株を買う様になってくれた。

 更に回を重ねれば親がもっと株を買ってくれる方法を見つけ、四四〇回目の頃には、発売と同時にスマコンを入手出来るようになっていたのだった。

 そして四五〇回になる頃には――親とは別に、中坊の頃から俺だけの株を持たせてくれるようになっていた。

 もちろん購入や管理は親だが、その分の収入は全額俺が自由に使える金として運用できる。

 この時になってようやく、死ぬまで不労所得で暮らせるようになったのだ。

 

 

 ほぼ毎日ツクヨミに潜れる様になってから気付いた事。

 それは八月三〇日に、ツクヨミ内でおかしな挙動が発生するということ。

 広場のモニターが何かに侵食されるように書き換わり、一定時間プレイヤー達が首を傾げる。

 そして同時刻に、俺が住んでいる地域が全域で、大規模な通信障害が起こっていたことを知る。

 最初は"まあ、そんなこともあるか"といった感想。

 けれど回を追うごとにそれは違和感となっていく。

 "まぁ、そんなこともあるか"から、"こんなこと、あるか?"へと。

 それは一重に――"ツクヨミ"の理解度が増したから。

 十年間で、この一日だけ……この時だけ、不可解な事象が起こるのだ。

 管理者である月見ヤチヨからのアナウンスもない。

 ツクヨミを知り、理解し、その安定性に信頼を置いたからこそ理解出来た違和感だった。

 故に探ればやがて一つの可能性が見えてきた。

 ツクヨミが唯一謎の挙動をする時間は――。

 

 ヤチヨとかぐや、いろはによるコラボライブの終了時刻と完全に一致していたのだ。

 

 それは偶然なのかもしれない。

 けれど俺にはその可能性を検証する必要があった。

 何せ俺が死ぬ時は、

 

 ――最高の卒業ライブでした! いっぱいお土産もらっちゃった。みんなありがとう!

 

 かぐやがそのセリフを言い"終えた瞬間"なんだから。

 故に何か関りがあるのではないかと疑うのは当然だった。

 だが何というか、案の定というか。

 

 彼女らのコラボライブのチケットが俺に当たることはなかった。

 

 一度当たらなかったら、何回死んでも当たらない。

 つまり三人のコラボライブチケットは、文字通り死んでも当たらないと確定されたのだった。

 故にコラボライブに潜入するには何か策を考えなくてはいけない。

 だがそんなのは容易に思い付くはずもなく、頭の片隅に残しつつもツクヨミ内でプレイヤースキルを上げることに注力し続けたのだった。

 

 ツクヨミ内には絶大な人気を誇るゲームが存在する。

 "KASSEN"。対戦型のVRアクションゲーム。

 モードは三対三の陣取り合戦である"SENGOKU"と、一対一の格闘ゲームである"SETSUNA"。

 どちらともルールが違うだけで使う武器やプレイヤースキルは全く同じ。

 格ゲーが一番苦手な俺としては最も重点的に取り組まなくてはいけない事柄だった。

 最初は負ける。とにかく負けまくった。

 それでも挑んだ。挑み続けるしかなかった。

 何年か経って徐々に勝率が安定してきた。

 けれどやはり勝てないプレイヤーも沢山いた。

 それに挑み続けるしかなかった。勝ち続けられるまでやり続けるしかなかった。

 でも何回死んでも、ツクヨミがリリースされてから十年経てば、勝てない相手がまだまだいた。

 卒業ライブでかぐやを攫う時に、誰にも邪魔される訳にはいかないから、負ける相手がいるのなら勝ち続けられるように挑み続けるしかなかった。

 負けないために、挑み続ける。

 死ぬほどに、負ける人が少なくなってきた。

 死ぬほどに、負けなくなってきた。

 死ぬほどに、勝ち続けられるようになってきた。

 死ぬほどに、勝ち続けられるようになってきた。

 死ぬほどに――負けなくなった。

 そして四七九回目にして、

 

「おお! すごい激闘だ! いろPが最後の挑戦者でありKASSEN最上位プレイヤーのMOSESUを僅差で倒して怒涛の二十九連勝!」

 

 ツクヨミに八十年以上潜って――ようやく誰にでも、"僅差で負けられる"ようになった。

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