8000年過ぎた頃からもっと恋しくなった……?   作:グラナデンロップイヤー

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第22話

 四八一回目。

 赤子の頃からのルーティンをこなしつつ、思考は別の事を考え続ける。

 まず一つ。

 俺が死ぬ条件が明確に判明した。

 かぐやのセリフによって俺は死ぬ。

 けれど考えてみれば"みんなありがとう"というセリフ。

 配信者たるかぐやならば、普段から言う可能性があるのではないか?

 そう考えると、あの場面でかぐやが言う事に意味があるのかもしれない。

 言わせなければ事実として俺は延命したのだ。

 そして言われたら、呆気なく死んだのだ。

 けれど可能性としてはまた別のものも浮かんでくる。

 それはあの状況が鍵なのか、かぐやの心理的な部分が鍵なのか。

 その切り分けもまた必要なのではないかと思えた。

 

 二つ目。

 卒業ライブの最後が演出ではないという事が判明した。

 かぐやが月へと帰ってしまう。

 かぐやは本当に――"かぐや姫"だったのだ。

 故にその事実はあまりにも衝撃的。

 けれど同時に浮かんだ思い。

 

 あれが演出じゃなくて良かった。そんな思い。

 

 俺の勝手な思いだが、かぐやがあんな演出をしなくて良かったと思えた。

 だって――かぐやの隣には、いろはがいなければいけないから。

 いろはを伴わず、かぐや一人で去って行くなんてありえない。

 

 ――自分でハッピーエンドにする! そんでハッピーエンドまで彩葉も一緒に連れてくことにした!

 

 かぐやが言ったこの言葉を、俺は信じてるから。

 故に何とかしないといけないのが、かぐやを連れ戻そうとする奴ら。

 俺を攻撃しようとせずにただひたすらにかぐやを奪おうとしてきた奴ら。

 攻撃してこない意味が分からない。

 斬り伏せることは出来たが、空を埋め尽くすほどの量を、かぐやを守りつつ果たして倒しきれるのかどうか。

 あれがループなのだとしたら、帝やいろははあれらが敵なのだと事前に知っているということだろう。

 そして……いろは。

 

 ――お願い!

 ――かぐやを助けて!

 ――かぐや! かぐやッ! いやっ、待って! 行かないで!

 

 その声を、表情を思い出す度に発作に近い程の痛みが心臓に走る。

 いろはが……初めて頼ってくれたんだ。

 必ず助けると約束したんだ。

 なのに、失敗した。

 なのに、泣かせた。

 俺が――バッドエンドにさせてしまった。

 二人の幸せを願っていたはずなのに、俺が不幸にしてしまった。

 二人を離れ離れにしてしまった。

 一体、どうすれば良かったのか。

 無心で無遠慮に――斬り捨てれば良かったのだろうか。

 

 三つ目。

 ツクヨミの管理人、月見ヤチヨが発した言動の違和感。

 死に戻ってから冷静になって、思った。

 あのステージから脱出するためのボタンが何故か押せなくなっていた理由。

 月見ヤチヨが、何かしたのではないかと。

 月見ヤチヨなら、出来るのではないかと。

 月見ヤチヨだけが、出来ることなのだと。

 

 ――ダメッ! MOSESUはそんなことしてないッ!

 

 あの時に言われた言葉。

 正面から抱きつかれて動きを止められた行動。

 そのどちらもが、俺に疑念を抱かせるには十分過ぎた。

 そのどちらもが、敵に味方する態度に思えて仕方なかった。

 だからこそ、方向性を大幅に変えなくてはいけない。

 かぐやを月に帰らせないという点は変わらない。

 けれどそのアプローチを大きく変える必要がある。

 やることは至ってシンプル。

 前回、制限を受けた事によりあのフィールドから退避することが出来なかった。

 その問題を突破しなければかぐやを月に帰さないという絶対条件を満たす事が出来ない。

 故にこれからやるべきはたった一つ。

 

 "ツクヨミ"を、月見ヤチヨにバレる事なく書き換えられるようになること。

 

 もしかしたらこれまでよりも圧倒的に難易度が高く、途方もない挑戦なのかもしれない。

 だが、いろはを泣かせたのは俺だ。

 かぐやを月に帰してしまったのは俺だ。

 二人を離れ離れにさせてしまったのは、俺だ。

 だから、やる。

 かぐやを必ず、いろはの下に帰してみせる。

 

 

 

 

 二〇三〇年九月十二日夜。

 ツクヨミへと潜った俺は一人、前回と同じ幻想的な景色を見ていた。

 かぐやの卒業ライブは時間的に、ついさっき始まったばかり。

 同じ世界にいるはずなのに、かぐやの姿を俺が見る事は出来ない。

 揺蕩う幻想的な景色を、胡坐をかきながらただ見つめるだけ。

 何故ツクヨミに潜ったのか。

 それは――、

 

「ヤオヨロー! ヤチヨが造った世界に見惚れてくれて感謝感激雨アラモード!」

 

 彼女(ヤチヨ)に会いに来たから。

 確証なんて全く無かった。

 でも、会えたら会いたいと思っていた。

 だから"変わらない"行動をした。

 背後からかけられた声に振り向かず、口を開く。

 

「うん。本当に、すごい世界だよ……もっともっと深くまで知りたいって思うくらい」

 

「お~! ツクヨミをそんなに愛してくれるなんて嬉しいですね~。よよよ、ヤチヨがAIじゃなかったら今頃大号泣で顔面崩壊なのですよ~」

 

 耳に届いたのは、明るい感情豊かな声色。

 

「それでそれで、こんな所で黄昏て一体全体どうしたのでございます~?」

 

 明るい声に、背後へと言葉を返す。

 

「ヤチヨと話が出来たらなあって思って、待ってたんだ」

 

「およ? ヤチヨとですの?」

 

 その声色はどこか、きょとんとしているヤチヨの表情を連想させた。

 

「そ、ヤチヨとね」

 

「まぁまぁまぁっ! ヤチヨったら電脳の海の歌姫ですもの~、人気すぎて困っちゃうにゃ~」

 

 声高に楽しげな口調で喜ぶヤチヨの声。

 ヤチヨの声が、更に届いた。

 

「そんなにおだてて、ヤチヨに何かお求めでもあるのかな~?」

 

 彼女の言葉に逡巡。

 ――ダメッ! MOSESUはそんなことしてないッ!

 何故あの時あんな事を言ったのか、訳を知りたい。

 でもきっと、答えてはくれないだろう。

 あの時に浮かべていたヤチヨの表情を思い出す。

 必死の中に悲痛を込めた、ヤチヨの表情。

 何故あんな顔を俺に向けたのか。

 でもきっと、答えてはくれないんだろう。

 何かを隠している可能性は高い。

 かぐやを月に帰す様な行動を取る、理由を知りたい。

 でもきっと、答えてはくれないんだろう。

 何せ今背後に居るヤチヨとの会話は――これが初めてなんだから。

 ――ダメッ! MOSESUはそんなことしてないッ!

 あんなにも切羽詰まった顔で、あんなにも抽象的にしか言わないのならば、今の俺に話してくれることはないだろう。

 だから今回は。

 

「ヤチヨはさ、何で"ツクヨミ"を作ったの?」

 

 かぐやのついでじゃなく、ヤチヨについて少しでも知りたいと思った。

 

「むむむ! 何故ツクヨミを作ったかでございますか~?」

 

 明るい声に「うん」と返す。

 僅かな沈黙。

 

 やがて、声が聴こえた。

 

「ここは電脳世界、仮想世界。肉体を持たずに繋がりを持つとは即ち魂の触れ合い。ここツクヨミで笑顔になれば即ち魂が笑顔になりけり。ここツクヨミで幸せと思へば即ち魂が幸せになりけり。ここツクヨミで魂が誰かを思えば思わるる。人と人、魂と魂が触れ合い、接し合い、表現し合えばやがて惹き合わせる。巡り合わせる。誰もが表現者となればその魂はより多くの魂を震わせる。接し合わせる。触れ合わせる」

 

 耳に届いたのはそんな、鈴の音の様に落ち着いた声色。

 

「だからツクヨミは、誰もが表現者なのですよ☆」

 

 そう締めたのは、いつもの明るい声色だった。

 彼女の言葉は俺の問いに対して、真正面からの回答だったのかは分からない。

 でも、何となく理解出来た。

 ヤチヨがツクヨミを作った理由。

 ヤチヨがツクヨミに懸けた想い。

 

「そっか。だからこんなに美しい世界なんだ」

 

「誰もが表現者になるのなら、ヤチヨが一番の表現者でいないといけないですもの~」

 

 確かに、こんな世界を作ったんだ。一番の表現者に違いない。

 だからこそ、分からなくなった。

 前回、ヤチヨが何故俺の行動を止めたのかが。

 この世界の管理者たるヤチヨにとって、かぐやもまた表現者に違いない。いろはもまた表現者に違いない。

 なのに何故、二人を引き離す行動を取ったのか。

 

 ――かぐや! かぐやッ! いやっ、待って! 行かないで!

 

 いろはを泣かせる様な行動を取ったのか。

 別れも悲しみもまた、表現だというのだろうか。魂の震えだと、言うのだろうか。

 だが、答えてはくれないんだろう。

 時間がかかっても、俺が見つけ出すしかない。

 それを知らない事にはきっと、かぐやを月に帰さないという目標は達成できないだろうから。

 

 "ツクヨミ"を全て知るとは即ち、その答えも含まれているのだろうから。

 

 ヤチヨが果たして敵なのかどうかは分からない。

 だからツクヨミを、ヤチヨを知り尽くしてハッキリとさせる。

 そしてかぐやをいろはの下に帰してみせる。

 自分のやるべき事が完全に固まった。途方もない時間と年月と回数を懸ける覚悟が出来た。

 

 かぐやといろはの幸せを願い、ヤチヨを知る。

 

 俺の目的がその一点に定まった。

 そしてこれ以上、ここに留まっている理由を失った。

 静かに立ち上がれば、背後から声がかかる。

 

「おやおや? どっかに行くのかな~? だったらヤチヨの話を聞いてくれたお礼に、と・く・べ・つに~ヤチヨが管理者権限を使ってどこへでも送ってしんぜよう☆」

 

 明るい声に逡巡。

 今回は……やめておこう。

 天へと昇るかぐやを見たらまた――同じ事をしてしまうだろうから。

 次にそれをするのは……"出来る様になってから"じゃないと意味がないから。

 故に口を開く。

 

「いや、もう帰るよ」

 

 軽い口調で告げてログアウトを選択する。

 

「え」

 

 聴こえた声に思わずと振り返れば、一瞬だけ視界にヤチヨが映った。

 驚きに固まり目を見開いた、そんな姿だった気がする。

 白羽遠矢、享年二五歳。誕生日前日の出来事也。

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