8000年過ぎた頃からもっと恋しくなった……? 作:グラナデンロップイヤー
九月十二日。
俺が死ぬ日に、新たに加わったルーティン。
「最高の卒業ライブでした! いっぱいお土産もらっちゃった。みんなありがとう!」
その音声ログがデータベースへとリアルタイムで届いたのを見ながら、死ぬ。
……これじゃ駄目か。
「最高の卒業ライブでした! いっぱいお土産もらっちゃった。みんなありがとう!」
その音声ログがデータベースへとリアルタイムで届いたのを見ながら、死ぬ。
……これじゃ駄目か。
「最高の卒業ライブでした! いっぱいお土産もらっちゃった。みんなありがとう!」
その音声ログがデータベースへとリアルタイムで届いたのを見ながら、死ぬ。
……これじゃ駄目か。
「最高の卒業ライブでした! いっぱいお土産もらっちゃった。みんなありがとう!」
その音声ログがデータベースへとリアルタイムで届いたのを見ながら、死ぬ。
……これじゃ駄目か。
「最高の卒業ライブでした! いっぱいお土産もらっちゃった。みんなありがとう!」
その音声ログがデータベースへとリアルタイムで届いたのを見ながら、死ぬ。
……これじゃ駄目か。
果たしてどれ程続けているだろうか。
だがようやくと分かった事がある。
奴らは――かぐやの存在を認識して、移動してくる。
それが確信へと変わった。
俺がやっていたのは主に二つ。
奴らがツクヨミに現れるのを妨害すること。
そして、奴らとかぐやのいる世界を隔てる事。
奴らがツクヨミに押し寄せてくる時にプロテクトを何重にも敷き、侵入させない様にする。
だがこれは何度やっても、やり方をいくら変えても無意味だった。
奴らが出現する時間に合わせて数千数万のプロテクトまで設置してみたが、一切の効果が無かった。
彼らはコンマ一秒すら遅れる事無く、必ず定時で出現してくるのだ。
そして設置したプロテクトのログを見れば、出現時間と同時に……全てのプロテクトが破られていた。
つまり奴らをどうにか来させない様にするという選択は限りなく不可能に近いと思えた。
もう一つは、かぐや自体を別世界に転送すること。
厳密に言えば、かぐやを避難させる専用の世界を、ツクヨミに作った。
何も無い無機質で真っ白な狭い世界。けれどその分、守りだけに全てを注げる世界。
code.FAKE MOON。
そう名付けた仮想世界。
奴らがかぐや自体を隠せば時間を稼げるかと思ったが、隠す事自体も条件がかなりシビアだった。
早すぎると、かぐやの転送処理が奴らに無効化された。
遅すぎれば俺が死んで、結果を確認出来ない。
検証に検証を重ねた結果――転送可能なタイミングはたった一つしか存在しなかった。
――最高の卒業ライブでした! いっぱいお土産もらっちゃった。
かぐやがそのセリフを言い終えた後だけ。
つまり俺の心臓発作が始まる寸前のタイミングだけだった。
だからこそ激しい心臓の痛みに耐えながら、短い時間で可能な限りログを見続けて記憶していくしかなかった。
だからこそログを全て把握し、それを元に改修という作業にかなりの回数を擁した。
その結果分かったこと。
奴らは瞬時にかぐやを匿う俺の世界へと訪れる。
そして――奴らはかぐやの座標軸を常に認識しており、それに合わせて移動しているということ。
FAKE MOONへとかぐやを転送した際に転送位置をズラすと、奴らが現れる座標位置もその分だけ動いているのが分かった。
故にかぐやを奪う。それだけでは何の解決にもならない事を理解した。
だからこそ、次に取り組んだ事。
ツクヨミ内でかぐやのクローンを作成すること。
本当のかぐやを転送させた瞬間にダミーのかぐやを元の座標に置いたらどうなるのかという検証だった。
ツクヨミ内でかぐやのパラメータを取得する。
しかしかぐやのアバター、アカウントにはヤチヨによって強力なセキュリティがかけられており、その突破に何回も死ぬ事となった。
けれどそれは無駄死にではない。他のプレイヤーにはかけられていない、あまりにも強力なセキュリティとプロテクト。
まるで、ヤチヨにとって特別な存在だと示す様な対応。
ツクヨミの全ユーザーを調べた結果、分かったこと。
かぐやと――いろはだけが、ヤチヨの"特別"だと理解出来た。
かぐやは分かるが、何故いろはにまでそれを設置しているのかは分からない。
けれどやはりというか。
かぐやが月に帰る事と、ヤチヨの存在は密接に関係している。
それが分かったのは大きな収穫だった。
ともかく、かぐやのセキュリティやプロテクトをハッキングして、各種パラメータの取得に成功。
まずは
だが奴らはダミーには全く興味を示さず、ただかぐやを転送させた時と同じタイミングでFAKE MOONへと現れたのだ。
何回か試し、
つまりは
ならば、
かぐやという"実物"のどこかに、把握出来る要素があるのだ。
であれば、俺がやる事は一つ。
かぐやのクローンを作る。
その為に必要な事を学ぶ日々が始まった。
故に人体に関する知識を吸収し、クローンで人を造る術を覚える回が果てしなく続く。
それが終われば、実際にクローンを作成する回が、更に果てしなく続いた。
失敗だけが続き、何も解決策が見えない回が延々と続く。
まるで終わりの見えないトンネルの中を歩き続ける様に、打開策どころか他に何をしたら良いのか分からず途方に暮れる回が続きまくった。
データセンターの地下にもう一階を増築し、ルーティン以外はそこに籠って延々と失敗する毎日、毎年、毎回。
埒が明かなくて関連する分野をもう一度、一から勉強し直した。
そしたら――出来た。
原因は俺が、遺伝子配列の構成の中で間違って暗記してた部分があった。
意識を失うまで自分の頬を殴りまくった。
これで
次は、
まずはかぐやの遺伝子情報を入手する必要があったが、これは簡単に入手する事が出来た。
かぐやがいろはの下に来てすぐに使われた、ゴミとなったオムツを改修すれば良かったから。
いやもう、人間として外道に堕ちたなとようやく理解した。
そこから遺伝子情報を入手し、身体の組成を全て把握。
余裕で万を超える数を死んで、
そして次のフェーズ。
奴らが
各項目ごとに改造したスマコンでアクセスして、同時に検証していった。
ここで入手すべき情報は"何で奴らが反応を示すか"という一点。
故にかぐやを転送させた後にFAKE MOONにて数体、数十体のダミーを出現させた。
同時にまた別の世界――code.GHOST MOONをその中に作成し、ダミー出現と共にかぐや本人をそちらに転移させる。
そして何回も何回も死んで、得られた結果。
"実体"もまた、奴らがかぐやを把握している仕組みとは無関係だった。
頭を抱えるしかなかった。
それ以上、何か検討できる材料を持ち合わせてはいなかった。
これら以外に検証すべき案なんて、思い浮かばなかった。
ならば奴らにとって何がかぐやをかぐやたらしめているのか。
かぐやは――何を持ってして、かぐやなのだろうか。
こうして俺は、原点に立ち返る事となった。
かぐやという少女は果たして、どんな人物だったのか。
――えええ~、今行きた~い。
――早くでかけよーよー。
――百均行こっ、配信するのに小道具あった方がいいんだってさ。
――やーだよー! だってかぐやが貰ったんだもん!
――いーやーだーっ!
――やだあああ! もしそうなったらずっとここにいる!
どちらかといえば、我儘で。
――だめ~?
――たすけて~?
どちらかといえば、あざとくて。
――彩葉お腹すいた~。
――んん~、うまっ、うまっ。
――おいしそう……。
――うどんまだー? うーどーんー。
どちらかといえば、食いしん坊で。
――違うおうち!? 楽しみ~!
――ねーねートーヤ。これなに? なに~?
――だって暇なんだもん。あんな映えない部屋でジッとしてるとかつまんなーい。
――ここで蹲ってどうしたの~?
――ん? 倒れたまま固まってる人いたから気になって。
とても好奇心旺盛で。
――ナニソレ!? こわっ! なんでそんなの持ってんの!?
――ほんと!? やたー!
――めでたしめでたし~パチパチパチなんだってさ。超バッドエンドじゃない? かぐや姫絶対バッドエンドじゃん! 何かいい話風になってるのが余計許せないし!
――でしょ!? そう思うよね! なのに彩葉"受け入れて覚悟するしか、ない"とかって言うんだもん!
――でも彩葉何て言ったと思う!?
――"ハッピーエンドはいらない、フツーのエンドで結構です"だってさ!
とても感情豊かで。
――何かおもしろそーだし彩葉も持ってたから欲しいな~。
とてもおねだり上手で。
――りょうり~? してみたああああい!
――ほんと!? やたー!
――わー、すごいすごいすごい、これがツクヨミなの!?
――うお、すげー! おもしろそうなもんが死ぬほどある!
誰よりも元気で明るくて。
――だってトーヤこっち見てくれないんだもん。
とても寂しがり屋で。
――ほんと!? プレゼント!? やったー! ありがとートーヤっ!
――はーいはーい! かぐや! かぐやだよ!
プレゼントには心から喜んでくれて。
――トーヤもハッピーエンドまで連れてく、一緒に!
――今日かぐや"ツクヨミ"で卒業ライブするから見に来てねっ?
こんな俺にまで優しくしてくれて。
――調べて料理出来るようになったから作って彩葉が帰ってきたら食べさせるんだ~。
――え!? 他の人と! 彩葉とも連絡できる!?
――自分でハッピーエンドにする! そんでハッピーエンドまで彩葉も一緒に連れてくことにした!
――彩葉が"かぐや"って名前くれたんだ~。
――彩葉を助けてっ!
――……一緒にご飯食べたい。一緒に買い物行きたい。一緒に配信したい。
――彩葉と、一緒に笑いたい。
――かぐや・いろPコンビでたっくさん稼いじゃったからね~。
いろはの事を心から大好きで、大切にしてて。
――……迷惑かけてるし、時々泣き声聴こえるし、全然集中出来なかったです。
――全然頭回らなくて……勉強しなきゃいけないのに、全然、手に付かなかったです。
――……白羽さんは、甘やかしすぎです。白羽さんが甘やかすのは、こいつにも良くないと、思います。
――……そんなに甘やかすのは、あいつをダメな大人にすると思います。
――かぐやッ!
――急にいなくならないで。
――かぐやを月に連れ戻そうとする奴らです!
――お願い!
――かぐやを助けて!
――かぐや! かぐやッ! いやっ、待って! 行かないで!
――ほら、手ーかして。
――行こ、かぐや。
いろはからものすごく愛されて、大切にされてて。
――うーん、何かあんまりよく憶えてないんだけど~。とにかく、毎日超つまんなくて~。楽しいところに逃げた~いって、思った気がする。
――覚悟~? やりたくなかったらやんない。やりたかったらやる!
そんな事言ってたクセに。
――でもそんな苦しい思いは全部全部、かぐやがお月様まで持っていってあげる。
――かぐや姫が全部、ぜ~んぶハッピーエンドまで連れて行ってあげる♪
――はるばるようこそ。
――逃げちゃってごめん。でも、すっごい、すっごい、楽しかったんだ。
――最高の卒業ライブでした! いっぱいお土産もらっちゃった。みんなありがとう!
――逃げて迷惑かけたから。
――帰らなくちゃ。
――……大丈夫だよ。
――みんな。
――ありがとう。
どこまでも自分勝手にも思えて。
……でも。
――ふえええええええええええええええ!
――えええええええん!
――たい♪
出会ったその時からずっと――幸せを願わずにいられない、可愛い少女だ。
感情が常に本気なのが、かぐやという女の子。
感情を隠すと違和感を抱いてしまう、そんな存在。
そこで、気付いた。
感情。
それはまだ、検証していない事柄。
では感情とは一体何なのか。
喜び、怒り、哀しみ、楽しい。
感情とは――心。
ならば、"心"とは一体何なのか。
心というものを具現化するとすれば、何が相応しいのか。
――ここは電脳世界、仮想世界。肉体を持たずに繋がりを持つとは即ち魂の触れ合い。ここツクヨミで笑顔になれば即ち魂が笑顔になりけり。ここツクヨミで幸せと思わば即ち魂が幸せになりけり。ここツクヨミで魂が誰かを思えば思わるる。人と人、魂と魂が触れ合い、接し合い、表現し合えばやがて惹き合わせる。巡り合わせる。誰もが表現者となればその魂はより多くの魂を震わせる。接し合わせる。触れ合わせる。
脳裏に浮かぶは、ヤチヨの言葉。
魂。
それが俺の中で、欠けていたピースを埋めた。
もしやかぐやの――"魂"を奴らは認識しているのか?
我ながら荒唐無稽な仮説。
けれども、それを否定する材料を俺は持ち合わせていなかった。
寧ろ……しっくりと来てしまった。
ツクヨミに現れる、月からの刺客。
何故、ツクヨミなのか。
何故、ツクヨミで良いのか。
何故ツクヨミで、連れて帰れるのか。
ツクヨミとは、魂を震わせ、接し合わせ、触れ合わせる場所。
つまりかぐやの"魂"さえ連れて帰れれば、問題無いのではないか。
いや……それだけじゃない。
かぐやとは――"魂だけ"が、本体なのではないか。
かぐやという存在を表す唯一が、魂なのではないか。
ゾクリと、背筋に強烈な寒気が走った。
"魂"をコピーするなんて、無理だ……そんなの、何回死んでも……どこにも情報が、無い。