「ふぅ、人間の姿はやっぱり疲れるなぁ……」
ロドスオペレーターとして配属されるようになったフォックステイルは、ロドス本艦の外に出て息をついていた。
常に人に化け続けることは、フォックステイルの体力を削っているようなものだった。しかし、大将軍様の後ろにいられるなら……とフォックステイルは自分で自分を励ましていた。
だけどこうして、人間の言葉と姿を手に入れたフォックステイルは、ますます強欲になっていた。
(大将軍様の隣に立てたら……なんて)
フォックステイルが焔尾獣だった時、よくテンニンカの足元で並んで歩いたものだった。目を閉じればあの時のテンニンカの明るい声が、今も鮮やかに蘇る。もちろん、ロドスにいる今のテンニンカはますます大好きだ。
……大好き?
フォックステイルの中で小さな闇が渦を巻く。
大好きな人に、自分はこのまま、正体を明かさずに過ごしていいのだろうか。
「いや、ダメです。変なふうに考えては……」
フォックステイルは自分に言い聞かせるように独り言を呟く。これはこれで幸せなのだ。自分だけが頑張って人の姿に化け続けていれば、僕はそれだけで……。
ふと目を上げると、フォックステイルは考え事をしながら街の裏路地に迷い込んでしまったらしかった。はて、ここはどこだろう? 早くロドスに帰らなきゃ、と踵を返した時にそれは起きた。
「いたぞ、獲物だ!」
「……っ?!」
フォックステイルは今まで野生として生きてきた本能のままに素早く動いたつもりだった。しかし、人の姿というのは、フォックステイルにとっては幾分か動きづらいものであった。反応が数秒遅れたのだ。
「こ、これはなんですか……!」
フォックステイルは手足をジタバタと動かした。体の自由が利かないのだ。
「へへっ、やっと捕まえた! これで親方も、俺をただの新人としてこき使うこともなくなるな!」フォックステイルの前で不敵に笑うのは、擦り切れた服に身を纏う男。「それはな、坊主、巨大な駄獣が暴れても破れない特注の網なんだぜ。どんなに暴れても無駄だからな! 逃げようなんて考えるなよ!」
「網……?! 人間はこのような方法で畜獣を増やしていないですよね!?」
つい人間らしくない言葉を吐きながらフォックステイルは必死に網の中で暴れる。しかし男はヘラヘラ笑うだけだ。
「畜獣? なんて甘い考えを! 俺たちは獣を売って大儲けしてる密猟者だぜ!」ハハッと薄気味悪く笑ったあと、男はふと頭を引っ込める。「あれ? 人間は捕まえていいんだったっけか……? まぁいい、親方に聞けば済む話だからな!」
ガハハと笑いながら男は網の口を引っ掴み、フォックステイルのことを気遣うことなくズルズルと引きずり始めた。
(痛い痛い……! この人間、なんて悪い奴なんだ! こんなもの、僕の幻炎で……)そんな時、フォックステイルの視界がボヤけた。(マズイ……! このまま力を使えば化けている分の力がなくなってしまう……! どうすれば……どうすれば……!)
フォックステイルは脳内で焦りながらも、あの逞しい彼女のことが頭に浮かんでいた。
(テンニンカ……助けて……!)
それからフォックステイルは、意識を失ってしまったのだ。