「へぇ、焔尾獣の毛並みって触ったことなかったけど、テンニンカの言ってた通り、本当にフワフワだね!」
エリジウムの快活な言葉で、フォックステイルはハッと目を上げる。
しかしそこは、あの冷たい檻の中ではなく、ロドスに与えられた自分の宿舎だと思い出してきてフォックステイルは安心する。
「毛ずくろいは、もう大丈夫です」
フォックステイルは自分の背中をブラッシングしていたエリジウムに声を掛け、人の姿に変身した。
「あ、ちょっと! ……もう少しだけ、ブラッシングさせてよ?」
とエリジウムは駄獣用のブラシを片手にこちらを覗き込む。
フォックステイルは、これがため息ってやつか、なんて思いながら息を吐き、もう一度焔尾獣に変身を解いてエリジウムのされるがままとなる。あの日から、エリジウムはこうして、フォックステイルの毛ずくろい……という名のサボりなのかもしれないが、フォックステイル自身も、エリジウムの前では本当の姿を見せてもいいという安心感があり、こうして黙ってブラッシングをされていた。
「……でもさ、いいのかい? このままで」
エリジウムがフォックステイルの尾をブラッシングしながら聞いてくる。
「何がですか?」
フォックステイルは振り向かずに聞き返した。
「テンニンカに、このまま本当の姿を知らせないままでいいのかいって聞いたんだよ。化けた姿のまま、ずっとテンニンカと一緒にいるつもり? そりゃあ人間いつかは……って君は人間じゃないけどさ、焔尾獣でもいつかは嘘がバレちゃうよ? 僕、最近子どもたちに絵本や伝説の話を読み聞かせていてね。そのどの本でも言っていたよ。嘘つきは泥棒の始まりってね。炎国の言葉だったかな……」
と一息で長々と喋るエリジウムにフォックステイルはやや面倒になりながらも、最初の一行目だけはハッキリと聞こえていてつい俯いてしまう。
「それは……いつか、僕だって……」
フォックステイルは何か言い返そうと思ったが、本当のことを告げた時にテンニンカがどう反応するのか分からなくて怖くなる。
「嘘ついてたの……?」
そう言われたら、どうしよう。
フォックステイルは、いてもたってもいられずに立ち上がった。人の姿に戻って。
「エリジウム、ブラッシングありがとうございました。大将軍様のところに行ってきます」
考えがまとまらない内にフォックステイルは自分の宿舎を後にする。
「あ、フォックステイルくん、カードキー忘れてるよ!」
そんなエリジウムの声を背中に……。