そうして、今にいたる。
テンニンカに会いに行ったものの結局何も打ち明けられずに数日経ち、フォックステイルはテンニンカと一緒にロドスの食堂にやって来ていた。
さっきまでエリジウムがいたのだが、嫌がるソーンズを連れて食堂を出て行ってしまった。食堂には何人かオペレーターたちがいるが、誰かに盗み聞きされる程近い距離に人間はいない。
「それでね、これはマッターホルンが作った特製のソースが掛かってて……」
テンニンカは一生懸命、フォックステイルに今日の昼食に出ている食べ物について説明をしてくれている。
けれどもフォックステイルには、先程テンニンカが言った言葉がずっと気になっていた。
ロドスに来る前に一緒にいた、キツネさん
そのキツネさんが、フォックステイルが焔尾獣としてテンニンカと一緒にいた自分のことだ、というのは、分かり切っていたことだった。
「……フォックスちゃん?」
テンニンカがフォックステイルの顔を覗き込んできた。
「あ、いえ……」
なんでもないです、と言おうと思っていた。なのに、口は勝手に動いていた。
「その、ホムラちゃんには、もう一度会いたい……ですか?」
聞いちゃダメなのに、フォックステイルはテンニンカに質問をぶつけていた。
「そりゃあ会いたいよ。一緒にお昼寝したいし!」
フォックステイルの心情を知るはずもないテンニンカが明るく笑う。
自分の正体のせいでその笑顔が崩れてしまうのかと思うと、フォックステイルの胸は苦しくなった。
(おかしいな……焔尾獣と人間の心臓は、ほとんど同じ形をしているのに)
どうして苦しいのか、フォックステイルには分からなかった。
「さ、食べよ!」
テンニンカはいつも通りの様子で昼食を食べ始める。フォックステイルもテンニンカを真似てフォークを掴んだが、ちゃんと返事が出来たかは分からなかった。
「あ、見つけましたよ、フォックステイルさん!」
そこに飛び込むのは、ひときわ大きな声。
ビクリと肩を跳ねさせながらフォックステイルが振り向くと、紫髪のサルカズの少女がこちらに向かってずんずんと歩いてきているのが見えた。
「フォックステイルさん、再検査です! ただちょーっとだけじっとしていたらいいのに、すぐ逃げるんですから! 今度こそは逃がしませんからね!」
この声、話し方……確かハイビスカスという少女だ。
「す、すみません、僕は……すみませんっ!」
フォックステイルは卑怯だと思いながらも幻炎を撒き散らして逃走。なんとか食堂から逃げ出すことに成功したが、フォックステイルは最近覚えた「ため息」をついていた。
「はぁ……」
また、話せなかったな。
フォックステイルは、ロドスの甲板の縁で身を小さく縮めた。