ガタン!
扉が勢いよく開く音。次には、誰かの声が聞こえてきた。
「はぁあ、ロドスって時々窮屈なんだよねぇ。ま、フラフラと稼いでいるよりは安定してるけど」
「……?」
フォックステイルは顔を上げる。どうやらフォックステイルは、ロドスの甲板の隅で眠りこけてしまったらしい。
そのすぐ近くで、誰かが光る道具を持ちながらウロウロしているようだった。フォックステイルは自分が今人の姿をしているか確認してから、少し身を乗り出した。
「よし、この辺りでいいかな……誰も見てないよね……じゃあここで……」光を持ち歩いている人間が甲板の縁に立つ。「クソフードのバカヤロー!!!!」
耳が壊れるくらい大きな声で叫ぶ人間。フォックステイルは、なぜその人間が、こんな夜にそんなふうに叫んでいるのか、とても興味が湧いた。
「クソフードはバカヤローなのですか?」
フォックステイルは本で学んだ丁寧な言葉遣いに気をつけながら人間の背中に声を掛けた。すると人間は、ひぃっと言いながら怯えた様子でこちらを振り向いた。
「僕はフォックステイルです。ここに来たばかりで、知らないことが多いんです」
フォックステイルは、エリジウムがよくやる両手をヒラヒラさせる動きを真似しながら名乗った。多分人間は、こうやって名乗るんだろうなと思いながら。
「フォックステイル……? ふぅん、道理で見ない顔ね」と言いながら、その人間は光る道具をフォックステイルに近づける。「さっきの話、ドクターには何も言わないよね?」
「ドクター……にですか? よくは分かりましたが、バカヤローのことは秘密にします」
「そ、それならいいわ」
そう言いながら、彼女は光る道具を持ち直してどこかに行こうとする。しかしフォックステイルは、昼間に悩んでいたことなんて忘れて、彼女の持っている光る道具がとても気になっていた。
「あ、あの!」フォックステイルは彼女を呼び止める。「その光る道具はなんていうのですか? 僕は深い森の……えっと、イナカ? から来たから、人間の道具に詳しくないんです」
「え、ランタンを知らない人間なんているんだ?」彼女は不思議そうな顔をし、それからニコリと笑った。「じゃあこれを売ってあげてもいいよ。そうね、値段は……」
「僕、ここに来たばかりだからお金は何も……」
「じゃあ何? あたしの子分にもなってくれるってこと?」
「子分……? 僕は、大将軍様の子分なんですが」
フォックステイルは、彼女が何を言いたいか分からずに首を傾げた。
「ああ、あのテンニンカの。ふぅん……」彼女は何か思いついたように話を続けた。「そーだ! だったらあたしの代わりに、授業に出てくんない? 礼儀作法を学ぶ授業なんて、あたし向きじゃないし!」
「え、ジュギョウ……?」
「返事は?」
「は、はい!」
「ならよろしい」
そう言うと、彼女は光る道具……ランタンをフォックステイルに渡してくれた。
「ありがとうございます……えっと」
「何? まだ何かある訳?」
「いえ、あの……お名前をまだ聞いていないなって……」
「あー、そうだったね! 授業に参加するなら、あたしの名前を名乗ってもらわないと!」彼女はニコニコ笑いながら、ピンク色の長い尻尾をゆらりと振った。「あたしはローズソルト。授業は明日の朝あるから、よろしく!」