黄金の焔旗   作:青瑠璃

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君が忘れた陽だまり

 

ーテンニンカ目線ー

 

 最近、あたしに新しい子分が出来たの。

 名前はフォックスちゃん!

 あの時のお友達、ホムラくんにそっくりな尻尾とお耳がある男の子で、あたしより数倍も身長はあるけど、ロドスではあたしが先輩だから、なんでも教えてあげるの!

「初めまして、テンニンカ! 僕はフォックステイルです!」

 なんて自己紹介してくれたフォックスくんは、本当に丁寧で優しい人だったよ。初めましてなのに、どうしてあたしの名前を知っていたのかよく分かんないけど、きっと、あたしが有名人だから知っていたんだろなって思う。

 フォックスちゃんはなんでもよく聞いてくれるし、任務の時もいっぱい助けてくれる、とってもいい子分なの。それにあたしのことを「大将軍様」って呼んでくれる。盗み食いは……ちょっと上手ではないけどね。

 それにそれに、フォックスちゃんの尻尾、本当にフワフワで気持ちがいいの! 療養庭園で一緒にお昼寝をした時に、フォックスちゃんの尻尾を抱き枕にしたら、とってもよく眠れたんだ。

 だけど最近、フォックスちゃんの様子が変なの。ロドスの廊下で見かけた時、おーいって手を振ったらすっごくビックリするし、目も合わせてくれない。

 あたし、何かしたのかな?

 そう思ったけど、なんとなくフォックスちゃんに逃げられちゃうから、全然お話が聞けなくて。だからドクターに相談したの。

「最近、フォックスちゃんが変なの。あたし、フォックスちゃんに何かしたのかな? ちゃんとお話を聞いて謝りたいよ」

 そしたらドクターが、フォックスちゃんと同じ編成で密猟犯を捕まえる任務を組んでくれたの!

 よーし、今度こそ聞いちゃうんだから!

「ねぇ、フォックスちゃん、聞いてもいいー?」

 密猟犯を捕まえる任務に出た日。あたしたちは密猟犯たちの居場所を探していた。

「なんでしょう、大将軍様……あ、そこは崖ですよ?」

「あ、そうだったね……」

「地図によると、この辺りに密猟犯が潜んでいるようですね。細かい場所が分かったら、すぐに仲間に知らせましょう」

「う、うん……」

 せっかく同じ任務に出たのに、こんな感じで全然ゆっくりお話が出来ないの!

 あたしの話し方が悪いのかな?

 それとも……フォックスちゃん、何か焦ってる?

 色々と考えたけど、難しいことは分かんない。難しいことは、ドクターに任せていたし。

 あー、こういうことならもっとドクターとお話していたら良かった!

 そんなふうに考えていると、フォックスちゃんのゆっくり揺れる尻尾が目に入った。ふわっふわで触ると心地がいい尻尾。まるで夕日みたいな暖かい感じがする色……。

 そういえば、フォックスちゃんの様子が変なふうになったのは、食堂でホムラちゃんの話をした時からだったかも。

 あの時、フォックスちゃんは不思議な質問をして……でもそれが、なんでフォックスちゃんが怒る理由になるんだろう? 考えてもわかんないよ……考えたら目が回ってくるような……。

「テンニンカさん?」

「へっ?」

 名前を呼ばれてあたしは変な声で返事をしちゃった。見上げるとそこには、フォックスちゃんがとても近いところからあたしを見つめていた。

「ちょっと、近いよ!」

「す、すみません……」

 あたしが言うとフォックスちゃんはすぐに頭を引っ込める。

 あたしもすぐに横を向いたけど、胸の中はすっごくドキドキしていた。

 ……今、あたしのこと、名前で呼んだよね?

 いつも「大将軍様」と呼んでいたフォックスちゃんが……なんで急に?

 このドキドキがなんなのかゆっくり考えたかったんだけど、そんな時間はなかった。

「危ない!」

 フォックスちゃんが叫び、あたしは押し倒された。

 声をあげることも出来ないまま倒れるあたし。背中の柔らかい草に混ざる砂利がちょっと痛かった。

 何があったの、と聞く前にはフォックスちゃんはすぐにあたしの上から避け、そばの木に刺さった矢を引き抜いた。フォックスちゃんの周りから、オレンジ色の炎のアーツがチラついていた。

「殺傷性の高い矢ですね……前に見たことがあります。これは大型鱗獣を一撃で倒せるように、人間が発明したものなんです」

 ってフォックスちゃんは冷静に言うけど、あたしの頭の中はぐしゃぐしゃだった。だって今回の任務は、危なくないってドクターが言ってた。敵がいる細かい居場所を探して、ドクターに報告するだけの任務だって……。

「もしかしたら向こうは、拠点がバレる前に僕たちを処分しに来たのかもしれません。今すぐここを離れないと……」フォックスちゃんが途中で話すのをやめる。「どうしたんですか? テンニンカさん」

 また名前を呼ばれて、あたしはなんとか落ち着こうとした。

「う、ううん! なんでもない!」あたしは何度も首を振った。「それで、あたしたちはこれから何をしたらいいの?」

「まずは移動をしましょう。ここは敵拠点に近いですから、妨害されていて通信機が使えません」とフォックスちゃんは話し続ける。「敵の通信機妨害範囲外に出たらすぐに援護の連絡をして、あなたの旗の出番ですね」

「そ、そっか! そうだよね! そうだったよね!」

 こんなに心が揺らいでいる自分に、あたしが一番ビックリしていた。落ち着かなきゃ、と思えば思う程、フォックスちゃんの声や横顔ばかり目で追ってしまう。

「では行きましょう」

 さっさと荷物をまとめたフォックスちゃんは、あたしの荷物も軽々と持ち上げて歩き出した。あたしは子どもじゃないから自分で持てるよ、と言う余裕がないから、必死に旗の持ち手を握り締めることだけに集中する。

 ドクターはいつだって、万が一何かあった時のために、色々な作戦を考えてくれていた。今は二番目か……三番目の作戦。敵にバレそうになった時に逃げる作戦のはず。

 あたしは腰にぶら下がってるリンゴちゃんに手を当てた。うん、大丈夫。何かあったら、このリンゴちゃんと旗で、なんとかする。

 ヒュッ……!

「うわぁ?!」

 何かが風を切る音がして、あたしはビックリしながら飛んできたものを避ける。こ、転んだ訳じゃないからね?

「大丈夫ですか……っ!」

 フォックスちゃんは膝をついてすぐにあたしのことを心配してくれたけど、何かに気づいて飛びついてきた。あたしはフォックスちゃんに抱えられたまま茂みに飛び込む。背後でいくつもの矢が飛んできて、生きた心地がしなかった。

「敵からの攻撃が激しくなってきましたね……」と言いながら、フォックスちゃんの周りからますます、熱くない炎のアーツがあふれ出していた。「ここは二手に分かれましょう。合流地点は、最初に森に入ってきた時の場所です。僕が囮になりましょう」

 そう言いながら、フォックスちゃんはみるみる内にどんどんと体が小さくなった。あたしがビックリしている間に、フォックスちゃんはいつの間にか、あたしとそっくりの見た目になっちゃったの!

「フォックスちゃん、それって……」

「僕の幻炎のアーツです。こういうことも出来るんですよ」そうは言うものの、フォックスちゃんの顔から疲れが出ている気がした。「敵はあなたのことをよく狙っている気がします。……もしかすると、あなたが大将軍様だと気づいているのかもしれません」

「そういうものなの?」

 あたしはよく分からなかったけど、フォックスちゃんがそう言うなら、きっと本当のことなのだと思う。

「では、僕が先にここから飛び出しますので、攻撃の方向が僕に向き始めたら、あなたは合流地点に向かって下さい。そして、大将軍様のその旗を振って、他の人の支援を待つんです。……あとで会いましょう」

 フォックスちゃんが見えない敵を睨むようにあっちを向きながらあたしに言った。あたしは、すぐには分かったって言えなかった。

「でも、そんなことしたら、フォックスちゃんは……」

 怪我をするかもしれない。あたしは言いかけたけど、フォックスちゃんは止まらなかった。

「3数えたら行きますよ」

 フォックスちゃんは、もう茂みから飛び出す身構えをしている。あたしも同じ姿勢で飛び出す準備をしなくちゃいけなかった。自分の顔はカガミってヤツで見たことはあるけど、こうしてフォックスちゃんの体から自分の横顔を眺めるのは、なんだか変な感じがした。

「1……」

 そして、フォックスちゃんが数え始める。あたしは緊張してきて、ぎゅっと旗の柄を握りしめた。

「2……」

 真横で、敵が撃ってくる矢の音が聞こえた。あたしは深く息を吸った。

「3!」

 言い終わらない内に、フォックスちゃんは茂みから飛び出した。

 フォックスちゃんの足音がどんどん遠ざかっていくのを聞きながら、敵の攻撃をする音が小さくなってくるのを待つ。大丈夫、きっとなんとかなる! あたしは、茂みを飛び出した。

 あとは走った。走り続けた。あたしの頭の上で、バサバサと揺れる旗の音だけを聞いていた。敵の攻撃は、思っていたよりあたしのところには来なかった。

 ……じゃあ、フォックスちゃんの方は?

 このままあたしは、逃げていいの? と不安になる。

 ううん、ダメだ。

 あたしは来た道を戻った。フォックスちゃんと別れた茂みのところまで来て、あたしと逆の方向に走ったはずのフォックスちゃんを追いかける。あたしの旗は今日もキラキラしている。あたしは、フォックスちゃんのそばで旗を振ろうと思っていた。その方が一番いいと思ったから。

 森の中を走っていると、またあの攻撃の音がどんどんと大きくなってきた。あたしは足に力を込めた。もっと早く走れるように……!

 きっと、この先にフォックスちゃんがいるから!

 バサッ!

 あたしは旗を大きく振り下げた。

「大将軍様!」

 フォックスちゃんの声が聞こえた。あたしは、返事をした。

「もう大丈夫だからね!」

 だってあたしには、この旗とリンゴちゃんがある!

 あたしは旗を下ろして、リンゴちゃんを掲げた。

 リンゴちゃんはあたしの手の中でキラキラと輝いた。こうすると不思議なことに、敵は攻撃を止めるの。それにこの光の中にいると、元気が湧いてくるんだ!

「大将軍様……」フォックスちゃんがあたしの後ろで呟いているのが聞こえた。「そうですよね……こんなに一生懸命な大将軍様に、僕は嘘はつけません」

「……?」

 あたしは、フォックスちゃんが何を言いたいのかよく分からなかった。一生懸命? 嘘? あたしは何度もその言葉の意味を考えたけど、全然分からなかった。

 けど、ゆっくり考えてる時間はなかった。

 ヒュッと鋭い風の音。あたしがリンゴちゃんからちょっと目を離したのがいけなかったんだと思う。敵がまた弓矢で攻撃をしてきたんだ。

「危ない!!」

 フォックスちゃんの言葉が飛び込んできて、あたしは何も出来ないまま体が傾いた。一瞬の出来事だった。あたしは、地面に倒れていた。

 赤い何かが飛び散ったのを目の前にしながら。

「フォックスちゃん!」

 あたしはすぐに体を起こした。フォックスちゃんは敵の矢を受けて地面に転がっていた。ねぇ、その肩に刺さってる矢は、今抜いていいの……? すぐ治るの……? あたしは、ものすごく早い息を吸ったり吐いたりしていた。

「ソーンズ、向こうにいるよ!」

「……分かってる」

 そこによく聞き慣れた声が飛び込んできて、あたしはどっと疲れてその場に座り込んだ。

 どうしてここが分かったのか、エリジウムとソーンズが助けに来てくれたんだ。あたしはすごく安心したけど、同時に目の前のフォックスちゃんの姿にビックリして、声も出せなかった。

 少しして、エリジウムが敵を縄に縛って近くまでやってきた。ソーンズがあたしの真横に立つ。

「正体を現したな」

 ソーンズが淡々と言葉を言う。あたしは、首を振った。

「フォックスちゃん……だよね?」

 あたしは目の前で、肩に矢を受けたまま倒れているキツネさんに、呼びかけた。

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