黄金の焔旗   作:青瑠璃

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君が忘れた陽だまり

 

ーフォックステイル目線ー

 

 助けなきゃ。

 

 助けなきゃ……。

 

 助けなきゃ……!

 

 僕は暗闇の中を走っていた。

 向こうで、テンニンカさんの背中が見える。

 あと少し。あと少しで……。

 

「フォックスくん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ……!」

 僕は目を覚ました。真っ先に見えたのは、白いカーテン。それから手の方に、誰かの温かさ。

「大将軍様……?」

 僕は人間の言葉でそう言ったつもりだったけど、上手く言えた気がしなかった。そして視線を落として見えたのは、ベッドの縁で寄りかかって眠るテンニンカさんと、僕の獣の手。

「……っ!」

 僕は色々なことを一気に思い出して飛び上がった。でも体が思うように動かなくてベッドから転がり落ちる。僕の体にくっついていた何かが複数剥がれた。

(何これ……確か人間は、これでシンパクってものを測るんだっけ……)

 僕はもう片方の手に巻きついているものを剥がそうとしたけど、獣の手では思うように取れなかった。だったらアーツで変化して剥がそうと思ったけど、僕の中に力が残っていなくて人間に変身が出来なかった。

「何か物音が……あ! フォックステイルさん、目が覚めたんですね!」そうこうしている間に、医療のロドスオペレーターの人に見つかってしまった。「今、ケルシー先生を呼んで来ます! そこを動かないで下さいね!」

「ガウッ!」

 待って、と言いたかったけど、僕の声は威嚇みたいになって伝わらなかった。そのまま医療オペレーターはどこかに走って行ってしまい、僕はなぜかコードに絡まってますます動けなくなるし、どうしたらいいか分からなかった。

「なんの騒ぎ……ってフォックスちゃんがいない!」

 次はテンニンカが目を覚ましたようだ。隠れなきゃ、と僕は思ったけれども、コードはますます絡まるし動けないしで何も出来ない。

「フォックスちゃん!」

 間もなく、テンニンカさんに僕は発見されてしまった。獣の姿で。

「クゥ〜……」

 言い訳をしようにも、僕は情けない声しか出せなかった。

「絡まっちゃったの? しょうがないなぁ……解いてあげる!」

 けれどもテンニンカさんは、いつも通りの調子で僕に近づいてきた。

 僕の正体に、気づいていない……?

 いや、でもさっき、医療オペレーターに「フォックステイル」と呼ばれたのである。あんな間近で寝ていたテンニンカさんが、僕の正体を知らないはずがない。

「こうやって、こうして……あれ? どんどん絡まってる? 変だなぁ……」

 僕が考え込んでいる間も、テンニンカさんは一生懸命、絡まったコードを解こうとしてくれている。僕が正体を隠していたことを、全く悲しむこともなく、全く怒ることもなく。

 僕は、暴れるのをやめてテンニンカさんがコードを解こうとしている彼女の手を見つめた。テンニンカさんの声が僕の目の前で優しく響く。まるで僕たちのいるところだけ、見えない縄張りの壁で世界から切り離されたみたいだ。

「テンニンカさん」

 僕はテンニンカさんの手に、自分の前足を乗せた。だけど不思議と僕は息をするようにアーツを使って、それは前足ではなく、人間の手になっていた。僕が、フォックステイルとしてここに来た姿で。

「なぁに、フォックスちゃん。もう少しで、取れるからね」

 テンニンカさんは、さっぱり緩みもしないどころか、僕が人の姿になったことでますますキツくなったコードを前に、穏やかに話している。

 目を、合わせて欲しい。僕は、あなたの丸くて優しい瞳が好きだ。

「ホムラって、もう呼んでくれませんか?」

 ごめんなさいでもなくて、こっちを見てでもなく。どうして僕は、そんなことを言ってしまったのだろう。

 テンニンカさんの手がピタリと止まった。僕は俯いた。僕の人間の手が、テンニンカさんの手の上に重なったままだった。思えば、こうしてテンニンカさんを触ったのは、ここで初めてだったかもしれない。

「やっぱり、あの時の『ホムラ』ちゃんなんだね」

 こんなに近くにいるのに、テンニンカさんの声が、遠くから聞こえるみたいだ。

「……はい」

 ずっと、言おうと思っていたんです、という言葉を僕は飲み込んだ。

 僕は、顔を上げた。

「あの、テンニンカさ……」

「おかえり!!」

「わっ?!」

 今度こそ謝ろうとしたのだ。でもそれより早く、テンニンカさんが飛び込んできて僕は続きを言えなかった。

 僕はどうしたらいいか分からず、テンニンカさんの背中に腕を回した。テンニンカさんは、僕の胸の中で震えていた。

「会いたかったんだよぉ……元気で良かった!」

 テンニンカさんの言葉は、それだけだった。

 

 ああ、彼女はこんなにも美しい。

 

 「優しい」という一言じゃ足りないくらい、僕はテンニンカさんのことがたまらなく愛おしいと感じた。

 

 僕は、テンニンカさんの背中をさすった。さっきの勢いで、いくらかコードが緩んだみたいだ。僕は少し、体の動きが自由になっていた。

 

「ごめんなさい、テンニンカさん」

 

 ようやく言えた。僕の、陽だまりに。

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