「はい、これ! フォックスちゃんのおかげでゲット出来たから、半分分けてあげる!」
ロドスの人通りが少ない通路の隅。そう言いながらキッチンでの戦果を分けているのだろうテンニンカの声が聞こえた。
「新人もなかなか上手いことをやるね!」
そこにエリジウムがわざと大きな声で割り込めば、テンニンカはビクリと肩を震わせて手にしていた紙袋を後ろに隠そうとした。けれどもテンニンカは声の主がエリジウムだと分かると、安心したように肩から力を抜いた。
「なぁんだ、エリジウムだったのね」そう言いながらテンニンカは、紙袋に入っている細長めのパンを取り出した。「はい、これ! ジェイからいっぱいもらったから、二人にも分けてあげる!」
とテンニンカは次々にパンを取り出してエリジウムとソーンズに渡す。ありがと、と言ってエリジウムはパンに齧りつこうとしたが、肝心の新入りはパンを潰れるくらい握っていて俯いていた。
「どうしたの、新人さん? パン、食べないなら僕がもらっちゃうよ?」
半分冗談のつもりでエリジウムはフォックステイルの顔を覗き込む。フォックステイルは、ハッとした顔でテンニンカの前で両膝をついた。
「大将軍様、これはなんでしょうか? リンゴより柔らかいのに、葉っぱみたいに軽いです」
そうやってなぜかエリジウムを無視してテンニンカに教えを乞う様子は、ただ質問をしているというよりは、崇拝しているように見えた。他の人たちには、いつもうるさいとか静かにしてと言われているエリジウムからしたら、新鮮な反応だったのだ。
「ん〜? これはパンだよ! ロドスのパンはとっても美味しいの!」しかしテンニンカは、フォックステイルの過剰過ぎる態度を気にすることなく、自分が手にしているパンをひとちぎりした。「はい、あーん。口を開けて? 食べてみたら分かるよ!」
「わ、分かりました……」
まさかこんなところで「あーん」を始める二人に、エリジウムは思わず、隣にいたソーンズの両目を塞いだ。(後で思えばなぜそんなことをしたのか、エリジウム自身も説明出来なかったが)。
しかし二人は、恋人たちがする甘いあーんとかではなく、テンニンカの無邪気さと困り顔のまま口を開けるフォックステイルが映るだけで、特別そうな雰囲気は不思議としなかった。まるで、昔からそうしていたみたいに。
「おい、やめろ、エリジウム」
ソーンズの冷ややかな声でエリジウムは我に返って手を引っ込める。ソーンズを見やっても、まだ端末の画面を眺めたりタップしたりしている。
「ん! おいひいでふ、大将軍様!」
一方のフォックステイルは、テンニンカの特大一口サイズのパンを頬張りながら顔を綻ばせた。嬉しそうに揺れるフォックステイルの尻尾が、バシバシとエリジウムの足に何度もぶつかった。
「何この状況……? 僕だけ取り残されちゃった感じ?」
とエリジウムが零せば、フォックステイルもようやくこちらの存在に気がつき、あ、いたんですね、みたいな反応をしながらテンニンカとエリジウムたちを交互に見やった。
「あの、大将軍様、こちらの方々は……?」
フォックステイルはようやく、エリジウムたちの名前を聞くようになったようだ。