「へぇ……! あなた様がエリジウムで、こちらはソーンズなんですね!」
テンニンカのことは「大将軍様」呼びに対し、エリジウムたちのことは早速呼び捨てにするフォックステイル。敬語なのにアンバランスな口調だなぁとエリジウムは思ったが、そんなことを気にしないのもエリジウムであった。
「そうそう! 良ければ僕のことを、百年に一度のイケメンって呼んでくれてもいいよ?」
とエリジウムは明るく言ったが、フォックステイルは難しい顔をした。
「ヒャクネン……? イケメン……? それは、アーツを使う時の呪文でしょうか?」
フォックステイルはエリジウムに向かって首を傾げる。おっと、この言い方は難しかったかもな、とエリジウムは言葉を選び始めたが、横にいたソーンズが、
「コイツの話はマトモに取り合わなくていい。ただのバカだ」
なんて二言目には余計なことを付け足す。エリジウムはソーンズに食ってかかろうとしたが、フォックステイルはかなり真面目だった。
「なるほど……! エリジウムはバカと呼ぶのですね! 覚えておきます!」
「いやいやいや、違う違う!」
エリジウムは必死に否定し、なんとかフォックステイルに余計な名前はつけないでくれと説得したが、テンニンカはその間助け舟を出すところかケラケラ笑うばかり。なんでこうなっているんだろうと思いながら、そういえば彼はなぜテンニンカのことを「大将軍様」と呼んでいるのか気になった。
「ところでフォックステイルくん。テンニンカのことを大将軍様って呼んでるのは敬愛の印(しるし)? 前どこかでテンニンカと会っていたとか?」
エリジウムはただの興味本位で聞いたことだった。だが何かマズイことでも聞いてしまったのか、フォックステイルは耳を逆立て、それは、その……としどろもどろになる。エリジウムは何かおかしいな? と不審に思ったが、そんな空気を切り裂くのが、テンニンカだった。
「そんなことより、フォックスくん! まずは二人に握手をしよ!」とテンニンカが割り込む。「ドクターから聞いた? 握手っていう仲良くなるためのおまじないがあるんだって!」
そう言いながらテンニンカは背伸びをしてこちらに手を伸ばすので、エリジウムはよく分からないまま膝を曲げて手を差し出す。もう片方の手にはフォックステイルの手。エリジウムとフォックステイルは、半ば強引に握手をさせられたのだ。
「握手ですね! 僕も先程、ドクターから聞きました!」
そんな純粋そうなフォックステイルがエリジウムの手を握った瞬間。エリジウムの手に激痛が走った。
「痛い痛い痛い! ちょっと、力強過ぎない?!」
エリジウムは悲鳴をあげた。しかしフォックステイルは全く悪意がない様子。何この握力! マッターホルンとは普通そうに握手をしていたのに!
「えっと、何か間違いでもあったでしょうか……?」
フォックステイルはすぐにエリジウムから手を離し、こちらを心配そうに見つめている。本当に痛がっている理由が分かっていないみたいだった。
「大袈裟だ」
しかしソーンズはエリジウムの反応が嘘だと思ったようで、テンニンカに促されるままフォックステイルと握手をした。ソーンズはピクリと片眉は動いたが、ほとんど涼しい顔をしてこう話し続けたのだ。
「力が入り過ぎているな。ここの力を抜くといい。それとここ。……力の抜き方が分からない? なら葉っぱを破かないように静かに歩くイメージをするんだ。……そうだ、その調子でもっと力を抜け」
それこそソーンズの研究魂なのかなんなのか、フォックステイルの手や肩に手を置き、しかもいつも小難しい言葉を並べているあの研究者とは思えないくらい易しい言葉でフォックステイルに力の抜き方を教える。するとどういうことか、フォックステイルの手から、これでもかと目に見えていた力強さがみるみる内に抜けていったのだ。
「わぁ……すごいです、ソーンズ! これが本当の握手なんですね!」
フォックステイルは嬉しそうにその場で跳ねた。この人、成人男性なのか? と疑う程無邪気に。
心なしかソーンズも満足そうだし。やっぱり、自分はここに取り残されているのでは、とエリジウムは思った。
「では大将軍様! 僕と握手しましょう!」
そして屈託のない笑顔で、フォックステイルはテンニンカに手を差し伸ばす。やはりテンニンカの前では、片膝をつくのが彼のお決まりらしい。
「うん! 握手!」
そうしてフォックステイルは無事に(エリジウムの手は腫れたが)テンニンカと握手をかわした。