エリジウムは、人の秘密はバラさないタイプだ。
とはいえこの衝撃的事実は、きっと誰に言っても信じてくれないだろう。
……フォックステイルが、実は焔尾獣でした、なんて。
「珍しい顔をしているな」
フォックステイルのまさかの事実にボーッとしていたエリジウムに声を掛けてきたのはソーンズだ。ソーンズはエリジウムの前にカップを置き、向かいの席に腰を下ろす。エリジウムの耳にロドスの賑やかさが戻ってきて、そうだ、ここは食堂だった、なんて思い出す。
「この前僕がフォックステイルくんを助け出した時のことを思い出していたのさ。君にも見せたかったなぁ、僕の英雄っぷりを!」
とエリジウムはいつものように饒舌っぷりを披露した。
ところがソーンズもいつも通り、そうか、とだけ返して涼しい顔。エリジウムは相変わらず澄ましてるなぁと思いながら、その澄まし顔を崩してやりたいと、ついフォックステイルの本当の姿の話をしたくなってしまう。
「……なんだ?」
ソーンズが不思議そうにこちらを見つめ返した。エリジウムは激しく首を振った。
「いやいや、なんでもな……ぶっ、何これ! 飲み物じゃないじゃん!」
「ふっ、俺が置いたカップを勝手に飲むからだ」
「普通さぁ、目の前にカップ置かれたら飲み物の差し入れって思っちゃうじゃん!」
「さぁな」
そんな茶番劇みたいな会話をしているエリジウムとソーンズのいる向こうから、テンニンカの声が聞こえてきた。
「いいー? フォックスちゃん、今日は盗みをせずにいつものよーに美味しいご飯を食べるからね!」
とテンニンカは得意げにフォックステイルに話しかけながら食堂に入ってくる。
「はい、大将軍様!」
フォックステイルは嬉しそうにパタパタ尻尾を振っていて、エリジウムは(いつまで自分が焔尾獣って隠してるんだろな)と思った。
そんな時、テンニンカの視線がエリジウムとぶつかった。
「あ、エリジウムとソーンズ! あの近くの席に座ろう、フォックスちゃん!」
とテンニンカが言うところ、どうやらエリジウムたちのそばで昼食を取るようだ。
「はい! 大将軍様の言うところならどこへでもついて行きます!」
フォックステイルはずっとそんな調子だが、テンニンカがふと彼の尻尾に目が向いた。
「フォックスちゃんの尻尾って、ホムラちゃんみたいだよねぇ」
テンニンカの唐突な発言に、パタリと動きを止めるフォックステイル。フォックステイルは真剣そうな顔になってテンニンカにこう聞いた。
「そのホムラちゃんって、どういう方なんですか……? ロドスのオペレーターの方ですか?」
「ううん、ロドスに来る前に一緒にいた、キツネさんのこと」とテンニンカは答えながらエリジウムのそばで持ってきた昼食をテーブルに置いた。「焔尾獣って言うキツネさんでね、一緒に旅したり、一緒にお昼寝したりしたんだよ!」
あの時はとても楽しかったなぁと、テンニンカは旅路を懐かしそうに語っていたが、衝撃を受けたようなフォックステイルの顔を見て、エリジウムは全てを察した。
「よし、ソーンズ、僕たちはそろそろ、お暇としようか!」
エリジウムは立ち上がり、ソーンズを連れ出して食堂を出ようとした。
「俺はまだ来たばかりなんだが」
とソーンズは、机に置いている昼食ではなく、自分の実験結果が記された端末を眺めているが、エリジウムは構わずソーンズの肩を引いた。
「いいからいいから、早く行くよ!」
「おい、引っ張るな、エリジウム……」
エリジウムは引きずるようにソーンズを食堂から連れ出しながら、こう思っていた。
(二人の恋路を邪魔する訳にはいかないからね!)