転移者たちの代理戦争 作:蕎麦味噌オンザライス
次に決めるのは部隊長。
「前衛・後衛・支援に分かれて、部隊長を話し合ってください」
壇上に上がった高宮さんの言葉に、多くの人が動いていく。
前衛は何故か俺の所に人が集まってしまったので、探知能力を生かすために支援の方に来ますと告げて離脱した。
そのため、前衛はオールウェイさんの所に集まることになり、彼女を中心に話し合いが始まっている。
後衛は元先生の姪だからか、天ヶ崎さんのもとに。
支援の二人はちょうど中間に集まっていた。
本当はここに元先生も加わるんだけど、あの人は副隊長だから今回はいない。
もといた二人、長谷くんと九条くんは、近寄ってきた俺を見て怪訝とした表情を浮かべる。
「俺はミュールさんと組んで探知するのがメインになるから、支援の方に来たんだ」
それで一応納得したのか、二人は頷きを見せた。
そして沈黙。
まあ誰が発言しても同じだろうと思い口を開きかけると、
「俺は取り敢えず無理だわ」
と九条くんが言った。
俺と長谷くんの視線を受け、彼は説明を始めてくれる。
「俺ってシーフとかの斥候みたいな能力なんだけどさ、動き回らなきゃいけないやつが人を纏めるなんてありえないっしょ」
確かに。
そう納得したところで、長谷くんが「俺もそうだよ」と口を開いた。
「黒板に書いた通り、俺ってどっちかって言うと生産職だからここにいるけど、戦闘中は前衛みたいなもんだし。その間は召喚獣に命令は出せないよ」
「戦闘で言えば、俺もですね。前に出るならミュールを後衛に残せませんし」
長谷くんの言葉が終わるのを見計らって、俺も同じような境遇であることを明言しておく。
その上で、俺は言葉を続けた。
「代理での部隊長、ということにしたらどうかな」
「代理?」
問い返す長谷くんに俺は頷きを返す。
「この際、天ヶ崎先生に部隊長も兼任してもらうんだ。あの人が副隊長の任から離れられない場合には、代理の部隊長として働く。それなら、俺が部隊長として登録しても問題ないよ」
「あー……いいんじゃね?」
「俺も。あとは、先生が認めてくれるかだね」
人数が少ないと、揉める原因が減るからこういう時に楽だ。
そんなことを考えながら、俺は元先生の所に向かい、俺たちの結論を説明した。
流石に苦笑こそ浮かべたものの、能力的に他の選択肢はあり得ないと納得したんだろう。
元先生は俺たちの提案を承諾する。
「わかりました。では、基本的に私が兼任しますので、非戦闘時には私の指示に従ってください。ただし、長谷くんと頬凪くんは、戦闘参加時には前衛の部隊長の指示に従ってください」
「わかりました」
「了解です」
こうして、支援部隊の話し合いは終了。
因みに召喚獣は「担当する部隊長の指示に従って」と言えばそうするし、召喚獣同士で上下関係を作らせることは不可能なので、話し合いには参加しない。
それから少しすると、前衛、後衛共に話し合いは終了。
無事、各部隊長が決定した。
黒板に書かれていく役員の名前。
隊長、高宮楓。
副隊長、天ヶ崎竜馬。
前衛部隊長、波多野秀。
後衛部隊長、弓場鏡花。
支援部隊長、天ヶ崎竜馬。(代理、頬凪藍)
「既にどこかの組織に所属している人は、説明が難航するようであれば私と副隊長も同行します。本格的な訓練は三日後の真円日からです。参加できない人は部隊長や、私か副隊長に連絡してください。本日の会議は以上です。……解散」
さすがに今日はもう道場には間に合わないか。
そう考えている矢先。
「アオ、決闘の時なんで雷避けられたの!?」
身を乗り出すように椅子を寄せながら、オールウェイさんが訊ねてきた。
本当のことを話すべきか?
話して、何か不都合はあるか?
足りない頭で考えて、
「探知で、魔力の流れが視えるようになるんだ」
と正直に答えた。
秘匿するメリットよりも、この場で共有し、今後に生かすメリットのほうが大きいと判断したからだ。
すると一瞬の間があって、「ホント!?」と驚愕の声が教室に響いた。
「なら、魔術も避けられるってこと!?」
「そう単純な話でもないよ。範囲が広かったら速度の問題で逃げられないし、魔銃みたいに発動が極端に早ければこちらも避けきれない」
「そ、そっか」
過大評価をされても誰のためにもならないから、正直に言っておく。
せっかく盛り上がっていたのに水を差すような形になってしまったけど、空気を読もうとする本能と合理的な判断をしようとする理性が戦えば、天珠の保護がある理性が勝ってしまうのは当然だった。
「じゃあ、あの突きを躱したのも探知のおかげだったりするの? 先読みみたいな」
そんな能力が有ったらいいな、と思って苦笑する。
「いや、流石にそこまで便利な能力じゃないよ」
「じゃあやっぱりすごいじゃない! 本当にヘタレだったら、あんな風に突っ込んでいくなんて絶対できないよ!」
「ありがとう」
本心からのお礼だった。
関わった時間こそ短いけれど、高宮さんとのやり取りを見ていれば、彼女が裏表のない人だっていうことは分かる。
そして今の言葉を口にした様子も、高宮さんと話している時との差は感じられないから、本心で言っているんだろう。
だから、素直に嬉しかった。
それが珍しく思えたのかもしれない。
一瞬ぼうっとしていたオールウェイさんは、すぐに晴れやかな笑顔を浮かべた。
「どういたしまして。これからは同じ――」
と、そこまで言いかけてオールウェイさんは言葉を詰まらせた。
だが、探知している状況にこれといった変化はない。
彼女の中で何かあったのかと言葉の続きを待っていると、オールウェイさんは壇上で話している隊長と副隊長に目を向けた。
「……この組織の名前、考えてないじゃん」
「「「 あ 」」」
時すでに遅く、数人はすでに帰宅中。
結局、三日後の訓練開始時までに、各自で案を考えておくということになった。
不完全燃焼というか、ちょっと残念な空気に包まれる。
そんな中、高宮さん……隊長が俺に声をかけてきた。
「頬凪くん、まだ時間はある?」
「うん。大丈夫だけど、どうかした?」
「ここでは話しづらいことだから、場所を変えましょう」
まだ話し足りなかったのか、拗ねたように顔をしかめるオールウェイさん。
そんな彼女を隊長が宥め、俺たちは別の教室に向かった。
そこは同じ校舎にあるものの、規模はかなり小さい個室のような部屋。
導かれるまま椅子に座り、対面する椅子に座った隊長が口を開く。
「頬凪くんも知っての通り、私たちアルスの代理人には幾つかの組織があります。そこに新しく召喚士の組織も加わって、6つ」
〈生徒会〉〈武術部〉〈魔術部〉〈弓道部〉〈射撃部〉、それと〈召喚士(仮)〉か。
数えて首肯した俺に頷きを返して、隊長は「でも」と言葉を続けた。
「本当はもう一つ組織があるの。これは外の敵を倒すためのものじゃなくて、私たち代理人を取り締まるための裏の組織。私たちはこれを〈風紀委員〉って呼んでる」
わかりやすい名前だ。
わかりやすいからこそ、逆にうっかり口にしても、実際に活動している組織と思われにくいのかもしれない。
「名前は初耳かもしれないけど、頬凪くんももうその活動に触れてる」
「……この前の、魔術を使って妨害した男子を捕まえてた人たち」
隊長は首肯する。
まあ俺に話すタイミングとしては他に思い当たることが無かったし、隊長も言い当てられたからといって特に驚きはしなかった。
「気付いてると思うけど、私もそこに参加してるし、召喚士で言えば九条くんも〈風紀委員〉の一人」
「それ、教えていいの?」
まあ内部の情報を晒したのは俺の逃げ道を塞ぐためだろうし、俺の質問は先に進めやすくするための呼び水だ。
それを察しているのか、隊長は苦笑気味に微笑んで、俺の問いに答える。
「貴方も参加すれば、問題ないからね」
まあだいたい予想通り。
あの時実際に役に立ったように、取り締まる側として見れば、ミュールさんの探知はかなり有用な能力だと思う。
ただし、気になる点が二つ。
「隊長もそうだけど、掛け持ちして大丈夫?」
「も、もう隊長呼び……? まあいいけど……うん。掛け持ちは大丈夫。有事の際に〈風紀委員〉として動くだけで、普段から何か活動してるっていうわけじゃないから」
「成る程……。なら大丈夫そうだね」
俺の返答を受けて了承を感じ取ったのか、隊長の頬が緩む。
でも、俺にはもう一つ解決しなきゃいけない問題があった。
「実は俺、寄宿舎から出るつもりなんだ」
「え? そ、そうなの?」
寄宿舎を出る人は少なからずいるし、中には結婚した人もいる。
だから別に意外なことではないはずだけど、隊長は少し驚いているようだった。
ともあれ、俺の話はまだ途中。
「引っ越しの先は、郊外にあるハルス道場」
「名前だけは聞いたことがあるけど……遠いの?」
「それなりにね。連絡をもらっても、駆けつけるとしたら時間が開いてしまうと思う」
俺の状況を聞いて、隊長は考え込むような仕草を見せる。
一応、考えを捕捉できそうな情報は渡しておくべきか。
「学校にいたり、いる場所によっては探知が届くかも」
「そう……。なら、通信機の配給を申請してみる。一応連絡はするから、協力できるようなら参加してくれる?」
「わかった」
こうして、俺の〈風紀委員〉参加が決定した。
すべき話は終わったのか、隊長は一息ついて身体から力を抜く。
ミュールさんの探知能力は確かに貴重だけど、そこまで重要視していたんだろうか。
そう考えた直後、彼女は召喚士の隊長も任されたばかりだと気付いた。
今の脱力も、精神的な疲れが大きいんだろう。
「お疲れ様」
「……大変なのはこれからだと思うけどね」
そう言って苦笑する隊長に、諦念や捨て鉢だったりする感情は見られない。
純粋にこれからのことを考えて、その責任を少しだけ客観視しているような雰囲気だった。
ある意味無防備な状態だと思うけど、俺のことは男として見ていないらしい。
ミュールさんがいるとはいえ、密室に異性と二人きりのような状況。
そうでもなければ、こんな状態でリラックスなんてできないでしょ。
俺だって天珠が無ければどうなってたかわからない。
……たぶん。よくわからないけど。
そんなことを考えていると、何かに気付いた隊長の視線が、どんどん鋭くなっていく。
心でも読まれたのか?
俺は先程の思考を後悔した。
「さっき言ってたハルス道場だけど……確かあそこ、男子禁制じゃなかった?」
と思ったら、全然違うことを突っ込まれた。
いや、俺が女だって勘繰ってるわけは無いだろうし、全然でもないか。
いわゆるハーレム状態。
聞く人が聞けば、そう勘違いする人がいるかもしれない。
そう自分でも思っていたことだ。
「似たようなものだけど、ちゃんと師範や門下生の方たちには了承を得てるよ」
「そ、それは当然でしょ!」
どうも納得がいかないご様子。
「もう一人男の先輩はいるし、俺の天珠のことは話してあるからね。そういう人間じゃないってことは、この一年で理解してもらえてるんだと思うよ」
煩悩や欲望が働かない人間。
そんなの人間らしくないと俺は思うけどね。
ともあれ、天珠のことでようやく納得してくれたらしく、隊長は落ち着きを取り戻していく。
一つ息を吐いて完全に切り替えたのか、普段通りの様子で疑問を口にした。
「不動の精神、だったっけ。その……噂でしか知らないんだけど、具体的にどんな効果があるの?」
授かった天授は本当ならべらべら話すような物ではないし、他の転変者にも正確に教えたわけじゃない。
だけど、今後のことも考えて、隊長には説明しておいた方がいいかもしれない。
そう結論付けて、俺は答える。
「理性を馬鹿みたいに強化して、動揺とか欲求とかを起こさないようにしたり、精神干渉の類を無効化する能力、かな。精神干渉の方は、試してないからわからない」
「理性……そっか。それで」
なんか、すごく納得された。
まぁここを突っ込んだら確実に藪蛇な気がするからスルー。
「精神干渉は訓練の時にでも試してみよっか」
「そうだね。その時はよろしくお願いします」
一も二もなく同意する。
本当に防げるかどうかを知っておきたかったし、願ったり叶ったりだ。