転移者たちの代理戦争 作:蕎麦味噌オンザライス
君の生来の得意項目はこれで、苦手項目はこれだよ。得意なのを伸ばすのも苦手なのを補うのも君の自由だよ、転移後の指標にしてね。って感じで見せている感じ。
本来、学院は超難関とされているアルセイド最高の教育機関であり、ここに入学できた者はそれだけで二代の安定を約束されるとさえ言われている。
そこに俺みたいな日本生まれの高校生が入学できたのは、偏にアルスという神が口添えしたからに過ぎない。
事の起こりは、俺たち南秀和高校の一年が乗る林間学校のバスが、トンネルの崩落に巻き込まれたことに始まる。
崩落とガス爆発に巻き込まれた317人の生徒と16人の先生は、気づくと謎の空間にいた。
混乱していた先生と生徒の前に現れたのは、水墨画で描かれる仙人のような老人。
老人は自らを“アルス”という名の神だと名乗った。
そこから一波乱あったものの、実際に神の力を見せられたことで混乱は収束し、それを満足げに眺めてから神・アルスは言った。
「今から、汝らを以前とは異なる世界へと送る。汝らの世界を統べる神には許可を貰っておる故、断っても故郷に帰る術は無い。死を回避できた対価と思えばよい」
当然、異世界に送られる理由を訊ねる者が現れる。
それに対して神・アルスは言った。
「汝らの向かう世界には、多くの神が存在する。これがまた仲が悪くての。しょっちゅう喧嘩しては世界を混乱させておったのじゃが、いよいよ秩序を司る神がぶちギレてしもうた。このままでは世界が崩壊する故、代理の者を立てて争うことと決めたのじゃ」
そこで決められたのは、代理人は異世界から呼ぶこと。最大数は400人。力を与えるのは転送する際に限り、一人につき二つの能力とすること。管轄地の人間であれば、代理人の協力者にしてもよいということ。自他の代理人が何をしようと干渉しないこと。
纏めてしまうと、こんなところだった。
色々な質疑が交わされたが、秩序の神は原初の三神と呼ばれる一柱であり、強大な力を持つその神に刃向かうことはほぼ死を意味し、その危険を冒してまで代理人に肩入れする神はいない。だからこそルールを破ることはできないし、破る神もいないだろうという話だった。
「では、天珠を授けようかの」
天珠とは一人につき二つ授けられる能力のことであり、これには全員が大人しく従った。
天珠には相性というものがあるらしく、本人の希望とは違ったものが授けられることも多かった。
それでも提示されたものとは別の天珠を強く望む者には、神・アルスもその能力を授けてくれたけど、相性が下がるからどうしても格が落ちる天授になったらしい。
周りの会話を聞いている限りでは、授ける二つというのは制限された数ではなく上限であり、力を授ける上で最高の待遇なんだとか。
そしてその二つの枠のうち、一つは本人の魂と関係した能力しか当て嵌まらず、もう一つは身体と関係した能力しか当て嵌まらないというんだから、そりゃあ適性を無視して当人の要望だけで選べば格が落ちるのも仕方ないよね。
そうこうしているうちに俺のクラスの順番になり、あまり時間を置かず俺の順番がやってきた。
会話がしやすいように合わせてくれているのか、神・アルスは人間と変わらない背丈をしていて、まっすぐにこちらを見つめる茶色の瞳は善も悪もない。それはまるで、赤ん坊のように純粋なものにも思えた。
疲れを感じせない微笑みを湛えていた神・アルスだけど、暫く俺を見ていたかと思うと、不意に困ったように眉尻を下げた。
「おぬしも転変者のようじゃな」
「てんぺんしゃ、ですか?」
「然様。前世で何か奇異な末路を辿った魂には、次の生には同じ道を辿らぬよう魂に楔(くさび)が刻まれるのじゃ」
「楔、ですか……」
前世の俺は、何か重大な過ちを犯したのだろうか。
そう考えていた俺の内心を呼んだのか、神・アルスは笑った。
「奇異な道と言っても、そこには外道のような負の道だけでなく王道のような正の道も含まれる。楔とは言え、それも一種の才能。天珠じゃ。生かすも殺すもお前さん次第じゃよ」
「そう、ですか……。ありがとうございます」
「なに。他の転変者にも同じことを言っておる」
そう言ってにこりと微笑む姿は、神というよりも優しいおじいちゃんのようだ。
「ふむ……おぬしの楔となる天珠は【不動の精神】というもの。物事に動揺しなくなり、精神干渉の術を無効化するものじゃな」
言われてみれば、昔から「動じない子」「子供らしくない子」「気味の悪い子」とか言われてきた。
それは、この天珠のせいだったんだろうか。
考えだした俺の思考を遮る様に、神・アルスは俺に問いかけてくる。
「さて、残された天珠は身体と相性の良いものじゃが……ふむ」
そこで言葉を止め、神は考え込む様に腕を組み、俺の目を覗き込む。
「おぬしにとって、戦いとはなんじゃ」
「戦い、ですか……?」
俺は考えた。
喧嘩、試合、殺し合い、戦争……相手を害すること、自分の身を守ること……色々なものが思い浮かぶけど、その度にこれじゃないと否定する。
そして行き当たる。
「相手を制すること、です」
「……成る程の。では、おぬしには【格闘術の極み】を授けよう」
格闘術。
その言葉の範囲を測りかねた俺に、神は捕捉をくれる。
「これは身体を使った武術の才能を極める者の天珠じゃ。しかし間違えるな。これは修練を積むことで極めることができるという指標であり、何もせずに極められるという無償の力ではない」
「はい。ありがとうございます」
俺が慢心していないことを察してくれたのか、厳しい表情だった神は好々爺然と破顔する。
「最後に、現時点でのおぬしの身体能力を視覚化する。前の者たち曰く、すてぃたす、というやつじゃ。こちらも指標とするがよい」
「はい」
STRが高ければ攻撃重視、AGIが高ければ速度重視にすればいい……のかな?
そんなことを考えながら俺は頷き、表示された数値を見て戸惑った。
特化型だとか万能型だとか、そういうレベルですらない異常な部分が二か所。
生命力 :2345
体力 :1990
→魔力量 :5
→精神力 :85597
筋瞬発力 :534
筋持久力 :539
記憶力 :523
魔力操作 :300
集中力 :981
魅力 :478
魔力量が異常に低い。精神力は不動の精神で納得できるけど、これだけ一桁だった。
俺が視線を向けると、神(おじいちゃん)は気まずそうに眉尻を下げる。
やっぱりこれは異常なのか。
そう確信しつつ視線をステータスに戻すと、神は若干抑えめの声を発した。
「おぬしの察している通り、この魔力量は異常に低い。……例えるならば、赤子以下じゃな」
赤子……以下ですか。
「これでは、初級魔術も打てんじゃろうな。魔銃なら……そもそも起動できんか。……道理で相性のいい魔術の天珠が一つも見当たらんわけじゃ」
「はぁ……なんだか、申し訳ないです」
「い、いや、肉体強化には精神力を消費して発動するものもある。他の数値を鑑みれば、戦うには申し分なかろう」
神様にフォローさせてしまった。
魔法操作なんて絶対使ったことのがないものが300あるところから察するに、たぶん普通の人の数値が300なんじゃないだろうか。だとしたら、赤子以下っていう評価も頷ける。
まぁ無いものは仕方ない。そう踏ん切りをつけ、魔術は諦めることにした。
「ありがとうございました」
「う、うむ。すてぃたすの詳細な数値は口外せぬようにな。これは全員に言っておる」
「わかりました」
神様さえドン引きする魔力量を誇る俺は列から外れ、適当なところに向かって歩いて行った。
ふと気になったけど、直後の人の少し驚く様な反応から察するに、天珠を授けてステータスを見せている間は時間の流れが変わってるのかもしれない。
300人以上も面談してたらかなり時間がかかるしね。
ともあれ、そうして天珠を授け終えた俺たちはまとめてアルセイドに転送。
そこで待っていたのはアルセイドの大統領と議員たちであり、神のお告げを聞いた彼らは俺たちを神の代理人として快く受け入れてくれた。
そして、俺たちを教育する場として学院の入学を許し、補助金まで与えてくれた。
それから一週間くらいが経った頃だろうか。
学院で学ぶうちに、俺たちには明確な線引きが出来ていた。
最初にできたのは、いわゆる戦闘職とそれ以外の区別。
戦闘に不向きな天珠を授けられた者や、こちらで学ぶうちに争いが怖くなった者は文官や国民としてアルセイドの国力強化に努めるようになった。
この区別は、各々の能力を最も生かせる環境への住み分けだから、特に何の問題もなく受け入れられた。
でも、次第に戦闘職の中にも区別が生まれた。
それは「優秀な者」と「そうでない者」の二つ。
日本でもそうだったように、優秀な者の中にはそうでない者を蔑ろにする者も出てくる。
そして潜在的とはいえ、スクールカーストのようなものも存在し始めた。
それも、はっきりと顕在化した力量による新しい序列。
かつてのカースト上位者が、面白くない思うのは当然だろう。
そうして、不穏な空気が流れ始める。
苛立ちは自分よりも弱い者へと向けられ、区別はより明確に……そして、両者の溝は深まっていった。
俺はといえば、「戦闘向き」のうち、「優秀ではない者」に含まれる。
何と言っても、魔術や魔銃のような武器が使えないっていうのが大きい。
だって近づけないし。
一人に近づけたとしても、その人が魔術障壁を張って周りの人が撃ち込んで来れば、全て対処することなんてできないし。
なら、魔術を使わない魔物を相手にすればいいのでは?
そう思ってギルド主催の討伐隊に参加してみた結果、俺は自分の致命的な欠陥に気付いた。
気付かされた。
俺は、生物を殺そうとすると体が拒否反応を起こす体質らしい。
それも普通の獣だけでなく、他の生命に仇成す魔物であっても、だ。
そして得た称号が、“不動のヘタレ”。
転変者同士で軽く情報を共有したのが仇となった形だ。
戦闘職の中で、俺は最下層の序列にいるといっていいだろう。
見下され、笑われ、いびられ、詰られる。
とまぁ客観的に見ればそう見えるだろうな、というだけで、イジメを題材にした小説やマンガの登場人物のようにつらいわけでもないし、嫌悪感や憎悪は微塵もない。
さすが不動の精神、というべきなのだろうか。
ともあれ、その称号は別の効果を齎したりもした。
それは、さっきの井坂さんをはじめとする、「平気で生き物を殺す方がどうかしてる」と擁護してくれる人たちが現れたこと。
おかげで井坂さんたちとの交流も増えたが、それはそれで妬んだ男子からの攻撃は増える要因になっていた。
評価云々は置いておくとして、戦闘に対する欠陥が見つかってしまった俺にも、まだ一つだけ希望が残されている。
それが召喚術だ。