転移者たちの代理戦争 作:蕎麦味噌オンザライス
そして、運命の日。
召喚術の講義は午後なので、いつも通り午前中は道場に向かった。
不動の精神があるし大丈夫だと思うけど、普段と違うことをやって変に生活が狂うのを避けたかったからだ。
とはいえ、今日が大事な日であることは周囲にも認知されているから、
「あれ?」
「今日は召喚の日じゃなかったのか?」
と師範代二人にも気を遣われる始末。
「大丈夫です。いつも通りにやるだけなので」
そう言ったら二人は安心したのか、いつも通り汗だくになるまで俺と組手をしてくれた。
怪我はしないという信頼だと思いたい。
じゃなかったらどうでもいいと思われている気がして凹むので。
天珠があるから、凹む、という気がするだけだけど。
「あれ? 道場に行ってたの?」
昼食を食べに訪れた月下亭でも井坂さんにそんなことを言われた。
普段通りに、と言ったら彼女も納得してくれたようで、「頑張ってね」と笑顔で見送ってくれた。
一旦寄宿舎に戻り、制服に着替えて学院に向かった。
今日は召喚ということで、教室ではなく学院にほど近い神殿に集合。
神殿の境内にある祭壇はドームで覆われているから、天候による影響はない。
祭壇と宝珠を使うこと、そして何より危険を伴うからか、待機している騎士や魔術師の方々がいつにない緊張感をたたえてる。
だけど、そもそも召喚する生徒たちが緊張しているから、あまり影響はないかもしれない。
緊張している面持ちなのは、あの美人さんも同じ。
どんなに立派な人でも緊張はする、というのを現実で目にすると、意外に思う反面、そういうものかと認識を改める。
「では、召喚の儀式を始めます。番号の若い順から始めますので、他の方は控室で待機しておいてください」
「「「 はい 」」」
俺たちは言われた通り控室に入り、ガラス越しに儀式を見つめていた。
最初に儀式を執り行うのは、少しおちゃらけた雰囲気の男子生徒。
彼が選んだのは黒の宝珠。
彼が未知な部分の多い黒の宝珠を選んだことで、控室がざわついたのは言うまでもない。
先生たちもなかなか宝珠を渡そうとしなかったけど、結局折れて宝珠を彼に渡していた。
祭壇の中央に描かれた魔法陣。
その中心に宝珠が置かれ、陣の縁に男子生徒が立つ。
予め採取されていた血を注射器から垂らし、男子生徒は手を陣に掲げる。
詠唱をしているんだろう。
少しだけ時間が開いたと思えば、魔法陣が次第に輝きを増していく。
そして、光が外側から内側へ伸びて……やがて宝珠に辿り着くと、黒の薄いカーテン、或いはオーロラのような半透明の幕が魔法陣上に広がる。
誰かが生唾を飲む音が聞こえた。
騎士や魔術師たちの緊張感が、こちらにも伝わるようだった。
ゆっくりと、黒いオーロラが消えていく。
すると、魔法陣の中央にはそれまで存在しなかった生命体が佇んでいた。
カラスを思わせる黒い翼に、水牛のような角、尻尾はヒョウのような毛並みを持ち、その容貌は同性をも引きつけるような美しさがある。
オールウェイさんの召喚獣とは性別は逆の、やたらイケメンな悪魔がそこにいた。
俄かに沸き立つ控室のクラスメイト達。
そして、安堵したような様子を見せる騎士や魔術師の人たちと先生方。
……対して、召喚に成功した筈の男子生徒は、両膝と両手を地面に着き、崩れ落ちていた。
「あいつ……リズと同じ美人の悪魔呼びたかったんじゃね……?」
彼の態度に困惑していた控室の面々は、その呟きで大体のことを理解した。
そして、彼の失意を他所に召喚の儀式は続く。
「あなたは何色にするの?」
声に振り向くと、美人さんがすぐ横に移動していた。
「俺は緑だよ」
「そうなの? 私も一緒」
そう言って美人さんは微笑んだ。
まぁ、ここで聞いておいた方が無難か。
「どうして風の召喚獣を?」
「……空を飛びたいって言ったら笑う?」
「まさか」
確かに、召喚獣を使役する目的は、そのほとんどが戦闘に関した動機が多い。
だから、彼女の動機は変わってるかもしれないけど、それは『ほとんど』に含まれていないだけ。
笑うようなことじゃない。
俺が否定したことで安心したのか、美人さんは少し柔らかくなった微笑みのまま祭壇を見つめ、言う。
「私、本当は自分で飛びたかった。でも、風の適性が無くてこれに賭けてみようって思ったの」
「風の召喚獣なら、叶う確率は高そうだね」
美人さんはにっこり笑い、その後は特に会話もないまま召喚の儀式を見守っていた。
ことのほか儀式の成功率は芳しくなく、多くの人が召喚に至る前に崩れ落ちていた。
その人たちのほとんどが昏倒していて、精神力が要求値よりも低かったために、気絶してしまったようだ。
選んだ宝珠の属性が本人の相性と合っていない可能性もあるらしいけど、神の権能で何度も精神力を使い果たすと精神的にも肉体的にも拙いらしく、さすがに代理人でも再度儀式を行う許可は下ろせないのだとか。
不幸中の幸いは、暴走する召喚獣がいなかったこと。
だけど、今後も起きないとは限らない。
「私の番ね」
そう呟いた美人さんは、深呼吸を一つ。
気を引き締めて、控室を後にした。
彼女が受け取ったのは、予告通り緑の宝珠。
これまでの手順と同様、宝珠を祭壇に描かれた陣の中央に置き、縁に立った彼女が血を垂らして詠唱を始める。
増していく輝き。
やがて宝珠に届き、オーロラを発する……その寸前で動きを止めた。
ざわつく控室。
見れば、美人さんが片膝をついていた。
失敗か?
そう案じるクラスメイトを余所に、美人さんは尚も手を魔法陣に掲げ続ける。
膝はついても、心は折れない。
そんな彼女の姿に、いつしかざわつきは静まり……皆が固唾をのんで、行方を見守っている。
頑張れ。
皆の目が、そう告げていた。
やがて、溢れんばかりの強烈な光が競技場を照らす。
その光と同様それまでとは異なり、オーロラを発することなく魔法陣に召喚獣が出現した。
その姿は、細身ながら優雅さを体現するような竜。
明らかに高位の生命体。
そんな存在を召喚したことに唖然としていた先生たちと控室の生徒たちだけど、美人さんが完全に倒れてしまったことで我に返り、先生たちは慌てて美人さんに駆け寄っていた。
召喚獣は契約主を守るもの。
騎士や魔術師たちは竜が暴れないかを心配していたけど、当の竜が美人さんの身を案じる様に顔を摺り寄せていたことで、別の意味で硬直していた。
担架で運ばれてくる美人さんに皆が駆け寄り、声をかけていく。
大事は無いということで一同は安堵して、儀式は再開された。
その後も儀式は続いたけど、大半が召喚に失敗した。
とはいえ、神の代理人全体で考えても、今回の成功率は高い方らしい。
一人、また一人と生徒が減っていく中で、美人さんが意識を取り戻していた。
「私……」
まだ意識が朦朧としているのか、周囲を窺う美人さんに、俺は竜を示す。
「おめでとう。夢が叶いそうで何よりだ」
暫く呆然としていた美人さんは、やがて破顔した。
頬を伝うものが見えてその場を去ろうとしたら、
「……今度は、あなたの番ね」
そう言って励まし(?)てくれた。
ちょうど、次は俺の番。
「頑張るよ」
そう美人さんに返し、俺は祭壇に向かった。
先生の前まで行くと、まず注射器が渡される。
「アオ・ツラナギくん。貴方はどの宝珠を望みますか?」
「緑の宝珠をお願いします」
「わかりました」
黒や白を選ばなかったので、渋るということもなく素直に宝珠を渡してくれた。
宝珠を抱え、魔法陣に向かう。
幾何学模様が幾重にも描かれた魔法陣は、特殊な方法で描かれているのか、他の召喚獣はもとより、竜が踏んだのに一か所も掠れたりしていなかった。
魔法陣の中央に宝珠を置いて、縁(へり)に移動。
注射器から俺の血を垂らし、手を掲げて俺は目を瞑って集中する。
暗記していた詠唱を諳んじる。
「巡り巡る輪廻の理よ、その蛇の楔を解いて我が声に耳を傾けることを願わん。秘には口を添えて涙を流し、穂の流れることを耳にして踊り、封を放ち見るは万化の笑い声。戸を閉じて嗅ぐは伏したる憂いにて、虚にして空に座す生命は時に神をも穢す。その能うる力は清浄の可鍛にして法性の外卦。巡り、巡り、巡るその身を此方に」
目を開くと、魔法陣の外周が眩しい程の光を放っていた。
「我が名は頬凪藍。我が呼びかけにその姿を現せ」
詠唱が完了。
同時に、身体から何かが抜けていく感じがした。
確かに気を抜けば気を失ってしまいそうな脱力感はある。
だけど、天珠のおかげか、それとも精神値のおかげか、堪えられない程のものじゃない。
そして、身体から抜けていくものを動力源にするように、光は中心の宝珠に伸びていく。
もう少しで届く。
そう思った瞬間、強風……いや、暴風が吹き荒れた。
先生たちの困惑した声が聞こえるが、俺は天珠のおかげで全く動じることは無かった。
だけど、そんな俺とは対照的に、宝珠はころころと転がって行ってしまった。
え?
これどうなんの?
そう思う間もなく光は中心に達し、魔法陣に光が満ちる。
そして、陣の空間が歪んだ。
正常に反応していると仮定するなら……透明なオーロラの影響、だろうか。
やがて魔法陣の中心に光の粒子を集めたかのような歪みが生じて、それは実像を結んでいく。
歪みが消え、魔法陣に残ったのは眠っている様子の小人。
青みがかったストレートの銀髪と、透明な四枚の羽。
身体のラインはその小人が女性体であることを示していた。
「……妖精……?」
そう呟いたのは、俺じゃなくて先生。
そしてその声に反応したのか、小人はぱっちりと目を開き、俺を見上げる。
「あなたが私のご主人様ですか」
「あ、うん」
若干幼めの声は紛れもなく女の子のもので、小人はふわりと宙に浮いた。
そして羽を羽ばたかせ、俺の目の前へと上昇。
「私はミュールといいます。よろしくです」
「俺は藍。頬凪藍だよ。よろしく」
ぺこりと頭を下げたミュールさんに、俺もお辞儀を返す。
俺に向けてくる笑みは無邪気そのもの。
見ているとこちらも頬が緩んでしまうような魔力がある。……という表現がぴったりと当てはようなまる笑顔だった。
そんな俺たちのやりとりを見て、動揺していた先生は我に帰ったらしい。
「お、おめでとう、ツラナギくん。成功ね」
「ありがとうございます」
「ところで……ミュールちゃん、と言ったわよね」
「誰の許可を得て話しかけてるんですかねぇ、この雌豚は」
ぎょっとして、先生はミュールさんを見た。
小さな妖精はにこにこと無邪気な笑みを浮かべているんだけど……、
「私に話しかけるならご主人の許可を得てからにしやがれってんです」
その天真爛漫な表情からは想像もできないような汚い言葉を吐いていた。
「ミュールさん……?」
「ミュールでお願いします、ご主人」
あはっ、と無邪気に笑うミュールさん。
「これは癖みたいなものだから、受け入れて欲しいんですが……取り敢えず、先生の質問に答えられますか?」
「了解ですっ。あ、ご主人はますたーなんですから、敬語なんかいりませんよ~?」
にこにこと笑いかけてくるミュールさん。
なんだこの違和感。
ともあれ、俺は先生に視線を移して「どうぞ」という意味を込めて頷いた。
それでようやく思考を再開した先生は、一度咳払いしてから彼女に問いかけた。
「あ……ええっと……貴女はどこの領域に住んでいたの?」
「私はどこの領域にも属していません。ご主人と同じぼっちです」
おい今俺に毒吐かなかったか?
契約の際にある程度は召喚者の情報が共有されるらしいけど……いや、今はそれどころじゃない。
どこの領域にも属していない?
「それって……無属性ってこと?」
「そうとも言いますねぇ」
「無属性は貴女の他にも存在するの?」
研究者魂でも刺激されているのか、先生はさっきの動揺を完全に忘れているらしい。
対する俺は、別のことを考えていた。
「いると言えばいますし、いないと言えばいないという感じですかね~」
「う、うう~ん……」
煙を撒くようなミュールさんの言葉に、先生は考え込んでしまう。
次の質問には時間がかかりそうだったから、ちょうどいい機会と思い質問することにした。
質問する内容は、もちろん俺が召喚術に手を伸ばした動機のこと。
「ミュールさん、君は魔術を使える?」
「魔術は使えませんがなにか」
そう、あっさりと言われてしまった。
しかも逆切れぎみに。
「そうですか」
でも天珠のおかげかそれほどショックでもない。
……いや、無属性と言われた時点で少し予想してたから、天珠がなくてもそれほど動じずに済んだかもしれない。
「全く?」
「ええっと……」
何かを説明しようとしてくれているのか、考え込む様子を見せるミュールさん。
その答えを待っていると、控室が騒がしいことに気付いた。
先生も俺の視線で気付いたのか、慌ただしく控室に向かった。
「ミュールさん、ちょっと中断」
「は~い」
俺が先生の後を追うと、彼女もそれについて来る。
控室では、一人の男子生徒を美人さんをはじめとした数人が取り押さえている状況だった。
「こ、これはどういうことですか?」
先生の問いに、一人の男子生徒が答える。
「こいつが、魔術を使って……」
彼の視線は俺に向かい、目が合うと視線を逸らされてしまう。
その流れだけで、大体何があったのか察することができた。
今いるこの祭壇は、ドームで覆われている。
だから、いきなり突風に見舞われることは有りえない。
にもかかわらず、先程は風が吹き、宝珠を吹き飛ばしてしまった。
ドーム内でなぜ風が吹いたか。
それは、風が自然に発生したものではなく、人工的なもの……魔術によって引き起こされたものだったから。
そして、その魔術を放ったのが彼だった、というわけだ。
「どうしてそんなことを……」
そう呟いた先生に応える者はいない。
俺ってそんなに嫌われてるのかな、と思って捕まってる生徒を見たら、良く俺に突っかかって来ていた男子生徒の片割れだった。
なら、少しは推測できる。
いじめっこが恐れるのは、自分がいじめられる側に回ること。いじめていた人物にやり返されること。
「仕返しされると思ったとか」
俺がそう言うと、男子生徒は身体をビクつかせた。
やらないって。
いくら俺がそう思い、口にしたところで彼は信じないだろう。信頼とか不信感って、相手との間にあるものじゃなくて結局自分自身が抱くものだからね。
だけど、俺はそういう感情に作用する天珠持ちだ。
無駄に我慢強く、発散しようとかいう欲求が湧かなくて、そういうことが出来なかったりするのはそのせいらしい。
というか、そもそも我慢しようって感覚がわからないし、精神的負荷(ストレス)もよくわからない。
昔は、その点を保育士とか教師に褒められたりして「俺って実はすごいのかも」なんて楽観的に考えたこともあったけど、今では天珠のせいだってわかってるから複雑だ。
自分の能力じゃなくて、誰かに与えられたものだってわかったから。
まぁ、その「複雑」っていうのも、感覚的な複雑さとかよくいう感じじゃなく、これはどういう感覚なんだろう、という「落としどころ」の不明瞭さのことだ。
大抵の感情であれば、マンガ・小説やその映像化なんかで描写されてるから、「ああ、こう言う時はこういう風に感じるものなんだ」って知識で判断、推察できるから。
さっきの、ミュールさんが笑顔を向けた時のように。
ともあれ、そんなことよりも問題はこの件の落としどころだ。
「先生がたには処罰しづらいと思いますので、こちらで判断します」
美人さんがそう言って通信機を手に取った、ちょうどその瞬間だった。
周囲の意識がそちらに向かったのを見計らったんだろう。
男子生徒が拘束を解いて控室走り去っていった。
「あの馬鹿!」
数人の男子が追いかけていく中、美人さんは改めて通信機でどこかと連絡をとり始める。
その一方で、先生や騎士の方々は所在なさげに困惑していた。
やっぱり、彼らにとって神の代理人は、関わり辛い存在なのかもしれない。
そして、俺はと言うと、
「ご主人ご主人、先程のお話ですが、私には一つ突出した力があるんです」
「力?」
ミュールさんはふわふわと飛んできたと思ったら俺の頭に乗った。
一枚の紙を乗せたように殆ど重さは感じないけど、さすがに違和感はある。
「では、私と一緒に“コネクト”と言ってください」
「わかった」
「では、さんはいっ」
「「 コネクト 」」
俺と彼女の声が重なったその瞬間、俺の知覚範囲が広がった。
視覚と言う器官を通して得る情報ではなく、一定の範囲そのものを、そのままごっそり知覚するような感覚が頭に叩き込まれる。
自分さえも第三者のように捉えるこの感覚は、どこかゲームの視点のようにも思えた。
でも興奮や感動といった認識は一切なく、大量の情報を叩き込まれる頭が不快感ばかりを訴えてくる。
耐性が無い人間は、これだけで狂うかもしれない。
(これが私の能力、【探知】です)
直接ミュールさんの声が頭に響いてくる。
(探知……探知の魔術じゃなくて?)
(あれは私が今、感覚的に行っていることを真似た劣化版です)
頭の上の妖精がぷりぷりと怒っている。
(私は空間を司る妖精ですから、それをご主人と共有してるわけですね~)
(空間? 無属性じゃないってこと?)
(大別すると、無属性なんです)
成程……確かに、風っぽい気もするけど、基本の四属性には当てはまらない、気がしないでもない。
だんだん不快感にも慣れてきて、試しに指を動かしてみる。
自分で身体を動かす実感はあるのに、同時にそれを傍観する。
なんとも不思議な感覚だった。
(君の種族は、皆空間を司ってるのかな?)
(はい。あ、さっきの糞豚野郎が動きを止めそうですよ)
突然話を変えられて、そう言う意図があったのだとようやく気付いた。
確かに、この力なら監視カメラのような物がなくても、認識範囲内の動きを知覚することができる。
認識しながらの声と移動はまだ試していないし、取り敢えず伝えられるか試してみよう。
「さっきの人が逃げ込んだ場所が分かりました」
「本当!?」
俺の言葉に反応したのは、連絡を終えていた美人さん。
こちらからは見えてるけど、そっぽ向いたままというのも変だから彼女の方へと向き直る。
これで、声、移動ともに問題なく行えることが確認できた。
「うん。西にある塔の脇にある倉庫」
「わ、わかった」
美人さんが再び通信機で連絡を取ると、俺たちと同じ制服の生徒がわらわらと隠れている倉庫に集まっていく。
初めこそ逃げようとした男子生徒だけど、彼らの顔を見るなりへたり込み、捕縛された。
捕まえたうちの一人が通信機を手に取ると、次の瞬間、美人さんが通信機を耳に当て報告を聞いていた。
「……無事捕まえたようです」
美人さんの言葉に、周囲から安堵の溜息が毀れる。
本来であれば、今日はここで一旦止めておくべきなんだろう。
だけど、残りの人数が少ないことや、他のクラスへの影響に本人たちの意向、それに宝珠を持ち出す回数を減らす意図もあり、儀式は続行。
結局、無事召喚できたのは30人のうち俺を含めて4人だった。
「召喚おめでとう」
「ありがとう」
帰り際、満面の笑みで竜を連れて歩く美人さんにお礼を返し、俺は寄宿舎に戻った。
確かに召喚術は成功した。
ミュールさんの探知能力も、教本に載っていた魔術の探知に比べて範囲・精度が段違いで、魔力を使わないから効果持続時間もかなり長い。
でも、これは俺が求めていた力とは違う。
「どうしようかな……」
このままじゃ道場の皆に合わせる顔が無い。
天珠のせいでろくに動揺もできないまま、俺は眠りについた。
「みゅにゃむにゃ……」
枕のすぐ脇に寝転がる、妖精と共に。