ポケットモンスター 新たなる旅路   作:よっしい

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第四話 カロスの女王

《ホムラ視点》

 

夏も過ぎかけ、もうすぐ秋が来るということを示唆するかのように吹く少し冷たい風が僕たちの頬を撫でる。

どこぞに存在する世界とは違って、9月半ばごろにはもう既に涼しくなっているこの世界だが、

ことデルタ地方においては少し異なっていて、北部に位置するこの『1番道路』は、8月後半ごろなのにも関わらず秋を思わせるような気候になっている。

 

「やっぱり、ちょっと寒いね?」

 

「う~ん……僕はそうは感じないかな?半袖でも全然活動できるし。」

 

「暑がりなの?」

 

「そうそう、ホムラって名前なくせして暑いの苦手なんだよね~。」

 

「そうなんだ。私は寧ろ寒がりかも?ガラルなんてずっと寒いからね~。」

 

「それはそう。あそこ寒いからな~。」

 

ガサガサッ!

 

「「!!?」」

 

などと二人で会話をしながら歩いていると、一人の少女……というより女性が草むらから出てくる。

 

その女性は、左右を一通り見渡し、困った顔をしてから茂みから出てくる。

 

「……あら。驚かせてしまったようですみません。」

 

「いえいえ、大丈夫です……ん?」

 

僕が応答しながら相手を確認する。

茶色に近い金髪、色は灰色だが闘志のある瞳。

そこに加えて、白いサングラスと赤いカノチェ帽子、赤と黒のハイウエストアンサンブル、黒のニーソックス、ハイカットスニーカー……と、あの人物を彷彿とさせる衣装。

 

「あなた方がホムラさんとユウリさんですね?」

 

「そうですけど……あっ!あなたは昨日テレビで見た人で、確か名前は……」

 

「テレビ、見てくれていたのね。ガラルチャンピオンさんが私を知ってくれていたなんて、光栄ね。」

 

先程までかしこまった態度だったが、僕らが目当ての人物であると知ると同時に、先ほどまでより少し態度を崩す、『カロスの女王』なる二つ名を持つ人物。

 

その名は……

 

「私はカロスチャンピオンのセレナ。あなたたちとバトルをするためにここに来たわ。」

 

 

 

☆

 

 

 

森を抜け、近くにあった町、『アザールタウン』にて、バトルコートを借りて、バトルを執り行なうことになった僕らだったが……

 

「すみません、本日のこの時間は予約が込み合っていまして……チャンピオン枠もすでに埋まっていますので、最速でも2時間後の枠なんです。」

 

(2時間後かぁ。ちょっと長いかなぁ?)

 

判断がつかなかった僕は、セレナさんに訊こうとする。

 

「セレナさん、どうし───」

 

が、それを遮って店員さんに回答する。

 

「かまわないです。その時間に予約をお願いします。」

 

「わかりました。では、手続きを……」

 

セレナさんがものすごいスピードで手続きを終わらせている最中、僕らは少し下がって互いに感想を語り合う。

 

「さ、遮られた……よっぽど僕らとバトルしたいんだろうね……?」

 

「そのために来たって言ってたぐらいだもん、多分1週間かかっても待つと思うよ?」

 

テレビでこの人を見ていた時から思っていたが、この人は女性チャンピオンの中でもトップクラスの人気を誇っており、その人気の理由の一つにところどころから感じられる『女王の風格』が挙げられていたが、先ほどまでのセレナさんの態度を見るにその通りだと思った。

このメリハリのついた態度など、自分の中に自分の人格をはっきりと持っており、それを一切曲げない態度から、まさに僕らとは圧倒的に違う『強者の風格』を見せつけられているように感じる。

 

そこにさらにカリスマ性も感じるのだから、もともとあった『強者の風格』は『女王の風格』となり、他とは一線を画すような雰囲気を感じる。

 

そりゃあ人気も出るわけだ。

 

 

そうこう考えているうちに、セレナさんは手続きを完了させる。

 

「さ、終わったからいくわよ。」

 

「「行くってどこに?」」

 

すると、セレナさんは決まっているじゃないかと言わんばかりの顔をし、

 

「決まってるじゃない?暇つぶしに最適の場所。」

 

「「暇つぶしに最適の場所?」」

 

ハァ、と自分の常識が通用しない僕らに対して、ため息をつかれる。

 

「他地方のチャンピオンさんとかにも聞いてきたけれど、やっぱりここは満場一致だったわよ?

もちろん施設の名前は……」

 

 

「カフェ、よ。」

 

 

「「あ、たしかに。」」

 

僕らのカフェ滞在は、セレナさんの鶴の一声で決定したのであった。

 

 

 

☆

 

 

 

森の中に佇む小さな町の、自然豊かなのどかな景色。

特に開けた空間が多いパルデア地方に長年住んでいた僕にとって、そこは新鮮な空間だった。

 

ぼんやり自然の景色を眺めていると、店員さんがこちらに声をかけてくる。

 

「こちら、フレアローズティーとミアレガレットです。」

 

「ありがとうございます。」

 

セレナさんの注文である、フレアローズティーとミアレガレット。

フレアローズティーもミアレガレットも、カロスが出所(でどころ)だ。

 

「ご注文は以上でお間違いなかったでしょうか?」

 

「はい。ありがとうございます。」

 

「かしこまりました。それではごゆっくり。」

 

最終的に、セレナさんがオーダーした紅茶などが届き、僕らは談笑を始める。

 

「やっとあなたたちのような猛者と談笑できる機会ができたわ。」

 

「そうなんですね~。猛者たちとは何人であったんですか?」

 

「ざっと9人*1かしら。……いや失礼、11人だったわ。

あと、ため口で全然いいわよ?敬語でしゃべったところで、堅苦しい雰囲気になってしゃべりづらいだけだもの。」

 

「わかった!それじゃあセレナでいい?」

 

「ええ、もちろん。」

 

ため口を解禁した瞬間、変わる空気。

さすがはユウリ、ガラルの寒さの中でも温まる会話ができると言われている少女、トーク力の次元が違う。

 

「最後に足した二人はどのような人なんですか?」

 

「つい最近…と言っても昨日ね。その昨日に会った、あなたたちのような男女ペアよ。それはそれは恐ろしいぐらいに強かったわ。私、負けたし。」

 

「「あのカロスチャンピオンが⁉」」

 

僕らが負け報告に驚くと、セレナはいやいや、と僕らを落ち着け、

 

「意外と私の戦績って悪いのよ?最初の方だけだけれど、ジムリーダーとかカルムとかにも結構頻繫に負けてたもの。」

 

「カルムって、セレナのライバルって言われてる、あのカルムさん?」

 

「ええ。彼の相棒の色違いゲッコウガは本当に強いのよ。」

 

「へぇ~!セレナが強いっていうレベルかぁ……!また会ったら戦ってみたいなー!」

 

ライバルといえど、一地方のチャンピオンが認めるようなポケモンと、ポケモントレーナー。

ユウリが言うように、僕もまた会ったら戦ってみたいものだ。

 

ゲッコウガと言えば、様々な方向や様々な手段で変幻自在となって追い詰めてくる、手強いポケモンというイメージがある。

実際そのイメージの通りなようで、セレナはそのゲッコウガの戦い方についていろいろ語っていく。

 

「あのゲッコウガの強みと言ったら、何と言ってもその俊敏性ね。これはどのゲッコウガにも共通する強みだけれど、カルムのゲッコウガはそこら辺にいるゲッコウガとは一線を画すような俊敏さをしているわ。あのよっしいでさえ、そのゲッコウガはゲッコウガの中では最強格だって言ってたのよ。」

 

「よっしいがそういうなら、やっぱり相当強いんだ!今すぐにでも戦いたいなぁ~。」

 

「俊敏性が優れているってことは、翻弄する戦い方が得意ってことかな?」

 

「ええ、そうね。私のスピード自慢のポケモンですら惑わされる速さをしているの。しかも、それに加えてワザも一級品。この性能で弱いはずがないでしょう?」

 

チャンピオンのスピード担当を惑わすレベルの俊敏さ。

性能を聞いただけでも、相当厄介なゲッコウガだとわかる。

セレナの口ぶりや、ネットでの書き込みを見るに、少なくとも噓ではないだろう。

 

(これを聞くと、ますます戦いたくなってくるな……。)

 

一級品の性能をしているポケモンを持つトレーナーは、大抵育てるのが上手いトレーナーだ。

育てるのが上手いトレーナーは、頭の良いトレーナーなことがほとんど。

その頭脳も相まって、かなりの強敵に聞こえてくる。

 

だけど……。

 

「セレナは、そのカルムって人より強いんだよね。」

 

「ええ、もちろん。これでも一地方のチャンピオンだもの。カルムのゲッコウガにも、翻弄こそされるけれど、最終的には絶対に勝つわ。」

 

「カルムさんも強そうだけど、セレナも負けてないもんね。やっぱりチャンピオンは強い!」

 

「あなたたちもチャンピオンでしょ。」

 

「……あっ、そうでした~。」

 

わりと本気で忘れていたようで、恥ずかしがりながら自分の後頭部をさするユウリ。

間髪入れず、そこに僕がツッコミを入れる。

 

「忘れちゃダメでしょーが……。」

 

それを見たセレナは、少し笑って、こうつぶやく。

 

「ちゃんと可愛げあるじゃない、あなたたち。」

 

そんな会話をしながら、カフェで待つこと2時間。

遂に僕らは、バトルフィールドで相対(あいたい)することとなった。

 

 

 

☆

 

 

 

互いにトレーナーボックスに入り、試合に使用するポケモン1体のボールを持ち、試合の準備を進めていく。

 

さっき、僕らはカルムさんについての話を聞いた。

さすがはチャンピオンのライバルのトレーナー、すごい実力なようだ。

それこそカロス地方の元チャンピオンでは勝てないほどの実力。

 

だが、今僕らの前に立つ女性は、その類稀なる才能を持った男性をも超えていくような人物だ。

 

だからこそ、僕らはいま、非常に気合が入っている。

 

「さて、準備はできたかしら?」

 

「僕らはできたよ。そっちは?」

 

「こっちも準備オーケーよ。」

 

双方準備が整う。

僕ら以外誰一人としていない、静かなグラウンド。

そこで静かながらも強い闘志を燃やす僕ら三人。

 

「さっきまでは楽しくおしゃべりしていたけれど、バトルフィールド(ここ)に立てば容赦はしない。いいわね?互いに全力で行きましょう。」

 

「「もちろん!」」

 

短い会話のその後、僕らは集中のために黙想を行う。

 

互いに集中力を高め、最高のコンディションでバトルするためだ。

 

10秒程度の沈黙の後、双方が同時に目を開き、ボールを持つ。

 

「いくわよ?3、2、1……GO!」

 

 

カロスチャンピオンのセレナが勝負を仕掛けてきた!

 

 

ボールをおおきく振りかぶって、豪速球のボールをフィールド上に投げる。

 

「頑張るぞ、パオパオ!」

「お願いねっ、キング!」

「出番よ、ファイアロー、ジガルデ!」

 

「キルッ!」

「バヒヒヒィ!」「カムカムゥ!」

「アアイ!」

「ゼガァッ!」

 

呼びかけと同時に放たれる、今回のバトルを彩る4体のポケモンたち。

こちら側からは、あく・こおりタイプのパオパオことパオジアン、エスパー・ゴーストタイプのキングことバドレックス(こくばじょうのすがた)が登板。

一方の相手からは、ほのお・ひこうタイプのファイアロー、じめん・ドラゴンタイプのジガルデが出撃した。

 

「パオパオ、つららおとし!」

「ファイアロー、ニトロチャージ!」

 

「キルッ!」

「アアアイッ!」

 

初動からつららおとしを指示した僕に対し、セレナはファイアローに任せて、ニトロチャージを指示してくる。

 

ファイアローを狙ったつららおとしは、ニトロチャージによって素早さが上がったファイアローにやすやすと躱され、ファイアローはそのままパオパオに突っ込んでくる。

 

「キング、アストラルビット!」

 

「バヒヒヒィィッ!」

「カムウッ!」

 

レイスポスと、その上に乗るバドレックスによる、整った連携攻撃。

素早く定位置に移動し、アストラルビットを構える。

 

シュボボボボボボボッ!

 

黒き弾丸が上空より降り注ぎ、ファイアローの進路を塞ぐ。

当たれば大ダメージは確実な攻撃。

 

セレナの判断は……

 

「強行突破は避けなさい。」

 

冷静だった。

 

強行突破には出ず、堅実にダメージを与える方針に速攻で切り替える。

 

「アイッ!」

 

指示を聞き、旋回して再度ジガルデの近くに戻っていくファイアロー。

正直ダメージは与えたかったが、こればかりは仕方がないと割り切らざるを得ない。

 

「ジガルデ、サウザンアローよ。」

 

「ゼドッ!」

 

犬型のフォルム、即ち10%フォルムのジガルデが、安全圏よりセルの矢を大量にはなってくる。

もちろん僕らは避けるように指示してよけさせるが……

 

「よけて!」「よけろ!」

 

「そこよ!ブレイブバード!」

 

ヘイトを買って気を取られた隙に、ブレイブバードで突っ込む。

標的はユウリのキングだった。

 

「キング!」

 

「バヒヒィ⁉」

 

それにいち早く気付いたユウリが、声をかけて避けるように促す。

そしてキングにヘイトが向いてるうちに……

 

「パオパオ、ふいうち!」

 

「キルシャァ!」

 

ズドン!

 

「アアッ…!」

 

「へぇ、なかなかの威力ね?」

 

「そりゃあ鍛えられてますから。」

 

それだけではない。特性であるわざわいのつるぎの効果によって、相手の防御が下がっているのだ。

まぁ、特性はユウリのキングにも作用しているので、そこには注意だが。

 

「キング、アストラルビット!」

 

ユウリの指示により、再度黒い弾丸がバトルフィールドを覆う。

なお、このワザは味方にはダメージが入らないので、僕は避ける必要はない。

 

「よけなさい!」

 

「ゼッ!」

「アアイッ!」

 

指示通りに華麗に攻撃を回避していくファイアローとジガルデ。

その一方で僕はというと……

 

「こおりのつぶて!」

 

「キルシャッ!」

 

ズガァン!

 

「ゼガ……ッ!」

 

「ジガルデ⁉」

 

アストラルビットを利用して、陰からこおりのつぶてでジガルデに攻撃を仕掛ける。

10%フォルムはスピードが速く厄介なので、こういうタイミングで攻撃しておきたいのだ。

 

「さっきの反省を生かして先制ワザを撃った、といったところかしら?さすがはチャンピオンさん、対応力はばっちりみたいね?」

 

「まぁ、いろいろな修羅場を乗り越えてきてるんでね。」

 

とはいえ、4倍弱点にも関わらず大したダメージが入っているようには見えない。一応僕はパオパオに持ち物『とけないこおり』を持たせてこおりワザの威力を底上げしているのだが、それでも大してダメージが入っているようには見えない。

ジガルデの10%フォルムは耐久がないと聞いたのだが……?

 

「ジガルデ、サウザンアロー!」

 

「ゼドオオオオッ!」

 

黒い弾丸がいまだ降り注ぐ中、ジガルデは移動しながらセルを飛ばす。

これにより、攻撃に集中していたキングは回避のために攻撃を中断せざるを得ず、攻撃は数秒後には止んでしまった。

 

サービスタイムはここまでのようだ。

 

「ファイアロー、続けて『神速(しんそく)ブレイブバード』!」

 

「アアアアアッ!」

 

指示された瞬間に急加速し、近くにいたパオパオの方へむかっていく。

先ほどの通常のブレイブバードのワザ発動までの俊敏さも加味すれば、恐らく特性は『はやてのつばさ』という、ひこうワザの発生が早くなる特性*2だろう。

 

「アストラルビットで相殺して!」

 

「バヒヒヒィィィッ!」「カムウ!」

 

セルを避け終え、次の攻撃に転じることができるようになったキングは、前から突っ込んでくるファイアローに対し、アストラルビットでパオパオを守ろうとしてくれる。

だが、それがあっても今回は……

 

「突っ込みなさい!ダメージは承知の上よ!」

 

「アアアアアアアイッ!」

 

「「‼」」

 

ダメージ承知で突っ込んできた。

アストラルビットの威力は絶大で、ほとんどのポケモンはかすっただけでも結構なダメージだというのに、それを承知の上で、しかも連続でくらう前提で突っ込んできた。

 

ならば……

 

「パオパオ、ふいうち!」

 

「キル────」

 

 

ズギャァァン!

 

 

「シャァ……!」

 

「外したか…!」

 

タイミングが悪く、ふいうちは残念ながら外れてしまう。

だが、そんなことで悔やんでいる場合ではない。

 

「ジガルデ、かわらわりよ。」

 

「ゼガァッ!」

 

一瞬で距離を詰め、パオパオに尻尾でかくとうワザのかわらわりをお見舞いしようとする。

この攻撃は4倍弱点。なんとしても避けたいところだが……

 

「パオ─────」

 

 

ズガッシャァン!

 

 

「キルシャァァァァ!」

 

響くパオパオの絶叫。

準伝説とも呼ばれる厄災ポケモンといえど、4倍弱点はさすがに痛い。

 

「パオパオ、一旦戻ってくるんだ!」

 

「厄災は逃がしちゃだめよ、ニトロチャージ!」

 

「アアアイッ!」

 

さらっとうちの手持ちを厄災呼ばわりされたが置いといて……いや、いいわけないがいまは気にしないでおいて……どうするか?

 

「パオパオ、つららおとし!」

 

「キルシャッ!」

 

ドドドドドドドドド!

 

何本もつららを落としていくが、やはりことごとく躱されていく。

ファイアローの素早さを前につららおとしはやはり悪手だ。

 

ここまでは想(・)定(・)通(・)り(・)。

 

「さっきも同じくだりはやったはずよ。」

 

「で(・)し(・)ょ(・)う(・)ね(・)。」

 

「でしょうね?」

 

僕の言葉の真意が気になり、それを考察するセレナ。

セレナの現在の心中は……

 

(でしょうねって……じゃあそんな意味のないこと、今更やるかしら?)

 

疑問符。

 

「ニ(・)ト(・)ロ(・)チ(・)ャ(・)ー(・)ジ(・)を(・)利(・)用(・)し(・)ろ(・)!」

 

「?」

 

さらに疑問符。

 

「キルシャッ!」

 

「!まずい、避け────」

 

 

「指示が遅いって。」

 

 

ジャンプしてファイアローの上に飛び乗るパオパオ。

そう、僕の狙いはこ(・)れ(・)だったのだ。

 

「いまだ、『わざわいのつらら』!」

 

「キルシャァァッ!」

 

上空から無数の氷の柱が降り注ぎ、下にいるジガルデに攻撃していく。

もちろんそれで倒すことなんて不可能だが、当たりさえしてくれればいいのだ。

 

ガガガガガガガガガガッ!

 

「ジガルデ、絶対避けて!」

 

「ゼッ、ゼガッ、ゼドッ!」

 

順調によけ続けたかと思われたジガルデだったが、このワザは攻撃時間が長くなるほどつららの数は増える。

そしてやがて……

 

 

ゴシャァ……ッ!

 

 

「ゼ……」

 

カチィン!

 

「凍った……。」

 

命中し、恐らくは追加効果より、ジガルデはこおり状態になってしまう。

一応開拓してからあまり時間が経っていないワザだったのだが、うまくいってよかった。

 

ちなみにキングは全部躱し切ってくれたようだ。

 

「パオパオ、ファイアローにこおりのつぶて連打!」

「ファイアロー、ニトロチャージで頑張って振り払って!」

 

「キルシャッ!」

 

ズギャン!

 

「アアアイッ……!」

 

「く……ッ!」

 

このワザの追加効果である、呪いの強化による防御ダウンがなかなか響いているようだ。

ファイアローの耐久的に、そろそろしんどいかもしれない。

 

「ファイアロー、神速ブレイブバード!」

「パオパオ、ふいうち!」

 

「キルシャッ!」

 

ズギャァァン!

 

「アアアアアッ‼」

 

「ファイアロー!」

 

地上付近を飛んでいたところ、ファイアローは力を失い落下。

さらにそこに追い打ちをかけるように……

 

「キング、とどめの『降霊(こうれい)アストラルビット』!」

 

「カムムゥ!」「バヒヒャァ!」

 

 

ズダダダダダダダダダダダダ!

 

 

「アアアアアアッ‼」

 

「ファイアロー……ッ!」

 

ファイアローの断末魔が聞こえ、ワザの追加効果によりもののけゾーンが展開されるとともに、ファイアローは戦闘不能となった。

 

「ファイアロー、戦闘不能、ね。……まぁ、悔しいけれど仕方ないわ。」

 

ファイアローが倒れ、残るはジガルデだけ。

だが、そのジガルデは……

 

ピシピシ……パリィン!

 

 

「ゼドオオオオッ!」

 

 

「これはすごい怒ってるってことでいいのかな?」

 

「ユウリ、気を引き締めていこう。」

 

「もちろんわかってる。」

 

同胞であるファイアローが倒されたのに自分は何も出来なかった怒りだろうか。

ともかく、先ほどまでとは段違いの覇気を放っているというのはよくわかった。

 

「ジガルデ、そろそろ本気を出しましょう?」

 

「ゼド……!」

 

ジガルデが突如走り出し、スタジアム中央にて咆哮をあげる。

刹那、スタジアムの外の様々な場所から無数の緑の光……セルが集まり、ジガルデの形状が変化していく。

 

そう、これこそが特性の『スワームチェンジ』なのだ。

 

 

たくさんの けはいを かんじる……!

 

 

ジガルデは膨張した後に巨人のような形状へと姿を変え……

 

 

「ゼドオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 

 

やがて、覚醒した。

 

巨人と成り、僕らを見下ろすその姿は、威厳とオーラで満ち溢れている。

 

「怯んじゃだめだ、パオパオ、つららおとし!」

 

「オーダーコアパニッシャーよ。」

 

「キルシャッ!」

 

ガガゴゴガゴガッ!

 

つららおとしを撃つも、全く効いているようには見えない。

そんな中、ジガルデは胸の裂け目や4つ首にゆっくりとエネルギーをため込んでいく。

 

それはまるで、僕らの絶望へのカウントダウンのようだった。

 

「キング、アストラルビット!」

 

「カムウ!」「バクロォス!」

 

 

ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!

 

 

これもやはり、効いているようには見えない。

4倍弱点もほぼ無効化、さらにゾーン補正のかかったアストラルビットですら耐えられるとは…。

 

ここまでくると、僕らも打つ手が限られてくるが……

 

「待ってホムラ、あのジガルデ、なんか膜みたいなのに覆われてない?」

 

そう言われて注意深く見てみると、うっすらとだが、シャボン玉のように紋様のある透(・)明(・)な(・)膜(・)の(・)よ(・)う(・)な(・)も(・)の(・)にジガルデが覆われているのが見えた。

 

「ほんとだ、なにかに覆われてる……!」

 

「これはセルの壁よ。あなたたちには見えないでしょうけど、そこにあるわ。」

 

「なるほど、通りで……!」

 

セルによって遮られていたから、攻撃がことごとくカットされていたのだ。

そして僕らがセルの壁をはがすのに苦労している隙に……

 

「装填完了したかしら?やっちゃいなさい、オーダーコアパニッシャー、発射よ!」

 

絶望の宣告、その後、ジガルデはコアパニッシャーを放つ時のように、上空に舞い上がり、エネルギーを構える。

 

「ゼドオオオオッ!」

 

「つららで衝撃波を防いで!」「なんとかガードして!」

 

来たる衝撃に備え、防御態勢をとる僕ら。

だが、それは全て無意味なものとなるほどに、衝撃は大きかった。

 

 

 

カッ─────────

 

 

 

光に視界が覆われると同時に、凄まじいビームの音が響く。

耳を塞がなければならないほどに、その音は大きかった。

 

 

 

 

ズドビビビビビビビビビビビビビビビビ!

 

 

 

 

轟音がやがて収まると、フィールドは焼け焦げ、一部に至ってはえぐれていた。

そして、パオパオとキングはというと……

 

「キルシャッ……!」

 

「カムウ……!」「バヒィ……!」

 

「へぇ、やるじゃない?この攻撃を耐えるだなんてね。」

 

全員、なんとか無事だった。

だが、負ったダメージはとんでもなく、あと少しのダメージでも倒れてしまいそうなほどだった。

 

そして、場には強いドラゴンの力があふれているのが感じられた。

そう、E(・)X(・)りゅうゾーンだ。

 

EXフィールドの火力はすさまじく、その火力は実に通常の3倍。

 

効果時間が通常のゾーンより短いといえど、これはかなりの脅威だ。

 

「残ったところで関係ないわ。次の大技で確実に沈めるもの。」

 

「「……ッ!」」

 

セレナの自信満々な一言に、僕らの間には更なる緊張が走る。

そして、セレナはゼンブイリングに手をかけた。

 

「本当はファイアローにZワザを使ってもらう予定だったのだけれど……あなたたちに翻弄されて叶わなかったわ。でも、今度はこれで、あなたたちに勝つ!いくわよ、ジガルデ!」

 

「ゼガ…ッ!」

 

ジガルデは上空からゆっくり下降し、地面に着地。

それと同時に、セレナはゼンブイリングのカーソルをメ(・)ガ(・)シ(・)ン(・)カ(・)の(・)マ(・)ー(・)ク(・)に合わせる。

 

「千の力を一撃に賭ける…!秩序の覇者の力、見せつけてやりましょう!ジガルデ、メガシンカ‼」

 

ジガルデが繭に包まれ、数秒後に解放。

その姿に、初見の僕らは度肝を抜かれる。

 

体を覆っていた黒い皮膚のような部分をすべて大砲に回し、セルの緑の部分が露わになる。

裂け目も下部分が消えて緑が露わに。

 

まるで緑の巨人のような見た目。

 

だが、上の大砲を見れば、皮膚を削ってまでも標的を討ち滅ぼさんとする気概を感じられた。

 

「パオパオ、緑の部分を狙ってわざわいのつらら!」

 

「キル────」

 

「そんな小細工、私たちには通用しないわよ?サウザンウェーブ。」

 

「ゼドォ!」

 

セルの荒波が、キング含めてパオパオに襲い掛かる。

 

「「ジャンプで躱して!」」

 

ズドドギャァン!

 

「キルッ…!」

「カムウ…!」「バヒィ…!」

 

「「ぐぬぬ……!」」

 

確かに先ほどより威力自体は落ちているが、それでもこのダメージ。

次の一撃で本当にやられてしまうだろう。

 

だからこそ、撃たれる前に討つ!

 

「パオパオ、わざわいのつらら!」

 

「キルッシャァ!」

 

ガンゴンガシャシャシャッ!

 

命中するも、追加効果はなにひとつ発動せず。

 

「もう終わりにしましょう。ジガルデ、無(む)に帰(き)す光(ひかり)・滅(バスター)よ。」

 

「ゼドォ…!」

 

またも上空に舞い上がるジガルデ。

だが、今度は先ほどまでよりもさらに上空に上がっていく。

 

(このままだと手が付けられなくなるのは時間の問題。だったら……!)

 

「ユウリ、同時攻撃だ!同時に一点に向かって攻撃すれば、例えチャージしてても、正面からでもエネルギー弾をぶち破れるかもしれない!」

 

「そっか!そうだね!じゃあ、どうする?ゴーストタイプのダイマックスワザとZワザだと、一点への集中放火は難しいよ?」

 

「なら、僕がZワザを撃つから、ユウリはテラスタルで援護してくれ。それならきっと……!」

 

なにせもう時間がない。

あの大技のチャージが終わってしまえば、確実に消し飛ばされるのはこちらだ。

勝ち目はまずない。

 

ユウリのキングの持ち物はきあいのタスキなので一撃は耐える*3けど、一匹じゃ勝てるわけがない……!

 

「アローラのZの力、勝利のために使わせてもらうぞ!」

 

ゼンブイリングのカーソルをZワザのマークに合わせ、Zワザの発動準備をする。

使用するZクリスタルは、こおりZだ。

 

「脆いながらも美しき氷結の力を、今!全力でいくぞ!」

 

「キルッ!」

 

パオパオにZパワーが集まり、オーラが放たれる。

相手のチャージはまだ40%程度、まだ間に合うはず……!

 

一方のユウリも……

 

パキィン!

 

「カムゥ!」「バヒヒヒィィッ!」

 

ゴーストテラスタルをし、同時攻撃の準備は整った。

 

「レイジングジオフリーズ!」

「アストラルビット!」

 

「キルッシャァァァ!」

「カムカムゥ!」「バヒヒヒィィッ!」

 

 

ドドドドドドドドド!

 

 

同時に攻撃は放たれ、上空のエネルギー弾目掛けて突っこんでいく。

 

「ジガルデ、不完全でしょうけど、発射よ!」

 

「ゼッ…ゼッ…ゼゼゼゼゼ……!ゼドオオオオオオオオ!」

 

急速にチャージし、恐らく60%程度のチャージで発射される。

EXゾーンブーストがかかっているとはいえ、これはどちらが勝つか、わからない。

 

そしてやがて、双方の攻撃は、激突する─────!

 

 

 

ズドッカァン!

 

 

 

上空にて競り合う双方の攻撃。

押して、押されて、また押して、また押されて。

 

まるで彗星のように上空から放たれた光線と、地上から迎撃するように放たれた無数の砲撃。

混ざり、ぶつかり、暴発し。

 

だが、そのせめぎあいは、そしてその戦いは、終幕に向けて動き出す。

 

 

「「「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」」」

 

 

3人の叫びは、双方のポケモンに伝わり、ワザの勢いは、威力はどんどん増していく。

衝突点の爆発も、激しくなっていく。

 

だが、やがて一筋の光線は押しとどまり、そして……

 

 

 

ドッカァァァァァァァァァン‼

 

 

 

雲を突き抜けた。

 

 

つまり……

 

 

「ゼド……オオ……ッ」

 

上空で、セルは霧散しバラバラに散っていく。

セルが地上に次々と落下していく。まるで、雨のように。

だが、そんな雨もすぐあがる。

 

そして、最終的にはコアがバスンと音を立てて落ちてきて、すぐに動かなくなる。

 

これは……そう。

 

 

「参ったわ。私の負けよ。」

 

 

僕らの勝利、そしてセレナの敗北。

 

その状況を認めたセレナは、潔く敗北宣言を僕らに言い放つのだった。

 

 

To be continued……

*1:
レッド、リーフ、グリーン、ヒビキ、コトネ、シルバー、クリス、ユウキ、ハルカの9人

*2:
ゲームにおける『優先度+1』を小説で再現した内容

*3:
この世界の仕様で、きあいのタスキは常時こらえる状態




神速(しんそく)ブレイブバード  ひこう 物理  威力 100
使用可能ポケモン セレナのファイアロー
デメリット効果  上がっていた素早さが元の値に戻る
効果  素早さを消費して威力を上げる。威力は1段階につき10ずつ上がっていき、最大火力は160。素早さが下がっている場合は威力は100から変わらず、素早さも変わらない。


わざわいのつらら  こおり 物理  威力 100
使用可能ポケモン ホムラのパオパオ【パオジアン】
デメリット効果  自分含めて全体の防御を1段階下げる
効果  上空から複数の氷の柱を生成する。当たれば50%の確率で相手を怯み状態にし、怯み状態にならなければ50%の確率でこおり状態にする。使用後、特性の効力が強まり、自分含めた全体の防御を1段階下げる。


降霊(こうれい)アストラルビット  ゴースト 特殊  威力 120
使用可能ポケモン ユウリのキング【バドレックス(こくばじょうのすがた)】
デメリット効果  自分の体力を現在の体力の1/10減らす
効果  アストラルビットと威力こそ変わらないものの、黒い弾丸の数をさらに増やして攻撃するワザ。使用後、現在の体力の1/10が減ってしまうが、使用後にもののけゾーンを展開する。


オーダーコアパニッシャー  ドラゴン 特殊  威力 150
使用可能ポケモン セレナのジガルデ
デメリット効果  100%フォルムでないと使用不可能、一度しか使用不可能、メガシンカ時は使用不可能
効果  一撃で反則級のビームをぶっ放す大技。広範囲に絶大なダメージをもたらし、無効のフェアリータイプにも等倍のダメージが入るが、様々な制約があり、限られた場面でしか活躍しづらい扱いの難しいワザ。使用後にEXりゅうゾーンを展開する。


無(む)に帰(き)す光(ひかり)・滅(バスター)  ドラゴン 特殊  威力 250
使用可能ポケモン セレナのジガルデ
デメリット効果  メガシンカ時に、一度しか使用できない
効果  上空から、超強化された無に帰す光をぶっ放す、正真正銘の必殺技。タイプによって半減以下となるポケモンには全て等倍のダメージとなる。


次回  第五話『闇夜の堕天使』
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