カプ厨要素があるので注意してください
大王の本拠地。暗黒の中は生きているかのように脈打っていた。まるで巨大な何かの胎内にいるような。そんな気持ちの悪さがあった。
ぬめりを帯びた空気が蔓延し、辺りに黒い触手がうごめく。
そんな中、私たちはそれに捕まらないように、前へ前へ進んでいた。
だがその時、触手はよりパワーを増し、アルカナの腕を掴んだ。うねうねと動き、触手が私たちの周りを囲む。
「アルカナ!」
私は叫んだ。
踵を返し、その触手に攻撃を加えようとしたその時、アルカナがアルカナロッドを掲げ、私の動きを制止した。
「…先に行って。ここは私に任せなさい」
「でもアルカナを一人にはできないよ!」
「行ってよ、アンサー、ミスティック」
私とアルカナの間に、キュアエクレールが立った。
「アルカナ…るるかには私もついているから」
「エクレール」
「もう二度と失いたくないの。後悔したくないの。だからここは先輩探偵に花を持たせてちょうだい」
「そうよ。行きなさい、名探偵さんたち」
アルカナはロッドを振りかざし、自身の技、アルカナスターレインを繰り出し、一部の触手を破壊した。そのおかげで通り道ができる。
だが、触手はまだまだ元気といった風に、ますます蠢き、活発になりそうだった。矛先はアルカナとエクレールに向かおうとしている。
「さあ早く!」
一瞬のすきをついて、アンサーとミスティックは、ポチタンとともに前へ進んだ。振り返らず、真っ直ぐ。
──より暗くなってくる。
肌に気持ちの悪い感触をひしひしと感じ、より深部へ近づいているといった感じだった。
そしてたどり着く。
目の前には、大きな黒い人間が佇んでいた。これが恐怖の大王。まことみらいタウンを嘘で覆った、全ての元凶であった。
「とうとうきたか、名探偵プリキュア」
大王が喋る。それだけで空気が震えた。凄まじいほどのプレッシャーに、二人は少しだけひるんでしまう。
「ポチ!」
「時空の妖精か…。ははっ、貴様のおかげでずいぶんと苦労した」
そう言う大王は、どこか不敵に笑っていた。
「大王! 町を嘘から解放しなさい!」
ミスティックが叫んだ。
「それは無理な話だ」
大王が殴りかかってくる。二人はなんとかそれを避け、体勢を整えた。
「願いを叶えたくば、私を屠ってみせよ。名探偵ェ!」
「なんてパワー!」
「このままじゃ勝てないよ…」
だんだんとミスティックの顔が曇る。
それを他所に、アンサーはジェット先輩が発明したプリキットを手に取った。
「それは」
「もうこれしかないよね」
「でもアンサー、どうやって使えば…。そもそもそれで勝てるかどうかって」
「大丈夫だよ、きっと。ジェット先輩の発明だもん。ミスティックもいるもん。だから大丈夫だよ!」
「アンサー…」
何の根拠にもなってはいない。
だが、彼女の持つ愚直なまでの真っ直ぐさ。それはいつだって、ピンチを切り開き、みんなに力を与えてきた。みくるにもそうだった。
「そうだよね…! うん、アンサーが言うなら、そうなんだよね!」
「行こう! これが答えだ!」
その時、プリキットが光る。アンサーの持つものが、他の三人も同様だった。
「これは…!」
そして、4つの光は一つの剣となり、アンサーとミスティックの元に降り立った。凄まじいパワーを秘めていた。
「なんだそれは…」
大王が恐れおののく。
「ミスティック!」
「アンサー!」
二人はお互いの名前を呼ぶと、剣を手に取り、さながらケーキ入刀といった具合に振りかざした。
「これが!」
「私たちのアンサーだああぁぁ!」
そしてとうとう大王は斬られてしまう、筈だった。剣が振りかざされる直前、大王はぽつりと呟く。
「嘘よ、覆え! キュアアンサー!」
その瞬間、アンサーの意識は遠退き、真っ暗闇の空間に落とされた。
「ここは…」
「貴様の意識の中だ。いま、私は貴様の意識に話し掛けている」
目の前に大王が現れる。
「どういうこと!?」
「提案があるのだ。だから話し合いの席を設ける必要があった」
「っ話し合い…?」
「私を見逃すのだ」
大王の口から発せられたのは、驚くほど厚顔無恥な発言だった。
「今さら命乞いなの!?」
「キュアアンサー、情けないことだが、私は貴様らに勝てない。だからその剣を鞘に納め、私の作り出す世界で生きてみないか? そういう提案だ」
「あり得ない! 私たちは嘘を終わらせにきたの! あなたを倒して!」
「──貴様自身が、嘘そのものだったとしてもか?」
ニヤリと嫌な顔で笑い、手を掲げる大王。
「どういうこと?」
本来、ただの命乞いの発言。荒唐無稽で、聞くに値しない言葉なのだが、直感というべきだろうか、アンサーはそれに耳を傾けてしまっていた。
「キュアアンサー。いや明智あんな、貴様という存在は何だ? 何故この時代に存在している?」
「何を言って…」
「ふふっ…簡潔に答えを示そう。私を倒した瞬間、明智あんな、貴様という存在は同時に消滅するのだ」
「!?」
アンサーは目を見開いた。驚きで声も出せなかった。否定したかったのに、脳が喉に信号を出さない。
「2027年から1999年……長い時を越え、一度も考えたことはなかったか? 貴様の親という存在を」
「親…。お母さんと…お父さん…」
「いや考えないようにしてきたという方が正確か…。つまり貴様の両親は──」
聞きたくない。目を背けたい。
「小林みくるとジェットだ」
もう何も──
「ち、違う…」
「瞳の色、髪色、髪型ァ…。全てが事実を裏付けている。貴様も何となく感じてたんだろう? そして直視しないようにしてきた」
「…私は」
「何故なら、自分のせいで歴史を変えてしまった可能性があったから。本来の歴史では、あの日──貴様が空から降ってきた日、小林みくるは名探偵のいない探偵事務所の有り様に落胆し、ロンドンへ帰る予定であった」
大王は淡々と話を続ける。
「そして数10年後、ロンドンでジェットと出会い、奴と恋に落ち、貴様を産み落とした。それがルーツであり、お前たちの生きた本来の歴史だ。しかし貴様が1999年にタイムスリップしたことで、その歴史に綻びを生じさせてしまった」
「そ、そんなのおかしいよ! いま、ジェット先輩はみくるといるよ! もう既に出会ってるよ! 出会い方は違くても……歴史は同じように…」
「バタフライエフェクト」
「…!」
「蝶の小さな羽ばたきが、大きな竜巻を生む。歴史は、どれほど些末な出来事でも大きな影響を及ぼすものだ。つまり、貴様がこの時代に存在し、出会い、プリキュアになった。その時点でもう歴史は改変されたのだ!」
大王が意気揚々と、そう宣言した。
これは大王が勝手に言っているだけだ。証拠も何もない。ただの命乞いに、耳を貸す必要などない。
内容にしてみても何の根拠も説得力もなく、否定できる材料はまだたくさんある。
でも、それなのに、どうしてか言葉を紡ぐことができなかった。
「ふふっ…人の逢瀬とはかくて不思議なものだ。たった一日、いや数分違うだけでも、人々は他人同士になるなんて。" 奇跡の二人 "とはよく言ったものよ…」
大王はしたり顔でそう言った。かと思えばすぐに相好を崩し、アンサーに手を差し伸べた。
「──だが安心したまえ。貴様を消滅から救う手立てはある」
「え…」
「私の嘘で覆う力。それを使えば、どんな現実でもねじ曲げることができる。お前は消滅せず、また元の幸せな日々を享受できる。これでハッピーエンドなのだ。しかし私を倒してしまうと──」
「私は消える…」
「そう。これが真実だ」
アンサーは以前ジェットが言っていた『未来は常に変化しているんだ』という言葉を思い出した。
…どこかで薄々分かっていた。
私がこの時代に来たことで、何か歯車が狂ってしまっているんじゃないかって。いつも、そんな不安が片隅にあった。直視しないよう、極力言葉にするのは止めていたけど…。
…やっぱりそうだったんだ。
「分かってくれたか? キュアアンサーよ」
でも──
「…分からない!」
それでも──
「私はあなたの提案には乗らない! この世界を嘘で覆われたものになんて絶対にさせない!」
「貴様ぁ! 貴様が消えてもか!?」
「私一人幸せになって、みんなが不幸になっていい筈がないんだ!!」
───私は、自分の答えは自分で出す。
それが名探偵プリキュアだから。
「…!」
そう宣言した刹那。急に暗闇が晴れて、アンサーは元の場所に──大王を斬る直前に引き戻された。
「アンサー!」
「ミスティック…!」
手に力をこめる。
「これが私のアンサーだああああ!!」
もう振りかざす手を止める気など、彼女にはなかった。
タイムパラドックス要素を無理くり入れたら、こうなった…