あんな奴を好きだった自分、ホント馬鹿じゃねぇ? 百合カップル? クソだよクソ! 過去に戻れたら絶対に選ばんわ! 作:Yunoko
第1話 憎きアイツからの手紙
ある日、私の実家に手紙が来た。
送り主は懐かしい名前であり、忌々しい存在。
忘れたくても忘れらない人。
というか、忘れたかったのに思い出させてきやがった。
「よくもまぁ、私に送ってこれたなコイツ」
吐き捨てるように声が出た。
でも実際そう言わずにいられない。
「今時手紙とか……」
スマホがあり、連絡用のツールなんていくらでもある現代で手紙を送ってくるとは。
年越しの挨拶だってスマホでやり取りする時代だぞ。
でも、お互いの連絡手段なんてとっくにブロックしてるか途絶えてる上、私の住所だって知りようもないから、これしか方法がなかったんだろう。
共通の友達も今となってはほとんどいないし、交流も途絶えてるし、私とアイツの現状を知ってる人が引き合わせるとも思えない。
まあ、そもそも送ってくんなって話だけど。
「幸せにやってる報告とかだったら焼き捨ててやんぞ」
明日はちょうど燃えるゴミの日だし。
子供が産まれただとか、ラブラブな夫婦生活の報告なんてしてみやがれ。
すぐにビリビリに破き、焼き尽くしてから朝一でポイしてやるからな。二度焼きだ。
そう思い、封を開けて中身を確認する。
「…………はぁ?」
思わず声が出た。
入っていた便箋の数とその内容に驚いてしまった。
なんとその数6枚。
いずれも長々とびっしり埋め尽くされている。
行間空けろ。段落ごとに一文字下げろ。読みにくいんだよ。
でもそうなったらもう1枚か2枚増えんのか、それも邪魔だな。
『旦那と別れた。浮気されてひどい事されて限界だった』
『今になって、貴方にやってきた事がどんなに悪くてひどい事か理解した』
『今までの事を会って直接謝りたい』
『連絡先が分からず、実家に送ってしまってごめんなさい』
クソ長い謝罪やどうでもいい言い訳、現状報告の中から必要なワードを抜粋したらこんな感じだった。
もっと簡潔に分かりやすくまとめろや。
そういや昔から国語が苦手だったなアイツ。
「やっぱ別れたんだ。てっきりアイツが浮気すると思ったけど逆だったかぁ。そこだけ意外」
自分の声が少し弾んでいるのが分かる。
憎きアイツが痛い目に遭って嬉しいのだ。ざまあみろと思わずにいられない。
ほんの欠片ほども可哀想だと思えなかった。
とはいえ、本当に意外。
浮気をしたのがあの旦那さんというのがだ。
最後にアイツと出会った結婚式で見た時の旦那の印象は、全然知らない私から見てもアイツ一筋! って感じの好青年に思えたものだが。
男に興味がない私から見てもいい人なんだろうな、なんて思うくらいにはいい人だった。
憎きアイツの惚気を延々と続けるのだけはきつかったが。
「あの時、いらん事言わんでよかった。勝手に潰れてらぁ」
嫌いなアイツの結婚式に参加したのだって、もう会うのも最後だからボロクソに言って復讐してやろうという考えからだった。
散々裏切っておきながら、周囲に幼馴染みの大親友だとかほざくアイツに対し、十割事実しかない過去の悪行を晒しあげつつ罵詈雑言をぶつけ、衆目の前で完全に縁を切ってやるつもりだったのだ。
まあ、結局日和ってしまったが……。
文句を言ってやるどころか、何も言えずに少なくない祝儀を払ってご飯を食べて、思ってもいないお祝いの言葉を述べて帰ってきてしまった。
めちゃくちゃ嫌いだし、痛い目を見ろ、なんなら死んじまえと思うくらいに憎いアイツだが、昔から交友関係が広く、あの結婚式の参加者はとてもとても多かった。
式場だって広くて豪華で、私の知らない人間が9割以上も占める中、お祝いムードで終始賑わう空間の中でアイツに悪意をぶつける勇気なんて湧こうはずもなく。
私の復讐心は決して小さくなかったはずだが、あの時は完全に委縮してしまっていた。チキンな私。
アイツに手を握られて、抱き付かれて肩まで組まれたってのに、何も言えなくてヘラヘラしちまった弱い自分も憎い。
でも、当初私が言おうとしていた内容は最低最悪で下品の極みだった。
言っていたら、周囲になぶり殺されていてもおかしくなかった。
以下抜粋。
「前に私と付き合ってた時があったんですけど、本当に尽くす子でして、夜は毎回私のケツまで丁寧に舐めてくれたもんですよ」
「私と別れた時の理由って、レズに飽きた、本当は男の方が好きだったからその人と付き合うって一方的だったのはショックでしてたけどね」
「あれ? そういえば、あの時付き合いだした彼氏と旦那さんは別の人だったか」
「処女だった? んなわけないでしょー。私と付き合った頃からとっくに捧げてましたよアイツ。手術して再形成したんじゃないですか。私に貢いでもらったブランドバッグとか売って金もありましたからねぇ。別れる時にもいくつか持ち逃げしていきやがりましたから」
「大して好きでもない私のケツだってあんだけ舐めれるんですから、今まで付き合ってきた人達の隅々まで丁寧にしたんだろうな」
「百戦錬磨で経験豊富な尽くしたがりっ子ですから、旦那さんの事もきっと大事に、それはもう大事にしてくれると思いますよ! よっ、幸せ者の果報者~っ!」
「キスする時は私のケツを舐めてた事とか、過去の彼氏達のケツやらチンにもご奉仕していた事を思い出してほしいもんですなぁ。あのテクは一度や二度じゃ身に付かない経験の賜物ですぜ」
うん、殺されてたな!
我ながら、なんて品性の欠片もない祝辞であろうか。
ほんとにあの時の私は仕事も私生活も色々と限界だったから、アイツが苦しむための仕返しをどうやってしてやろうかと結婚式当日まで一生懸命考えたもんだ。
犯罪行為になったらどうしようだとか、式を台無しにしたら罰金の支払いとかあるのかとか、今後の事とか気にして結局何もできてねぇけど。
しなくてよかったと心から思うよ今は。
「…………はぁ」
現実を顧みる。
くそったれビッチな元幼馴染みと会うか会うまいか。
まあ、会って優しく慰めてやるつもりはまったくない。
今までの付き合いで情とかないかって? ないよ。あるわけないでしょ。
付き合ってた当時、散々貢がせて、依存させて、我儘放題振舞って、浮気した挙句に金品持ち逃げしていくような女だぜ? 控えめに言ってカスじゃん。クズじゃんよ。
そのくせ、自分のやらかした事を忘れてんのか、ふつーに元カノを結婚式に呼ぶ始末。
舐められてるどころじゃねーだろ、コレ。
昔から舐めるのだけは上手かったからな、くそが。
でも、浮気されて捨てられて、ぼろぼろになったアイツを見てやるのもいいかもしれない。
ざまぁみろ、いい気味だと笑い捨てて、今度こそさよならと告げようかな。
今だったら、あの時と違っておそらく一対一でのやり取りだし、多少ぼろくそに言っても咎められたり、アイツ以外の誰かに迷惑をかける事だってないし。
きっと傷つくだろう、もっともっと傷ついてほしいと思ってしまう私も、大してアイツと変わらないクソ女なんだろうか。
アイツと違って浮気もしないし、貢がせもしないからマシだと言いたいが、表に出さないだけで内心はめちゃくちゃ過激だし、現実は五十歩百歩なのかもしれない。
「へっ、どうせこのまま会うつもりもなかったんだ。最後にアイツを見てからどーするか決めてやるか」
嫌われ上等。
一生存在を無視していくつもりだったのが、一生忘れられない傷を残してから縁を切る方向に変わっただけだ。
アイツはさらに傷心、私はスカッと爽快、なんだよ良い事づくめじゃんか。
手紙に書かれていた連絡先を確認し、私はスマホを操作していく。