あんな奴を好きだった自分、ホント馬鹿じゃねぇ? 百合カップル? クソだよクソ! 過去に戻れたら絶対に選ばんわ! 作:Yunoko
あの日、ほのちゃんを刺してしまった時。
あれからの私の記憶はほとんど残ってない。
あまりにもショックで忘れちゃった?
ううん、違う。
私がほのちゃんを傷付けちゃったって、あと少しで死なせちゃうところだったって事を、都合の悪い記憶を忘れてしまいたいんだと思う。
自分の罪に向き合いたくなくて、目を向けたくなくて。
あの日、私が白河さんを呼んでもいいって言ったのに。
それなのに、白河さんと出会ったらどうしていいのか訳分からなくなって……。
「……」
私が病院にいる間、何度もほのちゃんは来てくれてた。
差し入れとか着替えとか持ってきてくれて、私がどうしてるのか看護師の人達に聞いて、気にかけてくれてた。
面会ができるようになってからは、何度も何度も希望を出してくれてた。
でも……。
私は会わなかった……ううん、会えなかった。
多分、いやきっと、ほのちゃんは私を責めないだろうと思う。
私と幼馴染みだからとか、元恋人だったからとか、パートナーシップを結んでるってだけで、ここまでしてくれるわけないって分かってた。
こんなに馬鹿な私なのに、ほのちゃんを危ない目に遭わせちゃったのに、それでも私の事を大事にしてくれるのがほのちゃんだ。
だからこそ、私に会う資格なんてないと思った。
私が拒んだらほのちゃんが悲しむって分かってるのに。
本当は会って謝って、たくさん話したい事もあるのに。
「花咲さんから面会の希望が来てるんだけど……どうする?」
「断って……ください」
「本当にいいの?」
「……はい」
看護師の人が険しい顔をしながら部屋を出て行く。
会ってあげたらいいのに、って声に出してなくても伝わってくる。
なんなら、時々廊下で看護師同士で「薄情だよね」「あんなにしてくれてるのにね」って声も聞こえてくる。
いや、きっと聞かせてるんだろうなって思う。
でも言われても仕方ない。
「天ヶ崎さんって、すごく彼女さんに大事にされてるね」
「彼女さん……花咲さんってすごい人ですよね。可愛い感じの人なのに仕事もできて、こっちにもマメに来てくれてるし、天ヶ崎さんの事もとっても気にかけてくれて」
「可愛いのにかっこいい人ですよね。落ち着いてて余裕のある大人な人だし、あんな人が恋人で天ヶ崎さんが羨ましいなぁ」
看護師の人達がバイタルチェックとか様子確認に来るたびに、ほのちゃんを褒めるような事を言う。私が羨ましいなんて言う。
遠回し(でもないけど)に私じゃほのちゃんと不釣り合いだって言いたいんだよね。
分かってるよ、そんな事……誰よりも私が一番知ってるんだよ、そのくらい……。
「あの人……花咲さんだっけ? すごいよね、包丁で刺されたのに天ヶ崎さんに前科がつかないようにって、弁護士も雇ったんだって?」
「らしいねー。めっちゃ愛されてるよねー天ヶ崎さんって」
「なんであんな良い人刺したんですかね? 喧嘩で刺すまでいきます?」
「わっかんないけど、女同士だし片方は病んでるしー。ヒス起こしたりとかさ、色々とあんじゃないのー?」
ちょっとトイレに行ってる時、シャワーから上がって着替えてる時、病室で横になって休んでる時とか。
ふとした看護師同士の会話が聞こえてくる、聞こえてしまう、聞き逃さないでいてしまう。
ほのちゃんが褒められてるのは素直に嬉しい。
でもそれとセットで、そんなほのちゃんとどうして私が一緒なのか不思議に思う声。
そう言われても、思われてもおかしくない。
それだけほのちゃんは一生懸命に私を大事にしてくれてる。
なのに、私はそれに対してなんにも返せてない、返してないんだから。
「……」
ほのちゃんは忙しいはずなのに、それでも時間を作って会いに来てくれる。
なのに私はそれを断って申し訳ないと、ごめんなさいと心の中で何度も口にしてた。
もう見捨てられても仕方ない、だから、ほのちゃんは私の事を忘れて幸せになってとも思ってる。
なのに、それなのに。
同時に、私はまたほのちゃんが会いに来てほしいと願ってる。
私の事を忘れてほしくない、見捨ててほしくないって祈ってる。
訳が分からない……考えてる事がめちゃくちゃすぎて、私にも何がしたいのか分からない。
精神の病気だからこんな事を考えちゃうの?
私が元々おかしな人間だからなのかな?
スマホだって、ほのちゃんからのメッセージがいっぱい届いてる。
それを読むどころか、毎日欠かさずに届いてるのを確認しただけで、私は涙が止まらなかった。
嬉しいのに、どう返事をしていいのか分からない。
多分だけど、ほのちゃんは私が返事するだけでもホッとしてくれるはずなのに。
ほのちゃんに嫌われてしまえば、ほのちゃんを解放してあげなくちゃなんて考えてるくせに。
かといって、私はほのちゃんをブロックする事ができなかった。
着信に折り返しもしないくせに、拒否する事もできない。
LINEだって既読にしたら気にすると思って開いてない。
でもどんなメッセージが来たのか知りたくて、私は通知画面で内容を読んでた。
それは私の体調を気にしてくれてたり、私が罪悪感をもたないように気を遣った内容で、こんな私にどこまでも優しいほのちゃんに嬉しいって思ってしまう。申し訳ないとも思う。
最初から最後まで、私はすっごい中途半端だ。
ほのちゃんに嫌われよう、もう私なんて知らないって思われるように動こうとしてるのに。
でも完全に嫌われたくない、私の事を気にしてくれたら嬉しいと思ってしまう。
なんてめんどくさいんだ、私。
構ってほしいのに素直になれないやつじゃん、私。
自分でも、何をしたいのか、どうなりたいのかはっきりしない。
そんな私の事を、ほのちゃんは連れて帰ろうと頑張ってくれてる。
私が罪に問われないようにって、色んなところを駆けまわってくれてる。
そこまでしてくれてると分かってるのに、私は……。
※ ※ ※
ほのちゃんが私の事を迎えに来てくれた日。
ほのちゃんの家にかえ……行った時。
あのマンションが近付いてきた時、懐かしいって思ったのと、ほのちゃんと一緒に住んでた時の思い出が浮かんできた。
ほのちゃんの部屋に入った時、私のスリッパがいつもの場所に用意されてて。
リビングもキッチンも風呂場も、どこも私が住んでた時のままと変わってなくて。
私の使ってた物だって一つも減ってなくて、動かしたりもしてなくて。
私がちまちま書き込んでたカレンダーもそのままで、でもちゃんと10月までめくってあったし、今日の日付にほのちゃんが『亜紗の退院日!』って書いてくれてた。
「…………っ」
それを見た時、私はもう限界だった。
ほのちゃんと何話していいのか分からなくて、謝る事もまともにしてなくて、どうしていいのかも分かんなくて。
なのに、ほのちゃんはずっとずっと前から私が帰ってこれるように準備してくれて、私が一緒にいた時のままにしてくれて、私が帰ってくるのを待っててくれたって分かっちゃって。
我慢しようって思ってたのに、わんわん声出して泣いちゃって。
ほのちゃんの手を握って、身体だってくっつけて泣いた。
「ありがと……ありがとっ」
「ごめん……ごめんねっ」
自分で何を言ってたのか、私はよく覚えてない。
でも、ほのちゃんは嫌な顔一つしなくて、私の事をぎゅって抱きしめてくれて。
「おかえり」と言ってくれた。
「…………ただいま」
その言葉を口にした時、あぁ帰ってきたって思っちゃった。
ホントはこんな図々しい事を言わないようにって思ってたのに。
ここに来てもいいんだと思った。
まだ、私はここにいてもいいんだと。
※ ※ ※
ほのちゃんの家で暮らすようになってから、少しずつ私は元の生活を思い出してきた。
朝起きるのは全然問題ない。
アラームがなくても6時前には目が覚めちゃう。
起きたら洗顔とか済ませて軽くセットして、ほのちゃんのご飯を作る。
そろそろってタイミングで声かけてご飯を食べてもらい、一緒にテレビの占いコーナーを見て、それからほのちゃんの出勤を見送る。
午前中は家事をこなす。
相変わらず、料理以外はやっててこれじゃない感がある。
なんなら料理だって久しぶりにしようと思ったら、どこに何があるのか、どんな風にしてたかって忘れかけてて本当に悪い意味でドキドキした。
あとね、体力がびっくりするくらい落ちてて、前よりもさらに疲れやすくなった。
ちゃんとリハビリ、しとけばよかったな……筋肉も絶対落ちてるもん。
すぐソファーとか椅子に座って、何かするたんびに休憩するようになっちゃった。
よわよわだ、私。
「…………」
でも、ほのちゃんが外で仕事してて頑張ってる。
私がお金も稼げないから、ほのちゃんが頑張って稼いでくる。
(まあ私が働いてたとしても、ほのちゃんの半分も稼げる自信ないけど……)
よっぽどの事がなければ、夕方あたりには定時で仕事を終えて帰ってくる。
だから、それまでに家の事を頑張ろう。
ほのちゃんが帰ってきたらそのままご飯を食べてもらえるように、そのあとはゆっくりできるように頑張ろうって思える。
「よし、頑張るぞぉ」
キッチン前の対面カウンターに、私はスマホを置いた。
トップ画面の、私とほのちゃんのツーショット写真がどこからでも見えるように。
写真に写ったほのちゃんを励みに頑張れるように。
※ ※ ※
私がほのちゃんとまた暮らすようになってから。
私がちょっとずつ元の生活に慣れてきたところで、私は勇気を出す事にした。
ほのちゃんの家族に、私のお母さんに、白河さんに、他にも迷惑をかけちゃった色んな人達に、私はちゃんと謝らなくちゃいけないって思ってた。
もちろん、会うのは怖い。
私のお母さんだってそうだけど、ほのちゃんのお母さんやお父さん、蓮君に会うのがとても怖い。
私のやった事を、してしまった事を言葉にするのが怖くてたまらない。
私のやらかした罪に向き合わなくちゃいけないから。
私の事を恨んでないわけがない、憎くないわけがない、好きになれるわけがない。
自分達の大事な娘のほのちゃんに大怪我させて入院させて、危うく死なせるところだった。
そのくせ、私のためにお金をいっぱい使わせて、傷が完治する暇も、ゆっくり休む暇もないくらいに動かしてるんだもん。
私に優しくできる理由がないよ。
でも、これをちゃんとしないと、これから胸を張ってほのちゃんといたいなんて言えないと思ったから。
ほのちゃんと一緒にいる資格なんてないから。
だからちゃんと謝りたいって、私はほのちゃんに相談したんだ。
そうしたら……。
「分かった。でもね、亜紗一人で抱え込んじゃダメ」
「私は亜紗のパートナーだから」
「一緒に行って、私も謝る。亜紗だけが怒られる事はしないから」
なんでさ、と思った。
ほのちゃんのどこが悪いんだよとも思ったし、実際に言ったりもした。
どうして、私に刺されて大怪我までしたほのちゃんが謝る必要あんのさ。
だけど、ほのちゃんは言った。
お腹の傷跡を触りながら、これは自分の罰だって。
私が不安になるのを分かってたのに、良かれと思って話を進めて、私を追い詰めちゃったって。
もっとちゃんと、私と話し合って決めるべきだった、私の事を考えるべきだったって……言ってくれた。
「……」
どうしてそこまで言えるんだろう。
私には理解ができなかった。
でも、どうしようもないくらい、ほのちゃんが私を大事にしてくれてるって事は伝わった。
私はもうこの先、ほのちゃん以上に誰かを好きになる事はないって思えた。
ここまでしてくれて、愛してくれる人なんて現れるわけがないって。
※ ※ ※
「髪、大分伸びたね」
「うん……病院にいる間も全然切らなかったから、すごい事になってる……」
久しぶりに、私は髪をばっさり切る事にした。
小さい時からずっとロングを維持してたけど、入院してる間に髪も伸びたし、なのに全然手入れも何もしてなかったからもうパッサパサ。キューティクルなんてゼロ。
こんなひどい髪になったの、生まれて初めて。
せっかくほのちゃんが持ってきてくれたシャンプーやトリートメントも使わないで、病院のやつで洗って乾かしてただけだから、そりゃ傷むよねって思う。
オイルもクリームも使わないでいたし、雑に結んで寝てばっかりだったし、良くなるわけない。
ほのちゃん以外の人達にどう思われてもいいやってなってたもんで……。
だから久しぶりに美容院に行ってきた。
お母さんの友達がやってるお店で予約入れてもらって、誰もお客さんがいないタイミング。
ほのちゃんも知ってるところだから、「うわ懐かしっ」って言ってた。
ここが閉店しちゃったら、次からどこ行っていいのか分かんないけど……いずれは私の行ける美容院を増やしていかなくちゃだね……。
あ、話を戻すけど。
それから、少しずつ私は体重を増やす事にした。
正しくは、元の体型に……ほのちゃんが好きだって言ってくれた頃の身体を目指す事にした。
「50……ほぼ50キロだぁ。やったぁ」
「え、一気に痩せすぎでしょ……ちゃんと病院でご飯食べてた?」
「たっ、食べてた……よっ? ホントだよ?」
「……」
前は60キロを超えないようにしてた私だけど、病院にいた半年間で50キロ近くまで減ってたんだ。
正直言うと、最初は喜んでた。
中学か高校ぶりかもってくらい、足とかお腹が細くなってたし。
今なら履けなくなってたお気に入りのデニムだって履けるし。
でも、ほのちゃんはあんまり喜んでなかった。
なんなら心配そうな顔してた。
私がほのちゃんより身長高いのに、ほのちゃんとほとんど変わらない体重って事が気になるらしい。
栄養が足りてないのかなとか、身体に不調がないのかって気にしてくれてて……何も考えずに喜んでた私が恥ずかしくなった。
だから少しだけ……もう少しだけ体重を増やす(ほのちゃんにいわせれば、元に戻す)事にした。
おっぱいやお尻の肉を戻す……と思えば、私も少しくらい増えてもと思えたし。
まあ病院のご飯に比べたら全然食べれるし、食べるとほのちゃんもホッとしてくれるし。
見た目はまぁ、そんな感じで色々とやり直し中。
他に変わった事は……そうだ。
私が精神科に通ってるからって事で、障害年金の申請もした。
面談(診断かな?)で何を話したらいいのか分かんないし、病院に出す書類とかいっぱいあって、正直何書いていいのか分からなかったけど、ほのちゃんが調べてくれて、私でも分かるように説明してくれたから、なんとか書いて提出もした。
面談の時だって隣で座ってくれたから、私は安心して答えられた。
申請も済んだし、審査が無事通ったら、毎年の偶数月にお金が入ってくるんだって。
そうなったらお金を使ってばっかりじゃなくて、少しはほのちゃんに返せるようになる。
自分のスマホ代だって支払えるし、家賃や食費だって出せるし、余ったお金で何か買えるようにもなるんだ。
ほのちゃんが頑張って働いて稼いできたお金をね、私に使わせないで済むんだ。
ほのちゃんの負担が少しでも減らせるし、私が気を遣わないようにって……これもほのちゃんが考えてくれたんだよね。
私のために色々と考えてくれて……優しくて頼りになるのがほのちゃん。
ホントにごめんね。でもありがとう。
※ ※ ※
「亜紗もこれから、ワガママを言う練習して」
「わっ、わがままを言うの? ほのちゃんに?」
「うん」
私がほのちゃんと一緒に生活するようになって、少し経ってからかな。
ほのちゃんにそう言われた時、私はどうしたらいいのか分からなかった。
昔の私はもっとマイペースで自由で、思うままになんでも言えてたけど……いつからか、何も言えなくなってた。
最初はほのちゃんを裏切った私が、調子に乗った事を言わないように、嫌われたりしないようにって考えてた。
できるだけ長く一緒にいてもらえるように、私なりに気を付けようって。
一緒に家で暮らせるようになっても、ほのちゃんに嫌われたくない、好きでいてほしいって気持ちが強かったんだと思う。
それに昔の私みたいに喋った時、また馬鹿な事をしたりしないかって想像しちゃうから。
無神経な事を言ったり、遠慮しなくなって傷付けたりしたら嫌だから。
大体、セフレにしてだとか、一緒に暮らしたいなんて口にしただけでも十分ワガママだと思う。
それを聞いてくれたほのちゃんに、それどころか一生一緒の覚悟でパートナーシップまで結んでくれたほのちゃんにこれ以上、何を言っていいんだろうと思った。
「私と亜紗はパートナーだから」
「ちっちゃい時からの幼馴染みで、親友で、恋人。どっちが上とかじゃなくて、対等でいたい」
「私にいっぱい気を遣わせて、遠慮させてるから……もう少しくらい亜紗のお願いが聞きたいかなって」
対等……そんなの望んでいいのかな。
でも……前からほのちゃんにお願いしたいな、でもしてもいいのかなーって事はたくさんある。
口に出したら、お願いしたらどう思われるか分からなくて、怖くて言えなかったけど。
その中の一つを、ちょっとお願いしてみようかな……。
「じゃ、じゃあ……私の誕生日にね。お願いがあるんだけど……いいかな」
「もちろん。私の出来る事だったら喜んでする」
おそるおそるだけど、私はワガママを言ってみた。
私の誕生日には、その日だけでいいから、一日の間ずっと私の事をあーちゃんって呼ぶようにしてほしいって。
「それで……いいの? あーちゃんって呼ぶだけでいいの?」
「うん……ごめんね、さっそくワガママ言っちゃって」
「どこがだよ。こんなの全然ワガママじゃないよ」
ぎゅっとしてくれた。
そして私の誕生日には約束通り、起きてから寝るまでの間、私の事をあーちゃんと呼んでくれた。
たまに「亜紗……じゃなかった、あーちゃん」って呼び間違えたりもしてたけど、そんなの気にならないくらい、私は一日幸せ気分だった。
一日中あーちゃんって呼んでもらってたら、昔付き合ってた頃のほのちゃんをちょっと思い出したりもしたけど、それは内緒だ。
ここ最近でお願いした他のワガママといえば……。
ほのちゃんが千早ちゃん(謝って仲直りしてから、下の名前で呼ぶようにしてる)とか他の友達や知り合いと会ったり、喋ったりする事がどうしてもある。
それは仕方ないって思う代わりに、帰ってきたら思いっきり愛してほしいとか……頼んだりした。
あらためて言うと、何言ってんだろ私……。
でも、ほのちゃんは浮気しないって信じてるから。
なんだかんだで私を一番に、大事にしてくれるって分かってるから。
だから、ほのちゃんが私以外の人と関わっていても、なんとか我慢できるようになってきた。
時々、どうしても嫉妬しちゃって我慢できなくなっちゃって、一日中くっつきたくなるけど……それは許してほしいな。
※ ※ ※
新年も迎えて、私の30歳の誕生日も終えて、やってきたのがフォトウェディング。
私とほのちゃんでしてみたいって決めてたリスト、その最後のイベント。
私のせいで一度はキャンセルしてしまったけど、ほのちゃんのお誕生日に予約を入れる事ができた。
(私が予約したみたいな言い方だけど、これもほのちゃん頼み……)
その日に合わせて、私なりに頑張った事がある。
フォトウェディング当日までに、体型作りとその維持が一つ。
もう一つは綺麗な髪に戻す事。
この頃には体重も55キロ近くまで増えてて、体型も戻ってきてた。
代わりにお気に入りのデニムがまた履くのキツくなっちゃったけど……ほのちゃんが喜んでた(なんかの病気とか失調じゃなくて安心したって意味だよ? 私がデニム履けなくて喜んでるわけじゃないよ?)から、まあいいかと思う事にした。
なので、あとはだらしない身体にしないよう、運動をしてるってわけ。
本当はジムとか行けたらいいんだろうけど、どうしても無理だったから、テレビでエクササイズの動画を流して身体を動かしてる。
良いのか悪いのかは別としてさ、私には時間だけはたっぷりあるから……。
ばっさり切った髪もまた伸ばしてたんだけど、ほのちゃんの隣にいても恥ずかしくないように、ほのちゃんが褒めてくれてたあの頃の髪質を目指した。
ほのちゃんが私のためにって、結構良いシャンプーやトリートメント*1も用意してくれたし、その優しさに私もちゃんと応えなくちゃいけない。
入念に丁寧に時間かけて、ほのちゃんが喜んでくれるように私はケアに気合いを入れた。
フォトスタジオの人達との打ち合わせもやり直した。
でも去年で大体の流れは決めてたから、そこまで長くもならなかった。
場所とか必要な物とかも大体一緒。
ただ、少しだけ変えてもらった事はある。
それは────
「衣装はどうしましょう? 前の時は花咲さんの方がタキシード、天ヶ崎さんがドレスのご希望とございますが……」
「あぁ、前と同じで────」
「二人でドレスがっ、いいです……っ!」
咄嗟に声が出て、それからしまったと思った。
ほのちゃんが目を丸くしてる。
スタッフさんも驚いてる。
やっちゃった……言っちゃった……。
ほのちゃんがタキシードを着たら似合う。
そんなの分かりきってる。絶対かっこいいに決まってる。
少なくとも去年の私は分かってたから、それでいいと思って黙ってうんうんって頷いてた。
でも、今の私は二人でウェディングドレスを着たいと強くお願いした。
複数の衣装に着替えながらの撮影だって出来ると言ってくれたけど、それさえも首を振って。
私の完全なワガママ。
ほのちゃんは「私がドレス……マジ?」って言って、渋い顔してた。
でも、絶対に嫌だとは言わないでくれた。
ほのちゃんはスカートよりもパンツ(ジーンズ系)を履きたがる人だし、タキシードの方を着るつもりだったのも分かってた。
多分だけど、私に対して男らしくリードとかエスコートしようってしてくれてるのも伝わってた。
確かに私は、リードしてぐいぐい引っ張ってくれるほのちゃんが好き。
あれもこれも提案してくれて、私の意見を聞いた上でまとめてくれて、私が喜ぶように困らないようにってセッティングしてくれてさ、すごくすごくかっこいいし、私の事を一番に考えてくれてて嬉しいし、私が頼りたくなっちゃうのは当然だよね。
だけど……ほのちゃんが女らしさよりも、男らしさを気にしてるのも分かってる。
男になりたいわけじゃないらしいけど、男っぽく振舞ってたら、私が気兼ねなく女らしくしてられるみたいな事を前にも言ってたから……。
私が昔、リードしてくれる男の人が好きだって言ってたのを覚えてて、気にしてたんだって分かったから……。
だからこそ、ほのちゃんと同じ女の子同士で、女らしくドレスを着揃えたいって思った。
ほのちゃんはきっと恥ずかしがるだろうけど。
私が好きなのは、花咲穂乃花だから。
「……あーちゃんのお願いなら、仕方ない」
唸ってたほのちゃんだったけど、最後にはやれやれって顔をしながら、頷いてくれた。
ごめんね、ずっとワガママな私で。
でも、それでも大事にしてくれる穂乃花が好き。
※ ※ ※
そしてフォトウェディング当日。
教会みたいな場所(チャペルって言うんだっけ)で、ウェディングドレス姿のほのちゃんと私。
「亜紗はやっぱり綺麗、可愛い」
「んぇっ」
「ドレスすっげぇ似合うなぁ、可愛い」
「あぅっ」
「ちょっとにこってしてみてよ……やっぱ可愛い」
「……もう許して」
この日のほのちゃん、絶対浮かれてると思う。
だってだって、初っ端から私の事を褒めまくってくるし、すっごい優しい目で見てくるし、可愛い連呼のオンパレードだし、ドレス姿なのにかっこいいし……な、なんで? おかしくない?
フルメイクのほのちゃんは可愛い。間違いなく。
だけどそれ以上に、かっこいい。これ絶対間違いないよ。
私が直視してらんないくらい。
手汗がめちゃくちゃやばい。
頭とか首とかおっぱいとか、あっちこっちが汗ばんでる。
前もって汗かきなのは伝えてあるから、今日は崩れにくいベースメイクにメイクアップアーティストの人がしてくれてるのに、それでも崩れないか不安になっちゃう。
ほのちゃんが私の近くでべた褒めしてくるから、胸だってドキドキしっぱなし。
顔中に熱が篭もってるのも分かってる。
私は赤くなったら分かりやすいから、きっとほのちゃんにだってバレてるに違いない。
なのに、それなのにっ。
なんでほのちゃんは平気な顔してんのさ!
どうして私だけこんなに胸が苦しくて、まともに顔も合わせられないのよ。
ほのちゃんばっかり余裕で、私だけ余裕がなくて悔しい。
でも────
「あー……恥ずかしっ」
「ほのちゃんも照れるんだ」
「そりゃ……私だって浮かれる時くらい……ある」
気付いたら、ほのちゃんが手のひらで顔を仰いでる。
ほんのりとだけど、顔が赤くなってる。
恥ずかしいって、浮かれてるってはっきり言った。
そっか……ほのちゃんも余裕じゃないんだ。
ドキドキしてくれてるんだ。
私だけじゃないんだ。
それから撮影は順調に、それでもたくさん撮ってくれてるから結構時間も掛かったけど。
段々慣れてきて、私も不自然じゃない笑顔で撮ってもらえたと思う。
「ほのちゃん可愛い」「ほのちゃんかっこいい」って言えるくらいの余裕もできて、でもすぐにほのちゃんから倍以上に褒められて撃沈して。
ちょっとずつ慣れてきて、リラックスしてきた。
写真映えを気にするくらいの心の余裕も少しだけど、できてた。
そして最後に、キスショットの撮影。
最初はブーケで顔が隠れるやつとか、ベールの中で目立ちにくくしようって話してたけど、最終的には一切隠さないストレートなやつに決まっちゃった。
壇上に上がって、なんとかガラス(スタンドガラスだったっけ?)を背景にして、スタッフの人達が見守る中で私とほのちゃんが見つめ合って……これからキスしてるところを撮影してもらう。
もうこの時点で写真の完成が待ち遠しい(まだ撮ってもないのに)くらいに楽しみだけど、それはそれとしてやっぱり照れちゃうなぁ……。
堂々と立ってるほのちゃんの事、また目も合わせられなくなっちゃった。
あぁ、目線合わせてって言われちゃった。
変な顔でキスしてなきゃいいんだけど……怖いなぁ。
深呼吸、深呼吸。
「リラックスだよ、あーちゃん」
「あっ、うん……はいっ」
ずるいなぁ……ここであーちゃん呼びするの。
そんなのドキドキしないわけ、思わず顔を見ないわけがないじゃん……。
「あーちゃん」
「うん」
「一生一緒にいようね」
「あっ…………うん、ずっと一緒にいてね」
かっこいいなぁ、ほのちゃん。
この緊張しちゃう場面でも、私が言われて嬉しい事をスマートに言ってくれるんだもんね。
ずっと私をリードしてくれるし、しようと頑張ってくれてる。
だから、私も安心して頷ける。
「…………」
ほのちゃんと両手の指先を合わせる。
ゆっくりと一本ずつそれらを絡ませていく。
私とほのちゃんの、お揃いの指輪が照明の光で反射してキラキラと輝いた。
じっとお互いの顔を見つめて、ほのちゃんが顔の角度を傾かせてくれた。
私はそれに合わせながら顔を、口元を寄せていった。
ほのちゃんとなら────貴方とならこの先、どこまでだって行ける。
もう私は、貴方以外と手を繋がない。
もう私は、貴方以外とキスをしない。
もう私は、貴方以外を選ばないし、間違えない。
そう、心の底から思えた。