あんな奴を好きだった自分、ホント馬鹿じゃねぇ? 百合カップル? クソだよクソ! 過去に戻れたら絶対に選ばんわ! 作:Yunoko
始業式や諸々が終わった。
随分久しぶりのそれらに対し、私は何らの感慨を抱く事もなかった。
まあ、あえて感想を述べるなら以下の通り。
壇上に立って話す校長の話のつまらなさに愕然とした。
社会人経験を積んできた今なら、校長の話に理解を示せると思ったが。
数分で終わる内容を無駄に膨らませて話してるし、何か話す度に「え~」と一拍置くテンポの悪さが気になって、内容が全然入ってこなかった。
新任教師の紹介や今年の担任発表を聞いても、「あー、こんな先生いたな」としか思えなかった。
顔に見覚えがあるし、名前を聞いて懐かしさもあった。
でも、それ以上の印象や記憶もなく、エピソード記憶の一つも浮かんできやしねぇ。
淡泊な学校生活を送ってた自分にショックを受けた。
久しぶりの校歌斉唱でまったく歌詞を覚えてなくて焦った。
周囲が歌ってるのを聞きながら、ほぼ口パクで乗り切った。
次はもう少しちゃんと歌おう。
そんで最後にクラスメイトと久しぶりに話した。
一部を除けば、亜紗との破局後に完全に縁が途切れた連中。
こっちじゃまだ何もされちゃいないのに、名前を呼ばれる度、胸がもやもやとしてしまう。
気安く呼ぶな、友達面するなと声に出そうになる。
私は愛想笑いを浮かべ、何事もなく話す事ができてただろうか。
下の名前で呼んでた子もいたはずだが、誰がそうだったか今となっては思い出せないし、思い出せない事に対して罪悪感を覚えなかった。
今さら、仲良くしようとはこれっぽっちも思えない。
ちゃんと信頼関係を築けば、あるいは違った未来だってあると理屈では分かってる。
もしかしたら、ちゃんとした友人になれる子だっているかもしれない。
でもあの時に信じてくれなかったという一点が、私の感情を強く刺激してしまう。
所詮、亜紗が中心となって集まった寄せ集めのグループだ。
上っ面だけの無駄に広くて関係の浅いコミュニティでしかない。
私が本当に困った時、行き詰った時、手を差し伸べてくれるような相手はこの中にいない。
むしろ、この歪な輪から外れた面々の方が私にとって友人と呼べる存在だ。
だから、今回は完全に割り切る。
中学校卒業までの間だけ、最低限関わるだけの存在だと徹底する。
私が仲良くなりたいのは一部の人だけで、手助けするとしてもその人達だけ。
あとはどうなろうが知らないし、興味も持たない。
中学校を卒業したら最後、あとはフェードアウトしていくだけの存在。
二度目の人生に対し、まだ何も目標が決まってない私だけど、人間関係については浅く広くより、深く狭い付き合いをしていこうと思う。
もっと効率的に、自分に正直に生きよう。
※ ※ ※
下校時間を迎えると、クラスメイト達は各自散っていった。
教室で残って雑談する者達、校庭や体育館で遊ぶ者達、下校がてらどこかへ寄り道をする者達などなど。
「ただいまっと」
「お邪魔しまーす……」
そんな中、私は千早を連れて自宅に帰ってきた。
家の前に車はなく、玄関に靴も無いし、まだ誰も帰ってきてないようだ。
蓮も校庭で遊んでるの見えたし、帰ってくるのは多分夕方あたり。
というわけで今この家には私と千早しかいないし、遠慮なく色々と話せる。
キチンと施錠したか確認し、千早にスリッパを用意する。
「あんがと」
「うん……飲み物だけど、お茶にする? ジュースがいい?」
「そんなの気にしなくていいよ」
「まぁまぁ、話す事も色々あるし喉渇くよ?」
「んー……じゃあお茶で」
「オッケー」
千早へ先に私の部屋で待っててと伝え、私は台所に行ってコップを用意する。
そこに氷をがっつり投入し、冷やしたお茶を注いでいく。
千早も私と同じく、飲み物は冷たい派だ。
社会人となってから、いつでも冷たいのが飲めるように長時間保冷の真空断熱マグボトル(ホントか知らんが10日間氷が残ると噂の)を持ち歩くくらい、千早にとって飲み物は冷たいのが当たり前らしい。
その気持ちや考え、私にはとてもよく分かる。
「お待たせ」
「あいよー、お茶ありがとね」
部屋に入ると、千早はMDコンポを眺めていた。
私は中央のクソ狭ローテーブルにお茶の入ったコップを並べ、テーブル近くのクッションに座る。
「これ懐かしい。MDだっけ……? 再生できんだよね?」
「うん。CDもカセットも聴けるし、ついでにラジオも流せる」
「すっげ。昔はこういうの全然分かんなかったなー」
昔の千早が分からなくても仕方ない。
この頃には既にipodだのウォークマンが普及してたし、そうでなくても携帯で着うた(なんて懐かしいワードだ)をダウンロードして聴けてた時代だ。
今となっては、私だってどうやってMDに録音してたか思い出せやしない。
たまたま家にあったから分かるけど、もしもなければ一生知らないままだったと思う。
「これって処分したの? いつの間にか見なくなったけど」
「多分……私も覚えてないや」
「昨年だったか一昨年だったか……あたしらがこっち来る前にMDが生産終了になったじゃん。あん時には高く売れてたんじゃね?」
「それはそう。メルカリでさ、コンポどころかディスクも値上がりしてたんだよなぁ」
もったいない事をしたもんだと思った。
スペースを取るコンポはまだしも、未使用のMDディスクなんかはそこそこの小遣いくらいになっただろう。
まあ、当時の私にそこまで将来を見据えろってのも無理な話か。
でも、今の私なら将来を考えて先物買い(使い方が合ってるか知らんが)する事だって可能なんだよな。
極端な話、金銀を買うのに借金しても、そう遠くない内にペイだって出来るわけだし。
そのまま千早と、今の内にこれ買っておいたらいいんじゃねといった話をしてしまう。
見た目は小学生の二人なのに、その会話内容は卑しく生々しい。
だって中身がアラサーなんだもの、しょうがねぇだろ。
※ ※ ※
「ごめん、完全に本題忘れて喋ってたわ……」
「いや、私も夢中になってたし……」
テーブルを挟んで向かい合う私と千早。
テーブルの上に置かれたノートには、将来的に価格高騰しそうな品物リストが羅列されており、いつ頃までに安く買えるかだとか、いつ頃まで確保すべきか記載されている。
ノート自体が可愛いキャラ物のデザインだってのに、書かれた内容には可愛げがまるでない。
将来の夢を思い描いたと宣うには、子供らしさが欠片もありゃしない。
未来予想図だと話したところで、今の大人達からすれば荒唐無稽な内容だ。
何を夢中になって書き連ねているんだか……。
「…………」
でも、私と千早が同じ時代からタイムリープしてきたってあらためて確信できた。
私一人が長い夢や妄想を見ていたわけではないのだと、安心できた。
私一人だけが二度目の人生をやり直すわけではないのだと、安堵した。
「じゃあ早速だけど、私から聞いてもいい?」
「うん」
「私ってさ……やっぱ死んだの?」
さっきまでのやり取りから一転して、真面目な話。
聞きたい、けど知りたくない内容。
私の声も指先も、微かに震えていた。
「あー……うん。穂乃花は、その、亡くなってる」
まあ、そりゃそうだと思った。
私が生きてたら生きてたで、向こうはどうなってんだって話だし。
「そっか、そうだよね」
「……」
「あの時、包丁で刺されたのが原因?」
「……うん」
千早の表情も声も暗いものとなっていく。
言い辛い事を聞いてしまい、嫌な事を思い出させてしまい、申し訳ないとは思う。
でも、もう一つだけ聞きたい。
これは私の予想とは違っててほしい。
「じゃあ……千早は? 千早も刺され……ちゃった?」
「あたしは刺されてないよ」
「ホントに? 気を遣ったりしてない?」
「うん、ホント」
私が罪悪感とか後ろめたさを覚えないように、気を遣ってるんじゃないかと勘繰ってしまう。
昔から千早はそうだったから。
私が見たら傷付く、聞けば悲しむといった出来事から遠ざけてくれるところがあったから。
そんな私の気持ちを察したのか、千早があの時の続きを話してくれた。
私が刺されたあと、亜紗はパニックを起こしたらしい。
私に縋りついて泣き叫び、千早の事は視界にも入っていない状況だったとか。
千早は千早で、逃げるどころか私を病院に連れていかなくてはと思い、119番通報してくれたと。
亜紗はずっと私の傍にいて、搬送する救急車の中でも私の手を握り続けていたらしい。
それこそ、手術室に入っていく直前まで離れようとしなかった……と。
「…………」
あの時、私がこの部屋で目覚める前。
私と亜紗が電車の中で座っていた夢。
あの時の出来事は、案外夢じゃなかったのかもしれないと思った。
「まあ……そのあと、穂乃花は助からなかった」
「天ヶ崎もおかしくなっちゃって、精神がやばいって警察に連れてかれた」
「多分精神病院に入院だとは思うけど、そのあとの事は分からない」
「あたしもまぁ……色々あって死んじゃって今に至ると」
そのあとの千早の説明は大体こんな感じだった。
いつもだったら要約するところだが、千早に限っては端的にまとめるもんだから、逆に文字を付け足した。
っていうか、さらっと言ってるけど千早も死んどる……ホントに、亜紗に刺されてないんだよな?
「千早はその……どうしてこっちに? 言いにくい事だったら、全然言わなくていいんだけど……」
「んー……」
言い淀む千早を見てると、いらん事を聞いてしまったと後悔した。
これで千早がひどい死に方とかしてたら、思わず泣いてしまうかもしれん。
「……結構恥ずかしい理由で死んだからさ、ちょっと秘密って事で」
「そっか、分かった」
「ごめん」
「いや全然」
恥ずかしい理由の死に方ってなんだろ……気にならないといえばウソになる。
でも、本人が言いたがらない事を深掘りするのも嫌だ。
千早だったら、いつか言ってもいいと思える時に話してくれると思うし。
自分から聞いておいてアレだけど、死因なんて話すのも聞くのも気持ちがいい話でもないし、話題を切り替えてしまおう。
「じゃあさ、違う事聞いてもいい?」
「もちろん」
「私はこっちに来たの4月1日だったんだけど……千早は?」
「あたし? あたしは今日の朝」
「今日!?」
普通に驚いて素で声が出てしまった。
私のリアクションに千早も少しだけ驚き、そのあと「ふふ」と笑う。
「あたしもびっくりした。気付いたら実家にいるし、今日始業式だって言うし、みんな若くなってるしさぁ」
「あー……すごく分かる」
「身体が子供なのにさ、ランドセル担いで外歩いてるとすっげぇ恥ずかしかった」
「分かる。なんかコスプレしてる感がねぇ」
「なぁー」
見た目には本物の小学生なんだから、おかしな事なんてありゃしないはずなんだ。
でもさ、心情的にはいい歳した女がさ、女児の服を着てランドセル担いで登校しようってんだぜ。
この気持ちを上手く言葉にはできないけど、すっげぇ居た堪れない気持ちになんの。
「そういえば」
「ん?」
「よく私もタイムリープ……こっちに戻ってきてるって思ったね?」
ある程度確信がなければ、私の事をほのちゃんなんて呼ばなかったはずだ。
携帯に連絡先が載ってなかったから、私は千早とまだそこまで仲良くなってないと判断できた。
でも千早は今朝こっちに来て、訳も分からんままに登校してきたんだ。
私との関係について十分な確認もできなかっただろうし、当時の私が何をしてたかなんて詳細に覚えてると思えない。
「とりあえず呼んでみて反応を確かめたの?」
「…………穂乃花が自分の席に座ってたから」
「え、それだけ?」
「いや、それで十分っしょ」
いやいや。
正直、それはあまりに判断材料が少なすぎないかと思った。
その一点で確信に至れるもん? 一点賭けはリスクの方が大きいぞ?
「いつも天ヶ崎の近くにいる穂乃花がさ、自分の席で座ってっからさ。こりゃおかしいなって」
「いや……たまたまかもしんないよ?」
「あのさぁ……穂乃花が天ヶ崎から離れてるってマジでありえなかったからね?」
「うそん……」
「ホントだっての」
うーん……。
傍から見ても、いつも亜紗の周囲に加わってるイメージだったか私。
休み時間どころか、朝の会(ホームルームだっけ?)までの時間にも加わってたっけ?
小学生の頃からまぁ、なんと重い女なんだか。
「で、試しにほのちゃんって呼んでみたわけ」
「なるほどね……」
「ロクに喋った事もないはずのあたしにそう呼ばれて普通なら、はぁ? 何コイツ、キモってなるじゃん」
「千早に思わないよ、そんなん……」
まあ、当時の私だったら「え?」って言ってオロオロとしたかもしれん。
でも声をかけてきた相手を突き放したりとか、ひどい事を言ったりはしないはず。
自分で言うのも恥ずかしいが、今よりずっと純粋で素直だし、人を疑ったり嫌ったりもしなかったから。
「穂乃花さ、あたしとの関係がどうだったか思い出そうとしてたっしょ」
「……分かっちゃう?」
「もうバレバレ。どう呼んでたか考えてるなってすぐ分かったよ」
私よりよっぽど私を分かってら。
嬉しく思うと同時に、私の方は千早をちゃんと分かってなくて申し訳ないと思った。
※ ※ ※
「今回……って言い方が合ってんのか分かんないけど、穂乃花はどうすんの?」
「どうすんのって、これからどう生きるかって事?」
「うん」
正直、目標なんてまだない。
こっちに来てから一週間、当時の情報をまとめるだけで精一杯だし。
かといって、前の人生を再びやり直すべきだろうか。
決して、悪い内容じゃなかったと今なら思うが。
私が先走ったり暴走しなけりゃ、そのまま亜紗と一緒にいられたんじゃないかとも思うし。
付き合ってた頃だって、亜紗の様子がおかしい時点でもっと話し合っていたら結果も違ってたかもしんないし。
あの破局を除けば、割と悪くない内容……いや。
なんだったら、破局して落ち込んだ私を慰めて、立ち直らせてくれたのが千早達だ。
あの時の千早達には今でも感謝してるし、あの時の出来事が営業にも活かせてたんだから、結果を考えたら破局した事でさえ無駄じゃなかった。
「穂乃花はさ…………また天ヶ崎とくっつきたい?」
千早が躊躇いがちな様子で尋ねてきた。
「どうなんだろ。分かんない」
私は正直な気持ちをそのままに答える。
「亜紗の事は好きだと思う。でも……」
私が好きなのは、死ぬ前に一緒だった病んでて弱気で依存と執着しまくりな亜紗だと。
元気いっぱいで無邪気な亜紗だって好きだけど、今となっては病みまくりの亜紗の方が好きなんだと答えていく。
でも。
あの病んでる亜紗と会おうと思った時、亜紗は男関係や友達関係、なんなら家族の事ですらひどい目や辛い目に遭わなくちゃいけないし、そんな目に遭わせたくはない事。
かといって、今の亜紗にアプローチをしたところで上手くいくビジョンが浮かばない事も全部話した。
「……まぁ、確かに今の天ヶ崎じゃ気付いてくれないかもね」
「うん、きっと無理。最悪の場合は気持ち悪がられておしまい」
そうなると義務教育時代は地獄だ。
好きだったやつに嫌悪されるばかりか、あいつの影響力を考えれば学校や地元での居場所すら失う可能性も小さくない。
かといってだ。
もたもたやってりゃ中学1年くらいで彼氏も作るし、そこからどんどん動きも派手になっていくし、私の存在は薄まるばかり。
かといって小学生の内から同性同士での恋に発展? 無理だろ、無謀がすぎる。
あいつの頭にLGBTなんて言葉も入ってないし、多様性の概念だってあるのか微妙なんだぞ。
男を嫌いにでもさせるか? どうやって?
あいつは顔が可愛くてスタイルも良くてノリも良いから、狙う男はたくさんいた。
ストーカーにも悩んでた。
でも良くも悪くも彼氏がいたから、守ってくれるやつはいたんだ。
強姦未遂でもさせて男を嫌いにさせるかって?
ざけんな、絶対嫌だ、性犯罪者なんて大嫌いだ。
万が一に襲われでもして、亜紗が心に傷を負ったらどうすんだ。
となれば、私と亜紗が恋人になろうと思ったら結局同じ道を辿るしかない。
高校生卒業までの間はひたすら傍にいて、亜紗の中から完全に消えないように頑張って粘って。
次々と彼氏ができる報告を聞いて苦しみ、彼氏と別れて泣いてる時に励まし、気になる男の人ができたと聞かされ涙して。
「……きっついわぁ」
「えっと、何の話?」
「あ、いや……もう一回、亜紗と付き合おうって思ったら私の脳が破壊されまくりだなって」
「あぁ……そういう」
そんな苦しい思いをしてまで、亜紗と再び結ばれたいだろうか。
だけど、一度どころか二度も恋人、あるいはそれ以上の関係となれたから素直に諦める事ができない。
もっと上手くやりようがあったのではという未練が付きまとう。
でもなぁ……。
「亜紗ってさ、中学1年くらいで野球部のなんとか君と付き合うじゃん」
「いたね、そういや」
「で、そいつが転校かなんかで別れて、次は野球部のいかつい先輩と付き合うじゃん」
「そんなのもいたわ」
「もうさ、あの頃は亜紗の恋愛話を聞くだけでしんどかったわけよ」
「そりゃそうだ」
学校なんて狭いコミュニティだからか、あるいは亜紗が校内の有名人だからなのか。
亜紗の恋愛事情はすぐに広まり、周知されてきやがる。
まあ耳を塞いだとて、本人から聞かされるしそこはいいとしても。
どこから情報を漏らしてんのか知らんけど、亜紗の身体はどうだった、性的な反応はこうだったという噂でさえ広がっていくんだから堪ったもんじゃねぇ。
付き合った男子が自慢話で語っちまうのか、亜紗を憎く思う女子が広めてんのか、真偽は分からん。
でも、そういう下卑た話題が耳に入る度に私の心が傷付いていくんだ……しんどい。
「諦めようかな」
「……マジで?」
「もう一回さ、高校卒業まで追いかけるのしんどいなって」
「…………」
返事がないので千早の顔を見た。
私の答えがよほど意外だったのか、千早が目を見開いてこっち見てら。
普段は切れ長でクールな顔なだけに、驚いてる顔が可愛いと思ったのは内緒だ。
「……じゃあ穂乃花はさ」
「ん?」
「今回はさ、あいつと別の高校にすんの?」
「そうだね、それもありかもしんない」
高校を別にすれば、亜紗の事を気にしなくて済むかもしれない。
あいつが誰を好きになろうが、誰と付き合おうが別れようが、情報が入ってこない。
あいつの事だから、高校で色んな友達を作っていくだろうし、私の存在なんてすぐに消えていく。
そうなったら、私もあいつの事を完全に諦める事ができるかもしれない。
「もうさ、亜紗の事で色々と我慢すんの疲れちゃったし……」
「ふぅん」
言葉だけを捉えたらどうでもよさげに思うかもしれない。
でも、千早の顔は真剣そのもの。
「…………」
私の顔から視線を一切逸らさず、無言で見つめてくる千早。
沈黙は多分数十秒くらい。
だけど、体感的には数分以上。
「あのさ」
「うん」
意を決したように千早が言葉を発する。
何を言い出すんだろう。
「あたしさ、今回は我慢しない事にしたんだ」
「いつか振り向いてくれるかも、気付いてくれるかもって期待して、待ち続けるのがしんどいって分かるから」
「誰かに取られたら苦しいって事、嫌になるくらい知ってっから」
「だからあたしも……自分に正直に生きていこうって決めた」
決意を固めた表情……といいたいところだけど、千早の顔に不安の色が混じっているのがよく分かる。
元々眉間によく皺を寄せる子ではあったが、今は一段とそれが深い。
まっすぐと人の目を見て話す子だったけど、今は目が泳ぎそうになってる。
酒を何杯と飲んでも顔が赤くもならない酒豪だったのに、微かに頬が色付いてるのはどうしてか。
突然の風邪か……なんて鈍感主人公みたいな発想はない。
この雰囲気、この様子は私にも覚えがあるから。
高校卒業の前、亜紗に告白した時の私もこんな感じだったはずだ。
いや、でも。
そんなまさかと思ってしまう。
私の推察や予感なんてアテにならん事が多いけど、この予想が合っていたら私はずっと千早に……。
「穂乃花」
「……うん」
「あたしさ、穂乃花が好き……子供の時からずっと」
ずっと残酷な事をしてきたんだね、私。