あんな奴を好きだった自分、ホント馬鹿じゃねぇ? 百合カップル? クソだよクソ! 過去に戻れたら絶対に選ばんわ! 作:Yunoko
あたしの生まれ育った家は、白河家は率直にいって終わってる。
まず母親がヤリマン。
いくつになっても恋愛脳でちょろい。
貞操観念も股も緩く、簡単に身体を許してしまう。
フリーwiFi並に接続自由だし、フリーのそれの危険性まで似てる。
男を見る目はないが、種を実らせる才能はあるらしい。
おかげで子供はあたしを含めて5人。
これだけなら子沢山と言われるだけで済んでたかもしれない。
でも問題は。
5人いる子供全員、父親が別だって事。
父親被りはまったくない。
母親が子作りとデキ婚のプロフェッショナルとか、マジで終わってる。
ありえない、キモい。
娘のあたしから見ても、こんな母親は手を出すべきじゃない不良債権だと分かる。
バツが5回のシングルマザーなんて、目に見えた危険物でしょ。
学習能力がない、過去からの経験で何も学んでいない。
歴代の男達から、都合の良い性処理相手くらいにしか扱われていない。
それなのに、母親は自分の魅力だと信じてて痛すぎる。
『もう40過ぎてるのにね、会社の後輩の男の子にいくつに見えるって聞いたらね! 30手前って言われちゃったぁ! きゃぁぁ~! まだ若く見えるんだぁ! もう40超えてるのに!』
『私が褒められたらねぇ、会社の女の子達がすーぐ嫉妬してうっざいの! 私よりも若いんだし、時間もあんだからもっと女磨けってのぉ~』
これである。
ちなみにこの言葉は、あたしが20歳くらいの時に聞いた。
ホンッットに馬鹿じゃね?
あんたの脳内にお世辞とか社交辞令って単語が存在しないの?
その後輩とやらに「うーん、40歳くらいですか?」なんて言われたら、あからさまにムスッとすんでしょ?
おばちゃん社員を怒らせると後が面倒だから、リップサービスで言ってるだけだって分かんないかな?
自分の母親が勘違いお局さんとか辛い……まともな母親のいる家が羨ましい。
母親がこんなだからなのか。
姉の千尋も、妹の千歳も若い内からのデキ婚だった。
どっちもキツイ性格してるし、言葉遣いも終わってるし、下品でだらしなくて金遣いまで荒い。
極めつけに母親同様、性に奔放な生粋ビッチだというのに、どうして男達はこんなのに引っかかってしまうのか?
『この間さぁ、千尋のために〇〇(どこぞのブランド)買ってくれたんだけどぉ! 良くないコレ!?』
『いいなぁ! ちーちゃんの〇〇君(彼氏の名前、何だったか忘れたわ)なんて仕事忙しすぎて、中々会えないのに! いっくらお金稼げても会えないの寂しいんだけど! あーあ!』
結婚するまではキモイくらい彼氏に媚びたり甘えたりしてるし、家族相手にもウザいくらいマウントを取ってくるし、男からすれば愛されてると勘違いしてしまうのだろうか?
でもさ、一人称が名前や愛称の女を選ぶのはちょっと……やめといた方がいいんじゃない。
それに、こいつらが妊娠したら最後だ。
認知しないでヤリ逃げしようもんなら、こいつらはどこまでも追い込んでくる。
過去の男友達(どうせセフレとかそんなん関係)を使って、ありとあらゆる手段で追い詰めてやったと自慢気に語れるこいつらは、別の生き物のように思えてならない。
妊娠してしまったら、責任を取らされる形で結婚させられてしまう。
そうなれば、いよいよもって終わり。
文字通り人生の墓場だ。
女尊男卑のお手本みたいなこの家で、人生最後まで働いて働いて絞りつくされるだけの未来が待っている。
逃げるために離婚したとしても、養育費やら諸々を請求されるし、それを拒否すればどうなるかも分からない。
本当に、関わっちゃいけない一族だ。
あたしが実家に寄った時、姉と妹の旦那はどっちも同居してた。
っていうか、同居させられてたが正しい。
新居を建てて逃げるような真似をさせなかったんだろ……搾取体制には余念がない。
結婚当初はもっとふくよかで幸せそうだったのに、どっちもやつれてて、居場所もなく辛そうだった。
生まれてきた子供達はもちろん、いつの間にか飼ったペットの犬(どうせSNSとかでバズる用に飼ったとかそんなん)以下の扱いしかされていない。
旦那達(義兄と義弟になるのか……)の名前すら覚えてないけど、こりゃあんまりだと思った。
夫婦間の事とはいえ、流石にもう少し優しくしてあげなよとフォローしたあたしは間違ってないと思いたい。
まあ聞く耳なんか持ってないけどね……終わってんなこの家。
弟は結婚も何もしてないけど、あいつはそもそも自己愛性を拗らせちゃってどうにもならない。
自分の都合の良い事しかしないし、無職でお金も家に入れない、家事も何もしないくせにすぐキレて暴れるし、ごめんなさいの一言を絶対に言わない。
精神的なものがあるかもしれないし、本当は通院とか考えた方がいいって分かってる。
でも散々暴言吐かれて、約束した事もことごとく守らなくて、人生舐めた態度のやつなんて助けようと思えない。
『千早も高校を卒業したらさっさと逃げた方がいい』
『この家に残ってたらお前もおかしくなる』
『なんかあったら俺か父さんに連絡しろ。ここのやつらには頼るな』
唯一まともだった兄貴は、高校を卒業すると同時に家を出た。
あの人だけはちゃんとした奥さんと家庭を持って、ちゃんと幸せに生活をしてた。
結婚する時もあたしとお父さん以外には知らせなかった。
あとはお父さんだけど……あの人はとっくに離婚してる。
そりゃそうだと思う。
早く解放されるべきだと思ってた。
お父さんは誰一人血の繋がってない子供と、どこまでも無責任な嫁のために頑張って働いてくれてたのに。
なのに母親は、会社でちょっと褒めてくれただけの男と簡単に浮気して貢いで……。
自分の不貞で離婚されて、なのに子供達が可哀想だからって慰謝料も取らないでくれたのがお父さんだったのに、母親は終始偉そうだった。
『子供が5人いるんだから、もっと養育費置いてくでしょ普通さぁっ!? マジでアイツ無いわぁ~! 終わってるわ!』
などと友達や知り合いに愚痴る始末。
あたし達に対しても『あんな男はダメだ』『将来性もないし、男として終わってる』って何度も何度もしつこく言ってくる。
終わってんのはお前だ。
女としても終わってて、母親としても失格で、人間としても見習う点が見当たらない。
なんで不倫したのは母親なのに、ちゃんとしてたお父さんが養育費を支払わなくちゃいけないんだろ。
どうせ歴代父親達からも、あの手この手で奪いまくってるくせに。
でも……そのお金があるおかげで、生活に不自由しないでいられる自分の立場が嫌になる。
これがさ、こんなロクでもないやつら(お父さんと兄貴は除く)があたしの家族。
マジで終わってんでしょ?
そりゃね、こんな母親のいる家だったから子供の時から陰口叩かれるわけよ。
※ ※ ※
いつからだろう。
自分の母親の事で陰口とか悪口を言われてるって気付いたのは。
『白河の家ってさ、お父さんいっぱいいるんだって』
『家族みんな親がバラバラだってホントかな』
『白河のお母さんってすぐ男の人を好きになるってママも言ってた』
『学校の先生とあいつの親って仲良くレストランでご飯食べてたらしいよ』
どこからそんな話が漏れてくるんだろう。
あるいはあたしの母親が、自分から武勇伝みたいに語った可能性なんてあるわけ、いや、あるかも。
あの人、マジで何も考えてねーから……。
ともかく、親同士のコミュニティでそういう話をしてたら、子供が耳ざとく聞きつけるんだろうね。
内容をちゃんと理解してないけど、あたしを傷付ける言葉だって分かってる。
なんとなく良くない事、でもからかうのは面白い事だと気付いてる。
だから遠巻きにひそひそと話したり、あるいは直接的にあたしに向かって聞いてきやがる。
あぁ、マジで子供のこういうところ嫌いだったわ。
無邪気に無神経に無遠慮に人を傷つけてきやがってさ。
しかも一人でやったら後ろめたいから、必ず複数人でやってくるあたりも小賢しい。
であたしが怒れば冗談だったとか、ノリだったとか誤魔化して言い訳して。
学校のクラスメイトが次第にどいつもこいつも敵にしか見えなくなってきた。
実際は噂話に加わらない人だっていたけど、そんなの分からなくなってた。
皆嫌いだし、どっかいなくなってしまえと思ってた。
あるいは、あたしの方が消えてしまいたいと願った。
誰もあたしの家を知らなくて、あたしの事も知らないどこかに行けたらなって。
そんな時だ。
あたしが穂乃花に出会ったのは。
いや……同じ小学校でクラスも各学年で一組ずつしかないんだから、1年の時から出会っちゃいるんだけど……。
※ ※ ※
あたしが穂乃花と喋るようになったのは、小学5年生の頃。
席替えで隣同士になった時。
その頃にはすっかり、あたしの母親が男をとっかえひっかえしてるだの、学校にいる兄妹はみんな血が繋がってないだの、ガラの悪い男達が家に出入りしてるだの、母親が担任と不倫してるだのと陰口が定着してた時期でもある。
今なら分かるが、ほとんどが根も葉もある噂だった。
端的に言って事実しかない。
普通さ、根も葉もない話だったり、噂に尾ひれがついてるもんじゃないの。
なんでほぼ全部合ってんだよ……一つくらい違ってろよ。
ホントの事ばかりだからってのもあるけど、この頃には怒って言い返すのも、噂を否定するのにも疲れてしまい、あたしは何も言わなくなってた。
元々人付き合いが苦手だったし、仲の良い友達もいなかったから、噂があってもなくても過ごし方は変わらなかったかもしんないけど。
でも、そんな時。
いつも通り一人で過ごしてたあたしに、おずおずと声を掛けてきたのが穂乃花だった。
「おっ、おはよう。白河さん」
「……おはよ」
その時の穂乃花に対する印象は、正直にいえば天ヶ崎のお供くらいにしか思ってなかった。
天ヶ崎と家が近所の幼馴染みで、いつも一緒というより、穂乃花が天ヶ崎にくっついてまわってるというイメージだった。
正直ムカつくけど、天ヶ崎は目立つ。
いつもクラスの中心に立って、あいつの周りにみんなが集まってた。
どんだけ騒いでても、天ヶ崎が喋ったらみんな耳を傾けてた。
あいつに勉強ができるイメージはないけど、体育になったら活躍しまくってた。
バスケやサッカーが得意で、ドッジボールをさせてもエースで、児童会でも運動委員会の副会長(6年の時には会長)になって引っ張ってた。
1年から6年に至るまで、天ヶ崎の事を知らない生徒の方が少ないくらい、あいつは目立ってた。
そんな天ヶ崎だから。
穂乃花がいつも近くにいるのも、天ヶ崎の人気にあやかりたいからだと思ってた。
幼馴染みで友達アピールでもしておけば、クラスではぶられる事もないだろうし……なんて考えてた。
だから穂乃花と仲良くなりたいとも思わなかった。
最低限の挨拶はするし、授業の一環で隣同士でのペア学習くらいは喋ったりするけど、個人的な話は一切しなかった。
給食の時だって話したりもしなかったし、どうせ食べ終わったらすぐに穂乃花が天ヶ崎のところに行ってたし。
よくもまぁ、そんなに必死こいて天ヶ崎に媚びてるよなーっていうのが最初の印象だった。
正直なところ、この時期は冷めた目で穂乃花を見てた。
※ ※ ※
穂乃花に対する印象が変わったのはいつからだろう。
あの子と隣同士の頃だから、そこまで月日も経ってなかったはず。
「白河さんって、鉛筆の持ち方綺麗だよね」
「白河さんがいつもかぶってる帽子、すっごく似合ってる」
「白河さん、50メートル走いつも一番速くてかっこいい」
授業中の鉛筆の持ち方がどうだの、登校時や下校時にかぶってきた帽子がどうだの、体育の時に走る速度がどうだのと、穂乃花が褒めてくるようになった。
「いや、別に……」
「そんな事ないし……」
「あっそ……ありがと」
対するあたしの返事だが、今思えばそっけない。
しかもその理由が、褒められる事に慣れてないから照れたとか気恥ずかしかったとか、喋り慣れてないからどう返事していいか分からなかったとか、あまりにも情けない。
でも本当は嬉しかった。
あたしのふとした仕草を穂乃花が見ててくれて、それを褒めてくれるのが。
母親が思いつきであたしの髪を染める(学校から注意されても逆ギレで押し通すから、それも陰口叩かれるんだけど……)から、見られたくなくて帽子をかぶってると、周りから変だって小馬鹿にされてたのに、穂乃花だけは否定しないでくれて。
50メートル走で一位を取っても、皆が天ヶ崎の方しか見てないと思った中、穂乃花だけがにこにこと拍手してくれて。
誰もあたしになんて注目してない中、穂乃花だけは気付いてくれてた。
いつもと少し違う服を着ていったら気付いてくれた。
新しい筆記用具を持っていったら気付いてくれた。
ちょっと前髪を整えて登校したら気付いてくれた。
嫌な事があって落ち込んでたら気付いてくれた。
体調が悪くなった時、真っ先に気付いてくれた。
「千早でいいよ。それか《ちー》で」
「じゃ、じゃあ……ち、ちーちゃん……」
「うん、ほのちゃん」
白河さんって呼ばれるのが、いつの間にか嫌になってた。
あたしなんてとっくに穂乃花だとかほのちゃんって呼んでるのに、他人行儀だと勝手に憤ってた。
最初は自分から素っ気なくしたり、突き放すようにしてたくせにね。
ホントに自分勝手だなあたし。
正直……この頃には穂乃花に対して好意を抱いてたと思う。
まだ自覚はなかったけど。
既に天ヶ崎に対抗心があったからこそ、あだ名で呼んだり呼ばせたりしてたんだろうし。
「あのさ、ほのちゃんは嫌じゃねーの?」
「えっと……何が?」
「あたしの噂とか知ってんでしょ? 父親がみんな別々の兄妹とか、母親がすぐに男捕まえて遊んでるとかさぁ」
「知ってる……でも、それはちーちゃんが悪い事じゃないよね」
「いや、あたしが悪いとかじゃなくてさ……ほのちゃんも悪く言われるって話」
「そんなの……き、気にしないようにするよ」
ここで気にしないと言い切れないところが、穂乃花らしいといえばらしい。
でも、クラスの連中に嫌われてでも……あたしと関わろうとしてくれる穂乃花が傍にいて、ただただ誇らしかった。
「あのさ……」
「う、うん」
「あたしってさぁ……ほのちゃんの友達……で合ってる?」
きっしょっっっ。
めっちゃキモい聞き方をしてしまった。
こんなの、完全に友達のいないやつのセリフだった。
でもさ、当時は友達のラインってどこからなのか、全然分かんなかったし……いや、大人になっても分かんないままだけどさ。
どこからが友達だって言えるラインなのか分からなくて、自信がないからきっしょい事を聞いたんだろうなぁ、あたし。
「えっと……私は友達だと思ってるけど……ちーちゃんが違うと思ってたらごめ──」
「じゃ、じゃあ友達っ。あたしとほのちゃんは友達で合ってるっ」
「あ、う、うんっ……」
食い気味に言ってしまった。
もうキモいどころの話じゃなかった。
「友達の証に握手しよ」
「友達だし、ほのちゃんの電話番号教えて」
「せっかくだし、ほのちゃんのメールも教えて」
「今度ほのちゃんの家に遊びに行っていい?」
「友達なんだし一緒に写真撮ろ」
「友達だから──……」
もう、この先は…………よせ。
恥ずかしすぎて語りたくないから省く。
まあ付け足すなら、この日を境にあたしは良い意味で変わってきてた。
穂乃花との会話が一言や二言から、数分以上に長くなってた。
穂乃花と喋っていると、いつの間にか笑顔になってた。
穂乃花と話してる内に声が大きくなる事が増えてた。
穂乃花がいると思ったら、学校に来るのが苦じゃなくなってた。
でも、それと同時期。
あたしは、穂乃花が天ヶ崎の元に行くのが嫌になってた。
穂乃花が天ヶ崎の事を見てるのが、天ヶ崎の事を話すのが、天ヶ崎と楽しそうに喋ってる姿を見るのが、天ヶ崎と一緒に遊ぶ予定を聞くのも、全部嫌になってた。
いつの間にか、あたしは穂乃花を独占したいと思うようになってた。
天ヶ崎の元に行かせたくないと思うようになってた。
あたしが穂乃花の一番仲の良い友達でいたいと思うようになった。
※ ※ ※
そんな中のある日。
いつものように穂乃花と喋ってた時。
もうすぐ、穂乃花が天ヶ崎のグループのとこに行く頃かと思ってたら。
「ねぇねぇ~っ!」
あろうことか、天ヶ崎の方からこっちへ来た。
うきうきとした足取りでまっすぐに。
視線は穂乃花とあたしを交互に見比べながら。
「おっはよー千早ちゃん! ほのちゃんもおしゃべりしてるところにごめんよぉ~!」
「わっ、あーちゃん」
「……おはよう、天ヶ崎さん」
ほとんど喋った覚えもないのに、馴れ馴れしいな。
あんたはあたしの陰口とか言ってない(少なくとも表面上では)けど、別に仲良くもないでしょ。
「最近さ、千早ちゃんってほのちゃんと仲良いよねぇ~。私も千早ちゃんと仲良くなりたいなぁって!」
満面の笑顔。
クラスの中心に立つ事に慣れた女の、余裕のある笑み。
でも、その目が笑ってないように見えるのは気のせい?
「……へぇ」
勘違いじゃなければ。
最近穂乃花と喋ってる時、こっちの方をジッと見てる事が多いよね?
あたしと喋ったあとの穂乃花に対して、いつも以上に絡んでたよね?
あたしが学校帰りに誘おうとした時、いきなり割り込んで連れていってたよね?
「…………どうかな、千早ちゃん。一緒にお話しようよ」
あたしは思い違いをしてたみたい。
穂乃花が一方的に天ヶ崎にくっついてたんじゃない。
天ヶ崎も、少なくともこの頃のあいつは、穂乃花に対して独占欲があったんだ。