あんな奴を好きだった自分、ホント馬鹿じゃねぇ? 百合カップル? クソだよクソ! 過去に戻れたら絶対に選ばんわ! 作:Yunoko
あたしは臆病だ。
天ヶ崎に勝てる気がしなくて、一歩退いてた。
おまけにあたしは意気地なしだ。
穂乃花の長年に及んで抱えてきた好意を邪魔しちゃいけないと、見守っていようと自分に言い訳してた。
なのにあたしは、穂乃花を諦めきれないくらいに未練がましくて。
穂乃花が天ヶ崎を諦めるのを待ち続けるなんて、あまりにも消極的な姿勢で臨んでた。
しかも自分の好意は伝えてもいないのに。
それでどうして、穂乃花に振り向いてもらえると思ったんだろう。
だけど……今なら分かってる。
あたしにもチャンスは間違いなく存在してた。
中学に入ってから天ヶ崎が穂乃花を雑に扱っていく中、あたしが穂乃花に好意を示し続けていれば。
穂乃花は少しずつでも、あたしを意識してくれたかもしれない。
穂乃花の中に根付くアイツを、少しずつでも追い出していけたかもしれない。
高校卒業前、穂乃花がアイツに玉砕覚悟で告白するのを止めていれば。
穂乃花とアイツの進路が別々である以上、今後は交わらない可能性だってあった。
ライバル不在の中でゆっくりと振り向いてもらう事もできたはず。
まして、穂乃花とアイツが破局した時なんて。
あの場面は最大のチャンスでしかなかったはずなのに。
傷心中の穂乃花につけ込むなんて、と中途半端に自分へブレーキをかけなければ。
実家の家族のトラブルなんて放っておいて、穂乃花へのアプローチに集中していれば。
天ヶ崎とセフレになって、そのあとに復讐すると意気込む穂乃花を止めていたら。
過去の自分の失態を振り返ったところで、今が変わるわけじゃない。
たらればを語っても無意味だ……本来であれば。
でも二度目の人生を迎える今。
そのたらればについて振り返り、反省と後悔を次に活かす機会が訪れた。
今度は天ヶ崎へのコンプレックスを克服してやる。
チャンスを黙って待つだけの人生なんてごめんだ。
欲しい人は自分の力で振り向かせる。
※ ※ ※
「あたしさ、穂乃花が好き……子供の時からずっと」
こっちの世界……小学生の頃に戻ったあたしは、初っ端から勝負に出た。
穂乃花もこっちに来てたからこそ、勇気が出せたのもある。
一から関係を築かなくても、既にあたしと穂乃花はお互いの事を分かってるし、同性愛についても自覚してるし、天ヶ崎に対しての気持ちが揺らいでいる今だからこそ、あたしは動けた。
っていうか、逆に穂乃花がこっちに来てなかったら勝負に出れない。
あの頃の穂乃花にいきなり告っても、困らせて弱らせた挙句に泣きながらフッてくるのも目に浮かぶし。
「……」
しかし、二度目の人生になって初めて告白したなぁ。
前は結局一度たりとも言えなかったし。
今、あたしは努めて平静を装っているつもりだが、穂乃花にはどう見えてんだろ?
なんとなく顔が熱っぽい気がするし、心臓がバクバクとしてるけど音が漏れてたりしてないだろうな。
背中とかあちこちが汗ばんでるのが分かるし、汗臭いとか思われたらやだな。
「…………」
告白ってこんなに緊張して、不安になるもんなのか。
しかも、フラれる事を承知の上だっていうのに。
このあとの穂乃花の返事だって、ほとんど分かりきってるのにドキドキが止まらん。
もしかしたら、なんて都合の良い返事を期待してるし……きめぇな、あたし。
「千早……」
向かいに座る穂乃花は、まっすぐと視線をあたしに向けてくれてる。
目線をあたしから逸らさない。
正面からこうも見据えられると、あたしも照れる。恥ずかしい。
くそ、ガキじゃねぇんだから……。
「……」
「……」
名前を呼んだきり黙ってるけど、穂乃花があたしの好意に対して真剣に向き合ってくれてるのが分かる。
伊達に長々と付き合っちゃいない。
穂乃花の考えてる事は大体分かる。
分かるからこそ、このあとの返事だって分かってしまう……。
「私の事を好きになってくれて、ありがとね千早」
「……ん」
「それと好きでいてくれたのに気付かなくてごめん。ずっと無神経な事してた、私」
「そんなのいいよ。気にしてない」
「ありがと……それとね……今は千早の気持ちに応えられない。ごめんね」
「…………うん」
分かってた、分かってたよ。
天ヶ崎の事を引きずってる穂乃花が、そんなすぐに切り替えられるわけがないって。
結婚したも同然の状況まで進んでた穂乃花が、そんな簡単に忘れられるわけがないと。
せっかく最初からやり直すチャンスがあるっていうのに、アイツを完全に諦める決断を下せるわけがない事くらい。
大体、穂乃花だって1週間前に来たばかりだ。
記憶はそのままに子供時代に戻ってきたなんて状況、受け入れるだけでも神経を使うっていうのに。
その上、この時期に自分がどんな性格でどんな立ち振る舞いをしていたのか、周囲に不審がられないように状況を把握するだけでも忙しかっただろう。
にもかかわらず。
こっちへ来たばかりのあたしがさ、現状把握もロクにしないで告白までしてくるんだ。
穂乃花も感情や情緒が追いつかないだろう……ごめんだけど。
でもあたしは、現状把握がほとんど必要なかった。
だって、この頃のあたしはボッチだから。
まだ穂乃花とまともに会話すらしてない。
せっかくの携帯にも家族以外の連絡先が入っちゃいないし、交友関係についての確認する必要すらない……あらためて考えると虚しい。
まあ、だからこそロクに何も考えず、穂乃花がこっちに来てるのか確認しようと思えたし、来てると分かったからには動こうと決めれたわけで。
結果オーライだ。きっと、うん。
「まぁその、なんだろ……いきなり告ってごめん。びっくりしたっしょ」
「そう、だね……本当に私鈍感でごめんね」
「だから気にしなくていいって。あたしがビビリでヘタレだから、そもそも穂乃花にずっと気持ちを伝えてなかったんだし」
「でもさ……」
穂乃花、今までの事を振り返ってんだろうなぁ。
天ヶ崎関係での相談事とか、聞くのはほぼ大半があたしだったから。
あたしが自分の事を好きだなんて知らず、自分の好きな人について延々と話してた事について後ろめたく思ってんのかもしんない。
そんなの気にしなくていいのに。
まあ……穂乃花が相談できる相手って実際限られてたし、あたしが相談に乗るしかなかったからね。
仁衣奈は正直なところ何を考えてるのか分からない子だったし、氷雨は恋愛観に対して拗らせてたし、神宮寺(じんぐうじ)や真美は色々と達観しててアテにならんし、穂乃花があの二人の影響を受けても困るしさ。
結局あたしが一番近い視点、立ち位置で相談に乗れてたはず。
それにしても。
あたしがほとんど相談に乗ってた以上、手段を選ばなければ勝ち目はもっとあったんだろうなと思う。
天ヶ崎の印象を落とす事だって出来たし、もっと早く穂乃花の気持ちを冷めさせる事だって可能だった。
でも……。
純粋にアイツを想い続ける穂乃花に対して、その気持ちを穢すような事をしたくなかったんだろうなぁ、当時のあたし。
あたしにとって理想的な恋愛観を持ってたのが穂乃花だったからこそ、その穂乃花の気持ちを変質させたくなかったんだろう。
今でも、その考えは理解できてしまう。
でも、だけどだ。
真面目に誠実に勝負しようとして、結果負けて穂乃花を取られてるんじゃ意味がないって今なら思う。
あんまり卑怯な事をやって穂乃花に軽蔑されんのも嫌だけど、やれる事があるならどんどんやるべきだ。
さしあたり、この告白だって一つの布石に過ぎないワケだし。
「穂乃花さ……あたしに悪い事したなとか思ってんでしょ?」
「……うん」
「この際だから正直に言うけど、それすらあたしの狙いだからね」
「……そうなの?」
「そうだよ」
言葉は慎重に選べよ、あたし。
出来る限り、穂乃花に対しては誠実に正直に伝えるんだ。
だけど、いらん事まで全部話さないように。
「いきなり告白したのも、穂乃花にあたしの事を意識してほしかったからだし」
「会話の流れでさ、まだ天ヶ崎に気持ちが残ってるのも分かってたし、断られるのも分かってたよ」
「しかもね、穂乃花は優しい子だから今までの事とか思い出して、罪悪感っていうか、あたしに悪い事したって思うだろうなって事も分かってるし、多分だけど天ヶ崎の代わりに好きになるのは失礼だって考えてるんでしょ? そのあたりも大体分かってるよ、あたし」
「だからさ……あたしの事を振ったとかそんなん気にしなくていいから。まずはね、あたしが穂乃花の事を好きなんだって知ってもらいたかっただけだし」
「気持ちを伝えられただけでも、あたしとしては一歩前進って感じなワケよ」
ここまでほぼ本音。
最後のあたりは若干嘘だけど。
ホントはそりゃ、ここで受け入れてもらえたら嬉しいに決まってる。
オッケーを貰えた瞬間、きっと小躍りしてたよ、あたし。
でも、断られても構わない。
良くはないけど、織り込み済み。
まだ穂乃花の気持ちがアイツに残っていてもいい。
ここに至ってもまだ、アイツを好きでいられるほど一途な穂乃花が好きなんだから。
「……」
あたしの家族……母親も姉も妹も、恋愛に対してはとことん軽薄だ。
簡単に誰かを好きになるし、後先考えずに身体を重ねるし、流されるままに妊娠も結婚もしてしまう。
それに付け加えて、あっさりと別の誰かを好きになるし、その相手とも身体を重ねる事に抵抗がない。
ワケが分からない。
好きだからこそ、一緒にいたいと思うからこそ付き合うんじゃないのか。
結婚を選ぶんじゃないのか。
結婚に至っては、貞操を守る義務だって課せられてるんだ。
だから不倫に対しての慰謝料だとか請求できるんでしょ。
なのにどうして、他の誰かを好きになってしまい、裏切るという選択肢が出てくるのだろう。
子供まで作って産んでてさ。
自分の行いを子供に見せれる? 聞かせれる? 将来になって堂々と話せんの?
せめてさ、まずは別れるなり離婚なりしてから、筋を通してからじゃないのか?
あたしには分からない。
こんなの理解したくないし、許容もしたくない。
これって潔癖なのか、融通が利かないのか?
姉や妹と結婚してしまった義兄や義弟だってさ、あんまりな扱いを受けてるからと思ってあたしがフォローしただけで「千早ちゃんって優しい子だよね」とか何とか言ってさ、べたべたしようとしてくるし。
歴代の父親達の中にもさ、血が繋がってないからって関係を持とうとする気持ち悪いやつだっているし、頭おかしいんじゃないの?
どいつもこいつもさぁ、なんで簡単に好きな相手を切り替えできんの?
多分……いや間違いなく、あたしは恋愛に対して理想を持ちすぎてる。
ホントは分かってる。
いい歳してさ、拗らせすぎてるって事くらい。
潔癖になりすぎてるって事も。
でも、身近で純粋に真摯に誰かを好きでいられる子がいたから……。
「……」
だからなのだろう。
あたしが穂乃花に惹かれ、諦める事もなく追いかけてしまうのは。
その愛情をあたしに向けさせたい、あたしが独占したいと思ってしまうのは。
穂乃花はきっと恋人を裏切らないし、裏切れない。
簡単に他の誰かに目移りなんてしなくて、打算や計算なんかで人を選んだりもしない。
結ばれてしまえば、きっとあたしは幸せになれる。
あたしを選んでくれた穂乃花の事を幸せにしようと、後悔させないようにあたしも頑張れる。
欲しい。
穂乃花が欲しい。
あたしだけの穂乃花にしたい。
恋人になりたい、結婚(パートナーシップか)もしたい。
天ヶ崎みたいに、ペアリングだって一緒に選んで買いたいし、フォトウェディングだってやりたい。
今度こそ、あたしが穂乃花の隣に立ちたい。
※ ※ ※
「……これで分かったでしょ? 断っても別に問題ないって事。穂乃花の優しさにつけ込んでさ、とりあえず意識させようって魂胆なワケよ」
「……千早ってホントに優しいね」
「ん、どこがよ」
穂乃花の表情や口調に、あたしに対しての嫌悪感とかそういうネガティブな感情は見えない。見えても困るが。
「亜紗の事ばっかり見てて千早の気持ちに気付かない私にさ、気を遣ってくれてたんでしょ。今だってさ、私が気にしないようにってしてくれてさ。千早って昔からずっと優しい子……ホントに良い子だよね」
口元を強く結んで、瞳を揺らし、スカートの裾を握りしめて、それでも目線はあたしを捉えてくれてる。
あたしが穂乃花の考えてる事を大体察せるように、穂乃花もあたしの考えが大体読み取ってくれる。
おおよそ以心伝心なあたし達。
でもさ、あたしから言わせりゃ、穂乃花の方がよっぽど良い子なんだけどな。
「それなのにごめんね千早」
「私、亜紗の事を諦めたいって思ってる。でも、すぐに消えてくれないんだ」
「そんな状態でさ、千早と付き合うの失礼だとか、いきなり好きになるの難しいとか色々と言い訳してるんだ、私」
「だから……忘れるのを待っててとか、そんなの言えないし私の事なんて──」
待った、とあたしは声を発した。
どうせ好きになるの諦めてだとか、忘れてと続けるつもりだったんだろう。
そうはさせるか、今さら諦めなんてつくものか。
「大丈夫。いつまでも待てるよ、あたし」
「でも……」
「昔のあたしだったら……昔のあたしも多分待つだろうけど、今のあたしはなんたってトータル38歳だから余裕で待てるメンタルよ」
穂乃花が目を丸くした。
なんかおかしなところ、あった?
「……28じゃないの?」
「いやだって、今のあたしらって10歳っしょ? 前世と合わせて38じゃん。実質アラフォーっしょ」
「えぇっ? いやいや、記憶にない部分の年齢はカットじゃない? ノーカンだよノーカン。私達はまだアラサーじゃん」
「いやいや……穂乃花」
「ちょ、待ってよ千早」
穂乃花は意外と年齢カウントにこだわって食い下がってきた。
元々童顔で若く見えてたし、今なんて正真正銘の子供なんだから、中身が28でも38でもいいじゃんとか、あたしは思ってたんだけど。
意外なところで穂乃花と意見がぶつかってしまい、あたしの告白については一旦保留っていうか、ちょっと流していく事にした。
要するに有耶無耶にした。
だって……穂乃花があたしに気を遣って諦めさせようとかしてさ、完全にフラれたら怖いじゃん。嫌だぜそんなの。
あたしの未来設計が初っ端から頓挫とかシャレにならんし。
だからさ、今はこれでいい。
初めて気持ちをちゃんと告白しただけでも、あたしからすれば大躍進なんだ。
これ以上、あんまり踏み込んで無茶はしない。
慎重に、でも確実に前に進んでいくのが肝要。
あ”ぁっ? いい歳こいた中身アラフォーおばさんが恋愛程度でチキってんじゃねぇだと?
ふっざけんな、舐めてるとローキックかますぞ。
こちとらこの歳で初告白なんじゃい。
※ ※ ※
まあ、それはそれとして。
さっきまでの告白が無かったかのように、あたしは穂乃花と今後について話し合った。
といっても、未来に向けての資金調達だとか、将来設計みたいなやつじゃない。
小学校、中学校の学校行事をもう一度やり直すのかったるいとか、今さらどんなテンションで運動会やんだよとか、今度は通知簿でどれだけ上を目指せるか勝負しようぜとか、土日の休みに今じゃ潰れて跡形もなくなった店を巡ったりしようとか……。
「千早はさ、陸上続けるの? 小中ってやってたけど」
「いや、ぶっちゃけ今回はやる気ないよ」
「そうなの? 県大会にも出てたのに」
「あー……だって、そしたら穂乃花が応援してくれてたし。走るの頑張ってたのって、穂乃花にカッコいいって思われたくてやってただけだし。練習とか時間取られるし、今回は穂乃花と一緒にいる時間ほしいから、陸上はやんない」
「……そ、そうなんだ」
「…………」
しまった。
一度告白なんてしてしまったからか、普通に本音で言ってしまった。
まあ、好きだってバレてんだし今さら隠す事でもないけど。
だけど、せっかく気まずい雰囲気を一度は流したってのに。
この会話の後の穂乃花の微妙な表情、ワンテンポ遅れる返事とか見てたら、こりゃ気にしてるなと分かってしまう。
その事にちょっと罪悪感(穂乃花の事だから、すげぇ真剣に考えてくれてるだろうから)を感じる一方。
穂乃花があたしの事を意識してくれてると思ったら嬉しくなるあたり、やっぱあたしって良い子ではないなと思う。
穂乃花はちょっと、いやかなり、あたしの事を過大評価しすぎ。
それが良い事か悪い事か……。
「あ、そうだ。携帯」
「うん?」
あれから時間も経ち、穂乃花の家からお暇する時。
「穂乃花のさ、電話番号とメアド教えてよ」
「あ、そっか……千早の連絡先、まだ知らないのか私」
「そうそう。あたしの携帯さぁ、連絡先が家族しかいねーのよ」
「悲しい事を言う……」
スマホのLINEみたいにQRコードの読み込みだとか出来ないから、全部手打ち作業。
ボタンの携帯なんて久々すぎて、逆に操作が不慣れだ。
めんどくさい。でも、懐かしい。
「よし、電話も繋がる。メールも送れた……あんがと」
「うん」
「まあ、いきなり色々喋ったけど……よろしくね穂乃花」
「こっちこそ、また千早が仲良くしてくれると嬉しい」
あたしの姿が見えなくなるまで手を振ってくれる穂乃花を愛おしく思いつつ、帰路につく。
道中、あたしは携帯を開いて連絡先を確認する。
きっと、今のあたしはにやついててキモイ顔してんだろうと思う。
だって前回も今回も、最初に登録した友達が穂乃花なんだから嬉しくもなる。
しかも今回は1年も早くゲット……やったなんてもんじゃない。
なんて幸先の良いスタートなんだろう。
今回のあたしは、ただ待つだけの女じゃない。