あんな奴を好きだった自分、ホント馬鹿じゃねぇ? 百合カップル? クソだよクソ! 過去に戻れたら絶対に選ばんわ!   作:Yunoko

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第3話 憎きアイツと決別しよう

 

『ほのちゃん、ちょっと話してもいい?』

 

 別れの日、アイツはそう切り出した。

 付き合ってからしばらくして、3年目だったかな? アイツは急に素っ気なくなった。態度が冷たくなった。

 私を求める事はなくなり、我儘になってばかりだった。家の事をしなくなり、帰る時間も遅くなり、連絡も返事が返ってくる頻度が明らかに減っていった。

 

 たまにデートをすれば、物を欲しがるばかり。

 物を欲してる時は流石に笑顔も見せるし、愛想も良かった。でも、手に入れたら途端に冷えていく。

 自分の誕生日にはどこどこのブランドが欲しいとおねだりし、あれやこれやとお金を使った。

 でも、私の誕生日はおざなりで、祝ってはくれたけど、帰ってくるのも遅くて、なんなら準備は私がしてて……。

 私は焦った。どうにかしなくちゃ、キチンと話し合わないとって。

 

 付き合ってから4年目のあの日、アイツから話があると言われ、渡りに船と思った。

 実際はそこから沈められるわけなのだが。

 

『私ね、好きな人ができたの。ほのちゃんじゃない人』

『男の人。私、今まで女の子が好きなんだって思ってたけど、勘違いだったみたい』

『ほのちゃんとする時よりずっと気持ちが良かった。ドキドキした』

『だからもう別れよっか。お互いに小さい頃からの付き合いだったし、最近は新鮮味とかなくなっちゃったしさ』

 

 ほとんど何も言えない私に一方的に突きつけるお別れ宣言。

 縋る事もろくに出来なかった。

 「じゃあね」と言ってアイツはそのまま家を出ていき、私は暫し呆然。

 状況を理解し、慌てて連絡しようにも、前もってだったのか着信拒否されており、LINEやSNSなども洩れなくブロック済みでどうにもならなかった。

 その晩、私は枯れる事なく涙を流した。

 

 で、次の日に失意のままに働いてた私だったわけだけど。

 家に帰ったらあらびっくり。

 強盗にでも遭ったのかってくらい、荒らされてた。

 金目になりそうな物はもちろんとして、私とアイツしか知らない隠し場所のお金が無くなってる事から、犯人は明らかだった。

 二人で撮って飾ってあった写真立てや旅行先での思い出に購入した物とか、全部ぜーんぶ散乱してて、もう私は茫然自失。

 

 別れるだけじゃ、傷付けるだけじゃ飽き足らず、私の思い出や気持ちまでぐちゃぐちゃにしていくのか。立つ鳥跡を濁しすぎだろが。

 そこまでさせるほどの事を、私はアンタにしたっていうのか。

 こんな時、怒るべきなんだろうけど、私は怒るエネルギーすら絞り出せなかった。代わりに涙は山ほど出た。

 

 そこまでされたなら素直に警察に相談なりすればいいのにね。警察が民事不介入といったって、これは立派な窃盗だろう。

 それが無理でも、実家に相談すればよかったのかもしれない。

 でも、私とアイツの家族は仲が良くて、私とアイツが付き合っているなんて露ほども知らない。

 仲良し幼馴染みの女二人でルームシェアしているくらいにしか思ってない。

 いえばお金は返ってくるかもしれないが、今後の関係はきっと拗れに拗れるだろう。修復不可能なくらいに。

 ついでにお互いの娘が同性愛者(片方はバイセクシャル)だったという事実まで知っちゃうし、そこから先は地獄だぜ。

 

 私はどこまでも日和っていて、何も壊したくないからと何も出来なかった。しなかった。

 それはきっといつか、アイツが私のところに戻ってくるかもしれないなんて、ありもしない期待もあったからなのだろう。

 おまけに、この期に及んでまだ、アイツとやり直せる可能性を模索してる有様。もう馬鹿すぎ。

 ただまあ連絡しようにも、連絡先はすべて繋がりを断たれているわけで。

 

 私の何が悪かったのだろう。別れたい理由というのは本当にあの日言った事だけなのだろうか。

 せめて最後にもう一度話くらいさせてほしい。

 そう思い、共通の友人に連絡してみれば、どいつもこいつも私の方が悪者扱い。

 

『よくもまぁ、亜紗ちゃんと話したいなんて言えたね。どんだけアンタがあの子を傷付けたかって自覚あるの』

『あの子と幼馴染みで長い付き合いだっていうから見逃してたけど、もう限界。お前にあの子に近づく権利なんてないよ』

『真面目でいい子だと思ってたのに。軽蔑したマジで』

『着信拒否するし、二度と連絡しないでくれるかな』

 

 曰く、私がアイツに依存しまくっていて、仕事もほとんどしてなくて、家事も手伝ってくれない、そのくせ束縛してくるわお金は取られるわ、おまけに暇さえあれば性的な関係を求めてくる最低女という事になっていた。

 そしてトドメといわんばかりに、私が別の相手に乗り換えた事で我慢の限界になったので逃げだしてきた、と。

 おいおいざけんな、ほぼてめぇのやってきた事じゃねーかよ。

 合ってるのは私がほとんど毎夜求めた事くらいじゃないか。それだって途中からすっかりご無沙汰だし。

 

 ここまでアイツに都合の良すぎる内容、スムーズに信じるか普通?

 でも、そもそも共通の友人達の中で、私とアイツ、どっちを信じるかっていえば、断然アイツの方なんだよ。

 考えてもみれば、アイツが主体となって関係を築いてきたわけで、私はその輪の中に混ぜてもらっていたに過ぎないんだから。関係性なんてアイツのオマケで付いてきた奴レベルでしかなかったって事。

 

 にしても私の性格とか内面を考えたら、私が一方的にアイツを支配してたなんて無理があるってならんかな。そう疑問にも思われないくらい、私の事を誰も理解してくれていない、興味も持たれていない事実に打ちのめされたね。

 

 結婚式の時にも当然アイツらはいた。もちろんお互いにガン無視。

 向こうからすれば、どのツラ下げてここに来たんだって感じだと思う。

 アイツはその辺をどう説明してたんだろ。

 

 ここまでやられてさ、別れた当時の私は恨むどころか自分を責めていた。

 馬鹿みたい、っていうか馬鹿そのものだね。連絡手段の断ち方、関係者への根回し、翌日の持ち逃げまでの一連の流れはどう考えたって一過性の勢いだけじゃない。

 感情的で勢い任せなところのあるやつだったけど、こうまで用意周到なら、完全に私へ対しての未練だとかそんなの無いんだってはっきりわかった。

 

 まあ、結婚式に招待されたあたりでは流石に憎しみが勝ってたけどね。

 20年以上好きだっただけに、その好きが嫌いに反転したらそりゃあもう恨みつらみが倍々バインよ。

 だからこそ、今日は徹底的にやってやろうと意気込んできたわけだ、が……。

 

「お久しぶり…………」

「あ、はい。どうも」

 

 気まずそうな笑顔を浮かべるアイツと、挙動不審に目を泳がせているであろう私。

 一週間、シミュレーションを重ねてきたのに実際会えばこのザマだった。

 出会い頭にジャブで結婚後の名字を呼ぶところから始めようと思っていたのに。そんで、「そういえば別れて旧姓に戻ってるんだった。ごめん」と嫌味からぶつけるはずだったのに。

 目を合わせる事もままならん。

 

 あいっっかわらず、顔が可愛い。髪サラサラ。スタイルは崩れてないし、乳だってでかい。指先もエロい。

 おいおい、ホントに同い年のアラサー女か? 私と同じ人類かよ?

 まともに視界に収めていなくても分かるくらい、コイツは変わってない。

 変わってるとしたら、底抜けに明るかった雰囲気が暗いものに、どっちかというと私側に寄りつつある事くらいだろう。

 

「ほのちゃん、元気にしてた?」

「うん、まあまあ」

「そっか。それならいいんだ、うん」

「お、あっ、いや、亜紗さんはどう? ちょっと、元気出た?」

「……ん、ほのちゃん見たら、少し元気になったかも」

「そっか、それなら良かった。来た意味があったかな」

 

 何も良くはないけどな!

 私に詫びに来たんだろ! もっと気まずくなれ! 落ち込め! 気分が沈んだままでいろ!

 でも少し間があったな。危うくお前と呼びそうになった事に勘付かれてないだろうか。

 

 ずっと脳内やら独り言でアイツ、コイツ、お前で呼び続けてたから、名前を呼ぶのは別れて以来かもしれない。

 結婚式の時でさえ、意地でも最初から最後まで名前呼ばなかったからな。

 どーせ気付いてもないから、ささやかすぎる嫌がらせでしかないんだろうけどさ。

 

 昔はあーちゃん、って呼んでたっけな。

 はは、懐かし。マジどうでもいいわ。

 

「わ、本当に久しぶりに入ったなぁ、ここ」

「私も久々。調べた時に営業しててびっくりした」

 

 フロントで受付してドリンクも注文し、一昔前の絨毯が敷かれた廊下を進む。

 個室に入った時、若干内装が綺麗になってて驚いた。外観はひび割れとかしてたのに。

 レトロな古臭いソファーも変わっており、革張りの小綺麗なやつになってた。壁紙も床とかも。

 へぇ、と感心する気持ちと、あの頃の思い出が消えている事に寂しさを感じる。残ってたら残ってたで相変わらず不便だの古臭いと思うくせに勝手なもんだ。

 

「へー、ちゃんとDAMとか入ってるね。もうあの本とか無くなっちゃったんだ」

「番号本だっけ。誰かが歌ってる時に次の曲探したりとかしてたね」

「してたしてた。ほのちゃんは歌うの好きじゃなかったよね、多分」

「そうかな」

「私とか、他の子が歌ってるの応援してくれてたけど、自分の番が来そうになったらもっと聴きたいなぁとか言ってかわしてたもん」

「そうだった、かな」

「そうだよ」

 

 コイツがちゃんと昔の事を覚えていた事を、私の考えを見通していたという事実にほんの少しでも嬉しく思うのが憎らしい。

 駄目だ、このままゆったりとしてたら、私の未練がぶり返す。

 決意が鈍る。復讐心が揺らいでしまう。

 

「それに中学の時だったかな、ほのちゃんが……」

「あのさ」

 

 ドリンクを一口流し込み、私は切り込む事にした。

 満足のいく復讐はできないかもだけど、このままなぁなぁにしたくない。

 多少のお返しはできたけど、やっぱり嫌いになりきれなかっただの、恋人関係なんてまっぴらだけど、友達からならいいかなだとか、中途半端な決着は嫌だ。

 思い出せ、あの頃の好きだった気持ちと、それを裏切られて募った怒りを。

 ごめんなさいなんて言葉一つで許してなど、やるものか。

 

「思い出話はもういいよ。それより、私に何が言いたいの」

「…………」

「謝りたい事があるって書いてあったけど、何を謝りたいの?」

「いっぱい。たくさんある」

「そうなんだ。それで?」

 

 さっきまでの気弱な笑みはどこへやら、唇を噛んで俯いて両手を組み始めた。

 何から謝るんだろうね。何について悪いと思ってんだろ。

 

「私、ほのちゃんにひどい事たくさんした」

「そうだね」

「いきなり別れて、連絡先もブロックして、周りのみんなに嘘ついて、ほのちゃんから全部奪った」

「ついでに部屋も荒らしていったよね」

「それも……うん、ごめんね」

「アンタに聞きたいんだけど、なんであの時さ、私を結婚式に呼んだの? 呼ぼうと思ったん?」

 

 バッと顔を上げたのは、名前ではなくアンタと呼んだからなのか、聞かれて不味い事でもあるのか。

 

「八奈子や美春に言われて……」

「結婚して幸せな姿を見せつけてやれ、とか?」

「…………」

 

 頷きも首振りもしてないけどさ、沈黙は肯定のようなもんだろ。

 

「私、そこまで嫌がらせされる必要あった?」

「……無い」

「この際だし聞くけど、私と別れた時だってあんなやり口する必要あった?」

「あの時は…………」

「別の人が好きになった、それはいいよ。それで別れるっていうのもね。でも……私と別れる前から関係持ってたよね。今更浮気だろうとどうでもいいけど」

「…………」

 

 もう一口、ドリンクを流し込む。

 一度口火を切ると止まらなくなってきた。心臓の鼓動や呼吸のリズムが乱れているのを自覚している。

 ふー、ふーと運動もしてねぇのに呼吸が荒い。

 視線を向けると、アイツは縮こまっている。

 

「一方的にしゃべってるけど、何か言い分はあるの?」

「無い。全部、私が悪かった。本当にごめんなさい」

「そっか……」

「私がどうして、あの時あんな事をしたのか、理由を言ってもいい?」

「……一応、聞いておこうかな」

 

 今度は向こうがドリンクを流し込み、意を決したように話し始めた。

 その内容は、驚くほど私を失望させた。

 

「私、騙されてたの」

「ほのちゃんが浮気したって聞いて、最初はもちろん信じてなくて、そんなのありえないって」

「でも、女の人と歩いてる写真とか、一緒に食事してる写真見て、ホテルに入ってる写真も見て……」

「それで、裏切られた、浮気されたって勘違いして、今はもちろん、そうじゃなかったって分かってるけど……」

「あの時の私は、こんな酷い裏切りされたんだから、やり返してやるってそればかりで」

「でも、全部、全部間違ってた。ほのちゃんは、私を裏切ってなんかなかった」

「裏切ってたのは周りの方。八奈子も美春も、他のみんなも、私を騙してた。私は馬鹿で、それに気付きもしなかった」

 

 話は長く、相変わらず要領を得なかったので私のほうで多少まとめた。

 要するに、私が浮気していると勘違いし、復讐してやろうとこうなったと。

 でも実は騙されてたって分かったから、謝りたくなったと。

 手紙にそんなん書いてなかった気がするけどな。自分がした事のひどさが分かっただとか、そんな風に書いてあった気がするんだけど?

 

 それにしても、他の子と出歩いたり食事したり、ホテル……ホテルってあれか、浮気調査の時のやつか、なるほどね。

 八奈子と美春の二人が主犯と見て違いない。

 私もまんまとやられたわけだ。その点は迂闊だったのは認めるよ。

 まあ、私に事実確認すらせず、浮気したって決めつけてる時点で、どっちみち信頼関係が破綻してたって事なんだろうけど。

 遅かれ早かれ、こうなってたんだろうね。

 

「あのね、これ……」

 

 私が何か言い始める前に、テーブルの上に置かれた封筒。まぁまぁ分厚い。

 中身はなんとなく予想が付く。

 

「これって、何? お金?」

「ほのちゃんの物とか色々台無しにして、ほのちゃんを傷付けた慰謝料? 迷惑料……お詫びというか、受け取ってもらえない、ですか」

「あぁ、やっぱりそういう。いいよ、いらない」

「…………」

 

 封筒を押し返す。アイツはそれを受け取らない。

 泣きそうな顔をして、でもそれをグッと我慢して堪えてる。

 

「あのね、本当にごめんなさい。私、昔からずっと馬鹿で、何にも考えてなくて、ほのちゃんの事を信じられなくて勝手に勘違いして、裏切ってひどい事して」

「……」

「なのに、いまさら会って謝って、都合が良い事を言ってるの分かってるの。我儘な事言ってるって。でも、やり直せないかな」

「無理でしょ」

 

 私がここまで拒絶した事が未だかつてあっただろうか、いや、ない。

 コイツに、これだけハッキリと物を言った事だってなかった。

 ずっと自己主張なんてしてこなくて、本音はいつもひた隠して、傷付けないよう、嫌われないようにと他人の印象ばかり気にして生きてきた。我慢してた。勇気を出してこなかった。

 でも、それも今日で終わりにしよう。

 私は自分の思うままに生きていく事にする。

 手始めに、コイツに思いの丈をぶつけてさ、完全に縁切りといこうじゃんか。

 

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