あんな奴を好きだった自分、ホント馬鹿じゃねぇ? 百合カップル? クソだよクソ! 過去に戻れたら絶対に選ばんわ! 作:Yunoko
『あたしさ、穂乃花が好き……子供の時からずっと』
千早の告白を聞いた時、私は驚いてばかりだった。
色んな情報が一気に入ってきて、それらを整理しきれてない中での宣言。
私は今まで何を見てきてたんだろう。
千早が私の事を好きだったなんて。
それも子供の時からって。
だとしたら。
亜紗の事をずっと追いかけてた私を、未練がましく諦めきれずにいた私を、くっついて無邪気に喜んでいた私を、破局してから沈みまくってた私を、性懲りもなく復縁していた私を、千早はどう思っていたんだろう。
どれだけ私は、千早を苦しめたのだろう。
恋は盲目なんて言葉に逃げたくはない。
でも、本当に視野が狭かったんだと認めるしかない。
身近にいた千早の気持ちにちっとも気付かなかったなんて。
私は千早の事をどう思ってるのか。
好きか嫌いかでいえば、間違いなく好き。
なんなら憧れまで抱いてる。
知的で冷静で大人びた雰囲気、高い身長に長い脚のスマートなスタイル、落ち着いたハスキーボイス……どれも私がなりたかった、欲しかった理想像。
私にとって千早は、私がなりたかった女なんだ。
亜紗よりも背が高くて、亜紗が安心できるくらいにかっこいい立ち振る舞いができて、亜紗に何かあった時守ってあげれるくらい強い人間。
そんな千早が何? 私の事が好き?
冗談とかじゃ、ないんだよね……?
私が千早に対して向けてきた好きは、恋愛感情のそれではなく友情だと思う。
間違いなく一番の友達だと思ってるし、誰よりも頼りにしてるし信じてもいる。
だけど恋人になりたいか、と考えた時。
「……」
私は自分と千早がカップルとなった姿がいまいち想像がつかなかった。
一緒に出掛けてる時に手を繋いだりだとか、感極まってハグくらいだったら普通にやってた。
でもそれ以上の関係だったらどうなんだ。
キスできるだろうか、エッチなんてしてもいいのだろうか。
何かが、何かが違う。
「…………」
いや、なんとなく分かってる。
私にとっての理想像が千早であるからこそ、私は千早を汚したくないと思っている。
亜紗と結ばれない時は千早にしようなんて、キープ扱いなんてしたくないと思っているのだ。
だけど、ならばどうして。
どうして私はハッキリと告白を断る事ができなかったのだろうか。
期待を持たせてしまう真似を、貴重な時間を奪うような事をしてしまうのか。
中途半端に誠実であろうとして、結果として千早を繋ぎとめたままにしてしまうんだ。
※ ※ ※
もやもやと自己嫌悪しながら迎えた翌日。
今日は4月9日。
つまり、亜紗の誕生日である。
「モーニンモーニン! おっはお! ほのちゃんイェイ!」
「おはよう、あーちゃん」
だからというべきか。
家を出ると、向かいの家からいつも以上にハイテンションな亜紗が登場。
笑顔の輝きがいつもの二割から三割増しって感じだ。
「んんー? ほのちゃん、なーんか元気ない?」
「そう?」
不思議そうな顔をして覗き込んでくる亜紗にドキッとした。
幼馴染みとしての付き合いゆえか、それともクラスの中心に立ってて観察力が研ぎ澄まされているのか、私の変化にすぐ気付いてくる。
「ちょっと昨日は寝るの遅くて……それよりさ、あーちゃん。お誕生日おめでとう」
「んんっ、そうだった! ハッピーバースデー私! サンキューほのちゃん!」
でもこの頃の亜紗は純粋っつーか、ただただ素直だからチョロイ。
私の言葉一つで満面の笑みを浮かべてさ、小躍りしてピースしてら。
浮かれ具合は言葉や態度だけじゃないってのが一目で分かる。
今日は誕生日って事で、亜紗は登校前から気合いを入れてきたんだろう。
綺麗なロングヘアを編み込みしっかりのハーフアップにしてて、服だってなんかフォーマルな感じのお澄ましワンピース。
主張しすぎない程度の白のフリルだとかボタン、スカートのシースルー部分が良い感じ。
大人の姿を知ってる今となっては子供の背伸びにしか見えないけど、それでもやっぱり可愛い。
それにしても、今日の給食が何か知らんけど汚さなきゃいいが。
「あーちゃんのそれ、可愛いね」
「あんがとー! 今日は体育もないし、気合い入れてきちゃった! 今日は運動もしないもんね!」
そう言い、くるりと一回転、二回転とする亜紗。
その仕草は可憐だといいたいところだが、この頃の亜紗は何事もダイナミック。
スカート部分がめくれ上がり、ストッキング越しのパンツもしっかり捉えるのがこの私だ。
ただまあ……当たり前だけど、色気もへったくれもない。
フォーマルチックな格好してるだけに、その落差も強いし。
いくら好きな子とはいえど、小学生の頃の亜紗にムラムラしない事実にホッとした。
「どうよ私? ねっ、可愛いっ?」
「うん、可愛い。可愛いけど……パンツ見えてたよ」
「あらやだわ」
わざとらしくスカートを押さえ、整える亜紗。
つっても、相手が私だからか恥ずかしがる気配も見せやしない。
なんなら、「ふんっ」だとか「ほーれ」とスカートを捲ってきよる。
にこにこ笑顔で露出大好き女子小学生とは恐れ入るぜ。でもせっかく良い服着てんだからおよしなさい。
「……」
今はまだ、あっけらかんとしてる亜紗だけど。
胸が膨らんで「乳首がいてぇぜ!」なんて明け透けに口走ってるような奴だけど。
これからどんどん思春期が本格化していくにつれ、あっという間に女らしさを意識していくし、男への態度とかも変わっていくんだから分からんもんだ。
そうして次第に……亜紗の中での私の立ち位置もどんどん下がっていくってんだから、虚しい。
※ ※ ※
それから。
おふざけも程々に登校してからというもの。
亜紗はクラスメイト達から口々に「誕生日おめでとー」と祝福されてた。
対する亜紗も溌溂と応じていき、仲の良い子達からプレゼントをもらってほくほく笑顔。
「おはよ、穂乃花」
「おはよう千早」
亜紗を中心とした活気そのものを尻目に、私は千早と挨拶を交わす。
昨日の今日なのもあって私はなんとなく気まずかったが、千早の方はあまり気にしてないのだろうか。
少なくとも私の視界に映る彼女は、いつもと変わらないクールでスマートな千早だった。
「今日はあいつ誕生日だったっけ、そういえば」
「うん。もう朝から浮かれてる」
挨拶を交わし、ランドセルを片付けた後。
私と千早は教室から出て、廊下奥の図書室(3年と4年の教室は同じ階にあるので近くて助かる)で話す。
だって教室の中がうるさいんだもの。
この小学校、セキュリティとか防犯意識もなったもんじゃないし、建物のあっちこっちが古くてぼろいけど、いつでも図書室が空いてて司書さん(で合ってんのかな?)が常駐してるのは有難い。
昼休みとか放課後に本読んでたら、時々紅茶とか飴とかくれたなぁ。
それにしても、懐かしい。
古い本棚、雑多に並ぶ本や雑誌、古い紙の臭い、色褪せた本の表紙、傷んだ識別用ラベル。
座り続けたらケツが痛くなる木製椅子にボロボロのテーブル、低学年用とおぼしき畳スペースとくっそ低いテーブル、図書委員手作りのポップや飾りつけ。
部屋の奥には、私がよく座ってたレトロ感満載のソファーも残ってら。
ついでに図書委員の仕事が思った以上に煩雑で忙しくて、委員がテンション高いやつらばっかりなのも思い出したわ。
今回は図書委員すんの……やめとこうかな。
「じゃあ、今日はあいつの家で祝ったりすんの?」
「そっ。母さんに頼んでプレゼントも用意した。近くで良いの売ってないからさ、車出してもらわないと買いにも行けないし」
「あー、そういや車ないの不便だよな」
「ホントそれ。すぐそこのコンビニに行くのですら使ってたのに」
子供に戻った時の不便さの一つは、間違いなく免許も自家用車も持ってないって事だ。
大人になってから、マ~ジで徒歩数分レベルのコンビニだろうが郵便局だろうが、必ず車を使ってたからな。
車があったらあったでガソリン代をはじめ、車検やオイルとかタイヤの交換で時間や金も掛かるし、税金も取られるし、免許証も更新しなくちゃとこれはこれで別の負担も増えるんだが。
だけど、地方で車を持たないなんて選択肢はまずない。
電車やバスは走っちゃいるけど、地方の本数なんてまぁ少ない。
朝方や夕方はまだしも、日中は1時間に1本とか平気であるし、それ逃したら周りに何もないところで時間を潰さなきゃいけないし。
っていうか……そもそもの話だが。
「また免許取り直しなのかったるぅ」
「あー、金も掛かるしなぁ。穂乃花は今回どーすんの? オートマ? もっかいマニュアルも取んの?」
「うーん……」
どうせ取るなら、どっちも取った方が手間が省ける。
前はそんな考えでマニュアルも取ったけど……。
結局のところ、一度たりとも活用しなかったからな。
引っ越し用に軽トラをレンタルする時もあったけど、普通にオートマのやつあったし。
マジで自己満足に終わったなぁ。
「オートマだけで困んないんだけど……どうしよっかなぁ。せっかくならって考えちゃう」
「まあ免許取るだけなら簡単だもんな。値段もそこまで変わんないし」
「うん……千早はマニュアル?」
「ん、そのつもり」
千早はちゃんとマニュアル車で運転してたもんなぁ。
運転してる時のレバー操作を見てたら、あぁやっぱりマニュアルもいいなとか思った記憶が蘇る。
まあ運転してるのが千早だったから、よりかっこよく思えたのはあるんだろうけど。
「千早って合宿だったよね」
「そうだな」
「今回は私も合宿にしよっかな」
「え、マジ? そうだね、そうしなよ。冬休みだったら部屋も結構空いてるし、部屋ん中も割と綺麗だし、学校すぐそこだから通うのも楽だし、ご飯もちゃんと三食出るし美味しいし、どーせスーパーで合宿免許用のクーポンあるから値段も結構下がって安く済むし。あたしもさ、一人より穂乃花がいた方が嬉しいし」
「お、おぉ……」
珍しく千早が食い気味に反応してきて、しかも一気に捲し立てるように話してくるもんだから咄嗟に返答ができんかった。
でもまぁ……確かにメリットは多いし、千早と一緒のタイミングだったら退屈もしなさそうだし、悪くないかもしれないと思った。
さて、そのあとだけど。
「──でさ、確か去年、いや去年じゃねぇんだけど、あの中華屋が潰れちゃうんだよ」
「へぇ。あのラーメンの汁がめちゃくちゃ薄いとこ?」
「そうそう。千早も覚えてるんだ」
「流石にアレは……正直さ、インスタントの方が美味いレベルだろコレって思った。炒飯は結構美味しいのに」
「そうなんだよ。だから今度の土曜か日曜、食べに行くつもり」
「ふーん。じゃあ、あたしも食べに行こうかな。行ってもいい?」
「そりゃもちろん」
「──高校入った時のバイト? 今回もネカフェのとこと、臨時の巫女さんバイトにしようかな。でもせっかくだし未経験の仕事もちょっと興味あるかも。千早は?」
「あたし? 前やったとこはもういいかな、薬局とか。レジしてっとさ、客から電話番号聞かれたりとかさ、LINE交換しようって言われんのうぜぇし」
「あー……それは分かる。丁寧に接客しようってやってたら勘違いされたもんだ」
「穂乃花のは……あれは絶対やりすぎ。あんな両手で包んで優しくツリとかレシート渡してたら、勘違いするってあんなの」
「うん、反省してる。でもさぁ、あんまり愛想ないのもさぁ~」
「──来年だっけ、千早のお母さん」
「いや、今年からのはず。担任のアイツ……浮島(うわしま)と出かけて、来年からラブホ通い」
「今回どうすんの? 止めるの?」
「止めない。どうせ止めたって聞かないし。それにさ、お父さん可哀想だし、さっさと解放してやんなきゃ」
「あぁ……そっか、そういう考えもあるか」
「うん。さっさと離婚してさ、慰謝料取らせて、もっと良い人と出会ってほしいんだけどな……」
いつの間にか話がどんどん脱線していったけど、気が付いたら昨日から引きずってた気まずさを忘れ、私はただただ千早との会話を楽しんでた。
おかげでチャイムが鳴るまで話に夢中で、慌てて二人して教室に戻る羽目になったけど。
まあ、久しぶりの小学生だから仕方のない事。
ちなみに授業だけど。
歳取って中身がアラサーの私じゃ、忘れてる事も結構あると覚悟はしてた。
まーた勉強やり直しかとプチ憂鬱ですらあったわけよ。
それがまぁ、教科書開いてみりゃあ全然問題なかった。流石に小学4年生レベル。
余裕だと分かった私は、久しぶりの授業風景とノートを取る懐かしさを楽しんでた、以上!
つーかさ、給食の盛り付けの方がよっぽど緊張すんだけど。
大人経由の今でも、40人分の給食を均等に盛り付けていくのって結構むずくね? と思った。
余るのはまだいいさ。でも足りないのがこえぇ。
あーもう、明後日は私が当番だし。
こっちのがよっぽど憂鬱になるわ。
※ ※ ※
「ハッピーバースデーあ~さ~♪」
それから放課後。
私は今、天ヶ崎家のリビングにて亜紗を祝っている。
テーブル中央にはバースデーケーキが置かれ、それを囲むのは主役の亜紗、亜紗のお母さん、そして私。
女三人での誕生日会ってところ。
ちなみに、亜紗の父親は仕事で不在。
まあ居なくて良かったというのが本音。
今はまだやらかしちゃいないが、将来的に生徒の盗撮や娘の盗撮をやらかすって分かってるし、嫌悪感抱いてるもんだから、会ったら態度に出しそうだし。
「……」
「……──ほのちゃーん」
つーか、今さら気付いた。
亜紗の父が盗撮してた時期って、確か中学2年か3年のあたりだって聞いたけど。
その頃って私も出入りしてたじゃねぇか。
トイレだって使ってたし、亜紗の部屋で着替えたりした事もあんじゃん。
私の盗撮写真も下手したらネットに放流されてた可能性あんの? マジ?
まだやらかしてねぇし、未遂以前の段階だけどさ、ぶち殺して構わんか?
「……」
「ほーのちゃんちゃん」
マジありえねぇ。
今からでも離婚しねぇかな。
でも天ヶ崎家の収入源の大半はあの父親だ。
いきなり準備もなく別れたら二人が困っちまう。
……せっかくタイムリープして知識や経験が据え置きだっていうのに。
子供の身体って無力だなと思う。
大人の時の私だったら、離婚したあとの二人を養うくらい余裕……いや言い過ぎか。
でも、なんとかできるって自信はあんのに。
「おーいってば、ほのちゃんッ」
「んん? どしたの、あーちゃん」
「どしたのじゃないよ。なーにボーっとしちゃってんの。無視しないでよぉ」
膨れてる顔の亜紗を見て、思案に暮れてた事に気付く。
いかんいかん。お祝いしてる時に失礼が過ぎた。
ごめんごめんと謝り、私は用意したプレゼント(この頃の亜紗が何渡したら喜ぶのか、マジで分かんなくて焦った。悩みに悩んだ挙句、ヘアピンに決めた)を渡す。
「おぉっ! ピンだ! 可愛い~っ! 着けていいっ?」
「うん」
「じゃあさ、じゃあさ! ほのちゃん、着けて~」
「うん」
言われるまま、私はヘアピンを留めてやる。
顔の整ってる亜紗なら、何を着けたって可愛い。
いや、フォーマルチックなワンピースを着てる今だと、このヘアピンはちょっとアンバランスかも?
まあガキ(中身アラサー)からのプレゼントだし、大目に見てもらうとしよう。そうしよう。
「穂乃花ちゃんもケーキどうぞ」
「あっ、ありがとうございます。ケーキ、いただきます」
「……穂乃花ちゃん、なんだか礼儀正しいねぇ。大人っぽい喋り方しちゃってぇ」
「ちょ、ちょっと大人っぽく喋っていこうと思い……喋ろうと思ってるの」
「おぉ、成長だぁ。穂乃花ちゃんもお姉さんになってきてるって事かぁ」
「ほのちゃんに先を越されたぁ」などと何故か悔しそうにしてる亜紗をスルーしつつ、内心の焦りを見せないように努める私。
子供を演じてるつもりだけど、簡単にボロが出やがる。
というか、亜紗のお母さんが相手になると喋り方が安定せん。
どんな風に受け答えしてたかなんて覚えてねぇし。
いや、あの反応を見る限り、ですます調で喋ったりしてなかったのは確かなんだろうけど、元アラサーで社会人経験もあるからさ、タメ口とか砕けた喋り方をするのに抵抗があるというか……ついついですます調で喋ってしまう。
「……」
それにしても、この頃のこの人はやっぱ若いなぁ。
何を当たり前の事をって思うけど、私が死ぬ前の、亜紗と挨拶に行った時の疲れ切った姿から比べたら別人レベルだもん。
あの時は加齢だけじゃなくて、精神的な失調とかも相まってめちゃくちゃ老けて見えたし。
だけど、本来は朗らかでぽわぽわっとしてる人で、あんな鬱々と沈みまくる姿なんて似合わない人なんだ。
短い間とはいえ、義母だった事もある。
私が亜紗とまたくっつくかは別にしてもさ、この人も亜紗も、ひどい目には遭わせたくないと思ってしまう。
あの義理の父親がどう動くのか、今回もやらかすのかは分からない。
何事も起こさず、幸せに家族としてやっていけるならそれに越した事もない。
しかし、私に出来る事って何なんだろう。
隠しカメラとか盗聴器が隠されてないか、ネットで発見器とか探して買うか?
そんで遊びに行く度に探して回るのか? 非効率的な気もするけど、それしかないんだろうか。
一度は成人して、社会人経験だって積んできた上でのタイムリープ。
身体こそ小学生だけど、今の私は同年代の子供達よりもずっと選択肢が広がってて、色んな事が出来るはずなのに。
だけど、これだという判断を下せない、これこそが正しいという行動が浮かばないでいる。
歳を取ってから、私はそれなりに自立して、多少の事はなんとかできると思ってた。
でも、自分が思ってたよりもずっと未熟で無力なんだな。
※ ※ ※
「そーいえばさぁ」
「うん?」
ケーキを平らげ、ささやかな祝いも終えて。
亜紗の部屋のベッドでくつろいでいた時、亜紗がゴロゴロと転がり、私にくっついてくる。
「ほのちゃんってさ、千早ちゃんと仲良いの?」
「ん?」
なんだいきなり。
「昨日さ、千早ちゃんと一緒に帰ってたじゃん」
「あー……うん」
「でさでさ、ほのちゃんの家で遊んでたんでしょ」
「うん」
「……それに、今日も千早ちゃんと一緒にいる事多かったよね。休み時間にいなくなったりしてたよね」
「うん」
なんだなんだ。
亜紗、お前小学生の内から束縛系彼女みたいな問いかけしてくんじゃん。
にしても、あれだけ人口密度の高い空間にいて、しかも雑多な情報に囲まれてるってのによく気付いたもんだ。
「だからさー、いつの間にそんなんになったのかなーって」
「うーん、なんでだろ? たまたま喋る事あって、そこからかなぁ」
「……ふーん。千早ちゃんって怖い感じするけど、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ」
「意地悪とかされてない?」
「うん、されてないよ」
「…………ふーん」
私の事を心配してんのか。
そういえば、まだ亜紗と千早はロクに関わってないんだっけ。
千早のイメージってまだ良くないままだったか。
でも、心配ってだけの反応じゃねぇな。
「千早ちゃんが一番なの?」
「え、どゆ事」
「ほのちゃんが一番仲良いのは千早ちゃんなのって!」
「あぁ~……あーちゃん、ヤキモチ?」
「違うしっ! そんなんじゃないしっ! ただ、ほのちゃんと一番仲良いのって私だよねって聞きたかっただけだし!」
言いながらぎゅうっと抱きしめてくる。
めっちゃヤキモチ妬いてるじゃねぇか。
亜紗ってこんな事聞いてきたっけか。覚えがねぇ。
つかよ、やっぱ子供の時の肌ってすっげぇもちもちしてんよなぁ。
私の肌ですら柔らかいんだ。そりゃ亜紗のなんてもっと柔らかいに決まってるわな。
そんでもってさ、子供の時から亜紗ってフィジカル強いよなぁ。
つまり動けねぇ。苦しい。
「ねぇ、ほのちゃん。ほのちゃんの一番仲が良いのって私だよね?」
「そ、そうだよ、あーちゃんが一番仲良しだよ」
「!!」
私の返事に納得、もとい満足したのか。
亜紗の締め付ける力がみるみると弱くなっていき、険しかった顔が綻んでいく。
はぁ、苦しかった。
この頃から実力差ありすぎでしょ、私ら。
「そっかぁ、そっかそっか! ほのちゃんの一番は私かぁ~! や~~っぱりね!」
「安心した?」
「うん!」
どういう意図か知らんが、私と亜紗とでハグする事になった。
ホントにこの頃の亜紗は勢いで生きてんな。
それにしても。
ころころと表情が変わる亜紗を見てるのは楽しい。
まだ大人びていない、単純で明快な亜紗と過ごすのが懐かしい。
駆け引きだとか計算を考えず、自然体で付き合えるからこそ、亜紗と一緒にいるのは心安らぐ。
「ほのちゃん、誰がほのちゃんの一番の友達?」
「あーちゃん」
「私?」
「うん。あーちゃんだよ」
「私っ! そう! 私でしょ!」
こんなやりとりした事あったっけなぁ……。
少しめんどくさいと思いつつ、でもストレートな感情表現や問いかけだし、私は気楽に応じていく。
だって、まだ小学4年生とはいえ、このくらいになれば女子なんてしれっと真顔で嘘もつくし、有利になるための駆け引きや計算だってしてくるし。そういうやつの言葉の裏を読み取るのとか、正直面倒で仕方ない。
そう思えば、こんな分かりやすい確認作業なんて可愛いと思えた。
「……」
それとすっかり私も忘れてたけど……。
この頃の亜紗って、まだ私の事を特別扱いしてくれてたんだなと思った。
少なくとも、どうでもいい扱いじゃないのは確かだ。
そうでもなきゃ、誕生日の祝いに私一人が誘われるわけないし、私の中で誰が一番なんて繰り返し確認するはずもない。
だけど、だけどだ。
今はともかく、そう遠くない内に亜紗は私の事なんて次第にどうでもよくなってくる。
誕生日には私だけじゃなく、たくさんのクラスメイトが一緒になるし、場所だって亜紗の家じゃないし、私と亜紗が二人きりになる機会だってどんどん減ってく。
彼氏が出来たらそれこそ。
家が近所で幼馴染みの、クラスメイト達の中の一人って扱いにまで落ちてくる。
いよいよもって私の存在なんてのは、時々愚痴を聞いてもらうための都合が良い存在にしかならない。
他に遊ぶ相手がいなくて、暇を潰すための要員でしかなくなる。
それを分かっちゃいるけれど。
でも、今はまだ。
今は純粋に素直に、私と一緒に過ごす時間を大切にしてくれているから。
私の事を大事にしようってしてくれてるから。
この子じゃない亜紗も、私は好きだから。
私は亜紗をないがしろにしない。
再び好きにならないかもしれないし、私じゃない別の誰かと結婚して幸せになるかもしれないけど、それでも私は出来る範囲で亜紗の手助けをしたい。
まあ、良かれ良かれと思って失敗してきた私だから……どこまで出来るかなんて分かんないけどさ。