あんな奴を好きだった自分、ホント馬鹿じゃねぇ? 百合カップル? クソだよクソ! 過去に戻れたら絶対に選ばんわ! 作:Yunoko
ものすごく唐突な話。
タイムリープをする前、私には友達がいた。
まあ片手で数えられる人数しかいないし、向こうが私を友達とカウントしてない可能性もあるけど。
怖くて「私達って友達だよね?」なんて聞けやしない。
一人目は千早。
流石に千早は友達カウントしていいだろ。
千早でダメだったら、正直残りのメンバーが絶望的だし。
あとは新川仁衣奈(あらかわにいな)こと、にーな。
じ、じん……なんとか、大耀(たいよう)こと、たーぼ。
そんで氷雨冬馬(ひさめとうま)でしょ、星野真美(ほしのまみ)でしょ。
これでちょうど五人。
ちなみに亜紗は友人カウントに入ってない。
良くも悪くも、あいつは友人枠じゃないと思ってるから。
まあ、こっちの亜紗にそんな事言ったら傷付けるだけだし、言わんけど。
そんな貴重なフレンズだけど、あいつらと関わりだした時期ってぶっちゃけ覚えてなかったりする。
いや、千早は流石に覚えてんよ?
小学生の時で、確か5年生になったあたりだ。
私にしては勇気を出して話しかけた記憶があるから、そら忘れんよ。
だけど他の面々って、結構……いや、かなりアバウトだ。
小学生の頃はもちろん、中学に入ってからも私ってかなり人見知りだし、内気で引っ込み思案だったから言いたい事なんて何も言えなかったし。
亜紗を経由してクラスで集まったり、グループで騒いだりしてたから、その関係での縁だとは思ってる。
そう考えると、亜紗には助けられた事って多いんだよな……傷付けられた事も少なくないけど。
「……」
まあ、そんな亜紗経由で絡んだメンバーばかりだからこそ。
あの時……亜紗と別れたあとに悪者扱いだった私の方に味方してくれたのが、すっごく意外だと思ってたりする。
千早はまぁ、亜紗よりも私の方が遊んだり話す事も多かったから、まぁ分かる。
察しの悪い私ですら分かるくらい、私に対する態度と亜紗に対する態度が違ってたし。
それでも、当時は真っ先に味方してくれてすっげぇ嬉しかったけど。
冬馬も亜紗と波長があんまり合ってなかったし、私は冬馬とアニメやゲーム、ラノベやネットサブカルとかその手の話をちょくちょくしてたし、中学で部活も一緒だったから分からなくもなかった。
それでも、冬馬だってあの状況でよく私を信じたなって思ったもんだが。
にーなは正直よく分からん。
でも、あの子はよってたかって誰かを責めたりするの嫌いだし、私が一方的に悪い扱いを受けて思うところがあったのかもしれない。
私を責める事は一切なかったけど、亜紗に対しても悪くは絶対言わなかったし。
だけど、たーぼや真美はどうなんだ。
たーぼなんて、学生時代に私とあんま絡んだ記憶ないし。
真美に至っては、どう見たって亜紗に憧れてた節すらあったのに。
あの二人があの時、私を励ましたり慰めてくれた理由が分からない。
なんなら、未だに分かってなかったりする。
一応それとなく聞いた事はあったけど、結局教えてくれなかったし……今となっては分からないまま。
「……」
まあとにかく。
亜紗と別れた時、私はまぁ落ち込んだ。
働いてた会社だって辞めたし、新しく借りた部屋で引きこもりもしたし、無気力になっちまって何もやる気もでなかった。
他ならぬ亜紗に裏切られたもんだから、しばらくは人間不信にもなったもんだ。
それを立ち直らせてくれたのが千早達。
小まめに連絡をくれて、家の中で話を聞いてくれたり、あるいは気分転換にと外へ連れ出してくれたり、皆は色んな方法手法で私を励まし、慰めてくれた。
私が本音をさらけ出すようになり、自分を偽らないようになり、考えや意見をぶつけるようになったのもあれからだ。
誰かにとって都合の良いだけの、良い子ちゃんでいるのはやめようと思えたのも。
ついでに言うと、それからあのマンションに住みついたのも、営業職に就いたのも、それなりに成績を出せたのも関係してたりする。
マジでフレンズ様々じゃねぇか。
関わりだした時期はともかく、仲良くなった時期は亜紗との破局後だ。
あいつらには恩義も義理もすっごくある。
助けてもらった分、今度は私も助けになりたいと思ってたし、実際出来る範囲であれやこれやと恩返しっぽい事はやってた。
でも死んだ。ロクに報いる事もないままに死んじまった。
あいつらは、私が死んだ事を知らされているのだろうか、私が死んだと聞いてどう思ったのだろうか。
「……」
こっちの私はタイムリープして日も浅く、千早以外は友達関係ですらない。
ここでいきなり恩返しのつもりで世話を焼いたとしても、あいつらからしたらワケが分からないし、気味が悪いって話だ。
そんなの、自己満足にすらならない。
だから、こっちでまず一からちゃんと関係を築き直す。
そんで、あいつらが困ってたり悩んだりしてる時、私が手助けをするんだ。
そして、今度こそ胸を張って友達だと言い合えるようになりたい。
まあ、二度目の人生をどう生きるのか将来設計も曖昧だし、亜紗への未練も断ち切れてないし、千早への気持ちだって中途半端にしたまんまの私が何言ってんだって話だけど……。
「……」
ちなみに。
なぜ突然、こんな事をうだうだと長々述べているのかというと。
「ほのっち、おはヨ~デル~」
「おはよ、新川さん」
「おいおいお~い! 新川さんなんて他人行儀ぃっ! 一緒にラーメン食べた仲じゃんか! ウィーアーフレンズじゃん! もっと腹割ってボディブローしていこうYO!」
「そんな殺伐とした関係やだけど……じゃあ、どう呼んだらいいの?」
「んー? 親しみを込めてニューリバーってお呼びよ!」
「結局名字呼びじゃねえか」
その件のフレンズの一人。
偶然にも先日、にーなと出会う事があり、思いがけない形で関わるようになったからだ。
※ ※ ※
時は少しばかり遡る。
あれは亜紗の誕生日から数日後、4月12日。
土曜日で、学校は休み。
そんな日だから朝早くに起きる必要もなく、ぐっすり寝てるかというと。
「おっす、穂乃花」
「あっ、千早~こんち~」
私は外出中であり、千早と待ち合わせをしていた。
今日は懐かしの中華屋で、一緒にラーメンと炒飯を食べてノスタルジックに浸ろうぜと決めていたのだ。
だから私は朝早くに起き、軽く食事を摂って身だしなみを整えてきたってわけよ。
ちなみに、予定がなくても土日や祝日は早起きする。
それはタイムリープをする前の、本来の私であっても同様。
学校のある起きるべき日に起きず、別に起きてこなくてもいい日に限って早起きしてくるのが私なのだ。
「穂乃花、いつから来てたん?」
「ん? 9時ちょうど」
「え、早くね? 待ち合わせって10時で合ってた?」
「あははっ。合ってる合ってる。ちょっと懐かしくて早く来ただけ」
携帯のメールを確認しだす千早に向かって、大丈夫だと手を振ってジェスチャーを送る。
今の時刻は午前9時40分過ぎだから、なんなら千早だって結構早めじゃん。
私は朝早く起きるの苦手だけど、こういう約束事っていうか、時間には早めに来るタイプだったりする。
なにせギリギリに間に合うように動いてさ、トラブルか何かに巻き込まれて遅刻するかもって思うと、早めに到着して待ってる方が気楽なのだ。
あといつもと違う日だと分かると、脳が覚醒するっていうか、緊張しまくるんじゃねと自己分析。
タイムリープをしてからずっと自力で起きれているのも、そのあたりが関係しているのだろうか。
「……」
「……?」
それにしても……。
千早の恰好だが、上下が黒ラインとブランドロゴ入りの白ジャージ、インナーは黒シャツ、頭にはシンプルなデザインのキャップ。
てっぺんからつま先までブランド一色。
履いてるスニーカーも間違いなくブランド系のお高いやつ。
あの家、っていうかあのお母さんは千早の事を溺愛してるからなぁ……。
服装に比べると髪型は低めのポニーテールで、それ自体はシンプル。
でも、千早の髪色は親に染められたのもあって明るい。
さらに今日は学校が休みなのもあってか、ブロンドチックなエクステも付けてる。
うーん、派手な小学生。
見た目はヤンキー風の美少女だ。夜中のドンキとか駅前にいそう(偏見)。
地方のこんなところじゃ目立つだろう。
「……なんかおかしかった?」
「いや、千早ってこう見ると目立つなぁって」
「まあこんな髪してっし、そうかもしんね」
髪だけって事はねぇんだが……。
小学生の時点で千早の顔が整ってるのは明々白々で、スタイルだって確立してる。
だからこそ、髪色も服装も何もかもが目を惹くというかなんというか。
その隣を歩くのが地味を絵に描いた私だから、ちょっと気が引けなくもない。
道行く人とか車の運転手にさ、「おいおい、派手なあの子の隣の芋はありゃなんだ」とか思われたらどうしよ。どうもしねぇか。
「あとさ、千早ってやっぱ美人だなって」
「……そうか?」
「うん。子供の時……いや、こっち来る前の話だけど、小さい時から綺麗な顔してるなぁ~って」
「…………ふーん、あんがと」
ぷいと顔を背ける千早。
派手色なポニテも揺れる。
なんだよ、何照れてんだい。
美人なんて言葉、千早だったら言われ慣れてるだろ。
私なんて生きてる間に一度たりとも言われた事はないぜ。
「あたしだって、生まれてくる前から穂乃花が可愛いって知ってたし?」
「……そ、そっか」
それは無理があるだろ。
※ ※ ※
さて、それから。
懐かしの中華屋……千客珍来(せんきゃくちんらい)だけど、行くのはピーク時を避けたタイミング。
外観も古いし、内装だってレトロ感満載で如何にも地元の飲食店って感じだけど、近くに温泉街や港町があるからか、旅館関係者や漁業関係者の客が意外と多いのだ。
今日は土曜日だし、仕事休みのやつらも来るだろうから余計に客の波が読みにくい。
私は混雑してる店が苦手だ。嫌いといってもいい。
店内が賑わってるだけならまだしも、ぎゃあぎゃあと騒がしいとイラっとする。
人口密度が高いと息苦しいし、混んでたら待ち時間が長いのも嫌。
満席で店の前に列で並ぶのなんか無理。絶対嫌。
順番待ちしてるくらいなら、廃れてようが寂れていようとも、空いてる店に行くのが私。
というわけで。
「子供の時って、こんなんだったっけなぁ……多分」
私達は時間潰しがてら、地元巡りをしてた。
私達の地元は海に面してる港町であり、旅館が集まる温泉街だ。
だから……といっていいか分からないけど、魚系は大体安いし、大体美味い。都会から来た人いわく、水道水も美味しいとかなんとか。
あと公衆浴場は料金が安い(この頃なら子供100円、大人300円)し、あちこちに足湯スポットがある。
逆にいえば、そのくらいしか特徴はないけど。
大通りには大手……か知らんけど、でかい旅館がずらっと並んでる。
どれもテレビやネット、雑誌で特集された事もあるし、多分大手で間違いない。
そこから町中に進むと道は狭くなり、中堅以下の旅館がぽつぽつと見え、その隙間を縫うように飲食店やお土産屋が建ってる。
旅館間の格差なのか知らんけど、大手旅館のある並びは道路も歩道も綺麗に整備されてて、中堅以下の旅館近くは道も狭くてコンクリートもボロボロだったりする。
どこの旅館で働いているかで大人間でもマウントを取る傾向があるし、その格差は子供の立ち位置にも影響したりするし、ロクなもんじゃねぇや。
それにさ、景観の問題なのか売れ行きが見込めないのか知らんけどさ。
この辺ってファーストフード店が来ないんだよなぁ。
マックやスタバなんて私が死ぬ前に至っても、この町や周辺に来る事はなかったし。
おかげで若者がマックのハンバーガーを食べたいってなってみ? 車で2,30分は飛ばして町から離れたショッピングモールまで行かなきゃならんのよ?
スタバに至っては車で最低でも行き帰り2時間コースなんだぜ。
子供がスタバのフラペチーノが飲みたいなどとほざいたら、親はコンビニに行ってスタバ商品を買ってお茶を濁すのが定番よ。
ちなみにアパレル系もまったくない。しまむらも無印もGUも何もないぞ!
おかげで若い女は大人に車で連れてってもらうか、電車やバスで遠出してでも服や下着を買いに行くしかない。
一応この辺でいえば、個人の衣料店とかホームセンター内の一角の謎ファッションショップもなくもないけど、客層がおばちゃんやおばあちゃんなので、品揃えは……うん。
ゲームセンターとかボウリング場?
そんなアミューズメントもちろんない。
なんなら大手旅館の中にあったりする有様。
地元民に優しくない町、それが私の故郷。終わっとる。
一応、常に時代に遅れてる場末のカラオケ店*1ならあるけど……あるって言っていいのか、アレ。
「……」
タイムリープしてきたもんだから、あらためて地元の不便さを実感してしまう。
そりゃ、若者は高校卒業したら地元を出てくって話よ。
地元愛がないだの、薄情だとか知るかよ。
進学しようにも短大も専門も大学もないし、働くにも空いてんの旅館関係とか漁業関係ばっかだもん。
で極めつけに娯楽がない、店もない? そら無理よ。
「……」
いかん、思い出を巡るはずがネガティブな事ばっかり考えてら。流れるように不平不満不便がつらつら出てくるぜ。
今は私一人じゃなくて、千早だって一緒だ。
切り替えていこう。
「穂乃花がバイトしてた旅館ってさ、アレ?」
「ん、ん? あぁ、そうそう」
千早の言葉に慌てて顔を上げ、視界の奥に見える建物を確認。
確かにあれは私が一時期バイトしてた旅館だ。
「少しの間だけど、布団敷いたり、カラオケバーの手伝いしてたっけね」
「へぇ……面白かった?」
「うん、かなり。今思えば、かなりやばい旅館だったとは思うけど……」
一年にも満たない短い時期だったけど、印象は根強い。
ぶっちゃけ、未だに名前も思い出せないクラスメイトよりよっぽど記憶に残ってる。
なんといっても、働いてる人達。
たとえば、布団敷きのおばあちゃん達。
誰もかしこも定年過ぎてるはずなのに、当時の私よりも元気でパワフルだった。
そんでどの人もこの人も気が強く、とにかく我の強い面々だったなぁ。
真っ先に思い出すのは花火大会をやってた日。
遠方から来た客は部屋の電気を消して窓から花火を見たいのに、おばあちゃん達は「布団が見えない」「押し入れもどこか分からん」と言って電気を点けていき、客が文句を言っても知らん顔で布団を敷いたり、「文句があるなら支配人に言ったらいいじゃないですか」と言い残し、結局電気すら消していかずに部屋を出て行ったりとやりたい放題だった。*2
他にも、夜中になると余った料理で勝手に宴会を始めたり、仕事終わりのコンパニオンと空いた宴会場で遊ぶ料理人達とか、同僚にはくっそ優しいのに客には終始塩対応なカラオケバーのお姉ちゃん達とか、問題児だらけの従業員の尻拭いをさせられる終始弱気な支配人とか、旦那そっちのけ仕事そっちのけで不倫三昧の女将さんとか色々いたなぁ……。
表に出せないであろうエピソードなんて、それこそ掃いて捨てるほど思いつく。
そらクチコミでボロクソに書かれるし、ほどなくして旅館も閉業しちゃうって話だ。
「って感じでさ、やばいでしょ?」
「……そんなやばかったん、あの旅館」
「うん。見てる分には面白かったけど、客側からしたら文句も出るよねそりゃ」
言いながら思い出し、思わず「ふふ」と声が出る。
今回も短期間のバイトだったら行きたいなと思ってしまうあたり、私も大概だ。
※ ※ ※
その後も地元巡りは続く。
小汚い海が一望できる寂れた港の展望台、長らく続く割に大して美味しくないケーキ屋(私が大人になっても残ってたのは凄い)、土曜にもかかわらず閑散とした海浜公園、地元民もよく分からないシンボルスポット、中学生くらいまで通ってた海側沿いのぼろい市民プール、次々とレストラン系列が来ては閉店してしまう魔のテナント……などなど。
文面にすると酷い言いぐさだが、私にとってはどれも思い出深い場所なのは確か。
どこも亜紗か千早、あるいは両方と一緒に行ってたなぁ……。
巡ってきた場所のほとんどが、私が大人になるまでに解体したり、整備されて様変わりしたり、閉鎖されたりしちゃって、見る事も叶わなくなってたところばかり。
まさか、また直に通ってこの目で見る事ができるとは。
しっかりガラケーのカメラでも記録に残してやったわ。スマホに比べてびっくりするくらい低画質なのが残念だけど。
いずれパソコンなりにデータを移す用に、どっかでSDカードも買わなくちゃな……。
「懐かし、マジ懐かしっ。そういや、温泉卵作れるとかあったわ……かんっぜんに忘れてた」
「うん、懐かしいでしょ? お湯であっためてる間にさ、足湯して時間潰せるなって思って」
そんで今だけど。
私と千早は町中の広場(全然広くないけど、一応町名の由来となったシンボル銅像とか、夜間のライトアップとかあったりで、観光スポットらしい。へー、知らんかった)でくつろいでた。
すぐ近くにある個人経営のスーパーで生卵(2個で50円)を買い、広場に設置されてる高温の湯壺に放り込み、作りたい卵(投入時間に応じて温泉卵、半熟卵、ゆで卵が作れる)ができるまで足湯で駄弁りながら休憩してたってわけ。
歩き疲れた足を足湯で回復し、ほどほどに消耗したエネルギーを卵で補給する。
うん、合理的……もちろん、今述べたのは完全にでまかせだ。
温泉街育ちで旅館勤めだってしてたくせに、私は温泉の効能なんてさっぱり知らんし、さして興味もない。
地元の名物だっていうのに、温泉卵やゆで卵を食べたから栄養どうこうとか、そんなのも知らん。タンパク質は摂れるんじゃね?
地元愛に著しく欠けて……いや、皆無といっていい。
そのくせ、懐かしい思い出がどうこうと抜かすのだから私ってやつは……。
「もう少ししたら、珍来行く?」
「んー……そうだね」
携帯を確認すると、時刻は12時40分頃。
ここから珍来(千客珍来)までは徒歩で20分掛かるってところだし、卵食べて片付けたらちょうどいいかもしれん。
歩きがてら、食べた卵のカロリーも消費されるだろ多分。
だって小学4年生だぜ、若さ溢れるロリボディだぞ。
大概の無茶無謀だってゴリ押しできるのが若さってやつよ。
※ ※ ※
そして温泉街から歩いて約20分。
駅や港町へと続く道の途中、その脇道にポツンと建つのが目的の中華屋である千客珍来。
ぽつぽつとした幟(のぼり)、手書きの古い看板、鋪装もロクにされてない駐車場、一見民家にしか見えない外観、如何にも中華屋な暖簾……。
「マジで懐かし……あぁ、ギョザーとラメーンだぁ」
「ギョザー……ラメーン……ふっ」
記憶の中のそれと変わらない風景に思わず感慨に耽る私だったが、千早は肩を震わせていた。
どうやら、ギョザーとラメーンがツボに入ったみたい。
千早は意外にも、こういうしょうもない語感というか音の響きとか言葉遊びに弱かったりする。
自分の覚えているワードと違う読み方や書き方をされると無性に気になるそうで、とある教師が「次、〇〇ペーシを開いて~」とページをペーシ*3と言うたびに、千早は肩を震わせてたりした。
そのあたりを私はイマイチ共感できなかったが、普段はお澄ましポーカーフェイスな千早がこんなんで笑うのかと思うと面白くて、一時期はにーなと一緒に色んなしょうもないネタを拾ってきては千早に披露し、最終的に千早が泣き笑いしながら「やめれ」と言わせるに至ったものだ。
何をやっとるんだ私は。
「……落ち着いた?」
「ん、ごめん。ホントにいくつになっても、この文字良くねぇと思うな」
「ギョザーとラメーン?」
「……読み上げんなし」
幟はもちろんだが、手書き看板の方もギョザーとラメーン表記だったりする。味のある字で書かれてるから、きっと千早も喜ぶんだろう。
私はすかさず幟や看板を携帯で撮っていき、「これ見て」と千早に見せる。
千早は「なに?」と視線を向けるが、バッと顔を背ける。
「なんで写真に撮るし……見せるなし」
「あとでメールで送っとくね」
「……やめれ」
怒った千早にぺしぺし叩かれるも、めちゃくちゃ手加減してくれてるのでもちろん痛くない。
こういうのも懐かしい。
私自身が内気だったのもあるけど、千早相手にもふざける事ってそう多くなかったし。
亜紗と破局してからは、懇々と慰めたり励ましてくれたのもあって、千早相手にからかったりできなくなってた気がするし……。
「ごめんごめん、そろそろ入ろっか」
「ん」
おふざけもほどほどにしつつ、私達は入店する。
何度も来た事あるのに、タイムリープしてから初めてだからかな。なんか緊張すんぜ。
「らっしゃ~……い」
店内に入った時、店主のおじちゃんが私達を見て一瞬目を見開いてた。
その奥さんっぽい人も思い切り凝視してきてるし、まばらにいた客も「あれ?」みたいな顔して見てくる。
私らがどうかしたのか? なんてとぼけるつもりはない。
明らかに子供であろう女二人(それも地味と派手の対照的コンビ)が入ってきて、保護者らしき人物が入ってこないのだ。
しかも私も千早も堂々とテーブル席に行って座る始末。
戸惑うのも無理はない。
「えっと……二人で来たん? お父さんとかお母さんとか……大人は一緒じゃないん?」
「はい。私達だけです。あ、ちゃんとお金は持ってきてるので大丈夫ですから」
「あ、そ、そうなんだ。すごい落ち着いてるね、君達」
奥さんらしき人が確認に来て、私達だけだと分かって慌てたように水を持ってきてくれた。
それに対し、私と千早がお礼を言って頭を下げると、そこにも驚いてた。
いやいや、ホントの小学生でも多少丁寧に喋ったりとか、お礼を言ったり頭を下げるくらいはするぞ。
まあいい、目的はここでの食事だ。
食べるのはラーメンと炒飯って決めてるけど、まずはメニューを確認と。
そう思い、経年劣化でボロボロになったメニュー表を見てみると……。
「……ねえ、安くない?」
「思った。めちゃくちゃ安い」
私も千早も驚きで一瞬固まってたと思う。
だって私が大人の頃と、今の値段がまるで違う。
いや、ここ数日でコンビニとかスーパーに行った時、物価の違いは実感してたけど、外食ともなると価格差がめちゃくちゃ分かりやすいっていうかさ。
大人の時に700円だった炒飯が500円で、800円してたラーメンが500円。
単純計算でさ、同じメニュー頼んだら1500円だったのが1000円。
おいおい、野口さん一人でカタ付けようってのかよ。頼もしいぜ。
「で、どうする?」
「炒飯とラーメンにしたいんだけど、千早は?」
「あたしは……そうだな、炒飯食べたいけど、ラーメンは少しでいいや」
「だよね。私ら小学生だし、そんなに食べれないし……だからさ、ラーメン一つ頼んでシェアしない?」
「……いいね、そうしよ」
そうと決まれば早速注文。
炒飯はお互いミニサイズ(100円引き)で、ラーメンは特製野菜もりもりのやつにした。
「なんで野菜もりもり?」
「……ここね、野菜炒めの味付けが濃すぎるから、ラーメンに載せたらちょうど味付けが良くなんの」
「あぁ、なるほど」
良くも悪くも大味というかなんというか。
味の濃すぎる野菜炒めと、味がさっぱりすぎるスープを掛け合わせる事でなんか良い感じになるってわけよ。
ついでにいえば、名前の割にチャーシュー三枚と野菜炒めに入れるのであろう豚バラ肉も入ってるので、ボリュームも申し分ない。
そんなわけで、久しぶりのラーメンと炒飯を待つ間。
私は店内をぐるりと見渡す。
色褪せた壁紙に天井、何書いてあんのか分からん額縁(の中の紙)、あちこちに貼られたポスターや地元イベント宣伝のチラシ、突貫工事で取り付けた壁のテレビ、統一感のないテーブルや椅子、何故か洋風混じりのカウンター、待ち時間を潰すためであろう新聞や雑誌に漫画の入った棚、油でちょっとギトってるメニュー表……などなど。
記憶の中と一致する物や、そういやこんなのあったかという物が入り混じる。
レトロ感、というかレトロそのものな店内。
正直いえば、私は潔癖な部分もあるのであちこちを触るのは嫌だし、懐かしいここじゃなかったら外食しようとも思わなかっただろう。
これも思い出補正ってやつなのかな?
この矛盾も孕んだ感情や思考を私は上手く言い表せない。
「あれれ、ほのっちにちーやんじゃん」
そんな時、店内にいたのであろう客の一人が私達の方へ駆け寄ってきた。
正確にいえばトイレから出てきたその子が誰なのかも分かってる。
私からすれば背後から声をかけられたわけだけど、声で分かる。
安定しない呼称でも分かっちゃう。
「に……新川さんだ。こんちは」
「ども」
千早と一瞬アイコンタクトを交わし、無言のやりとり。
私ら全然関わってないよね? 多分そう、きっとそうと、ごくごく短い間に意思疎通ができたはず。多分。
なので馴染みの薄い、たまたま出会ったクラスメイトになりきる私達。
つうか実際そうだし。
「え、なにさなにさ。ほののんとちはーんの二人で来てんの? 大人だじぃ~?」
目を輝かせるにーなに対して、私達は曖昧に頷き、笑みを返すしかなかった。
実際さ、ガワが子供なだけで中身はアラサーなんだもんよ私達。
「仁衣奈ー、こっちー」
「あっ、はーいよー。私はチルド(?)だから、ファミリーと食わせてもらうんだー。バハッハ~イ」
多分母親であろう人に呼ばれ、手を振りながら畳のテーブル席へ向かうにーな。
いや、テーブルについても手を振ってきてるな……そして「やめなさい」って止められてる。
仁衣奈の家族か……順当に見れば両親なんだろうけど。
家に遊びに行ってもあんまり見た記憶がなかったし、授業参観とか運動会にも来てたイメージがないけど……。
あんな感じの人達だったっけ? どっちにもあんま似てないな。
まあ、あんまし深く追及する事じゃないが……それにしても。
「さっきのさ……チルドレンって言いたかったんかな」
「あいつ一人っ子だし、単体だろ。チャイルドじゃね」
「だよね。チルドだと冷やされてるし」
「ふぅっ……!」
千早が少し嬉しそうな顔になってら。
よくにーなの事を「よく分からん子」って言ってるけど、にーなの言動や仕草で一番喜んでるのは間違いなく千早だったと思う。
「お待たせしました~チャーシューメンにラーメン二つです」
それから食事を待っていると、にーな達のところに注文してたのであろう食事が運ばれていく。
なんとなく眺めてたら、にーなはテーブルに置かれたラーメンを見つめ、唐突に両手を組み出した。
なんかアレ、西洋っていうか、教会で祈りを捧げるみたいなアレよ。
「おお、お湯に茹でられ食卓に並ぶ我らが麺よ……」
母親がギョッとして「ちょっ、仁衣奈」と声をかける。
私も千早と顔を見合わせる。
そういえば、あの仕草というか挙動には見覚えがある。
そこに続く締めの言葉は今でも覚えてる。
「ア・ラーメン」
私と千早の声が被った。
その数秒後、にーなが祈りを捧げるようにしてた両手を崩し、合掌の形にしながら「ア・ラーメン」と呟き、母親に「やめなさい」と注意されてた。
大人になってもアレやってたなぁと呆れつつ懐かしむ私。
千早はツボに入ったのか、テーブルに突っ伏してた。
千早のツボは割と浅い。
新川仁衣奈こと、にーな。
こいつは子供の頃からシュールな女だった。
お話の中で出てくるキャラで、どの子が一番好き?(価値観や考えが一番分かるとか、性格が好きとか、単にキャラが好きとか理由は何でも構いません)
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花咲穂乃花
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天ヶ崎亜紗(病んでる方・元気な方問わず)
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白河千早