あんな奴を好きだった自分、ホント馬鹿じゃねぇ? 百合カップル? クソだよクソ! 過去に戻れたら絶対に選ばんわ!   作:Yunoko

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第7話 憎きコイツと自宅へ

 

「ここがほのちゃんの住んでるところかぁ」

「まぁね。普通のマンションでしょ」

「いやいや、良いところだと思うよ」

 

 あれから小一時間かけて、私の住んでいるマンションに到着。

 道中でのやり取りは少なく、広がりをみせない、沈黙を続けないためだけの無味乾燥なものだった。

 私もコイツも、お互いにどこか上の空だった気がする。

 ラブホに行くより、私の家に行く方が緊張するとかおかしいでしょ。

 

「…………」

 

 周囲をざっと見渡す。

 コイツ以外には誰もいない、はず。

 玄関先でパパっと暗証番号を入力し、扉が開いたら二人でさっさとエントランスに入る。

 扉が完全に閉まるのを確認して、共用ポストをチェック。

 郵便物も……特になし、と。

 

「ほのちゃん、変わってないねえ。ちゃんと用心してるんだね」

「そりゃね。女なら誰でもいい、襲ってヤラせてくれればみたいな馬鹿いるからね。気を付けるに越した事ないよ」

 

 自衛のため、警戒を怠らないのは大事だと思ってる。

 こんな事をいえば、ちんちくりんの無愛想女が自惚れんな、女はいくらでもいるのにお前なんか相手しないだとか思われるかもしれない。

 でも、ろくでもない奴は確かにいる。

 それこそ、私みたいなのでも襲いかねない奴だって確かにいたのだ。

 

 今だって別に絶対安全、というわけじゃない。

 暗証番号式のオートロックなんて、一回覚えられたらアウトだし、近くに潜んでて扉が開いた瞬間に入ってこられても終わりだ。そもそもマンション内の住民でそういうのがいたら、どうにもならない。

 自分の部屋に入って施錠するまで、油断はしちゃいけない。

 というわけで、さっさとコイツを連れて部屋に向かう。

 

「何階に住んでるの?」

「三階」

「やっぱり高いとこだよね。低いとこはちょっと不安だもんね」

「そうねぇ」

 

 よく見たら、ちょっと不機嫌な顔してんな。

 色々思い出したのだろうか。

 コイツは下着をしょっちゅう盗まれてるし、実家に住んでた時とか、干してた布団まで盗まれてたからなぁ。

 あれ、なんで犯人捕まらなかったのか未だに不思議で仕方ない。

 あんなの持ち運んでたらバレるだろ。すぐに車に積んだら分からんもんかな?

 

 コイツはやばい奴にもよくモテるみたいで、付き合ってた時に一緒に住んでたアパートは二階だったのに、それでも下着が盗まれた(コイツと巻き込まれで私のも持っていかれてしまった。許せねぇ)事があった。

 おかげで私も、今では服も下着も陰干しメインになってしまった。

 幸いというか、私の部屋にはサンルームがついているので干すのに困った事はないけどな。サンルームで干してる場合も陰干しになるのかは知らん。

 

 まあともかく。

 女の一人暮らしなんてのは、分かりにくくした方がいい。

 自衛のために、作るつもりもない彼氏がいるかのように男物の服とか干したりするし。誰もいない玄関で「行ってきます」だの「ただいま」とか言ったりしてるからなぁ。

 

「ふぅ、ただいまと」

「お邪魔しま~す……」

 

 私の住んでる一室に到着。

 鍵を閉め、チェーンもかけ、靴脱いで、私用と来客用のスリッパを出す。

 後ろを見れば、おずおずとスリッパを履きつつ、物珍しそうにキョロキョロする亜沙。

 

「結構広いね」

「まあまあかな」

「お部屋も綺麗にしてるね」

「どうだろ。物あんま置かないだけだよ」

「掃除とかちゃんとしてる」

「たまにね」

 

 他愛のないやり取りをしつつリビングへ。

 15万円したそこそこ良いソファー(いっちゃなんだが、私の使ってるベッドより寝心地が圧倒的に良い)に亜紗を座らせ、私も隣に……と思ったがなんだか気恥ずかしい。

 

「なんか飲む? 大したもんないけど」

「えっと、大丈夫。まだ水余ってて、持ってきたから」

「それ開けてないやつでしょ? 次に飲むのに使いなよ。茶くらいは出してやる」

 

 言ってキッチンの方へ。

 冷蔵庫から氷を出し、コップにがんがんに入れて、キンキンに冷やした緑茶を注ぐ。

 冷やしたところに冷やしたやつを入れる事で冷たさが掛け合わされるという、私の謎理論だ。

 

「ほい」

「ありがと。わっ、相変わらず冷やしてるねぇ。お腹冷えたりしないの?」

「たまに下してる。下痢したら仕方ないからあったかいの飲んでる」

「変わってないなぁ……」

「亜沙だって、冷たい方がよく飲むだろ」

「そうだけど……」

 

 性行為するたんびに水分を放出しまくるコイツだが、その割に水分を摂るのはあんまり好きじゃないらしい。

 お茶のペットボトル500mlを1日かけて飲み切れない事だってしょっちゅうある。

 あまりに飲まなすぎて、膀胱炎にしばしばなるし、腎臓やられて一時期茶色のおしっこが出てた事もあったくらいだ。

 そのくせ、口移しだとか変態じみた行為でなら平気で飲むから困る。

 衛生面とか色々問題あるから、本当はしない方がいい……と分かっているのに、私はこの手の行為が好きだから困る。

 

「…………」

「ほのちゃん、隣座ってよ。空いてるよ」

 

 テーブルを挟み、向かいの方でクッション敷いて座ろうとしたら止められる。

 隣のスペースをぽんぽんと叩き、仕方なく隣に座ってやる事にした。

 おい、近い。あんまくっつくな。

 

「もう午前4時だよ、ほのちゃん。そろそろ朝が来るよ。こっちの亜紗はもう来てるけど。なんちて」

「……」

「…………ジョークだよ」

「あぁ」

 

 どうリアクションしていいか分かんねぇんだよ。

 お前、そんなつまらんジョークとか言うんだな。これも深夜テンションのせいだろうか。

 こら、叩くな。痛い。やめろっての。

 

「……ここ、どのくらい住んでるの」

 

 あ、話題切り替えたな。

 

「3年くらい」

「へぇ、結構いるんだ」

 

 私はここを結構気に入っている。

 

 まず値段だが、家賃は月々4万円。

 理由はおそらく商圏から離れている事と、周辺が市街化調整区域(ざっくりいえば、無闇や家や店、施設を作ったりできない)に指定されているからだ。

 

 大型のショッピングモールとか行こうとすれば、車で10分くらいは走らせないといけない。

 でも、ちょっとした買い物くらいなら徒歩数分でドラッグストアとかコンビニ、簡易郵便局くらいは揃ってるので、不便と感じた事はない。

 

 それに立地も気に入っている。

 商圏から離れてるし、メインの道路からも外れているが、車通りが少ないし、人気も少ないから静かでとてもいい。町内会の活動も少なく、協力を求められる事だってほぼない。

 ゴミステーションもすぐ目の前で捨てやすい点もグッド。

 

 家賃4万円で1LDKで、サンルームもロフトも付いてるとなると、中々同条件は見つからない。

 仕事場にもそれなりに近いし、マンションの管理人さんがこまめに環境整備してくれるし、冬場の雪がひどい時にも自前? の除雪機で雪もよけてくれてマジ神。

 そんなわけで、しばらくはこのマンションから出ていく予定はない。

 

「ほのちゃんの部屋、見せてもらっていい?」

「いいけど、マジでなんも面白くないぞ。あと、お茶ちょっとは飲め。膀胱炎なっても知らねぇぞ」

「飲むから見せて」

「はぁ……」

 

 コップ半分ほど飲んでるし、まあいいか。

 リビングのすぐ隣にある私の部屋を見せてやることにした。

 入った途端、亜紗はすぐに室内を見渡していく。

 

「あ、なんだっけこれ。ロストだっけ? 部屋の中の二階だぁ」

「ロフトな。高い場所の方が落ち着くんだよ」

「高いところ好きだね、ほのちゃん。ベッドは使ってないの?」

「休憩する時に使ってる。でも寝るのはロフトに敷いた布団の方」

「そうなんだ…………相変わらず本いっぱいあるね」

「まあ」

 

 私は本を読むのが好きだ。

 物語を読み解くのが好きだし、その世界観に没入するのも好きだ。

 なんだったら好きが高じてネット小説も書いていたりする。まあ、人気が出た事は一度もないけれど。

 

 そういえば、あの日コイツに捨てられた時、家を荒らされたりもしたが、本棚には手をつけていなかったっけ。

 それはコイツにとって価値のない物と見做されたからなのか、私が大事にしてると思って手を出さなかったのか、どっちなのだろう。

 

「アルバム…………」

 

 本棚の一番下、その右奥に置かれたそれを見て、亜紗が呟いている。

 あぁ、アンタと付き合っていた頃に思い出を残していこうって買ったやつだよ。当時のまんま。

 中には二人であちこち行った時の写真だとか、旅行先のパンフレット、使用済みのチケット(テーマパークのやつ)とか挟んであるとも。

 捨てるに捨てれなかった未練の塊。

 

「見る?」

「…………ううん、いい。私にはその資格ないから」

 

 ……分かってんじゃん。

 ここでアルバムの中を見て、思い出語りだされても腹立つだけだからな。

 

「もう遅いし、寝るか?」

「……そうだね」

 

 もう少し起きていてもいいが、お肌にもよろしくないし、ここから話が盛り上がるとは思えない。

 歯磨きやスキンケアだのお互いに済ませ、私はロフトの布団で、亜紗は私のベッドで休ませる事にした。

 

「…………」

 

 正直いえば、こんな時間だというのに私はあまり眠気を感じなかった。

 部屋の照明は常夜灯にし、室内にはエアコンの風と、時々道路を走っているのであろう車の音だけが聞こえる。

 亜紗の寝息は聴こえてこない。向こうもまだ眠っていないのだろう。

 

 眠れそうもなく、かといってスマホをいじれば余計に眠れなくなりそうだったので、私はひたすらに目を閉じてつまらない思考を巡らせる。

 明日……いや今日か、昼はどうしよう。昼までには起きれるよな? コイツはいつ送り届ける?

 どこも出かけなくてもいいかな、いいだろ、めんどくさい。

 家でエッチするか? したい気もするけど、家は汚したくないなぁ。洗濯とか掃除とかめんどい。

 

「…………」

 

 小さな物音が近づいてきていた。

 何を思ったのか亜紗が梯子を昇ってきて、狭い布団の中に潜り込んできた。

 私は何も言わなかった。コイツも何も言わず、くっついてくる。

 大変暑苦しい。今8月中頃だぞ、この野郎。分かってんのか。

 

「……はぁ」

 

 私はエアコンの温度を2度ほど下げた。

 カーテン越しの窓の先には、微かに空色が差し込みつつあった。

 

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