あんな奴を好きだった自分、ホント馬鹿じゃねぇ? 百合カップル? クソだよクソ! 過去に戻れたら絶対に選ばんわ!   作:Yunoko

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第8話 憎きコイツの事情を知る

 

「…………」

 

 起きたのは11時頃。

 いつの間にか眠っていたらしい。

 隣を見れば、アイツの姿もない。先に起きたようだ。

 

「ふわぁ……」

 

 ロフトを下り、リビングの方へ。

 そこにはキッチン前で何やらしている亜紗がいた。

 

「ほのちゃん、おはよ」

「おー……何してんの?」

「お昼ご飯作ってた。材料勝手に使ってごめんね。あとでその分のお金はちゃんと払うから」

「それは別にいいけどさ」

 

 テンポよく野菜を切り、炊飯器に入れていく。

 IHの上ではミルクパン鍋とフライパンが置かれ、それぞれ別の物を作っているみたいだ。

 コイツ、和洋中と色んな料理作れるんだよな。

 私だって簡単な物くらい作れるが、それ以外となればネットのレシピサイト(クックパッドとか)を見ながらじゃないと中々作れない。

 でも、コイツはなんとなくで作れるし、時短料理が得意だし、調味料だって目分量で調整するのが上手い。

 

 要領も良い。

 なんたって、初めてここに来たのに既に材料や調理道具を把握してるくらいだ。

 くそ、腹立つ。

 

「炊飯器で肉じゃが、こっちの鍋でお味噌汁、フライパンで和え物作ってるよ。ご飯もすぐに炊くね」

「料理、今も家でやってんの?」

「うん……」

「そっか」

 

 悔しいが、コイツの料理は安定して美味しい。

 あり合わせでもサクっと作ってくれるし、どれもこれも私の味覚によく合う。

 食べるのも随分久しぶりだ。

 まさか、再び亜紗の手料理を食べる日が来るとは。

 

 

※ ※ ※

 

 

「ごちそうさま」

「お粗末様でした……どうだった?」

「味? 久しぶりに食ったけど、美味かった」

「そっ、そっかぁ。良かった」

 

 ホッとしたのか、ふぅ~と息を吐く亜紗。

 アンタの飯が不味かった事の方が珍しいだろうに。

 

 失敗したのって私が知る限り二回だ。

 どちらもお菓子作りだったし、複雑な工程で私がレシピ見ただけで諦めたくらい難しかったやつ。

 それだって二回目にはきちんと完成してて、ちゃんと美味しかった。

 コイツはなんというか、人を喜ばせたり、人に認めてもらうための努力はすげぇ頑張るやつだった。

 

 でも、なんでだろ。

 その割に勉強はいい加減だった。

 それこそ両親が喜んだりするだろうし、学校関係者だって褒めてくれそうなもんだが。

 赤点クラスまではいかないが、どの教科も40~50点前後と決して褒められるレベルではないのが亜紗だった。

 

「……また食べたくなった?」

 

 おっと、いらん事考えてた。

 また食べたいか? そうだな、確かに美味しい、懐かしいけど……。

 

「アンタ連れてくるのはまだしも、家まで送り届けるのめんどくさい」

「そっ……そうだよね……」

「でもまぁ、たまに食べたいかも。アンタ、私と違ってなんでも作れるし、美味いし」

「そっ、そっかぁ……嬉しいな、ふふ」

 

 顔を下げたり上げたり忙しいやつ。

 昔から感情が分かりやすいやつだったけど、今はあからさま過ぎて演技じゃないかと思うくらいハッキリとしてる。

 

「ふー、洗いもんするから、ちょっと休めよ」

「え、いいよ! 私そのくらいするよ!」

「いや、飯作ってくれてんだから、洗いもんくらいしねぇと私がやべぇだろ」

「何言ってんの、私がワガママ言って来たんだから、私がするの! ほのちゃんはゆっくり座ってて! 家主なんだからゆっくりくつろいで!」

 

 くそ、譲らねぇなコイツ。

 私は洗い物にうるさいのだ。

 食器置き(水切りラック)に乱雑に置くやつとかマジで嫌いだし、茶碗をそれぞれの形で積まないやつも嫌い。

 コイツは洗えればそれでみたいなタイプだから、付き合ってた当時、地味にストレスだったんだ。

 嫌な事を思い出したわクソが。

 

「洗うんなら、ちゃんと茶碗ごとに積んで。雑に洗い置くんだったら私がするから」

「わ、分かった。ちゃんとする。ちゃんとするから、私にさせて」

「……あぁ」

 

 マジで関係性が付き合ってた時と別になったもんだ。

 あの時の私なら、絶対にコイツにこんな事を言わないようにしてた。

 まあ、言ったところで「洗えてんだからいいじゃん!」だとか「どうせ拭いて片付けるから一緒でしょ!」みたいな返事をしてたと思うが。

 いや実際言われてなかったか? 言われたから諦めたんだったっけ……。

 

 基本マイペースだったし、結果が一緒ならいいじゃんというスタンスの女だったからな。今みたいに素直に聞くなんてありえなかった。

 私は私で「しょうがないなぁ、あーちゃんは」だとか、笑って何もかも許し、認めてたからな。

 今じゃ絶対ありえん。

 

「どう? ちゃんと洗えてる? え、偉い?」

「ちっ……文句ねぇよ。洗い物ありがとよ」

「なんで舌打ちするの!?」

 

 コイツが素直に私の言うままに洗い物してらぁ。

 歪なバランスだよな、私とコイツ。

 付き合ってた頃はコイツが上で、別れてから私が上になってさ。

 あの時の浮気だの云々がなくても、きっとどこかで恋人関係は破綻してた気がする。

 

 

※ ※ ※

 

 

 その後、出かけなくてもいいかと思っていたが結局出かけた。

 近所のスーパーやドラッグストアで買い出しだ。

 一人暮らしな上、料理だって簡単な物しか作らない私の部屋の冷蔵庫は、大して食材が入っていなかったのだ。

 

 ちなみに食材の会計でどちらが払うかで揉めた。

 いつもラブホ関係で亜紗にばかり支払いを負担させてたし、いい加減私が払おうとしたら、亜紗が「私が払う」といって譲らなかったのだ。

 金銭関係に対し、コイツはほぼすべて自分が支払おうとする。それはかつて私の物を壊したり奪った事への贖罪のつもりなのか?

 でもよ、それをキチンと言葉にしなきゃ気持ちなんて分からねぇよ。

 

「亜紗」

 

 冷蔵庫に食材をぶち込み、一息ついたところで私は尋ねる。

 

「うん?」

「今日どうする? 晩飯食べたあとに帰るか?」

 

 私がそう言った瞬間、亜紗の顔が固まった。

 別に怒ってたり責めてるわけじゃないんだが。

 家に帰りたくないのか?

 

「あ……その、ほのちゃんは明日お仕事?」

「一応は。有給余ってるから休もうと思えば休めっけど。アンタは仕事とか大丈夫なん?」

「私、今仕事してないんだ」

 

 おずおず、といった様子で答えてくる。

 まあ、なんとなく予想してた。

 いつでもラブホに行けますとか言ってる事もだけど、私と再会するまでLINEメッセージの連投とか凄かったからな。

 いつ寝てんだよコイツとか思ったくらいだし。これで仕事してたら逆に驚くわ。

 

「そうなんだ。じゃあフリーな感じ? 予定とかは?」

「予定もないよ」

「ふーん……もう1日くらい泊まってくか?」

「え」

「別に1日くらい構わんけど」

「そ、そんな。いいの? ホントにいいの?」

 

 なんで泣きそうな顔になる。

 こいつの今の状況、ずっと聞かなかったけど、どんだけ追い詰められてんだ?

 まだ離婚とか友人関係の決裂だとか、引きずってんのか?

 よりにもよって私に縋ってくるくらいだから、事情があるってのは察しがつくけどさ。

 

「一応聞くけど、私がいた方がいい? いなくても別にいいか?」

「いてくれた方が……嬉しいです」

「あっそ。じゃあ、明日は仕事休むわ」

「えっ、あ……」

 

 言うが早いか、上司にメールを送り付ける。

 電話とかでなく、LINEで有給取得の希望を伝えて了承をもらう。

 これも時代だなぁ。

 

 どのみち有給を5日以上取得しないとうっさいし、取らないと会社が勝手に休みを増やして有給扱いにしてくるからな。

 あと2か月もすれば古い有給期間も消えちまうから、ここらで使ってやるとしよう。

 感謝しろよ、弊社ぁ!

 

「ほのちゃん、いいの? 会社の人に怒られない?」

「問題ねぇ。私、これでも成績良いから。結果さえ出してりゃ優しいもんだ」

「営業の仕事だっけ……凄いね、そこまで言えるなんて」

 

 悲しげに目を伏せる亜紗。

 でも、アンタが営業したら、それなりに売れると思うぞ。

 無愛想で色気のない私でも、直接出向いて交渉してるだけで一定数の顧客は獲得できてるし、そうした相手の大半は男だ。

 

 女であるっていうのは、やはり武器になる。

 若いと言いきるには微妙な歳になったけど、それでもまだ通用する。

 まして、顔もスタイルも良くて愛想も良いアンタが出てきてみろ。下心満載のやつらが喜んで契約してくれるさ。

 まあ、色々と面倒な事もあっけど。

 

「なあ、聞いていい?」

「え? 何を?」

「言いたくなかったらいいけど。アンタ、家に帰りたくないの?」

「……うん。帰りたくない」

「そっか」

 

 暫し沈黙。

 二人でソファーに座ったまま、私の方はどう切り出そうか考えた。

 

「……私のお父さん覚えてる?」

「なんとなく」

 

 亜紗から発せられた言葉に、私はそう答えるしかなかった。

 父親? 父親がどうしたんだ。

 なんか厳しそうな感じの人だった気がする。確か、あの人っておばさんの再婚相手で義理の父親だっけ?

 

「あの人ね」

 

 あの人。

 義理とはいえ、父親に対してそう呼ぶのであれば、少なくとも好意的には捉えていない。

 

「学校で先生してたんだけど、捕まったんだ」

「え、マジ?」

「マジだよ。それもね、隠しカメラで盗撮してたんだ。小学生の女の子のトイレや着替えしてるところの」

「……おぉう」

「やばいよね、ホント気持ち悪い。ありえない。最悪。人に真面目に生きろだの説教してきてた人が何やってんのって話だよ」

 

 自宅から押収されたデータは数日や数週間なんてもんじゃなかったらしい。

 長年に及び、亜紗の父は女の子の隠し撮りした写真や動画を集め、それを見て興奮していたのだと。

 ニュースでやってたのか? 私、今のいままで知らなかったんだが?

 うちの家族や少ない友人からも、そんな話は一切出てこなかった。

 

「しかもね、家にも仕掛けてた」

「は?」

「お母さんじゃなくて、私の部屋に。部屋だけじゃない、トイレにもお風呂にも。ふふふ、私を盗撮してたんだよ、アイツ……」

 

 隣に座る亜紗の顔を見つめる。

 目が据わっている。表情はない。

 

「じゃあ、今は刑務所にいんの?」

「信じられないと思うけど、アイツ執行猶予付いてるから、どこかで生きてるよ」

 

 どこかで? 家にはいないって事だよな。

 

「あんな事して、私の写真をネットで売って、それで執行猶予ってなんだよ。ありえないよ。あんな変態のクズ、外に出していいのかよ……」

 

 言葉が乱れ、声も震えてる。

 まあ、そらそうなる……っていうか、ネットで売って?

 

「亜紗、アンタの写真がネットで出回ってんの?」

「出回ってたみたい。でもね、お母さんが色々調べてね、弁護士に頼んでね、プロ……よく分かんないけど、サイトの画像を消したりはしてくれたみたい。でもさ、画像を保存してる人がいても、全部は取り締まれないみたい。またどこかで貼られたり、するかもって」

「……」

 

 聞くんじゃなかったかもしんない。

 同じ女としてっていうか、普通にキツイなぁ、その状況。

 

「葛原(くずはら)……元旦那だけど、アイツもそれ知ってる。八奈子や美春も。みーんな知ってる。父親が性犯罪者で、私はネットで晒されてるって。なんで知ってんだろう。こういうのってすぐ伝わるんだね」

「……」

「葛原の友達って男の人がね、歩いてる私に声かけてくるんだ。ネットで見たよとか綺麗な身体してたよねとか、エロい事得意なんだよねなんて」

 

 もうやめろ。

 これ以上聞いてると辛い。

 

「私もお母さんも今は実家にいない。実家にいたずら電話とか手紙とかいっぱい来たし。性犯罪者の家だとか。もうその犯人は追い出されてるんだけど、そんなの知らないもんね」

「離婚したんだよな」

「うん。お母さんブチ切れ。私の盗撮をした事とか怒り狂って、椅子でアイツの頭叩いたり、蹴って怒鳴って。あんなお母さん、初めて見た」

 

 あの穏やかでほわほわって感じの人が……。

 でも、そら怒るだろ。

 職場で子供相手に欲情した挙句、義理の娘の盗撮までしてのけたのだ。

 そして娘の写真をインターネットを介してあちこちにばら撒いた。

 控えめに言ってもカスだ、クズだ。

 

「……私がほのちゃんに会いたかったのはね、怖かったから。一人じゃいられなくて、耐えれなかった」

 

 流石にここまで話してくれれば、私でも分かるよ。

 

「死にたいって思った。でも、自殺しようと考えても、死ぬの怖くてできなかった。首吊りなんて絶対無理。飛び降りも無理。意識がずっとなくなっちゃうのが怖くて、そんなの考えられなかった。ずっと泣いて、泣いてもどうにもなんなくて。死ぬのってすっごい勇気がいるんだね。私には無理」

 

 私が考えてたより遥かにずっと、コイツは追い詰められていた。

 私だったら、その状況に耐える事ができただろうか。

 厳しいだろう。

 

「私どうしていいか分からなくなって、何考えてんだろって思うだろうけど、ほのちゃんの家に行ったんだ。そんでね、ほのちゃんのお母さんに言ったんだ。私が昔何をやらかしたかとか、全部ぜーんぶ」

「は? マジで? なんで言うんだ」

「分かんない。死ぬ前に懺悔したかったのかな。私の悪いところとか全部話して、ほのちゃんに死ぬ前に謝りたいとか言った気がする」

 

 うちの母親、何も言ってこなかったぞ。

 「亜紗ちゃんから手紙預かったし、そっち送るわ」なんて電話で言われて、そのあと送ってきて。

 なんも事情なんて知らないと思ってた。

 

 全部知ってたのかよ。

 あの人、亜紗から状況聞いて、亜紗のした事を聞かされて、何を思ったんだ。

 ちょっと情報量と内容で頭が混乱してきた。

 

「アンタ、今はどうなん? 死ぬつもりとかいわないだろうな」

「生きてても辛い。でも死ぬのは怖い」

「そっか。私さ、なんつっていいのかマジで分かんねぇけど。大変だったな、亜紗」

「……どうだろ」

 

 ここから数分くらい亜紗は黙ってた。私も黙って待つ。

 つーか、なんていえばいいんだコレ。

 これが恋人だったら、いや友人だったなら素直に慰めてやれただろうよ。

 でも、今は……。

 

「ほのちゃんの事を思い出したのって、引っ越す時に荷物を片付けてた時なんだ」

「昔のアルバムとか見つけて、その中の写真を見て懐かしくなって。今どうしてるのかなって」

「でも、勘違いでひどい事して裏切って、今さらどうやって話せばいいんだろ、どう謝ったらいいんだろ、とか考えて」

 

 私は小さく相槌を打つ。

 亜紗が喋るのを止めない、遮らない。

 

「私、会えて嬉しかった。セフレにしてくれて嬉しかった」

「……マジかよ」

「うん、頭おかしいでしょ? でも、ほのちゃんが私を求めてくれて、使ってくれて嬉しい。一度きりじゃなくて、何度も会ってくれて」

 

 セフレになって都合よく使われて、救われたとかやめてくれよ。

 でも、色々と不思議に思ってた事や疑問に思っていた点が繋がった気がする。

 

 もちろん、今話していた事が事実であるか、裏付けはできていないから信じ切る事はできない。

 女なんて生き物は、自分の不都合な事は隠したり、過少に話したりするもんだから。

 でも、後ろめたい相手である私に縋らなきゃいけないほど、追い込まれていたのは確かなんだろうと思う。

 

「ほのちゃんにこんなお願いするの、ありえないって分かってる。でも、お願いがあるんだ」

「何?」

 

 このあとに続く言葉は想像がつく。

 でも、敢えて本人の口から言わせる。

 

「私も、ここで一緒にいさせてくれないかな」

 

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