待望の手紙
梟は、窓の外にいた。
普通の鳥の顔ではなかった。
いや、梟の顔としては普通なのかもしれないが、少なくとも、野生の鳥がする顔ではなかった。
待っている。そう見えた。
窓を開けろ、と言っているようでもある。すぐには動かなかった。
梟も動かない。茶色の羽を少しふくらませ、丸い目でじっとこちらを見ている。
そのくちばしには、封筒が挟まれていた。
郵便物。
鳥が、郵便物を運んできた。
窓に近づいても、梟は逃げなかった。むしろ、当然の権利のように窓枠へ片足をかけてくる。
窓を開けると、梟は部屋の中へ入ってきた。
ばさり、と羽が鳴り、机の上に封筒が落ちる。
そして、まるで仕事を終えた配達員のように、梟はエリアスを見上げた。
「……報酬が必要なのか?」
梟は答えなかった。
当然だ。ただ、返事を待つように片足を上げている。
机の引き出しには、祖母が時々くれるビスケットの欠片が、紙に包まれて残っていた。
それを差し出すと、梟は不満そうに一度まばたきをした。
それでも受け取った。
礼儀正しいのか、横柄なのか、判断に困る鳥だった。
封筒は、厚い紙でできていた。手触りは古く、乾いている。
だが、粗悪ではない。むしろ、よく作られている。
羊皮紙。
深い緑色のインク。
紫の蝋の封。
まず、それだけで奇妙だった。少なくとも、普通の学校や役所から届く手紙には見えない。
郵便局の消印もない。切手もない。
それなのに、確かにエリアスへ届いた。
表には、深い緑色のインクで、こう書かれていた。
セント・オールバンズ郊外
ヘイル家二階
東向きの小部屋
エリアス・レン様
指が止まった。
一行目は分かる。
セント・オールバンズ郊外。
住所としては、まだ自然だ。
二行目も分かる。
ヘイル家。
祖母マーガレットの姓だ。
問題は、その先だった。
二階。東向きの小部屋。
部屋の中を、ゆっくりと見回す。
ベッド。机。本棚。鏡。窓。東向きの小部屋。
間違っていない。
間違っていないことが、気味悪かった。
この部屋の位置を、誰が知っている。
郵便局ではない。
学校でもない。
役所でもない。
家の外から見れば、窓の向きくらいは分かるかもしれない。
けれど、この部屋にエリアスがいると、どうやって指定した。
監視か。
探知か。
あるいは、もっと大きな仕組みか。
背筋に冷たいものが走った。
時計塔でも、個人の居場所を特定する術式はある。
あるにはある。
だが、こんな差出人も目的も分からない封書一通に、ここまで無造作な指定を使うだろうか。
少なくとも、ただの私的な手紙に見せかけるには、精度が高すぎる。
そう見えた。
封蝋には、四つの動物が刻まれていた。
獅子。鷲。穴熊。蛇。
中央には、《H》の大きな文字。
知らない紋章だった。
だが、安っぽくはない。
ただの飾りとして押された紫の封蝋にしては、古すぎる。重すぎる。
封を切ると、中には二枚の紙が入っていた。
一枚目は、手紙だった。
そこにも、宛名と同じ深い緑色のインクが使われている。
緑。
黒でも、青でもない。
目に優しい色のはずなのに、妙に古く、妙に重い。
まず差出人の肩書きに目が止まった。
ホグワーツ魔法魔術学校
校長 アルバス・ダンブルドア
マーリン勲章勲一等、大魔法使い、ウィゼンガモット首席魔法戦士、国際魔法使い連盟議長
肩書きが多い。
多すぎる。
権威を並べたがる組織は、信用できる場合と、信用できない場合がある。
時計塔では、たいてい両方だった。
続きを読む。
親愛なるレン殿
このたびホグワーツ魔法魔術学校にめでたく入学を許可されましたこと、
心よりお喜び申し上げます。
教科書並びに必要な教材のリストを同封いたします。
新学期は九月一日に始まります。
七月三十一日必着でふくろう便にてのお返事をお待ちしております。
敬具
副校長
ミネルバ・マクゴナガル
しばらく、何も言えなかった。
ホグワーツ。
知らない名前だ。
魔法魔術学校。
その言葉を、何度も目で追う。
魔法。
魔術ではない。魔法だ。
文字の並びは、幼稚に見えた。
まるで、おとぎ話に出てくる言葉のようだった。
それなのに、封筒の住所指定は幼稚ではなかった。
梟の配達も幼稚ではない。
紫の封蝋も、紋章も、羊皮紙も、緑のインクも、そこに宿る古い気配も。子どもの遊びではない。
二枚目には、同じく深い緑色のインクで、必要なものが整然と並んでいた。
ホグワーツ魔法魔術学校
【制服】
一年生は次のものを用意すること。
無地の作業用ローブ(黒) 三着
普通の黒い尖り帽 一個
安全手袋、ドラゴンの皮またはそれに類するもの 一対
冬用マント、黒、銀の留め金付き 一着
なお、すべての生徒の衣類には、名札を縫いつけておくこと。
【指定教科書】
全員、以下の本を各一冊ずつ用意すること。
『基本呪文集 グレード1』ミランダ・ゴズホーク著
『魔法史』バチルダ・バグショット著
『魔法論』アドルバート・ワフリング著
『変身術入門』エメリック・スイッチ著
『魔法薬調合法』アージニウス・ジガー著
『薬草ときのこ1000種』フィリダ・スポア著
『幻の動物とその生息地』ニュート・スキャマンダー著
『闇の力―護身術入門』クエンティン・トリンブル著
【その他の道具】
杖 一本
大釜、ピューター製、二号サイズ 一個
ガラスまたはクリスタルの薬瓶 一組
望遠鏡 一本
真鍮製はかり 一組
生徒は、フクロウ、または猫、またはヒキガエルを、一匹連れてきてもよい。
※一年生は、自分のほうきを持ち込むことは認められない。
二枚の紙を机の上に並べる。
入学許可。制服。教科書。杖。大釜。望遠鏡。ドラゴンの皮。ほうき。
ドラゴン。
その言葉だけで、エリアスの思考が一瞬止まった。
幻想種の名が、学校の持ち物リストに平然と載っている。
言葉だけなら、子どもの空想そのものだった。
だが、空想にしては事務的すぎる。
教科書には著者名があり、道具には数があり、返事には期限がある。
そして何より、この手紙はエリアスの部屋を正確に指定して届いた。
もう一度、学校名を見る。
ホグワーツ。
聞いたことがない。
だが、もしこれが時計塔の別組織なら――。
名前を変え、姿を隠し、表向きは子どもの学校として存在しているのなら。
あり得ない話ではない。
魔術師は、隠す。
隠すためなら、どんな滑稽な名前でも使う。
どんな日常の顔でもかぶる。
梟便。
魔法学校。
子どもの入学通知。
馬鹿げている。
馬鹿げているが、完全に否定する材料はなかった。
むしろ、否定できないことが恐ろしかった。
階下で、陶器の割れる音がした。
続いて、祖母の声がする。
「エリアス?」
いつもより高い声だった。
明るく呼ぼうとして、失敗した声。
手紙を持ったまま、扉の方を向く。
足音が階段を上ってくる。
遅い。
一段ずつ、ためらうような足音だった。
ドアの前で止まる。
「エリアス。今、鳥が……」
そこで声が途切れた。
ドアが開いた。
マーガレット・ヘイルは、白い顔で立っていた。
手には、欠けたカップの取っ手だけが握られている。
おそらく、下で落としたのだろう。
彼女の視線は、エリアスではなく、机の上の封筒に向いていた。
紫の蝋。
四つの動物。
大きなHの紋章。
マーガレットの唇が、小さく震えた。
「……来たのね」
その声で、手紙から祖母へ意識が移った。
「知っているの?」
マーガレットは、すぐには答えなかった。
答えたくない、という顔だった。
けれど、知らないふりもできなかった。
彼女はゆっくりと部屋へ入り、机の前で止まった。
封筒には触れない。
まるで、それが熱を持っているかのように。
「あなたのお母さんにも、昔、同じような手紙が来たわ」
エリアスは、まばたきをした。
母。
エレノア・ヘイル・レン。
写真の中でしか知らない人。
「母さんに?」
「ええ」
マーガレットは、無理に笑おうとして失敗したような表情をしている。
「あなたのお母さんは、とても嬉しそうだった」
その言葉は、喜びの話のはずだった。
なのに、祖母の声には、少しも喜びがなかった。恐怖があった。後悔もあった。
そして、長い間しまい込まれていたものが、また扉を叩いたような諦めがあった。
机の上の手紙に視線が落ちる。
ホグワーツ魔法魔術学校。
この手紙は、ただの紙ではない。
祖母にとっては、二度と開けたくなかった扉を、外側から叩くものだった。
エリアスにとっては、十年探しても見つからなかった答えへの入口かもしれなかった。
二人の沈黙の間で、机の上の封筒だけが、やけに静かにそこにあった。
マーガレットは、手紙をすぐには読まなかった。机の上に置かれた羊皮紙を見つめたまま、長い間、黙っていた。
急かす必要はなかった。
祖母が何かを恐れているのは分かる。
だが、それが何なのかはまだ分からない。
梟は、窓辺でビスケットの欠片をつついている。
まるで、この家の空気が凍っていることなど、どうでもいいようだった。
「……返事を、出さなければならないの?」
マーガレットの肩が小さく跳ねた。
「そう、ね」
彼女は、ようやく声を出した。
「たぶん、そうだと思うわ」
「たぶん?」
「私は、詳しくないの」
マーガレットは手を組んだ。指先が白くなっていた。
「あなたのお母さんのときは……向こうから、先生が来たの」
先生。
ホグワーツ魔法魔術学校。
副校長ミネルバ・マクゴナガル。
校長アルバス・ダンブルドア。
紙に書かれていた名と肩書きは、どれも本物らしく見えた。
少なくとも、子どもの悪戯ではない。
だが、だからこそ危うい。
本物らしいものほど、よくできた罠にもなる。
「今回も来ると思う?」
「分からないわ」
マーガレットは答えた。
「でも、来るなら……たぶん、すぐよ」
その予想は、当たった。
梟が来た日の午後、玄関の呼び鈴が鳴った。
マーガレットは台所にいた。
カップを拭いていた手が止まる。
廊下へ出ると、呼び鈴はもう一度鳴らされた。
乱暴ではない。急かすようでもない。
けれど、こちらが無視することを最初から考えていない、落ち着いた鳴らし方だった。
マーガレットが玄関へ向かう。
その少し後ろに立った。
ドアが開く。
そこにいたのは、小柄な男だった。
想像していたよりも、ずっと小さい。
背は低い。白髪が混じった髪。眼鏡の奥には、明るく、よく動く目がある。
古風な上着を着ていた。
だが、ただ古いだけではない。
寸法はきちんと合っていて、手入れも行き届いている。
妙な服装だった。
近所の人間には見えない。役所の人間にも見えない。
学校の教師だと言われれば、そう見えなくもない。
けれど、それだけではない。
男の立ち方に、目が止まった。
小柄なのに、隙が少ない。
重心が低い。
足の置き方が静かだ。
細い指先には、何かをすぐ扱える人間の癖がある。
老人ではない。
小柄な学者のように見える。
だが、その奥に、刃物のようなものが隠れている。
男は帽子を軽く持ち上げた。
「こんにちは。マーガレット・ヘイルさんでいらっしゃいますね」
声は高めだった。
だが、耳に障る高さではない。丁寧で、やわらかい。
マーガレットの顔は、ひどく白かった。
「……はい」
「私は、フィリウス・フリットウィックと申します」
男はにこやかに言った。
「ホグワーツ魔法魔術学校で教鞭をとっております。今日は、エリアス・レン君の入学について、ご説明に伺いました」
そこで初めて、男の名前と役割が定まった。
フィリウス・フリットウィック。
ホグワーツの教師。
その情報を、頭の中に置く。
名乗り方は穏やかだった。
だが、目はよく見ている。
玄関。
マーガレットの手。
廊下の奥。
そして、エリアス。
視線が、ほんの一瞬だけ、左目の傷のあたりをかすめた。
本当に一瞬だった。
不躾ではない。哀れむようでもない。驚いたようでもない。
ただ、見た。
そして、何も言わなかった。
その沈黙は、悪くなかった。
傷について初対面で触れる人間は、たいてい信用に値しない。
フリットウィックは、少なくともその手の愚かさは持っていないらしい。
「中へ、どうぞ」
マーガレットの声は硬かった。
フリットウィックは、深くうなずいた。
「ありがとうございます。ご不安なことも多いでしょう。できる限り、順を追ってご説明します」
彼が家に入った瞬間、かすかな違和感があった。
空気が乱れない。
普通、人が家に入れば、床が鳴る。衣服がこすれる。湿った外気が混ざる。
その程度の小さな変化はある。
だが、フリットウィックの周囲は静かだった。
静かすぎた。
まるで、空気そのものが彼の動きを邪魔しないよう、先に道を空けている。
あるいは、彼の方が空気の邪魔をしないよう動いている。
どちらにせよ、ただの教師ではない。
居間に通されると、マーガレットは紅茶を用意しようとした。
「どうぞ、おかまいなく」
フリットウィックはすぐに言った。
「今日は説明に来ただけです。驚かせてしまっていることも、承知しています」
マーガレットの手が止まった。
「驚く、ですって」
声が少し震えた。
「あなた方は、いつもそう言うのね」
フリットウィックは、笑わなかった。
「申し訳ありません」
短い謝罪だった。
軽くもない。
大げさでもない。
その一言で、マーガレットの怒りは行き場を失ったように見えた。
二人の間にあるものは、初対面のぎこちなさではなかった。
祖母は、この男を初めて見たわけではない。
少なくとも、この男の属する何かを知っている。
そして、それを恐れている。
フリットウィックは鞄から一冊の小さな冊子を取り出した。
「ホグワーツは、魔法の素質を持つお子さんを教育するための学校です。エリアス君は、入学年齢に達しました」
「魔法?」
フリットウィックの目が、嬉しそうに細くなる。
「ええ。魔法です」
「魔術ではなく?」
その問いに、フリットウィックは少しだけ首を傾げた。
「ふむ。面白い言い方をしますね」
面白い。
警戒ではなく、興味。
その反応も、頭に置く。
「君は、何かそういう本を読んだのですか?」
「いくつか」
「なるほど」
フリットウィックは、それ以上は踏み込まなかった。
代わりに、手紙と同じ深い緑色のインクで印刷された冊子を開いた。
「ホグワーツでは、呪文学、変身術、魔法薬学、薬草学、天文学、魔法史、そして闇の魔術に対する防衛術などを学びます」
呪文学。変身術。魔法薬学。薬草学。天文学。魔法史。防衛術。
どれも、名前だけを見れば粗い。
まるで、子ども向けに概念を丸めた分類だ。
だが、粗い分類だからこそ、奥が見えない。
「入学には、強制力があるのですか?」
マーガレットが言った。
その声には、恐怖があった。
エリアスへではなく、自分自身へ向けた問いのようでもあった。
フリットウィックは、慎重に答えた。
「法的な義務という意味では、複雑です。ただ、魔法の素質を持つ子どもが、自分の力を知らずに成長するのは危険です。本人にとっても、周囲にとっても」
「危険」
マーガレットの唇が強張った。
「ええ」
フリットウィックは静かにうなずいた。
「だからこそ、学ぶ必要があります。力を隠すためではなく、力に振り回されないために」
力に振り回されないため。
それは、納得できる理屈だった。
同時に、引っかかる理屈でもあった。
彼らは、素質を持つ子どもをどうやって見つけるのか。
なぜ、十一歳なのか。
どこで、誰が、何を基準に判断しているのか。
質問は山ほどあった。
「僕を、どうやって見つけたのですか?」
マーガレットが小さく息を呑んだ。
フリットウィックは、少し楽しそうにエリアスを見た。
「実に大切な質問です」
「住所が正確すぎます」
「でしょうね」
「この部屋まで指定されていました」
「ホグワーツの手紙は、必要な相手へ届きます」
説明になっていない。
フリットウィックも、それを分かっているようだった。
「細かい仕組みをすべてお話しするには、少し時間がかかります。ですが、君の居場所を誰かが窓の外から覗いていた、というわけではありません」
「では、何が見ているのですか?」
マーガレットが、びくりとした。
フリットウィックの目が、今度ははっきりと細くなった。
笑っている。
だが、試してもいる。
「君は、そういうふうに考えるのですね」
「手紙は、僕の部屋を知っていました」
「ええ」
「なら、誰かか、何かが知っている」
「論理的ですね。実に結構」
「論理的であることと、安心できることは違います」
フリットウィックは、そこで小さく笑った。
「その通りです」
その笑い方は、教師のものだった。
子どもを馬鹿にする笑いではない。
問いを歓迎する人間の笑いだった。
ますます分からなくなる。
この男は、危険だ。
だが、愚かではない。
穏やかだが、鈍くない。
そして何より、自分の力を隠すことに慣れている。
時計塔の関係者か。
少なくとも、無関係とは思えない。
そう判断した。
「必要な道具は、どこでそろえるのですか?」
「七月三十一日に、私がご案内しましょう」
フリットウィックは答えた。
「ロンドンに、魔法使いの商店街があるのです」
魔法使いの商店街。
ロンドンに。商店街が。
「普通の人には見えないようになっているのですか?」
「多くの場合は、そうですね」
「隠蔽ですか?」
「そう言っても、大きくは外れていません」
大きくは。
つまり、細部は違う。
胸の奥で、何かが動いた。
十年探しても見つからなかったもの。
存在しないのではないかと疑い始めたもの。
自分の知っている世界と、この世界が違うかもしれないという恐怖。
そのすべてが、目の前の小柄な教師の言葉で、別の形を取り始めていた。
ロンドン。
隠された商店街。
魔法使い。
ならば、時計塔はどうなった。
この男は、それを知っているのか。
それとも、最初から別の体系なのか。
「エリアス」
マーガレットの声がした。
彼女は、心配そうにこちらを見ていた。
行かないで。
そう言ったわけではない。
けれど、顔にはそう書いてあった。
白い顔。乾いた唇。カップの取っ手を握りしめたままの指。
この人は、自分を守ろうとしている。
そのことは分かった。
それでも、手紙へ視線が戻る。
ホグワーツ魔法魔術学校。
七月三十一日。
ロンドン。
隠された商店街。
そこに、答えがあるかもしれない。
少なくとも、手がかりはある。
「行きます」
マーガレットの顔が、さらに白くなった。
フリットウィックは、静かにエリアスを見た。
その視線が、また一瞬だけ左目の傷をかすめる。
今度も、彼は何も言わなかった。
かわりに、深くうなずいた。
「では、七月三十一日にお迎えに上がります。必要なことは、その時にひとつずつ説明しましょう」
フリットウィックは立ち上がった。
小柄な体だった。
だが、部屋を出ていく背中は、小さく見えなかった。
玄関で別れの挨拶をし、彼が外へ出る。
ドアが閉まった。
家の中に、静けさが戻った。
マーガレットは、しばらく動かなかった。
外では、さきほどの梟がどこかへ飛び去っていく音がした。
答えは、ロンドンにある。
そう思った。
だが、その時のエリアスはまだ知らなかった。
彼が探している時計塔は、このロンドンのどこにも存在しないのだということを。