ようこそ根源があふれた魔法の学校へ   作:shinkyu10

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あれだけ使い古された学校備品が、一年生の体重と命令と重心を拾い、運動へ返した。

しかも一品ものではない。

同じような箒が、何本も並んでいる。

 

飛行という神秘を、未熟な術者へここまで容易に渡している。

 

異常だった。

 

「まだ見てる」

 

ケイの声で、ようやく視線が戻った。

 

ケイは自分のローブの袖を握りながら、少し困ったようにこちらを見ている。

顔には、飛んだ直後の緊張がまだ残っていた。

それでも、目元は先ほどより少し緩んでいる。

 

「見ている」

「うん。見てるのは分かるよ」

「なら、何を確認したいんだ」

「確認じゃなくて……楽しそうだったから」

 

ザビニが横で吹き出した。

 

「言われてるぞ、レン」

「楽しいとは言っていない」

「言ってないな。顔にも出ていない」

「なら」

「手と目に出てた」

 

ロウルが箒の置き場の方へ視線を向けた。

 

「授業用の備品です。返さなければなりませんよ」

「返した」

「ええ。かなり名残惜しそうでした」

「名残惜しいわけではない。まだ観測できていないことが多いだけだ」

「それを名残惜しいと言います」

 

ザビニが軽く手を叩いた。

 

「ロウルにまで言われてる」

「事実確認だ」

「その言い方、負けた時に便利だな」

 

ケイが小さく笑った。

笑いながらも、箒の置き場へ視線を戻す。

 

「でも、ちょっと分かる気はする。怖かったけど、浮いた時、本当に浮いたって感じがしたし」

「感じではない。浮いていた」

「そういうところだよ」

 

ザビニがまた笑った。

 

 

校庭の反対側では、グリフィンドールの生徒たちがまだざわついている。

ハリーはもういない。

マクゴナガル教授に連れて行かれたままだ。

ロンが何かを言い、ハーマイオニーが口元を固くしているのが見えた。

 

ハリーの飛び方は、記憶に残っている。

 

箒の性能ではない。

球が落ちる前に、体が落下線へ入っていた。

箒が遅れていないのではない。

ハリーの命令が箒へ届くより前に、体の重心がすでに答えを出していた。

 

「ポッター、退学かな」

 

ケイが低く言った。

 

「退学なら、マクゴナガル教授はあの場で言うでしょう」

 

ロウルが答える。

 

「連れて行ったのは、別の理由があると考えるべきです」

「別の理由って?」

「分かりません。ただ、叱責だけではないように見えました」

「シーカーだろ」

 

ザビニが軽く言った。

 

エリアスは顔を向けた。

 

「シーカーとは何だ」

「……冗談だろ?」

 

ザビニが目を丸くした。

 

「知らないのか?」

「知らない」

「クィディッチだぞ」

「だからそれは何だ」

「箒を使ったスポーツ競技だよ」

 

ケイが補足する。

 

「シーカーは、金色の小さい球を捕まえる役。確か、それを捕まえたら百五十点で、試合が終わるんだよね」

 

「百五十点」

 

エリアスは一度だけ黙った。

 

「それまでの得点は」

「クアッフルを輪に入れると十点です」

 

ロウルが答える。

 

「試合終了条件は」

「基本的には、スニッチを捕まえるまでだな」

 

ザビニが言った。

 

エリアスはグリフィンドール側へ視線を戻した。

 

「競技規則としては、かなり乱暴だな」

「第一声がそれか」

「十点ずつ積む競技に、百五十点の捕獲役を混ぜている。しかも終了時刻が不定。観客と選手の拘束時間も読めない」

「魔法界で一番人気の競技に、今それを言う?」

「人気と合理性は別だ」

 

ザビニが吹き出した。

 

「でも、ポッターがその役になるなら?」

「妥当だな」

「結局そこは認めるのか」

 

エリアスは、もう一度グリフィンドール側を見た。

 

十点ずつ積む競技で、捕獲ひとつに百五十点。

しかも、それが試合終了の条件になる。

競技規則としては乱暴だ。

 

だが、その役に一番必要なのが飛行中の発見と追跡なら、話は別だった。

 

「箒が遅れていなかった」

「普通は、すごかった、で済むんだよ」

 

ザビニは肩をすくめる。

 

ロウルは少しだけ考えるように、グリフィンドール側を見た。

 

「一年生が選手になる前例は、かなり少ないはずです」

「前例より、今の飛び方だろ」

 

ザビニが言う。

 

「マルフォイは面白くなさそうだけどな」

 

その名が出たところで、少し離れた場所にいるマルフォイの姿が目に入った。

クラッブとゴイルを従えている。

口元は笑っているが、笑い方が硬い。

さっきまで手にしていた硝子玉はもうない。

それでも、何かを言い続けている。

 

エリアスは、もう一度だけ箒の束を見た。

 

最高級の箒なら、どこまで応じるのか。

広告はあるのか。

型番はあるのか。

メーカーごとの違いはあるのか。

耐荷重、制動距離、旋回半径。

それらは数値化されているのか。

 

「箒メーカーの広告とか、どこかにあるのかな」

 

ケイが何気なく言った。

 

エリアスは顔を上げた。

 

「どこにある」

 

ザビニがゆっくりこちらを見る。

 

「食いつくの早いな」

「資料だ」

「まだ何も言ってないぞ」

「広告があるなら、比較資料になる」

「欲しいだけでは」

 

ロウルが静かに言った。

 

「資料だ」

 

ケイが少しだけ目を伏せて笑った。

 

「違わないね」

「違う」

「違いません」

 

ロウルの返答は早かった。

 

 

 

 


 

 

 

 

城へ戻る途中、校庭の明るさが背中へ残っていた。

 

廊下へ入ると、空気が変わる。

石壁の冷たさ。

松明の匂い。

夕食前の生徒たちの足音。

飛行訓練のざわめきは、だんだん城の中の音へ紛れていった。

 

エリアスは歩きながら、自分の右手を一度だけ開いた。

指先に革の感触はもうない。

それなのに、握った時の反発だけが残っている。

 

「まだやってる」

 

ザビニが横から言った。

 

「何を」

「手」

「動作確認だ」

「箒はもうないぞ」

「ないから確認している」

 

ザビニは、何か言いかけてやめた。

口元だけが少し上がっている。

 

 

 

 

廊下の角を曲がったところで、匂いがした。

 

ニンニク。

乾いた薬草。

古い布。

 

防衛術の教室ほど濃くはない。

だが、授業のたびに鼻の奥へ残る匂いだった。

 

ケイが小さく眉を寄せる。

ロウルは視線だけを廊下の先へ向けた。

ザビニの足取りが、ほんの少しだけ遅くなる。

 

クィレル教授がいた。

 

紫のターバン。

青白い顔。

細い肩。

手には何冊かの本を抱えている。

歩き方は遅く、廊下の中央を避けるように端を進んでいた。

 

「お、おや。ス、スリザリンの一年生ですね」

 

声は細い。

授業で聞いたものと同じだった。

 

ザビニが礼儀正しく一歩引く。

ロウルも軽く頭を下げた。

ケイは少し遅れて同じようにする。

 

エリアスは、クィレル教授の声を聞いていた。

 

吃音。

言葉の遅れ。

喉で引っかかる音。

 

だが、肩は強張っていない。

呼吸は浅いが、発声の詰まりと同じ周期ではない。

本を抱える指も震えていない。

杖を持つ手は袖の陰にあるが、魔力の流れは大きく乱れていない。

 

やはり、声だけが遅れている。

 

授業中にも感じた違和感だった。

恐怖時の反応なら、呼吸、肩、喉、指、魔力が同じ方向へ崩れる。

少なくとも、近い周期で乱れる。

クィレル教授は違った。

 

遅れているのは、声だけだ。

 

一歩だけ、踏み込む。

 

「先生。一つ、聞いてもいいですか」

 

ザビニの目が横へ動いた。

ロウルの指が袖口を軽く押さえる。

ケイは、何を聞くのか分からない顔でこちらを見る。

 

クィレル教授は、瞬きをした。

 

「な、何かな、ミスター・レン」

「授業中の吃音は、意図的なものですか」

 

空気が止まった。

 

ケイが息を飲む。

ロウルの肩がわずかに硬くなる。

ザビニは何も言わない。

ただ、口元から軽さが消えた。

 

クィレル教授は、すぐには答えなかった。

 

紫のターバンの下で、青白い顔がこちらへ向く。

目の下の影が濃い。

疲れている。

怯えているようにも見える。

だが、今の沈黙は、それとは少し違っていた。

 

「……ど、どうして、そう思うのかな」

 

次の一言だけ、吃音が薄かった。

 

エリアスは続けた。

 

「呼吸が乱れていません。肩も強張らない。杖を持つ指も震えていない。声だけが遅れています」

 

クィレル教授の指が、本の背を少し強く押した。

革表紙がかすかに軋む。

 

「き、緊張には、いろいろな形があるのです」

「あります」

 

エリアスは頷いた。

 

「だから、確認しました」

「で、では、それかもしれませんね」

 

肯定ではない。

否定でもない。

 

ザビニが小さく視線を落とす。

ロウルは何も言わない。

ケイの目が、クィレル教授とエリアスの間を行き来している。

 

クィレル教授の口元がわずかに動いた。

 

それは笑みに見えた。

 

 

「よ、よく見ていますね」

 

今度は、また吃った。

 

だが、前より少しだけ整っている。

それが演技なのか、揺れなのか、まだ分からない。

 

「見るようにしています」

「そ、それは、よいことです。防衛術では、見ることが命を救うこともあります」

 

声は細い。

だが、その一文には授業の時と同じ、妙に通る硬さがあった。

 

クィレル教授は一歩横へ動いた。

 

「で、では、夕食に遅れないように」

「はい」

 

道を譲る。

 

クィレル教授が通り過ぎる。

ニンニクと薬草の匂いが一瞬だけ濃くなった。

古い布の匂いの奥に、別のものが混じっていた。

腐敗ではない。

薬草でもない。

一瞬だけ鼻に触れて、すぐに消える。

 

消えたあとも、鼻の奥に薄く残った。

 

分からない。

 

だが、ただの匂いではなかった。

 

クィレル教授の足音が廊下の先へ遠ざかってから、ザビニが低く言った。

 

「お前、教師に何を聞いてるんだよ」

「疑問を聞いた」

「普通は聞かない」

「普通かどうかは関係ない」

「関係あるだろ。だいぶあるだろ」

 

ロウルが静かに言った。

 

「質問の内容は、かなり踏み込んでいました」

「否定されていない」

「肯定もされていません」

「それで十分だ」

 

ケイは小さく、ローブの袖を握った。

 

「あの先生、怒ってはなかったよね」

「怒ったようには見えなかった」

「それが余計に怖いんだけど」

 

ザビニが息を吐く。

 

「箒に夢中になったと思ったら、今度は先生の吃音か」

「どちらも、返り方がおかしい」

「やっぱり会話の仕方が独特だな」

 

エリアスは返さなかった。

 

 

 

 


 

 

 

夕食の大広間は、いつもより少し騒がしかった。

 

グリフィンドールのテーブルの方で、ハリーを中心に人が集まっている。

ロンが大きな身振りで何かを話し、双子らしい赤毛の上級生が笑っている。

ハリーは困ったような顔をしているが、完全に嫌がっているようには見えない。

ハーマイオニーだけは、少し離れたところで唇を結んでいた。

 

スリザリンのテーブルでは、声量が下がっていた。

 

誰かが言う。

 

「ポッターがシーカーだって」

「一年で?」

「マクゴナガルが連れて行ったのは、それか」

 

ざわめきはある。

だが、グリフィンドール側とは温度が違う。

 

賞賛ではない。

驚きでも、素直な感心でもない。

不公平だ、という声になる前の、硬い沈黙が混じっている。

 

マルフォイは、口元を固くしていた。

食器に触れる指が、少し強い。

その隣で、クラッブとゴイルは何事もないように皿を空にしている。

 

ザビニがパンをちぎりながら言った。

 

「ポッター、シーカーだってさ」

「だろうな」

 

エリアスは答えた。

 

ザビニの手が止まる。

 

「驚かないのか」

「連れて行かれ方が叱責だけではなかった。あの飛び方なら、使い道を考える」

「教師が規則を曲げてまで?」

 

ロウルは静かにナイフを置いた。

 

「一年生が選手になるのは、かなり例外的です」

「例外に値する飛び方だった」

 

ケイがグリフィンドール卓の方を一度見た。

 

「でも、マクゴナガル先生って、規則に厳しいんじゃないの?」

「厳しいはずです」

 

ロウルが答える。

 

「ただ、クィディッチになると別だという噂はあります」

「噂?」

「昔から、グリフィンドールの試合には相当入れ込むらしいです」

 

ザビニが言った。

 

「つまり、規則より勝ちか」

「規則を捨てたわけではないだろう」

 

エリアスは皿の上へ視線を落とした。

 

「罰する価値より、使う価値が上回っただけだ」

「普通に褒めればいいのに」

「褒めている」

「相変わらず、捻くれた褒め方だな」

 

ケイが小さく言った。

 

「すごかったけど、落ちそうで怖かったよ」

「あれは落ちる動きではありませんでした」

「レンが言うと、余計に怖いんだよね」

 

ザビニが笑った。

 

「褒めてるのに怖がられてる」

 

マルフォイの声が、少し離れたところから聞こえた。

 

「規則はどこへ行ったんだろうね。無断で飛んだのに、褒美をもらうらしい」

 

周囲の何人かが小さく笑う。

 

マルフォイはこちらを見た。

 

「君もそう思わないか、レン」

「規則違反ではある」

「だろう?」

「だが、処分する側は、あの飛び方を見た。それだけだ」

 

マルフォイの目が細くなる。

 

「ずいぶんポッターに甘いんだね」

「甘いかどうかは関係ない。飛び方の話をしている」

「君はいつもそれだ」

「何が」

「面白くない」

 

それだけ言って、マルフォイは視線を外した。

 

ザビニが小さく言う。

 

「好かれてるな」

「今のどこが」

「いつも突っかかってくるだろ」

「迷惑だ」

「だろうな」

 

夕食は、そのまま硬い空気を残して続いた。

 

グリフィンドールのテーブルでは、まだハリーの話題が続いている。

スリザリンのテーブルでは、同じ話題が声を低くして残っていた。

 

エリアスは、ハリーではなく、箒の反応を思い返していた。

 

箒が遅れていなかった。

術者が迷っていなかった。

あれは才能だ。

 

それ以上でも、それ以下でもない。

 

 

 

 


 

 

 

 

スリザリン談話室は、湖の底のように静かだった。

 

窓の外では、黒い水の向こうを何かの影がゆっくり通り過ぎている。

暖炉の火は燃えているが、炎の色まで少し緑がかって見えた。

談話室の椅子には上級生が何人か座り、低い声で話している。

一年生たちは、自然と端の方へ集まっていた。

 

夕食の話題は、まだ残っている。

 

ポッター。

シーカー。

マクゴナガル。

規則。

特別扱い。

 

その言葉が出るたび、マルフォイの声が少しずつ尖っていった。

 

マルフォイは暖炉のそばに立っていた。

クラッブとゴイルは近くで菓子を貪っている。

数人の一年生も、少し距離を置いて聞いていた。

 

「今夜、ポッターに決闘を申し込んだ」

 

マルフォイが言った。

 

ケイの手が、膝の上で止まる。

 

ザビニは椅子の背にもたれ、片眉を上げた。

 

「正気か?」

「もちろん」

 

マルフォイの口元には笑みがある。

 

「奴らが来るなら、それでいい。来なければ、臆病者だ」

 

エリアスは、羊皮紙へ箒のことを書いていた手を止めた。

 

握り。

重心。

反発。

制動。

 

そこまで書いて、羽根ペンを置く。

 

「どこでやるんだ」

 

マルフォイがこちらを見た。

 

「賞品展示室だよ」

「何時に」

「真夜中だ」

「行くのか」

「それは、どうだろうね」

 

クラッブとゴイルが笑った。

 

エリアスは、マルフォイの顔を見た。

得意げだった。

だが、悪意に酔っているだけではない。

うまくやったつもりの顔だ。

 

真夜中。

賞品展示室。

決闘。

相手はハリー。

マルフォイは行かない可能性が高い。

フィルチに通報するつもりかもしれない。

 

発想は分かる。

だが、粗い。

 

「君が行けば、君も捕まる」

 

マルフォイの笑みが薄くなる。

 

「行かなければ、決闘を申し込んで逃げたことになる」

「逃げるわけじゃない」

「相手はそう見る」

 

周囲の空気が少し変わった。

クラッブは菓子を噛む手を止めた。

ゴイルは口を動かしたまま、マルフォイの顔を見た。

 

マルフォイは声を低くした。

 

「君は、ポッターの味方をするのか」

「していない」

「なら、何が言いたい」

「手順が雑だ」

 

ザビニが口元を押さえた。

ロウルは目だけでこちらを見た。

ケイは、何か言いたそうにして、黙っている。

 

マルフォイの頬がわずかに赤くなる。

 

「雑?」

「ポッターが来なければ、挑発は空振りになる。来て捕まれば、昼の硝子玉の件がある。君が仕組んだと疑われやすい。君が現場に行けば、自分も規則違反だ。行かなければ、決闘を申し込んで逃げたように見える」

 

声は上げない。

 

「どの場合でも、君の信用が落ちることになる」

 

マルフォイの顔から、得意げな色が消えていく。

 

「信用?」

「君は、スリザリン生を体現するべき存在なのだろう」

 

その言葉で、周囲がさらに静かになった。

 

マルフォイは、すぐには返さなかった。

家名。

純血。

スリザリン。

本人が普段から前に出しているものだ。

 

「何が言いたい」

「なら、自分の格を落とさずに相手を陥れる方法を考えるべきだ」

 

誰も笑わなかった。

 

ザビニでさえ、笑わなかった。

ただ、目だけが少し細くなっている。

 

ロウルは背筋を正したまま、口を閉じている。

ケイは視線を落としていた。

けれど、耳は明らかにこちらへ向いている。

 

マルフォイは、ゆっくり息を吸った。

 

「君は、本当に嫌な言い方をするね」

「卑怯だとは言っていない」

「言えばよかったんじゃないか?」

「そういう話ではない」

「じゃあ何だ」

「君の罠は、君自身にも傷をつける」

 

暖炉の火が、低くはぜた。

 

マルフォイはしばらく黙っていた。

やがて、鼻で笑う。

 

「忠告として聞いておくよ」

「そうするといい」

「でも、もう伝えた後だ」

 

それは予想していた。

 

「なら、これ以上は君の問題だ」

 

エリアスは羽根ペンを取り直した。

 

マルフォイは何か言いたげに口を開き、閉じた。

それから談話室の別の椅子へ移っていく。

クラッブとゴイルも、菓子を持ったまま後を追った。

 

ザビニが小さく息を吐いた。

 

「お前、正義感で止めるより刺さる言い方するよな」

「正義の話ではない」

「分かってる。だから刺さるんだよ」

 

ロウルが静かに言う。

 

「言っていることは正しいです。ただ、かなり危険な言い方でした」

「否定できない形にした」

「だから危険なのです」

 

ケイは小さく言った。

 

「マルフォイ、怒ってたよ」

「どうだろうな」

「大丈夫なのかな」

「少なくとも、今すぐ動く顔ではなかった」

「レンがそう言うと、大丈夫な気もするし、余計に心配にもなる」

 

ザビニが笑った。

 

「分かる」

 

エリアスは羊皮紙へ視線を戻した。

 

 

 

 


 

 

 

 

夜が深くなると、談話室の声は少しずつ減っていった。

 

上級生たちが一人、また一人と寮へ戻る。

湖の向こうの影も見えなくなり、窓には暗い水だけが残っている。

暖炉の火は小さく、羊皮紙の端を赤く照らしていた。

 

エリアスは顔を上げなかった。

 

握り。

重心。

反発。

制動。

 

箒は、呼べば来た。

体重を移せば動いた。

戻せば止まった。

 

声か。

手か。

体重か。

魔力か。

意図か。

 

どれに反応し、どこで沈下を止めているのか。

まだ分からない。

 

エリアスは、羊皮紙へさらに書く。

 

広告。

型番。

メーカー。

 

少しだけ考え、最後に一語を書き足す。

 

応答。

 

追うべきものは、決闘ではない。

 

エリアスは羽根ペンを置き、乾ききっていないインクを見下ろした。

黒い文字が、暖炉の光を受けてかすかに光っていた。

 

 

 

 

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