あれだけ使い古された学校備品が、一年生の体重と命令と重心を拾い、運動へ返した。
しかも一品ものではない。
同じような箒が、何本も並んでいる。
飛行という神秘を、未熟な術者へここまで容易に渡している。
異常だった。
「まだ見てる」
ケイの声で、ようやく視線が戻った。
ケイは自分のローブの袖を握りながら、少し困ったようにこちらを見ている。
顔には、飛んだ直後の緊張がまだ残っていた。
それでも、目元は先ほどより少し緩んでいる。
「見ている」
「うん。見てるのは分かるよ」
「なら、何を確認したいんだ」
「確認じゃなくて……楽しそうだったから」
ザビニが横で吹き出した。
「言われてるぞ、レン」
「楽しいとは言っていない」
「言ってないな。顔にも出ていない」
「なら」
「手と目に出てた」
ロウルが箒の置き場の方へ視線を向けた。
「授業用の備品です。返さなければなりませんよ」
「返した」
「ええ。かなり名残惜しそうでした」
「名残惜しいわけではない。まだ観測できていないことが多いだけだ」
「それを名残惜しいと言います」
ザビニが軽く手を叩いた。
「ロウルにまで言われてる」
「事実確認だ」
「その言い方、負けた時に便利だな」
ケイが小さく笑った。
笑いながらも、箒の置き場へ視線を戻す。
「でも、ちょっと分かる気はする。怖かったけど、浮いた時、本当に浮いたって感じがしたし」
「感じではない。浮いていた」
「そういうところだよ」
ザビニがまた笑った。
校庭の反対側では、グリフィンドールの生徒たちがまだざわついている。
ハリーはもういない。
マクゴナガル教授に連れて行かれたままだ。
ロンが何かを言い、ハーマイオニーが口元を固くしているのが見えた。
ハリーの飛び方は、記憶に残っている。
箒の性能ではない。
球が落ちる前に、体が落下線へ入っていた。
箒が遅れていないのではない。
ハリーの命令が箒へ届くより前に、体の重心がすでに答えを出していた。
「ポッター、退学かな」
ケイが低く言った。
「退学なら、マクゴナガル教授はあの場で言うでしょう」
ロウルが答える。
「連れて行ったのは、別の理由があると考えるべきです」
「別の理由って?」
「分かりません。ただ、叱責だけではないように見えました」
「シーカーだろ」
ザビニが軽く言った。
エリアスは顔を向けた。
「シーカーとは何だ」
「……冗談だろ?」
ザビニが目を丸くした。
「知らないのか?」
「知らない」
「クィディッチだぞ」
「だからそれは何だ」
「箒を使ったスポーツ競技だよ」
ケイが補足する。
「シーカーは、金色の小さい球を捕まえる役。確か、それを捕まえたら百五十点で、試合が終わるんだよね」
「百五十点」
エリアスは一度だけ黙った。
「それまでの得点は」
「クアッフルを輪に入れると十点です」
ロウルが答える。
「試合終了条件は」
「基本的には、スニッチを捕まえるまでだな」
ザビニが言った。
エリアスはグリフィンドール側へ視線を戻した。
「競技規則としては、かなり乱暴だな」
「第一声がそれか」
「十点ずつ積む競技に、百五十点の捕獲役を混ぜている。しかも終了時刻が不定。観客と選手の拘束時間も読めない」
「魔法界で一番人気の競技に、今それを言う?」
「人気と合理性は別だ」
ザビニが吹き出した。
「でも、ポッターがその役になるなら?」
「妥当だな」
「結局そこは認めるのか」
エリアスは、もう一度グリフィンドール側を見た。
十点ずつ積む競技で、捕獲ひとつに百五十点。
しかも、それが試合終了の条件になる。
競技規則としては乱暴だ。
だが、その役に一番必要なのが飛行中の発見と追跡なら、話は別だった。
「箒が遅れていなかった」
「普通は、すごかった、で済むんだよ」
ザビニは肩をすくめる。
ロウルは少しだけ考えるように、グリフィンドール側を見た。
「一年生が選手になる前例は、かなり少ないはずです」
「前例より、今の飛び方だろ」
ザビニが言う。
「マルフォイは面白くなさそうだけどな」
その名が出たところで、少し離れた場所にいるマルフォイの姿が目に入った。
クラッブとゴイルを従えている。
口元は笑っているが、笑い方が硬い。
さっきまで手にしていた硝子玉はもうない。
それでも、何かを言い続けている。
エリアスは、もう一度だけ箒の束を見た。
最高級の箒なら、どこまで応じるのか。
広告はあるのか。
型番はあるのか。
メーカーごとの違いはあるのか。
耐荷重、制動距離、旋回半径。
それらは数値化されているのか。
「箒メーカーの広告とか、どこかにあるのかな」
ケイが何気なく言った。
エリアスは顔を上げた。
「どこにある」
ザビニがゆっくりこちらを見る。
「食いつくの早いな」
「資料だ」
「まだ何も言ってないぞ」
「広告があるなら、比較資料になる」
「欲しいだけでは」
ロウルが静かに言った。
「資料だ」
ケイが少しだけ目を伏せて笑った。
「違わないね」
「違う」
「違いません」
ロウルの返答は早かった。
城へ戻る途中、校庭の明るさが背中へ残っていた。
廊下へ入ると、空気が変わる。
石壁の冷たさ。
松明の匂い。
夕食前の生徒たちの足音。
飛行訓練のざわめきは、だんだん城の中の音へ紛れていった。
エリアスは歩きながら、自分の右手を一度だけ開いた。
指先に革の感触はもうない。
それなのに、握った時の反発だけが残っている。
「まだやってる」
ザビニが横から言った。
「何を」
「手」
「動作確認だ」
「箒はもうないぞ」
「ないから確認している」
ザビニは、何か言いかけてやめた。
口元だけが少し上がっている。
廊下の角を曲がったところで、匂いがした。
ニンニク。
乾いた薬草。
古い布。
防衛術の教室ほど濃くはない。
だが、授業のたびに鼻の奥へ残る匂いだった。
ケイが小さく眉を寄せる。
ロウルは視線だけを廊下の先へ向けた。
ザビニの足取りが、ほんの少しだけ遅くなる。
クィレル教授がいた。
紫のターバン。
青白い顔。
細い肩。
手には何冊かの本を抱えている。
歩き方は遅く、廊下の中央を避けるように端を進んでいた。
「お、おや。ス、スリザリンの一年生ですね」
声は細い。
授業で聞いたものと同じだった。
ザビニが礼儀正しく一歩引く。
ロウルも軽く頭を下げた。
ケイは少し遅れて同じようにする。
エリアスは、クィレル教授の声を聞いていた。
吃音。
言葉の遅れ。
喉で引っかかる音。
だが、肩は強張っていない。
呼吸は浅いが、発声の詰まりと同じ周期ではない。
本を抱える指も震えていない。
杖を持つ手は袖の陰にあるが、魔力の流れは大きく乱れていない。
やはり、声だけが遅れている。
授業中にも感じた違和感だった。
恐怖時の反応なら、呼吸、肩、喉、指、魔力が同じ方向へ崩れる。
少なくとも、近い周期で乱れる。
クィレル教授は違った。
遅れているのは、声だけだ。
一歩だけ、踏み込む。
「先生。一つ、聞いてもいいですか」
ザビニの目が横へ動いた。
ロウルの指が袖口を軽く押さえる。
ケイは、何を聞くのか分からない顔でこちらを見る。
クィレル教授は、瞬きをした。
「な、何かな、ミスター・レン」
「授業中の吃音は、意図的なものですか」
空気が止まった。
ケイが息を飲む。
ロウルの肩がわずかに硬くなる。
ザビニは何も言わない。
ただ、口元から軽さが消えた。
クィレル教授は、すぐには答えなかった。
紫のターバンの下で、青白い顔がこちらへ向く。
目の下の影が濃い。
疲れている。
怯えているようにも見える。
だが、今の沈黙は、それとは少し違っていた。
「……ど、どうして、そう思うのかな」
次の一言だけ、吃音が薄かった。
エリアスは続けた。
「呼吸が乱れていません。肩も強張らない。杖を持つ指も震えていない。声だけが遅れています」
クィレル教授の指が、本の背を少し強く押した。
革表紙がかすかに軋む。
「き、緊張には、いろいろな形があるのです」
「あります」
エリアスは頷いた。
「だから、確認しました」
「で、では、それかもしれませんね」
肯定ではない。
否定でもない。
ザビニが小さく視線を落とす。
ロウルは何も言わない。
ケイの目が、クィレル教授とエリアスの間を行き来している。
クィレル教授の口元がわずかに動いた。
それは笑みに見えた。
「よ、よく見ていますね」
今度は、また吃った。
だが、前より少しだけ整っている。
それが演技なのか、揺れなのか、まだ分からない。
「見るようにしています」
「そ、それは、よいことです。防衛術では、見ることが命を救うこともあります」
声は細い。
だが、その一文には授業の時と同じ、妙に通る硬さがあった。
クィレル教授は一歩横へ動いた。
「で、では、夕食に遅れないように」
「はい」
道を譲る。
クィレル教授が通り過ぎる。
ニンニクと薬草の匂いが一瞬だけ濃くなった。
古い布の匂いの奥に、別のものが混じっていた。
腐敗ではない。
薬草でもない。
一瞬だけ鼻に触れて、すぐに消える。
消えたあとも、鼻の奥に薄く残った。
分からない。
だが、ただの匂いではなかった。
クィレル教授の足音が廊下の先へ遠ざかってから、ザビニが低く言った。
「お前、教師に何を聞いてるんだよ」
「疑問を聞いた」
「普通は聞かない」
「普通かどうかは関係ない」
「関係あるだろ。だいぶあるだろ」
ロウルが静かに言った。
「質問の内容は、かなり踏み込んでいました」
「否定されていない」
「肯定もされていません」
「それで十分だ」
ケイは小さく、ローブの袖を握った。
「あの先生、怒ってはなかったよね」
「怒ったようには見えなかった」
「それが余計に怖いんだけど」
ザビニが息を吐く。
「箒に夢中になったと思ったら、今度は先生の吃音か」
「どちらも、返り方がおかしい」
「やっぱり会話の仕方が独特だな」
エリアスは返さなかった。
夕食の大広間は、いつもより少し騒がしかった。
グリフィンドールのテーブルの方で、ハリーを中心に人が集まっている。
ロンが大きな身振りで何かを話し、双子らしい赤毛の上級生が笑っている。
ハリーは困ったような顔をしているが、完全に嫌がっているようには見えない。
ハーマイオニーだけは、少し離れたところで唇を結んでいた。
スリザリンのテーブルでは、声量が下がっていた。
誰かが言う。
「ポッターがシーカーだって」
「一年で?」
「マクゴナガルが連れて行ったのは、それか」
ざわめきはある。
だが、グリフィンドール側とは温度が違う。
賞賛ではない。
驚きでも、素直な感心でもない。
不公平だ、という声になる前の、硬い沈黙が混じっている。
マルフォイは、口元を固くしていた。
食器に触れる指が、少し強い。
その隣で、クラッブとゴイルは何事もないように皿を空にしている。
ザビニがパンをちぎりながら言った。
「ポッター、シーカーだってさ」
「だろうな」
エリアスは答えた。
ザビニの手が止まる。
「驚かないのか」
「連れて行かれ方が叱責だけではなかった。あの飛び方なら、使い道を考える」
「教師が規則を曲げてまで?」
ロウルは静かにナイフを置いた。
「一年生が選手になるのは、かなり例外的です」
「例外に値する飛び方だった」
ケイがグリフィンドール卓の方を一度見た。
「でも、マクゴナガル先生って、規則に厳しいんじゃないの?」
「厳しいはずです」
ロウルが答える。
「ただ、クィディッチになると別だという噂はあります」
「噂?」
「昔から、グリフィンドールの試合には相当入れ込むらしいです」
ザビニが言った。
「つまり、規則より勝ちか」
「規則を捨てたわけではないだろう」
エリアスは皿の上へ視線を落とした。
「罰する価値より、使う価値が上回っただけだ」
「普通に褒めればいいのに」
「褒めている」
「相変わらず、捻くれた褒め方だな」
ケイが小さく言った。
「すごかったけど、落ちそうで怖かったよ」
「あれは落ちる動きではありませんでした」
「レンが言うと、余計に怖いんだよね」
ザビニが笑った。
「褒めてるのに怖がられてる」
マルフォイの声が、少し離れたところから聞こえた。
「規則はどこへ行ったんだろうね。無断で飛んだのに、褒美をもらうらしい」
周囲の何人かが小さく笑う。
マルフォイはこちらを見た。
「君もそう思わないか、レン」
「規則違反ではある」
「だろう?」
「だが、処分する側は、あの飛び方を見た。それだけだ」
マルフォイの目が細くなる。
「ずいぶんポッターに甘いんだね」
「甘いかどうかは関係ない。飛び方の話をしている」
「君はいつもそれだ」
「何が」
「面白くない」
それだけ言って、マルフォイは視線を外した。
ザビニが小さく言う。
「好かれてるな」
「今のどこが」
「いつも突っかかってくるだろ」
「迷惑だ」
「だろうな」
夕食は、そのまま硬い空気を残して続いた。
グリフィンドールのテーブルでは、まだハリーの話題が続いている。
スリザリンのテーブルでは、同じ話題が声を低くして残っていた。
エリアスは、ハリーではなく、箒の反応を思い返していた。
箒が遅れていなかった。
術者が迷っていなかった。
あれは才能だ。
それ以上でも、それ以下でもない。
スリザリン談話室は、湖の底のように静かだった。
窓の外では、黒い水の向こうを何かの影がゆっくり通り過ぎている。
暖炉の火は燃えているが、炎の色まで少し緑がかって見えた。
談話室の椅子には上級生が何人か座り、低い声で話している。
一年生たちは、自然と端の方へ集まっていた。
夕食の話題は、まだ残っている。
ポッター。
シーカー。
マクゴナガル。
規則。
特別扱い。
その言葉が出るたび、マルフォイの声が少しずつ尖っていった。
マルフォイは暖炉のそばに立っていた。
クラッブとゴイルは近くで菓子を貪っている。
数人の一年生も、少し距離を置いて聞いていた。
「今夜、ポッターに決闘を申し込んだ」
マルフォイが言った。
ケイの手が、膝の上で止まる。
ザビニは椅子の背にもたれ、片眉を上げた。
「正気か?」
「もちろん」
マルフォイの口元には笑みがある。
「奴らが来るなら、それでいい。来なければ、臆病者だ」
エリアスは、羊皮紙へ箒のことを書いていた手を止めた。
握り。
重心。
反発。
制動。
そこまで書いて、羽根ペンを置く。
「どこでやるんだ」
マルフォイがこちらを見た。
「賞品展示室だよ」
「何時に」
「真夜中だ」
「行くのか」
「それは、どうだろうね」
クラッブとゴイルが笑った。
エリアスは、マルフォイの顔を見た。
得意げだった。
だが、悪意に酔っているだけではない。
うまくやったつもりの顔だ。
真夜中。
賞品展示室。
決闘。
相手はハリー。
マルフォイは行かない可能性が高い。
フィルチに通報するつもりかもしれない。
発想は分かる。
だが、粗い。
「君が行けば、君も捕まる」
マルフォイの笑みが薄くなる。
「行かなければ、決闘を申し込んで逃げたことになる」
「逃げるわけじゃない」
「相手はそう見る」
周囲の空気が少し変わった。
クラッブは菓子を噛む手を止めた。
ゴイルは口を動かしたまま、マルフォイの顔を見た。
マルフォイは声を低くした。
「君は、ポッターの味方をするのか」
「していない」
「なら、何が言いたい」
「手順が雑だ」
ザビニが口元を押さえた。
ロウルは目だけでこちらを見た。
ケイは、何か言いたそうにして、黙っている。
マルフォイの頬がわずかに赤くなる。
「雑?」
「ポッターが来なければ、挑発は空振りになる。来て捕まれば、昼の硝子玉の件がある。君が仕組んだと疑われやすい。君が現場に行けば、自分も規則違反だ。行かなければ、決闘を申し込んで逃げたように見える」
声は上げない。
「どの場合でも、君の信用が落ちることになる」
マルフォイの顔から、得意げな色が消えていく。
「信用?」
「君は、スリザリン生を体現するべき存在なのだろう」
その言葉で、周囲がさらに静かになった。
マルフォイは、すぐには返さなかった。
家名。
純血。
スリザリン。
本人が普段から前に出しているものだ。
「何が言いたい」
「なら、自分の格を落とさずに相手を陥れる方法を考えるべきだ」
誰も笑わなかった。
ザビニでさえ、笑わなかった。
ただ、目だけが少し細くなっている。
ロウルは背筋を正したまま、口を閉じている。
ケイは視線を落としていた。
けれど、耳は明らかにこちらへ向いている。
マルフォイは、ゆっくり息を吸った。
「君は、本当に嫌な言い方をするね」
「卑怯だとは言っていない」
「言えばよかったんじゃないか?」
「そういう話ではない」
「じゃあ何だ」
「君の罠は、君自身にも傷をつける」
暖炉の火が、低くはぜた。
マルフォイはしばらく黙っていた。
やがて、鼻で笑う。
「忠告として聞いておくよ」
「そうするといい」
「でも、もう伝えた後だ」
それは予想していた。
「なら、これ以上は君の問題だ」
エリアスは羽根ペンを取り直した。
マルフォイは何か言いたげに口を開き、閉じた。
それから談話室の別の椅子へ移っていく。
クラッブとゴイルも、菓子を持ったまま後を追った。
ザビニが小さく息を吐いた。
「お前、正義感で止めるより刺さる言い方するよな」
「正義の話ではない」
「分かってる。だから刺さるんだよ」
ロウルが静かに言う。
「言っていることは正しいです。ただ、かなり危険な言い方でした」
「否定できない形にした」
「だから危険なのです」
ケイは小さく言った。
「マルフォイ、怒ってたよ」
「どうだろうな」
「大丈夫なのかな」
「少なくとも、今すぐ動く顔ではなかった」
「レンがそう言うと、大丈夫な気もするし、余計に心配にもなる」
ザビニが笑った。
「分かる」
エリアスは羊皮紙へ視線を戻した。
夜が深くなると、談話室の声は少しずつ減っていった。
上級生たちが一人、また一人と寮へ戻る。
湖の向こうの影も見えなくなり、窓には暗い水だけが残っている。
暖炉の火は小さく、羊皮紙の端を赤く照らしていた。
エリアスは顔を上げなかった。
握り。
重心。
反発。
制動。
箒は、呼べば来た。
体重を移せば動いた。
戻せば止まった。
声か。
手か。
体重か。
魔力か。
意図か。
どれに反応し、どこで沈下を止めているのか。
まだ分からない。
エリアスは、羊皮紙へさらに書く。
広告。
型番。
メーカー。
少しだけ考え、最後に一語を書き足す。
応答。
追うべきものは、決闘ではない。
エリアスは羽根ペンを置き、乾ききっていないインクを見下ろした。
黒い文字が、暖炉の光を受けてかすかに光っていた。